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◇原子力発電
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原子力発電に利用されるウランは、中性子が当たると原子核そのものが壊れやすいという性質を持っている。この核分裂に伴い大きな熱エネルギーが発生するので、この熱で蒸気をつくり、タービンを廻し発電するのが原子力発電である。火力発電では、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料をボイラーで燃やして蒸気をつくるが、原子力発電ではボイラーの代わりに原子炉を使い、ウランの核分裂反応による熱エネルギーを蒸気として取り出す点が異なる。
核分裂という原子の力を利用して、物質の質量をエネルギーに変えることにより、人類は新しいエネルギー源を手に入れることに成功した。
化石燃料は燃焼にともなって、二酸化炭素という地球温暖化ガスを発生しるのに対し、原子力発電は二酸化炭素を発生しないクリーンな電源で、化石燃料代替エネルギーの主力として、期待されている。
核分裂に伴って生成されるプルトニュウムを、ウランと共に利用するプルサーマル*は、日本では未だ実用化されていないが、世界的には既に実用段階にある。高レベル放射性廃棄物の処理処分の問題を含めて、核燃料リサイクルの整備は、我国のエネルギー政策の要をなす重要課題として、一日も早い解決が求められている。
核分裂による原子力発電は、既に我国の電力供給の約34%に及んでいるが、軽い原子の原子核と原子核を結びつける核融合は、更に大きなエネルギーが放出されることが分っている。核融合の研究はグローバルなエネルギー開発の主要課題として、開発が進められている。我国は、この国際核融合炉開発ITERプロジェクトにも、積極的に取り組んでいる。(小川博巳) |
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◇原子力委員会
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原子力委員会は、原子力基本法に基づき、原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的運営を図る目的をもって、1956年、総理府に設置された。1978年には、安全確保に係る事項を所掌する独立した機関を置くべきだとの意見が高まり、原子力基本法が一部改正され、従来原子力委員会の有していた機能の一部を分離し、原子力安全委員会が新たに設置された。
原子力委員会は2001年の省庁再編により、内閣府に設置されることになった。そして、これまで科学技術庁長官が兼務していた原子力委員会委員長には、学識経験者が就任した。
原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する政策に関することなど、原子力に関する重要事項について企画し、審議し、決定する権限を有し、所掌事項について必要あると認めるときは、内閣総理大臣を通じて、関係行政機関の長に勧告することができることになっている。しかし、十分な権限が与えられているとは云えず、その機能を果たしていないではないかという厳しい評価もある。
また原子力委員会は、核融合会議、ウラン濃縮懇談会、核燃料リサイクル計画専門部会、原子力バックエンド対策専門部会、ITER計画懇談会など、それぞれ専門の学識経験者による13の専門部会等を設け、長期計画の策定に必要な事項、研究・技術開発の進め方、国際協力、その他の重要事項につき審議し、その結果を答申させている。(小川博巳) |
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◇原子力安全委員会
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1978年、原子力基本法等の一部改正法が施行され、原子力の安全確保体制を強化するため、従来の原子力委員会の機能のうち、安全確保に係る事項を独立して所掌する原子力安全委員会が総理府に設置された。
2001年、省庁再編に伴い、原子力安全委員会は内閣府に移管された。原子力安全委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、決定する権限を有しており、所掌事項について必要があると認めるときは、内閣総理大臣を通じて、関係行政機関の長に勧告することができる。
原子力安全委員会は、[1] 原子力利用に関する政策のうち、安全の確保のための規制に関する政策、[2] 核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち、安全の確保のための規制、[3]
原子力利用に伴う障害防止の基本、[4] 放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本、[5] 原子力利用に関する重要事項のうち、安全の確保のための規制、を所掌する。
また原子力安全委員会は、このような任務を遂行するために、原子炉安全専門審査会、核燃料安全専門審査会、緊急技術助言組織の3専門審査会等、および原子力安全基準専門部会など7部会を設け、それぞれ専門の学識経験者に、安全の確保に関する事項について審査させ、あるいは調査させ、その結果を答申させている。(小川
博巳) |
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◇原子力長期計画
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公式には 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画という。
我が国の原子力利用に関する国の施策が計画的に遂行されるよう、原子力委員会が必要な企画・審議及び決定を行う事が法律に定められている。このため、原子力委員会は1956年に初の長期計画を定めて以来、概ね5年毎、9回にわたって長期計画を策定してきた。
これらの計画は原子力利用の当初から国の施策の計画的遂行の柱として重要な役割を果たしてきた。
前回(第9回)の計画策定は、1999年5月から2000年11月に亘って、長期計画策定会議の場で、幅広い意見を募りつつ審議が行われた。
主な計画のポイントは、
(1) 原子力発電を引き続き基幹電源に位置づけ最大限利用する事。
