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◇成長の限界
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1972年にローマクラブが出した人類の危機リポート(原題名“The
Limits of Growth”)で、地球の有限性から経済と環境を考えた最初の総合研究報告書として当時各方面に大きな刺激を与えた。
ローマクラブは1970年設立の20数ヶ国の有識者による民間組織で、もし人類が当時の成長路線をそのまま続けると生ずるであろう危機に対し、回避可能な道を探るため、米国MITに研究を委託した。MITはデニス・メドウス博士を主査に17名のプロジエクトチームがシステムダイナミックスを用いたプログラムで解析を行った。報告書は当時の成長を続ければ人口増、資源枯渇、環境汚染による破局は不可避で、100年以内に限界点に達すると警告し、これを持続可能な状況にするには早期の国際的長期計画と行動が必要で、その主要な責任は先進国が負うべきとした。尚エネルギーについては、次第に原子力が化石燃料にとって代わると推測している。しかし、一方原子力を導入した場合、放射性廃棄物の増加を問題視している。二酸化炭素のもたらす温暖化問題は当時、未だ認識されていなかったため、触れられていない。(荒井利治) |
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◇石油危機(オイルショック)
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戦後長期にわたって原油価格はバーレルあたり2ドル前後の比較的低位に安定していて、これが我が国の戦後の経済発展の一つの大きな原動力になっていた。しかし産油国はこれを不満に思い、原油価格の上昇を図るため、昭和35年中東の産油国を中心として、石油輸出国機構: OPECが結成された。昭和48年の第4次中東戦争をきっかけに、OPECが原油供給を抑えた為、価格が急激に高騰した。
これにより特に中近東の石油への依存度の高かった我が国は物価の狂乱的な高騰と、一部物資の品薄、買占めなどが起こり、国中大変な騒ぎとなり、戦後続いて来たわが国の高度経済成長も停止した。
この後昭和54年にイラン革命からイラン・イラク戦争によって第二次の、更に平成3年の湾岸危機の時第三次のオイルショックが生じ、そのたびに原油の価格が高騰、第一次でバーレルあたり2ドル50セントから12ドルへ、第二次でピークは43ドル、第三次には原油価格が32ドルと跳ね上がり、原油輸入国の経済に多大な混乱を生じさせた。
この経験から、石油消費国は石油輸出国との協調体制を作るとともに、石油備蓄を増やすこと、燃料を石炭、LNG,原子力等に転換を行う事によるエネルギーの石油依存を減少させる事によって、原油の輸出削減に対抗できる体制を立てて来た。第一次オイルショックの時の我が国の一次エネルギーの77.4%が石油であったが、現在は55%程度に低下して来ている。
しかし、我が国の原油の大半の輸入地である中近東は、今日でも政治的に最も不安定な地域であって、軍事的な危機の発生の危険性が高い。従ってこの地域からのエネルギーの石油依存を低める事が極めて重要で、そのための恒常的な対策を打つ必要がある。この石油依存度低減と、それによるエネルギー・セキュリティに果たす原子力発電の役割は大きい。(天野牧男) |
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◇二酸化炭素削減条約
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大気中の二酸化炭素の増加により地球の温暖化が起こると懸念されているため、二酸化炭素の放出量削減のための国際的な努力が続けられている。
1980年代に入って本格的になった地球環境問題に対する国際的な取り組みは1992年開催された「環境と開発に関する国連会議」において世界の重要課題と認められた。この会議には世界180ヶ国の首脳がリオデジャネイロに集まり、「地球サミット」と呼ばれる世界の重要国際会議となって継続されている。この地球サミットで地球環境保全対策の合意がなされ、「気候変動枠組み条約」には155カ国が署名し、その後調印が進み1994年に条約として発効した。
この「気候変動枠組条約」に基づき世界の国々が地球温暖化問題に対応してきたがこの条約は各国の自主的な行動計画であり更に実動対策を立てる必要が生じた。第1回条約締約国会議(COP−I)が1995年にベルリンで開催され2000年以降のとるべき措置と義務的な目標値とを定めることに合意し、この合意事項に基づいて1997年第3回締約国会議(COP−V、地球温暖化防止京都会議)を開催し、具体的な世界先進国の温室効果ガス削減目標値とその取り扱い手法を議論して京都議定書を採択した。
京都議定書は二酸化炭素削減条約であり、先進国に対して法的拘束力のある削減目標を定めた。規制値は先進国全体で1900年温室効果ガス放出量を基準として2008年から2012年までの第1期に約5%削減するものである。対象となる温室効果ガスとして二酸化炭素のほかにメタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン(HFC),パーフルオロカーボン(PFC),6フッ化硫黄(SF6)の6種類である。
