福島第一原子力発電所の大事故に思うこと

平成23年3月20日

林 勉

 

東北関東大震災が福島第一原子力発電所を襲った。この結果1,2,3,4号機で原子炉内冷却の不足に起因する一部燃料の露出、使用済み燃料プールの冷却不足に起因する一部燃料露出が起こりそれに起因する水素爆発による原子炉建屋の損壊が起こり、また燃料自体もその一部の損傷が発生している重大な状況に至っている。

この状況の詳細については別に論ずるとして、とりあえずなぜこのようなことが起こったのか、また今後の原子力がどうなるのか、あるいはどうすべきかについて私見を述べる。

 

1.何が起こったのか

今回の東北関東大震災は世界的にも稀に見る超巨大地震であったのは確かである。それにしても地震国である我が国は厳しい耐震基準で強固な設備を誇ってきたのに、かくももろく崩れさったことに愕然としている。今回の地震では、地震動には設備は耐えたが、想定をはるかに超える津波にやられたというのが実態である。

地震動に耐えたことはスクラムが安全に作動し原子炉の核分裂を完全に停止できたこと、また非常用デイーゼル発電機が起動したことから示されている。ところが津波により、非常用デイーゼル発電機の燃料タンクが流失し、燃料不足で停止してしまった。電源確保ができなくなり、さらにバッテリーや緊急に可動式電源車等を手配したが、容量不足で電源の安定供給ができなかった。さらに津波による海水の浸水により、冷却系統のポンプを回転するモーターの電気系統が働かなくなり、冷却機能が完全に喪失してしまった。等の事象があいついで起こり安全確保機能が脆くも崩れ去ったのである。

非常用発電機も故障に備え多重に設置され、安全系も様々な事故事象を考えて独立多重系を装備していたが、超巨大津波という想定をはるかに超える力で崩れさった。

津波ももちろん想定していたが、立地地点ごとに過去の最大記録からそれぞれに数m程度を考慮していたが、これをはるかに超えるものであった。この点は盲点であったことは明らかであり原子力に携わるものは等しく反省し、今後どのような対策をしていくか初心にかえって検討しなければならない。

 

2.原子力の今後

原子力の今後については、国内と国外について考えなければならない。

国内原子力の新規立地点については住民の不安から当分の間は凍結されることになるであろう。また既設立地点についても相当な反対運動が予想されるが、我が国のエネルギー事情を考慮すると原子力を全廃することはありえないことなので、国民全体の問題として、広く議論されなければならない。ここで初めて真の原子力是非論が議論された上で、条件付きで是認されることになると思われる。

条件とはもちろん超巨大津波対策を既設プラントに反映するということである。そのような議論が収まったところで改めて新規立地点についての議論が始まることになるであろう。

国外輸出プラントへの影響であるが、我が国の原子力に対する信頼が失われて受注できなくなるとの懸念もあるが、私はそのようには考えない。なぜなら今回の大事故で日本の原子力技術全体が否定されたのではなく、むしろ巨大地震動には耐えたという優秀性も示しているからである。津波対策が不十分であったことだけが問題であったので、津波対策の必要な国に対しては今回の経験を踏まえてその対策を反映することで受け入れて貰えると考える。

今回の経験を反映した津波対策の策定が必要である。