(2) 使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していく事。
(3) 高レベル放射性廃棄物については30―50年程度貯蔵を行いその後地層処分する事。
(4) <もんじゅ>を高速増殖炉サイクル技術の研究開発の中核として位置づけ早期に運転の再開を目指す事。実用化への開発計画は実用化時期を含め柔軟かつ着実に検討を進める事。等である。
長期計画は国の施策遂行の柱ではあるが、法律的拘束力の裏付けに乏しいため、例えばプルトニウムの利用計画の推進については必ずしも当初の目論見のようには進展しているとは言い難い状況にある。このため、計画具体化推進のためのなんらかの具体的かつ有効な施策を講ずる必要があると考える。(篠田
度)
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◇日本の原子力発電所の建設状況
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日本において現在供用中の原子力発電所の状況は次の通りである。
設 置 者
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基数
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総出力(万kW)
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発 電 所 名
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北海道電力 |
2
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115.8
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泊1〜2号 |
東北電力 |
3
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217.4
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女川1〜3号 |
東京電力 |
17
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1730.8
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福島第一1〜6、 |
福島第二1〜4 |
柏崎刈羽1〜7号 |
中部電力 |
4
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361.7
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浜岡1〜4号 |
北陸電力 |
1
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54.0
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志賀1号 |
関西電力 |
11
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976.8
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美浜1〜3号 |
高浜1〜4号 |
大飯1〜4号 |
中国電力 |
2
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128.0
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島根1〜2号 |
四国電力 |
3
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202.2
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伊方1〜2号 |
九州電力 |
6
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525.8
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玄海1〜4号 |
川内1〜2号 |
日本原子力発電 |
3
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261.7
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東海第二 |
敦賀1〜2号 |
核燃料サイクル開発機構 |
1
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16.5
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ふげん |
合 計
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53
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4590.7
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上記の内、核燃料サイクル開発機構の「ふげん」(16.6万kW)は平成15年3月に、日本原子力発電鰍フ敦賀1号(35.7万kW)は平成22年に運転を停止し、廃止することになっている。また、日本原子力発電鰍フ東海発電所(16.6万kW、昭和41年運転開始)は平成10年3月に運転を停止し、現在廃止措置(解体)作業中である。
現在建設中の原子力発電所としては、東北電力鰍フ東通1号機(110.0万kW、平成17年7月運転開始予定)、中部電力鰍フ浜岡5号機(138.0万kW、平成17年8月運転開始予定)、北陸電力鰍フ志賀2号機(135.8万kW、平成18年3月運転開始予定、核燃料サイクル開発機構の「もんじゅ」(28.0万kW、建設終後、試運転中のNa漏洩事故のため停止中、運転開始時期未定)がある。