更に議定書では、排出量取引、共同対策事業、開発途上国の対策援助などが含まれており、今後これら取扱いの詳細については国際間で協議して定めていく必要がある。
京都議定書の締結には55カ国以上の調印と総排出量実績が全体の55%以上となる先進諸国の調印が必要である。しかし世界最大の温室効果ガス放出国である米国は2001年4月に米国経済への悪影響を理由に京都議定書からの離脱を宣言している。
日本の合意している温暖かガス削減目標値はマイナス6%であるが、日本はすでに温暖化ガス放出のほとんどない原子力の利用や交通機関の省エネ化、省エネ機器の開発導入などを実施してきており、これからの更なる削減には、原子力への理解獲得と開発促進、省エネ対策、ライフスタイルの再検討等国民の努力と理解が必要となる。(白山新平) |
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◇中国のエネルギー事情について
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中国の公表されているデータは1997年までしかないので、これに基づき以下解説、検討した。その後の傾向もほぼ同じ状況であると推察される。
中国は天然資源大国であり、石炭、石油ともに豊富に埋蔵されている。しかし改革、開放政策以来、その経済的発展はめざましく、それに伴い、1次エネルギーの消費量も拡大してきており、図1に示すように、1992年には消費量が国内生産量を上回り、エネルギー輸入国に転じた。中国では、今後も一層の経済発展をめざしており、消費と生産の較差はますますひろがってくると思われる。
図2、図3を比較して見ると、1番大きい部分を占めているのが、石炭であるが、石炭の比率は消費、生産ともに1995年以来ほぼ同じ数値となっており、このことは消費量が大きく伸びていることを考えれば、石炭の消費量も大きく拡大し、生産量を大きく上回る傾向にあることがわかる。しかし、石炭には燃焼排出ガスによる公害問題と、生産地(北部)がエネルギー消費の中心地(沿海州)と遠いための輸送インフラ整備、高コストの問題があり、今後とも石炭依存には大きな成約があると考えられる。
石油は1990年以降、生産量の比率は下降または横ばいであるが、消費量の比率は拡大をたどっており、1992年には石油も輸入国に転じ、消費と生産の較差は加速度的に拡大し、1997年には消費量の約20%を輸入に依存するようになってきている。今後ともこの傾向は、より一層強まることが予想されるので、石油資源確保は中国の最重要国策の一つになっている。石油資源をめぐっての国際紛争がより一層激化することが予想される所以である。
原子力については、1997年まではエネルギー資源として数値的に表現される規模には至っていないが、前述したような石炭、石油依存では成り立たない状況にあり、意欲的な原子力開発に取り組んでいる。1995年時点では原子力発電量は電源の約1%にしかなっていないが、2010年には、4~5%、2020年には6~7%に拡大する計画である。(出典:アジア地域原子力協力国際会議)(林
勉)
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◇日本の食料自給率
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日本の食糧の自給率とは我が国で消費される食料のうち国内で生産される割合であって、昭和40年には熱量ベースで73%であったものが、平成に入ると急激に減少し平成2年には50%を切った。平成10年には40%までになり現在もほぼその数字を保っている。
自給率が減少したのは、貿易の自由化が進み、海外の安い食料が輸入されやすくなった事、我が国の生活レベルの向上と労賃の上昇とによって、国産の食料の価格が高騰し、輸入食料に太刀打ちできなくなった事、日本近海での漁業の水揚げ高が減少し、輸入にたよらなければならなくなった事、野菜を航空機で輸送するなどの、輸送方法の改善等があげられる。更に我が国から世界各地に技術指導などの展開が進み、漁類の養殖とか、日本人の好みに合った牛肉や野菜の生産等が進んだ事にもよる。
今後世界の食料需給状態がどう動くかは明白ではないが、人口の増加、低開発国の生活レベルの向上、高級食料志向等の需要の増大と、耕地面積の減少、水源の確保の困難さ、森林の減少、地下汚染の進展等のため決して楽観出来る方向に行くとは思えない。
更に我が国の食料生産には大量の石油或いは石油製品が使われており、これらが逼迫すれば、生産性は急激に低下する。
将来を考えて、我が国の国内生産を増加させるという事が、現時点では非常に難しい上に、海外の安くて良質の食料の輸入は、止めるどころか、増大の方向に行く恐れが強い。食料自給率の問題は解決の方策の見えない、しかし、極めて重大な問題である。(天野牧男) |
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◇ヨーロッパのエネルギー事情
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ヨーロッパのエネルギー消費は、アメリカに次いで世界で二番目に大きい。
