会員座談会報告
「福島第一原子力発電所問題」についての懇談会記録
日 時 平成23年4月25日 14時〜17時
場 所 原子力技術協会 会議室
司 会 林 勉氏
懇談会概要
Tこれまでの経緯などについて
益田恭尚氏からの報告
・チームF設立の経緯と目標
原子力OBの危機感から発足し、シニアの経験と知恵の活用などを目標としている。
・淡水化への早期提案と廃液受けタンクについての提案
坂下ダムからの取水は地震で埋設配管が破損していることが分かった。廃液の処理で中古のタンカーの利用について検討したが、船舶への廃棄物の保管は禁止されていることが判明し断念した。メガフロートについても海が遠浅で接岸しにくいことが分かり、断念した。
・原子炉循環浄化装置についての提案
炉心の冷却について、水を循環させる方式とし、ゼオライトを用いた除染と、ドライ式のクーリングタワーを用いた冷却方式を提案している。汚染水除去工程により、放射線レベルを1/10,000に下げることを目標としている。
・事故の経緯などについて
1号機は津波発生後のデーターがないが、アイソレーションコンデンサーが何故か早期に機能が不全になり、炉心損傷は11日の18:00頃には発生したものと考えられる。ベント開始は12日の10:17とされているが、タイミングがなぜ遅れたのか?遅れが、1号機建屋の水素爆発の要因であったかどうかは議論のあるところ。4号機の使用済み燃料プールでの爆発の原因が、3号機からの水素漏洩か、4号機の燃料プールから発生した水素かについては、3階が何故壊れたかという原因と共にいまだによく分からない。2号機で爆発したのはサップレッションチェンバーの中なのか、外なのか判断は難しいが、PCV内はN2が封入されているので、サプレッションチャンバーの内圧の異常上昇により、ベント管が外圧を受け、根元にクラックが発生し漏洩した水素が外部で爆発したと考えられる。初動操作で外部電源の復旧に時間が掛った。東北電力の変電所の碍子破損や所内送電鉄塔が倒れたことによるが、何故、復旧に10日も掛ったのか、その原因は分からない。再臨界の問題はチームFの検討では限りなく小さいと考えている。
・今後の対策などについて〜東電発表のロードマップについて
ステップ1終了後3〜6カ月程度で安定的な冷温停止状態に持っていくとしている。東電は格納容器の中を全部水で満たすと考えている。チームFの循環型冷却水方式について奈良林先生から東電のOBに話が伝わっており、ロードマップの中でその考え方が取り入れられているものと考える。なお、東電の進めている方式は、フランスのアレバからの提案もあり、我々としては、どちらが採用されるかは特に問わない。仮設の冷却系を原子炉につなぐには、復水器から冷却水を入れるのなら比較的簡便に出来ると考えている。原子炉本体に直接つなぎ込むのは放射線のレベルが高く難しいのではないか。
・「福島第一原子力発電所事故を踏まえた対策」(原子力安全・保安院資料)の紹介
緊急安全対策(1か月目途)の実施について目標;既設プラントへの津波の完全防護は難しい。全交流電源、海水冷却機能が喪失したとしても炉心損傷、使用済み燃料損傷の発生を防止できるようにすること。
具体的対策の例:防水壁の設置、MCC盤の浸水防護、電源車の配備、高圧消防車の配備、消火ホースの繋ぎ込みの容易化
主な意見交換
・安全対策では、テロ対策などにも範囲を広げる必要があるのではないか。
―当面は津波の対策が中心。それ以上のものは中長期対策であろう。せめてここに挙げられた対策だけはして、原子力発電所が早く再起動できるようにしてほしい。西の方の発電所でも具体的な対策を講じないと定期検査後に再起動出来なくなるおそれが生じようとしている。
・非常用電源設備の設置場所についての対策が入っていない。シビアアクシデントだけはこれで防ごうということか。
・既設プラントの対応で、本当に具体的な対策が機能するかどうか見せないと地元の理解が得られない。デモンストレーション訓練が必要だろう。
・非常用ディーゼル発電機2台という場合、多様性を持たせることが必要だろう。ガスタービンの利用も考慮する必要がある。
・世界中の考え方を取り入れなければならない。テロ対策について日本は無防備ではないか。メディアの取材に対し、他プラントの例だが、すぐに発電所の構内に入れているような事態が発生している。
・東電は管外に大きな原子力発電所を作ったが、コンバインドサイクルと一緒にするなど開き直って10年先を考える必要がある。
U外部事象(地震・津波)の想定と設計基準 落合兼寛氏 (概要)