建設準備(安全審査)中の原子力発電所としては、北海道電力鰍フ泊3号機(91.2万kW)、中国電力鰍フ島根3号(137.3万kW)、電源開発椛蜉ヤ1号機(138.3万kW)がある。更に建設に関して地元との協議中の原子力発電所としては、東北電力鞄健ハ2号機(138.5万kW)、東京電力鞄健ハ1、2号機(各138.5万kW)、同福島第一7,8号機(各138.0万kW)、中国電力鰹繩ヨ1、2号機(各137.3万kW)、日本原子力発電鞄ヨ賀3、4号機(各153.8万kW)等があり、進捗度の差はあるが着工時期を特定できるには至っていない。(柴山 哲男)
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◇原子炉の安全(想定事故及び想定外事故)
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一般的な産業設備でも、設備によっては(例えばエレベーターのワイヤー切断事故、大型オイルタンクの漏洩事故等)機器の劣化や故障又は運転操作の失敗に伴うトラブル事象が発生しても、過大な事故に至り、設備が損壊したり、公衆へ危害を与えたりしないように設計されている。トラブル事象や事故の種類は大小様々であり、そのすべてに対応できるような設計は、技術的にも経済的にも現実的ではないので、それぞれの事象や事故の種類の中で最も厳しいものを代表に選んで設計に用いる場合が一般である。
原子炉発電施設においても、現実的に起こり得るトラブル事象・事故のうちで安全上考慮すべき代表的な事象・事故(すなわち、それぞれの事象や事故の種類の中で最も厳しい結果をもたらすと思われるもの)を想定事象、又は想定事故と呼び設備の設計に用いている(したがって、このような事象や事故を設計事象や設計事故と呼ぶ場合が在る)。しかし、原子力発電施設においてはそのほかに、現実的には起こりえないような大口径配管の完全破断など、事故の規模や影響を包絡するような仮想的な代表事象を想定事象、又は想定事故として、過大な事故に至らないよう安全設備などを設計している。
また、原子力発電施設では、安全設備の重大な故障や作動失敗から発生すると考えられる上記の想定事象や想定事故を越えるもの(想定外事象や想定外事故、あるいは最近ではシビアアクシデントと呼んでいる)についても対策を考えている。
シビアアクシデントが発生しても、直ちに設備の損壊や公衆への危害に至るわけではなく、一般には設備の設計余裕や適切な運転操作により、過大な事故に至る可能性を大きく低減することができるが、既存の設備を有効に活用して、過大な事故への進展を阻止し、公衆への危害を抑制するための技術として、アクシデントマネジメントが整備されている。(小笠原英雄)
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◇原子力発電所の事故・故障評価尺度
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原子炉施設などの事象の国際評価尺度(INES:
International Nuclear Event Scale)
原子炉施設などの事故・故障などを評価するための国際基準で、レベル0からレベル7までの8段階が定められている。 地震の「震度」と似ているが、測定点での揺れの大きさを示す震度に対して、原子力の国際評価基準は事故そのものの大きさを示し、事故の敷地外への影響,敷地内での影響,施設の深層防護への影響の3つの観点から評価して、影響の大きさを示す尺度としている。 レベル1からレベル3は異常な事象、レベル4からレベル7は事故と呼ぶ。レベル2以上の場合は国際原子力機関にすぐに報告する。
この評価尺度は、一般国民にわかりやすく迅速に事故の大きさを知らせるもので、事故原因の調査・検討の上訂正されることもある。
今までの原子炉施設の大きな事故としてはレベル7のチェルノブィル、レベル5のスリーマイルと東海村JCOが挙げられる。 (白山 新平)
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◇低レベル放射性廃棄物の処分
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準備中
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◇炉内構造物
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原子炉の圧力容器の中には原子炉の炉心が設置されている。原子炉の種類によって燃料の構造と支持方法、冷却材の流し方、炉心の出力を制御する制御棒とその駆動方法が違い、その構造を一概に説明することは難しいので、沸騰水型原子力発電所(BWR)に例をとり説明する。
BWRの炉内構造物はシュラウド、炉心支持板、上部格子板と、シュラウドの蓋であるシュラウド・ヘッド、制御棒の動作の案内をすると共に燃料の重量を支持する制御棒案内管、シュラウド・ヘッドの上に独立に設置される蒸気乾燥器から構成されている。
BWRでは燃料集合体の重量は制御棒案内管を介して、原子炉圧力容器の底部で支持され、炉心燃料を囲むシュラウドという構造物によって、燃料集合体の横ぶれを防いでいる。原子炉冷却水は原子炉圧力容器とシュラウドの間から原子炉圧力容器の底部に流れ込み、制御棒案内管に設けられた穴を通り、燃料集合体に供給される。この冷却水は燃料集合体を取り囲んだ燃料チャンネルの中を流れ、途中一部沸騰しながら、シュラウドヘッドの下部空間に流れ込み、気水分離器で蒸気が冷却水から分離される。分離された蒸気はシュラウドヘッドの上に設置された蒸気乾燥器で、さらに水分が除去されタービンへ供給される。
水冷却炉では構造物の酸化を嫌うため、炉内構造物はオーステナイトで作られるのが一般的である。110万kW級のBWRの場合、シュラウドは炉心部で直径約5m、高さ7m弱の円筒型の溶接構造物である。
炉内構造物は一般的に腐食耐力に優れたオーステナイトステンレス鋼で作られているため、減肉の心配はない。しかし、BWRのように酸素を含んだ高温冷却水中では、溶接による熱影響を受け、残留応力などの引っ張り応力が存在すると、溶接部近傍が部分的に応力腐食割れを起こす場合があり、計画的点検が必要となる。この点についてはトピックス解説「BWRシュラウドについて」、と「応力腐食割れ」を参照されたい。その他、一般の機械製品と同様、振動を受ける部分の疲労割れや、ボルトのネジの緩みなどの監視のほか、中性子照射量が多いことからその影響を監視していくことが重要である。(益田恭尚)
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