◇放射線と放射能
 
 19世紀の終わり、電気の正体を調べるために陰極線管を使って実験していたレントゲンが、人間の体を透過してフイルムを感光させる未知の放射線が出ていることを発見した(1895)。それまで未知のものであったためX線と名付けた。間もなく、ベクレルやキューリー夫妻によっ て、自然界に人間の目には見えないエネルギーを持ったなにかを出している物質があることが発見された。
この不思議な放射されたものを放射線、放射線を出す性質を放射能と名付けた。そして、自然界には放射能を持った原子(放射能物質*)がたくさんあること、放射線は物質の基本と非常に関係が深いこと、放射線には性質の違ったいろいろの種類があることなどが分った。これらの発見がきっかけとなり、科学は飛躍的に発展し、物質の基本である原子の性状もはっきり分かるようになった。
 放射線には中性子線*、アルファ(α)線*、ベータ(β)線*、ガンマ(γ)線*などがあり、宇宙にも宇宙線*と呼ばれる放射線が行き交っている。
 放射線は目に見えないし、皮膚でも感じることができない。しかし計測器を使うと非常に高い感度で検出できる。ガラス線量計などのようにごく弱い放射線でも検出し積算することができる線量計も開発されている。(益田恭尚)
◇放射性物質
 
 ある種の原子は原子核が安定でないため、自然に崩壊し安定な原子核に変わっていく性質がある。その時放射線*をだす。このような原子を放射性同位元素(アイソトープ)、または放射能物質と呼んでいる。放射性同位元素は地面(土壌)の中にもあるし、食品の中にも含まれている。
 放射性同位元素には天然に存在するものと、人工的に作られたものがあるが、基本的な性質は同じである。崩壊の割合は同位元素の種類により決まっており、放射能の強さ(放射能の単位*)が半分になるまでの時間を半減期*と呼んでいる。(益田恭尚)
◇放射性同位元素の半減期
 
 放射能を持っている物質は原子核が不安定で、安定な元素に変化する過程で余分なエネルギーを放射線という形で放出し、放射能はだんだん弱くなっていく。これを原子の崩壊と呼んでいる。崩壊の仕方は原子により違うが、それぞれの原子に固有のもので、放射能の強さが半分になるまでの時間は原子によって決まっている。これを半減期と呼んでいる。放射性同位元素には天然に存在するものと、人工的に作られるものがあるがこのような性質は全く同じである。
 例えば、天然に存在する放射性同位元素14Cは大気中の窒素原子14Nに宇宙線が当たり作られる。空気中の炭素に含まれる14Cの濃度は常に一定であるが、木が切り倒された後は半減期5,730年でその量が一定割合で減少していく。これを利用して遺跡から出土した遺物の年代測定に利用されるのである。
 原子炉内で水の中の酸素に中性子が当たり生成する放射性窒素原子16Nは半減期が7.1秒と非常に短い。このような短半減期の同位元素は急速に放射能が弱くなる。
 ウランに中性子が当たってできたプルトニウム:239Puは2.4万年と非常に長い半減期を持っている。(益田恭尚)
◇中性子線
 
 原子核は陽子と中性子からできている。両者ともほぼ同じくらいの質量を持っており、陽子は正の電荷を持っているが、中性子は電荷を持っていない。中性子が放出されると、電荷を持っていないため物質の中に侵入しやすく、遂に原子核と衝突する。この場合、中性子が単に跳ね返されて速度が遅くなる場合と、中性子が衝突した原子核の中に捕獲される場合、衝突した原子核が核分裂を起こす場合がある。核分裂を起こすのはウラン235の場合のような特殊な元素の場合である。捕獲はいろいろな元素で起り、一般には新しい放射性同位元素が作り出される。窒素(14N)に宇宙線が当たり放射性炭素(14C)ができたり、ウラン238(238U)に中性子が当たりプルトニウム(239Pu)ができるなどはこの例である。
 中性子線は水などの軽い原子と衝突させ速度を遅くすることで、捕獲しやすくなるので、中性子をしゃ蔽(遮蔽)することが容易である。原子力発電所では原子炉の外に中性子線が出ることがないようしゃ蔽(遮蔽)してある。JCOの事故*は中性子がでることを設計条件に入れていなかったので、しゃ蔽(遮蔽)がなく無防備であった。そこに、ルール違反により、核反応が自然に進行するという臨界状態が現出してしまったため、中性子が放出され、作業員が多量の中性子照射を受けてしまった。しゃ蔽(遮蔽)がなかったので、外部にも極く僅かではあったが中性子が放出される結果になってしまった。(益田恭尚)
◇アルファ線
 