・耐震設計審査指針では「最新の知見」による地震動、津波の想定が出来ることが前提になっているが、「最新の知見」でも事前に想定出来ない外部事象がたびたび起こっている。これには、波動の特色である局所的(ミクロ)な挙動を解明する必要があると思われる。
・従って、地震動の想定に関する課題として、想定される断層から原子力発電プラントのサイトまでのマルチスケール解析が必要であり、それにはスーパーコンピューターの活用が望まれる。
・耐震設計における広義の深層防護〜耐震設計の基本方針として次を挙げている。確実な固定、靭性の高い材料の選定、安全上重要な施設の岩盤設置、相対変位の吸収、剛構造設計を基本、地域によらない静的設計、弾性状態を許容値とする設計用地震動の想定⇒その上に立って安全上重要な設備は発電所の敷地に想定され得る限界的な地震動に対しても、安全上の機能が保たれるよう評価するとしている
・超巨大地震では広域な被災がおこり、外部電源喪失のリスクが大きい。
・地震動の想定と津波の想定
津波による損傷は耐震設計体系が有する余裕がなく、想定(最大波高)の精度が重要である。地震に比して津波の歴史資料が少なく、また観測網も限られている。土木学会原子力土木委員会津波評価部会が評価手法の高精度化に取り組んでいる。
・確率論的想定と決定論的深層防護
確率論的想定…津波は地震動よりも想定が重要となる。従って、決定論的な安全率の考え方が必要となると思われる。
決定論的深層防護…津波による損傷要因(押し波による冠水、津波火災、漁船等浮遊物衝突、引き波による露出、土砂流入などへの対応が必要)
・原子力発電所の津波被災 成功事例
(電源)
外部電源確保 福島第二、女川2,3号機
想定津波波高での成功(非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ 非常用電気系統浸水対策の成功) 女川、東海
空気冷却非常用ディーゼル発電機の設置 福島第一6号機
(最終ヒートシンク)
想定津波波高(残留熱除去系海水ポンプなどの浸水対策の成功) 女川、東海
熱交換器建屋による止水成功 福島第二
補修、代替設備交換 福島第二、福島第一5,6号機
・既設原子力発電所の外部事象対策案
(電源多様化)
直流 非常用蓄電池+仮設充電設備
交流 外部電源、非常用発電機+予備非常用電源(常用ガスタービン、空冷ディーゼル)、仮設電源(電源車)
(最終ヒートシンク)長期間に及ぶ機能障害対策多様化 海水+河川、大気(強制空冷、蒸発、冷却池)
(注水設備)短期冷却系統の単純化(消火系配管、MUW)、仮設ポンプ車
(アクシデントマネージメント訓練)
主な意見交換
・想定津波に対し、2〜3倍の余裕をみればよいか。
―安全率は地点ごとに見なければならない。津波のミクロな解析評価が余裕の評価に重要となる。
・PSAをどう導入するか。
―安全目標がないときの裾切りが課題であり、新指針では残余のリスクの中に入れている。定量的な評価よりも、決定論の深層防護の考え方を補うものと位置づけられる。
・確率論的に対処しようというのは無理か。
―自然事象については確率論的に対処するのは無理がある。決定論的に対処しなければならない。
・津波評価部会ではどのような検討をしているのか。
―2002年に津波の要因、解析法などの報告書をだしており、津波評価に役立っている。
・原子力技術基準を定める省令の平成23年3月30日に改正された(解釈)についてどう担保されるか現在検討中であろうが、浜岡原子力発電所は津波に対しノーガードではないか。いろんな意味の対応を考えなければならない。緊急安全対策などについてもこれだけでよいか十分考える必要がある。
・初動操作の遅れを十分認識する必要がある。シビアアクシデントに対する訓練が重要である。
・恒久対策を採るまで原子力発電所を止めろという意見が出てくる恐れがある。
・成功事例を良く検証し、地域住民に対し責任ある人が説明し、信頼関係を醸成していくことが重要である。
以 上(佐藤祥次記)
(出席者)
青木直司、荒井利治、石井正則、石井陽一郎、伊藤睦、上田隆、小川博巳、興直彦、奥出克洋、落合兼寛、小野章昌、加藤洋明、金氏 顕、久野勝邦、黒川明夫、後藤廣、税所昭南、齋藤修、齋藤健弥、齋藤伸三、櫻井三紀夫、佐藤祥次、嶋田昭一郎、角南義男、竹内哲夫、宅間正夫、太組健児、丹下理、辻萬亀雄、土井 彰、中神靖雄、中村 進、橋本哲夫、馬場 礎、林 勉、早野睦彦、古田富彦、堀雅夫、本郷安史、益田恭尚、松永一郎、水町 渉、三谷信次、山田健三、山田信行、路次安憲、若杉和彦。