会員座談会議事録
日本の原子力安全規制法制度の問題点について
日時 2010年1月21日 15:00~17:00
場所 原技協会議室
講師 東京大学 公共政策大学院 特任教授 諸葛宗男氏
司会
日本の原子力の再活性化にはガバナンスの品質向上が必要である。この観点から安全規制法制度の問題点とその改善に関し、東京大学公共政策特任教授、諸葛宗男氏の研究状況を伺い、質疑応答を行った。
講演要旨
米国ではTMI以降表面化した低品質に起因するネガティブ連鎖から、安全ガバナンスの品質向上によりポジティブ連鎖に転換した。
日本でもマネージメント領域の品質の低さが事故を大きくしており、低品質の代償が機会損失や信頼感・安心感の低下、競争力の低下につながっている。ガバナンスには多くのステークホルダーが関与しているが、ステークホルダー個別のガバナンスでは共通目標の達成は困難である。このためにはガバナンスの品質向上をはかり、ステークホルダーを横断する統合型ガバナンスとする必要がある。
東京大学では研究開発、設計・建設、運転・保全、安全、セキュリティーのガバナンスシステムの研究に取組んでおり、安全とセキュリティーに関しては、原子力法制度研究会で研究している。中間報告書では、プロセスの透明性、判断基準の明確化、役割分担の明確化を共通の執筆指針として、体制や仕組みの改善を提起した。
中間報告の概要は以下の通りである。
1) 立地地問題
現行の法的手続き以前の立地プロセスを明確化する提言と、それに併せ、地元仲介者の存在、第3者による調査、検討期間の確保、自治体議会内での準備活動などが必要。
2) 運転再開問題
計画外停止後の運転再開では、国の許可のほか安全協定にもとづく地域(知事)の合意取得が難航、再開が遅れるケースが多発している。現在は安全協定でも明確化されていない、安全協定に基づく協議手続きを透明化することが、運転再開の政治争点化を回避、住民の信頼確保につながる可能性が大きい。
3) 安全協定問題
当事者間では、安全協定は法と同等以上に遵守すべき約束事として認識されてい る。
安全協定の今後の課題は、判断基準と自治体の責務の明確化、運用するための自治体の人材確保が課題。また、安全規制の仕組みに自治体の役割を組み込むことも重要な論点。
4) 規格基準問題の課題
国が実施する安全規制における国、事業者、メーカの責任の明確化、世界の基準との適合性、立地審査、工事認可、使用前検査などとの連携した階層化された基準、産官学の役割の明確化、特に学協会の規格策定における義務と責任、権限などが課題である。
5) バックチェック問題
事業者の自主的な対応に依存しているのが現状。判断基準や役割分担が不明確、プロセスが不透明などの問題がある。既存制度への組み込みなどとともに、実施の可否判断に米国式コストベネフィット手法の導入などの改善策が考えられる。
6) その他
事業規制、規制体制、3S(Safety、Security、Safeguard)に関する問題など。
質疑応答
Q 設備利用率低迷のネガティブ連鎖をステークホルダーは認識しているのか?認識しているとしたら、進まないのは原子力委員会、安全委員会の力不足でないのか?長期運転は制度面では改善されたが、検査が過大となっているように思う。
A 日本の仕組みは透明化されておらず、何をもって安全かの判断基準が具体的に明確化されていないのが問題。合否基準が明文化されていなので、一般の人にはわからない。これが自治体で独自に安全判断プロセスを設けている一つの原因ではないかとの指摘がある。
米国ではホームページに掲載、誰でもアクセスできる。規制当局のマンパワーがないというが、OBも活用するなど、幅広い対策を講じることも考えられる。
Q 権限の問題もあるかもしれないが、安全委員会がもっと踏み出す必要があると思うがどうか?
A ガバナンスの3すくみを束ねる力をもっているのは、原子力委員会、安全委員会であろう。
Q ステークホルダー個別のガバナンスには、国民と自治体、メディアもステークホルダーではないか?これらを法制度のなかでガバナンスするのは難しい。
A メディアのほかNPOなども含める方がよいと思っている。
Q 一般の人に判り易く伝える必要があるが、専門家の伝え方にも限度があるので、一般の人のレベルを上げる教育が必要ではないか?
A 一般の人に理解できなくても、明確な基準で合否判定したことが書いてあるだけでも安心感が生れると思う。なお、原子力学会としても一般の人に判り易くする取り組みをしている。
Q いろいろなシンポジウムでも類似の指摘がされているが、現状がなかなか変わらない。どうすれば進むようになるのか?
A 進み方が遅という点は同感。官が動かないと進まない。マスコミ攻撃より、官を中心とする原子力界の自己改革が最優先課題でないか。
Q 日本はお上のいうことに従う風習がある。ガバナンスよりも、むしろ、ガバメントの責任感を強化しないとダメではないか?
A ガバナンスでないと統治できない人達はガバナンス、ガバメントでできる場合はガバメントと使い分けることが必要。
NASAの成功はテクノクラートが多くの意見の違う研究機関を束ねたことによる。このように束ねられる場合はガバメントによればよい。
稼働率の場合、国が大丈夫と言っても地元は判らないと言う。どうしたら再開できるかを透明化し、地域の意見を取り込む仕組みとする必要ある。
Q 三重チェックを能率的にするには、地元の委員を安全部会に入れ、地元の検討をやめるようにすることにより可能ではないか?
HTGRの設置許可では、自分達で基準の作り、原安協を介して議論を経て進めた。新しい物に対する一つの方法であろう。
A 再処理では構造の技術基準を作成、法律化しようとしたが、規制当局のリスクが大きく、基準を明確化しないという選択肢が選ばれた。国の機関の場合と民間の事業とでは規制側の対応が異なる。
Q SRP(Standard Review Plan)をどうして作らないのか?
A 規制側が行政裁量権を狭めたくないからではないかとの意見もある。
Q 行政を変えるのは第二の有沢懇談会のようなものが官側からでないと難しいのではないか?学長や産業界トップがそういった提言をしてゆく必要がある。
A 東大に政策ビジョン研究センターという、政策提言の組織ができたので、そこを通して提言してゆきたい。
Q 研究用原子炉についても議論していただきたい。
A 岡先生からも言われている。
Q 現状の安全規制を変えるには限界がある。スタッフを増やないと対応できない。NRCは質問すれば答えることになっている。規制当局のあるべき姿を明確にして訴えないと永遠に実現しないのではないか?
A 米国の場合Navyの人材が活用できるが、日本では人材が少ない。なにか新しい組織を作らないと人材が集まらないように思う。最終報告書では反映したいと思っている。
司会 そのような意味からも保安院と安全委員会の一体化は必要ではないか。
今後も、エネルギー問題に発言する会としては東大原子力法制研究会に協力させて頂きたいと思っている。
以上(石井正則記)
参加者
益田恭尚、林勉、竹内哲夫、金氏顕、松永一郎、荒井利治、入江寛昭、小川博巳、加藤洋明、菅原剛彦、辻萬亀雄、齊藤健弥、小野章昌、丹下理、松岡強、田中長年、石井亨、宅間正夫、伊藤睦、西村章、齊藤伸三、古田富彦、土井彰、若杉和彦、上田隆、佐藤祥次、税所昭南、由岐友弘、太組健児、橋本哲夫、石井正則