 アルファ(α)線は原子が崩壊する時などに出る放射線の一種で、ヘリウム原子核粒子(α粒子)の流れである。陽子を2個含むから正の電荷を持っている。他の物質を通過するとき大きな相互作用があるため物を透過する力はごく弱い。
 例えばウラン燃料に含まれる238Uはアルファ線を出しているが、薄い紙一枚で遮蔽できる。(益田恭尚)
◇ベータ線
 
 ベータ(β)線は原子が崩壊する時などに出る放射線の一種で、高エネルギーの電子または陽電子の流れである。電子の質量はα粒子の7,000分の1しかないから物質との相互作用はかなり弱くなるが、空気中でも数十cm程度、金属の板なら数mmでしゃ蔽(遮蔽)できる。(益田恭尚)
◇ガンマ線
 
 ガンマ(γ)線は原子が崩壊する時などに出る放射線の一種で、電波や光、またX線と同じ仲間の電磁波である。ガンマ線は目に見えないが、物質を透過する力が非常に強く、人間の体などは容易に透過する。しかし、鉛や鉄などの重い元素でできた(遮蔽)壁は透過しにくい。透過しない分は物質に吸収され熱になるのは光と同様である。
 ガンマ線は他の放射線が粒子に衝突したときにも発生する。ガンマ線が物質にあたっても、普通その物質が放射能を持つことはない。
ガンマ線は最も一般的な放射線で、原子力発電所などで被ばくが問題になるのは、ほとんどの場合ガンマ線である。(益田恭尚)
◇宇宙線
 
 宇宙にはいろいろな種類の放射線が行き交っている。先ず一次宇宙線といわれるものには電子、光子、ニュートリノなども含まれるが、大部分は水素の原子核とヘリウムの原子核の陽子線である。陽子線は大気中の原子核と相互作用を起こし、2次宇宙線を発生させ消滅してしまう。2次宇宙線は1次宇宙線が大気中の窒素、酸素、アルゴンなどと衝突してできる放射性炭素(14C)や、トリチウム(3H)などである。高い所では急速に増加し富士山頂では地上の約5倍になる。(益田恭尚)
◇放射能の単位
 
 放射能の単位はベクレル(Bq)で表わす。放射能を持っている物質は原子核が不安定で、余分なエネルギーを放射線という形で放出しながら、安定な元素に変化していく。これを原子の崩壊と呼んでいる。崩壊の仕方は原子により違うが、それぞれの原子に固有のものである。Bqとは1秒間に何個の核種が"ほうかい"したかを示す単位である。物質は非常にたくさんの原子から構成されているのでBqとは非常に小さい単位である。チェルノブイル事故の後で食品の輸入規制値として決められた値は、1kgあたり370Bqであった。しかし通常我々が食べている食品でも干し昆布などは1kgあたり2,000 Bqの放射能を含んでいる。最近まで放射能の単位はキューリー:Ciといっていたが、:1Ciは370億Bqに相当する(補助単位1μCiは37kBq)。Bqは桁数を十分理解しないと要らない心配をすることになる。(益田恭尚)
◇放射線と被ばく線量の単位
 