エネルギー輸入依存度は第一次石油危機当時(1973年)の60%から現在は50%まで減少している。これは省エネ、域内資源の開発(特に北海油田・ガス田)、そして原子力発電の増加などの成果である。しかし、現在の石油の輸入依存度は76%、ガスは40%で、石油、天然ガス、石炭合計の輸入代金は年間2400億ユーロ(約27兆8400億円)に上るという。今後のエネルギー需要の増加や域内の生産減少などにより、2030年にはエネルギーの輸入依存度が70%を超すと予測され、その対策の議論が行われている。「エネルギーを共に開発し、共に使おう」と長い時間をかけて、各国間にまたがる送電線のネットワークや天然ガス輸送のパイプライン網を整備して来た。
原子力発電が主体のフランスからの電力供給、天然ガスは域内の北海ガス田だけでは足りず、ロシア、アフリカからパイプラインで輸入している。輸入依存度が増加し、調達先が遠距離になるにつれ、輸送コストの増加や通過国の情勢などに影響され易くなる。地球温暖化問題や市場自由化という様なエネルギー安全保障とは一見両立し難い課題解決も迫られており、今後のエネルギー政策の議論が高まっている。原子力・石炭への風当たりは強く、石油は高い輸入依存度によるリスクを抱えている。
天然ガスはパイプライン網の発達もあり、石炭と置き換わりつつあり、2010年までには電力需要の増加分の3分の2を占めるという。また、再生可能エネルギーを2010年に12%のシエアーにしたいといういう野心的な目標を掲げている。
原子力政策については国によって全く異なっている。フランス、フィンランドは積極推進、ドイツ、スエーデンはそれぞれ発電電力量の31%、48%を原子力に依存しているが、将来方向としては閉鎖を目指したいという。しかしながら、現実的な代替案が見出せず、エネルギー安全保障と温暖化ガス削減という観点から「原子力活用の再検討」が話題に出つつある。ヨーロッパでは、原子力発電によって、一年間に7500万台の自動車から発生する量に相当する3億トンものCO2を出さないですんでいる。そして、電力の35%に当たる原子力発電を在来のエネルギーや再生可能エネルギーで賄う事の難しさが議論されている。
日本とヨーロッパを比較した場合、近隣地域と石油・ガスパイプライン網や送電網で結ばれているヨーロッパと、海で囲まれた日本という違いはあるにせよ、エネルギー輸入依存度が高い事や、市場化に伴ってエネルギー価格の変動が経済に多大な影響を与え得る点など、環境保護対策を含めて共通点は多い。
エネルギー安全保障、環境保全、経済発展のいわゆる3E(Energy, Environment, Economy)の同時達成を目指すわが国にとって、ヨーロッパが目指す「自国に適したエネルギー構想とその実行力」には注目すべき点が多い。(阿部進) |
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◇シベリアの天然ガス導入計画
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多量な埋蔵量を持つロシアの石油と天然ガスは、その90%がシベリアと極東地域にあり、天然ガスは西シベリアのガス田からパイプラインを通してヨーロッパに輸出し、ロシアの輸出産業の主軸になっている。
今後急速なエネルギー需要量の増加が見込まれる中国では、国家的計画の下で西部のタリム盆地の天然ガスを積極開発し、約4000kmのパイプラインで巨大なエネルギーを消費する沿岸地域に輸送する計画(西気東輸プロジェクト)や輸入用のLNG基地の建設をスタートさせた。更にロシアとのエネルギー外交を積極的に進め、ロシアのイルクーツク州コビクタガス田から中国東北部を経由したパイプラインの実用化検討を進めている。
日本に関係の深いサハリンプロジェクトは1999年7月に「サハリンエナジー社」がサハリン島北部東岸で原油の商業生産を開始した。同社は英国・オランダ系の石油開発企業や日本の商社等が出資して「サハリン(2)プロジェクト」推進のために1994年に設立した事業会社である。原油や天然ガスを我が国や中国、韓国及び米国等に向けて本格的な出荷を目指し、関連設備やLNG基地等の建設を進めている。
これと並行して米国企業を中心にロシア及び日本企業により「サハリン(1)プロジェクト」が共同事業として推進されており、2001年1月末に「商業化宣言」が行われた。現在は、2005年末に原油生産の開始を目指して準備が進められている。日本向け天然ガスについては、需要の確認をした上でパイプラインによる輸送を計画しており、その事業化検討が民間企業により具体的に進められている。サハリンプロジェクトは北東アジア地域の具体的なエネルギー協力の先駆けともいえよう。
近年、北東アジア地域内諸国はエネルギー安全保障や環境保護の観点から、天然ガスのシェアーを増加させる方向にあり、その動きと関連して北東アジア地域のガス田と消費地を結ぶ天然ガスパイプライン網構想について国際的な検討や対話が進められている。その実現のためには次の課題を解決しなければならない。
・ 東ロシアを含む北東アジア地域の新しいガス田の開発
・ 国境を越える輸送インフラの整備
・ エネルギー分野における二国間・多国間協力関係を支える資金面、法制度面の具体的枠組みの構築
シベリアや極東地域からの天然ガス導入計画は、中国のエネルギー輸入量の増加や、日本・韓国が目指すエネルギー輸入源の多様化と輸入価格の低減対策として役立つ事になれば、エネルギー協力や地域の環境保全のみならず、この地域の安定性と経済発展に寄与する事が期待出来よう。(阿部進) |