 被ばく線量の単位はシーベルト:Svで表わす。Svの1千分の1が1mSvである。(1 Sv =1,000mSv=1 J / kg)。
最近まではレントゲン:Rが使われていた。(1R=10m Sv)
 正確には、放射線量としては照射線量、吸収線量、線量当量があり、それぞれ下記の単位で示す。しかし、人間の体がガンマ線の照射を受けた場合、照射線量≒吸収線量≒線量当量となりほぼ同じ数字になる。
   照射線量(放射線の強さに照射時間を掛けたもの):クーロン:C/kg、
   吸収線量(1kg当たり何ジュール(J)のエネルギーを吸収したか):グレイ:Gy
 線量当量(人間の体に吸収された放射線の線量を放射線の種類による人体に対する影響を考え補正したもの):シーベルト:Sv
放射線は人間は感じることができないし、上記定義では理解しにくく、Svといってもピンとこないであろう。人間が自然界から1年間に受ける被ばく量*は日本ではほぼ1mSvであり、これを一つの単位だと思って理解し、これと比較すると分かりやすいと思う。(益田恭尚)
◇自然界から受ける放射線
 
 人間が自然界から受ける放射線には宇宙や地面からのように、体の外から受ける外部被ばくと、食物などを体内に取りこんで体の中から受ける内部被ばくがある(放射線量と被ばくの単位*)。
宇宙には宇宙線が行きかっていて、大人で1秒間に約5千個の宇宙線の粒子を浴びている。これは年間でいえば約0.4 mSvの放射線を浴びることに相当する。宇宙線は高所では多く、富士山頂では平地の約5倍ある。アメリカまでジェット機で往復すると1回で0.19mSv被ばくする。
 地面(土壌)の中にも放射能があり、日本では関東地方で低く、花崗岩の多い関西地方で高い。平均的に1年間に0.3〜0.5mSv程度の放射線を受けている。全地球上で調べると大きな違いがあり、例えばブラジルのガラパリ市街の地面は10mSv/年と非常に高い放射能を持っている。
 食物にも放射能が含まれている。これを食べることによって、人間は放射能を取り込んでいる。人間の体の中には大人でおよそ7,000Bqの放射能を保有している。体内に含まれる放射能によって1年間に約0.2~0.3mSv被ばくする。
空気中に存在するラドンという気体物質があり、これによっても被ばくする。コンクリート建物のように密閉された建屋の中では1年間に1.5mSvくらい被ばくする。
 ラドンによる被ばくを除いても、人間は自然界から1年間に約1mSv被ばくしていることになる。
人間は医療放射線や、人工の施設などから放射線を受ける可能性がある。原子力発電所からの被ばく*は原子炉安全の立場から極めて低いレベルに抑えられている。(益田恭尚)
◇放射線の人間に対する影響
 
 人間が放射線を受けることを放射線被ばく、または単に被ばくという。放射線が体の中を透過するさい、体を構成する物質に衝突し熱になったり、細胞を構成する原子の原子核に直接影響を与えたり、または放射線で作られた過酸化水素などで間接的に影響を与える可能性がある。ガンマ線や中性子線は透過力が強いので、被ばくすると、皮膚の表面だけでなく、体の中のいろいろな臓器にも影響がおよぶ恐れがある。広島や長崎の原子爆弾では非常に強い熱線と放射線が大量に放出された結果、不幸にも多くの人が体の奥深くまで火傷を負い死に至ってしまった。しかし、放射線の影響は強い赤外線にあたり火傷を起こしたり、紫外線で日焼けを起こしたりするのと同じで、どれだけの量の放射線をどのくらいの時間内に受けたかが大切である。
 放射線を発見した当初は放射線の人体におよぼす影響について無知であった。ラジウムの発見者のキューリー夫妻もラジウムをポケットの中に入れて持ち運び、皮膚に火傷を負うという経験をした。その後も人間は貴重な経験を積み、一度に多量の放射線を浴びると白血球減少、嘔吐、脱毛といった影響があることが分かってきた。原因と結果がはっきりしているのでこれを放射線の確定的影響と呼んでいる。このような人体に障害をおよぼす影響が現れるのは、少なくとも一度に200mSv以上の放射線を受けた時である。
因みに、JCOの臨界事故で亡くなった作業員は一度に10,000mSvもの放射線を受けてしまったのである。
 放射線の影響としては、ガンの罹患率*のように原因と結果が明確に説明できず統計的に評価するしかないものがあり、確率的影響と呼んでいる。
 低線量の放射線の影響についてはいろいろな学説があり、少なくとも閾値があると考えられているがまだはっきりとは分っていない。しかし、公衆安全の立場から、一般公衆の線量限度が法律で決められている*。一方、低線量の放射線は生物の体に刺激を与え、有益な効果があるとする放射線ホルミシス*という学説が発表されている。 (益田恭尚)
◇放射線とガンとの関係
 
 広島・長崎で原爆の被害に遭った人は、放射線を受けなかった人に比べ、ガンになった人の割合が高いと言われている。放射線が細胞の中の染色体を構成する原子の軌道電子をはじき出し、遺伝子が影響を受け、細胞の異常増殖が起こったり(発ガンということになる)遺伝的影響が残ったりしないかという点が心配されている。
 人間の体は約100兆個の細胞でできている。脳と心臓の細胞以外の細胞は、それぞれ寿命を持っていて、1秒間に5千万個の細胞が新しい細胞に交替する。その中である割合で細胞の染色体に異常が起こり、その内ある割合でガン細胞が生成している。しかし、人間の体は異常細胞を排除するという修復力を持っているためガンに罹る可能性は低い。
 不幸にして発ガン物質などによる要因で、ガン細胞の発生が異常に多くなり、修復が間に合わないとガンに罹ってしまう。これと同じように放射線が体の中を透過した時、100兆個の細胞の中で、一部の細胞の原子核に放射線が衝突し、遺伝子が影響を受けガン細胞ができたとしても修復されてしまう。ガンに罹るかどうかはガン細胞の発生する量が問題なのである。年間多くの人がガンに罹るが、この中で、放射線の影響がどの位あったかを確定的に評価することは難しく、統計的に評価するしかない。過去の経験から1,000mSvを超えるような放射線被ばくを受けた人は、一般の人に比べガンに罹る割合が少し上がったというデータが出ている。しかし、被ばく量が200mSv以下の場合、放射線を受けた人と受けなかった人でガンになった確率に差が認められたという報告はない。(益田恭尚)
◇放射線被ばく規制
 
 放射線の人体に影響を与えることが漸く分かり始めた1928年に、放射線安全に関する国際的な基準を決めるため国際放射線防護委員会(英語の頭文字をとってICRPと呼ぶ)の前身が設立された。きっかけとなったのは、時計の文字盤に蛍光塗料を塗る際に細い筆先を舌で舐めながら筆先を整えていたために起った健康障害から発している。そして、各専門分野の権威が国の代表としてではなく個人の資格で参加し、それ以来、定期的に会議を開き、世界に向けて放射線管理についての勧告や報告を出している。各国はこれらの勧告を尊重し、自国の法令に取り入れている。
 当初は「放射線の影響には安全量がある」という医学的立場がとられていたが、1958年以来「環境放射能が増大すると集団的には大きな影響が出るかもしれない」という遺伝学者の立場がとられるようになった。そして、ガンの発生確率や遺伝的影響は被ばく線量に比例して減少するものと仮定し、これらによる影響が社会的に認められる程度となる放射線の量を計算し、一般公衆の線量限度とすることにした。そして、「一般人に対する被ばく線量限度を、自然放射線と医療放射線を除き年間1mSvとすべきである」と勧告している。
放射線作業従事者に対しては、人数が限られており集団的影響に及ぼす割合は少ない点を考え、また長期に渡り管理するという前提で、1年間で50mSvと定めているが、さらに、被ばくをできるだけ低く抑えようという精神から5年間で100mSv以下(1年間で20mSvとなる)に抑えるよう計画的に管理すべきであると勧告している。
 これらを守っていれば白血球減少、嘔吐、脱毛といった確定的影響が現れることはない。被ばくによりガンに罹る確率は、個人についてみた場合、例え直線仮定が正しいとしても、0.0025%と極めて低い値である。
 規制値を決める際、自然界から受ける放射線の量は減らすことは困難であり、医療放射線は(1回の胸部X線検査で0.3mSv、胃のX線検査では4mSv程度の放射線を受けるが)健康診断や治療のために必要なものであるからという理由で除外している。(益田恭尚)
◇放射線ホルミシス
 
 低線量の放射線被ばくの影響については「低線量の放射線は生物の体に刺激を与え、それが生物学的に有益な放射線ホルミシス(刺激)効果をもたらす」という学説が発表されている。毒も適量なら薬であるという説である。ホルミシスを主張する学者によると「低線量の影響を生物実験と統計から評価した結果である」として、「哺乳類の最適な放射線量は自然放射線の10〜50倍」だとしている。
 生物は数億年にわたって今よりは高い放射線の影響下で進化してきたことを考えると妥当な説ではないかと考える。
 一つの実証例としてラドン温泉(ラドンを1リットル中に74Bq以上含む温泉;効能書には神経痛や消化器疾患等に良く効くとされている。ラドンはラジウムが"ほうかい"した時に出る気体)の近くではガン死亡率が低いという研究報告も出されているが、その理由は明確にはなっていない。(益田恭尚)
◇原子力発電所からの被ばく
 
 原子力発電所や再処理工場などの原子力施設は周辺の住民の放射線被ばくをできるだけ少なくしようという考え方に基づいて開発が進められてきた。特に、原子力発電所は原子力安全の立場から、米国の原子力安全委員会が提言した、「合理的に低減できる限り低くしよう」という国際的な考え方に基づいて規制している。これによると、原子力発電所周辺の住民の一般公衆の被ばくを自然放射線の5%の年間0.05mSv以下にしようという目標値が決められている。わが国ではこの値を超えないように原子力発電所を設計し、管理することが義務付けられている。ちなみに、これは自然放射能の地域差よりも少ない値である。
 このような管理が実際になされていることを確認するため、発電所の周辺各所に放射線を測定するモニタリングポストと呼ばれる監視装置が、発電所と地方自治体の両方によって設置されている。実際上は、この監視装置の実測値は自然放射能の変動値を示しているという結果になっている。
 このような状態を実現するため、十分なしゃ蔽(遮蔽)を設置することは勿論であるが、放射能物質を外部に出さないため、クリーンプラントを目指している。
 発電所内に取り入れる空気も浄化して取り入れるが、排出する空気中に含まれる不純物に放射能を含んだ物質が混ざる恐れがないよう、細かい目のフィルターで不純物をろ過し、放射能を測定したうえで排気塔から放出する。水についても原子炉冷却水漏れを起こさないよう管理し、万一の場合でも建物の外に漏れることのないよう設計上の注意を払っている。発電所の所内で使用する水については、不純物を除去するため廃液は蒸留したり、人工透析に使う中空糸膜のような非常に目の細かいフィルターでろ過し、さらにイオン交換樹脂で純水にする。処理をすませた綺麗な水は再使用するか、余分な水は放射能を測定し問題がないことを確認して外部に放出する。固体については、管理区域の中に持ち込まれた物は、放射能の強さを測定して放射能が認められたら外に持ち出さないよう管理している。このような対策を取っている結果、わが国では一般の人が原子力発電所からの放射線の影響を受けることはほとんどないといって差し支えない。
 次に大切なのが原子力発電所で働く運転員や作業員の被ばくである。発電所で働く人については放射線作業従事者として登録し、長期にわたり管理するという前提で一般の人より高い被ばく線量限度が決められており、ICRPの勧告では1年間で50mSvと定められている。さらに、被ばくをできるだけ低く抑えようという精神から5年間で100mSv以下に抑えるよう計画的に管理している。例外的には高線量下で作業をしなければならない場合があり、その可能性を考慮して1回当たり500mSvの被ばく線量限度を用いることが特例として認められている。
 30年程前、原子力発電所を導入した初期において作業員被ばくが高かったのは事実である。管理目標を定め、多大の費用を投入して種々の対策を実施してきた。その結果、現在では作業員被ばくは当時の数十分の一以下になり、平均被ばくで1mSv程度と、一般人に対する被ばく線量限度以下になっている。長期的な健康管理も実施されており、死亡率もガンに罹った割合も一般の人よりむしろ低いというデータが出ている。これは健康労働者効果によるものと解釈されている。(益田恭尚)