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高温ガス炉の研究開発の現状
期日: 2010年3月18日 15.00〜17.00
講師: 日本原子力研究開発機構 原子力水素・熱利用研究センター 小川益郎氏
場所: 日本原子力技術協会会議室
司会: 林 勉
講演概要
高温ガス炉の研究開発の現状について、講師の話をお聴きし、質疑応答を行った。
1.高温ガス炉に求められているもの
世界では
・ 発展途上国におけるエネルギー需要の急激な増加に対処し、原子力プラントは最も有望な解決策のひとつ。
・ 発展途上国では送電網が未整備であり、高い安全性・核拡散抵抗性が求められる中で、小型でも経済性の高い高温ガス炉が期待されている。
高温ガス炉システムの経済性:
高温ガス炉の発電単価は4,2円/kWhと試算され、軽水炉の発電単価(5.3円/kWh)に比べかなり経済的に有利である。
建屋サイズの比較ではBWR-5の79%程度の容積でほぼ同程度である。
日本では
・ 炭酸ガス大幅削減に向けて、原子力の熱利用の面から高温ガス炉が期待される。
2.高温ガス炉の技術と特性
・ 世界最先端の国産技術。
セラミック材料でウランを4重に被覆する技術
3次元等方の黒鉛製造技術
高温・高圧ヘリウム取扱い技術
950度に耐えるニッケル系合金製造技術
・ 放射性の核分裂生成物の閉じ込め性能は海外と比較して二桁程度高い。
・ 優れた照射耐久性(高燃焼度)を有する粒子型セラミック燃料。
・ 冷却材喪失時には冷却のためのガスを挿入しなくとも原子炉外面からの自然対流と輻射熱での冷却が可能。
高温ガス炉の固有の安全性の確認。冷却材流量を1/3減少させても反応度フィードバック効果により出力低下、安定化が図られることを確認。今後、より過酷な試験を計画中。
制御棒を少し(炉中心部、1対)引き抜いても反応度フィードバック効果により出力低下、安定化が図られることを確認。
3. 水素製造技術
・ 将来計画は高温ガス炉に水素製造プラントを接続し運転。
・ 熱化学法ISプロセスにより、水を900度の熱で熱分解し水素を回収する。(理論熱効率:67%)
・ 水素製造研究開発状況は、炉外実験として4段階のうち現在3段階目にある。(実験室規模実験、工学基礎試験を経て技術確証・信頼性試験の段階)
4. 国における位置付け
・ 原子力委員会の「原子力の革新的技術開発ロードマップ(2008)」の中で「高温ガス炉高性能化学技術及び水の熱分解による革新的水素製造技術の研究開発として、2020年頃に実用システムの原型を提示することを目指す」としている。
・ また総合科学技術会議の「革新的技術戦略(2008)」の中で23の革新的技術の一つとして「水素エネルギーシステム技術」を採択している。
・ 高温ガス炉システムの開発
2010年 高温ガス炉技術開発(HTTR)
熱化学IS法水素製造技術開発
2020年 HTTR-IS 水素製造試験 高温ガス炉に水素製造試験設備を接続し、原子力による水素製造を実証
2040年 実用高温ガス炉水素製造システムの開発
・ 原子力機構の2100年ビジョンでは多目的高温ガス炉は2100年で120基としている。
・ 低炭素社会へ向けた取組みとして、水素に関わり次のようなことが検討されている。
製鉄における水素利用(水素の利用による高炉からのCO2排出削減技術の開発や2050年を目指した水素製鉄炉の構想)
燃料電池自動車と水素ステーションの普及(2015年には、燃料電池自動車が売り出される。)
5. 世界の高温ガス炉の開発状況
・米国 次世代原子力プラント(NGNR)計画 2013年度 原型炉設計
(熱出力600MWt,水素電気併産予定)
・中国 HTR-PMの建設(2009年建設着工) 発電商用炉 250MWt×2基 750度 (電気出力210MWe)
・カザフスタン 原子力開発国家計画(2010年発効予定) KHTR 小型炉 50MWt 950度 発電・地域暖房用、将来水素製造
質疑応答
Q セラミック被覆粒子型の燃料の破損の割合が1万個で1〜2個位ということだったが、どのようにして調べるのか。
A 抜き取り破壊検査をしてどの位の割合で壊れているかを調べる。
Q 冷却材喪失時にヘリウムガスを挿入しなくても原子炉外からの自然対流で冷却が可能と言うがどのようにして可能なのか。
A 黒鉛の熱伝導率はきわめて高いので、空気冷却での輻射と熱伝導で十分熱が取れる。
Q 燃料粒子を燃料コンパクトに固めるときの方法は。
A 粒子型の燃料を粉末のまま燃料コンパクトに焼き固める。
Q 高温ガス炉が4.2円/kWhと単価が安いがサイクルコストは入っているか。燃料費の割合はどれくらいか。
A サイクルコストは入っていない。燃料費は3割程度と考えている。
Q 高温ガス炉はローカルエネルギーで使うと考えられるが、発電単価が軽水炉以上で十分採算がとれる。発電単価は軽水炉と同程度と言った説明の方が良くないか。
A その説明でよい。
Q 高温ガス炉で昔越えられなかったところをどのように克服したのか。
A 高温ガス炉ではドイツ、アメリカで早く取り組んだが、超高温ガス炉で十分な技術が伴わず開発をやめた経緯がある。日本では900度から1000度を目指し、950度の熱を取り出す金属の開発に成功し、アメリカ、ドイツの失敗を修正出来た。また、大型化をあきらめ、小型で、高温ガス炉の安全上の特長を生かして、大型軽水炉の経済性に対抗することで、次世代炉となった。
Q 電気出力を30万kWと考えている理由は。
A 高温ガス炉では圧力容器の外から冷やすので、ある大きさ以上になると冷えなくなる。30万kWあたりが限度だと考えている。
Q ガスの加圧はどのようにするのか。
A タービン軸に圧縮機を直結する。
Q 製鉄における水素利用の見通しは
A 日本では、高炉が用いられており、水素還元にはシャフト炉となり、高炉をそっくり入れ替えることになるので、2050年以降ではないかと考えている。
Q 高温ガス炉では生活用水等の確保の面での活用が期待できるのではないか。
A 海水を淡水化するのに使える。また、カザフスタンのような寒冷地では地域暖房用となる。
Q HTTRではどれ位の水素が製造できるか。
A 約1000㎥/h程度を目標としている。
Q 再処理や耐震の問題は。
A 使用済みの燃料の再処理の問題は軽水炉の場合とほぼ同様であろう。耐震の問題についてもしっかりした地盤のところに作る、活断層の上には作らないなど軽水炉の場合と同じ。
Q 水素製造プラントは一般プラントか原子力関連施設か。適用法規は何になるか。
A 「高圧ガス取締法」等の一般の規制法で扱って貰いたいが、「原子炉等規制法」にもひっかかる面もありそうで、専門家と相談中である。
Q 炉心の過酷事故はどう考えるか。
A 配管が破損して炉心に空気が侵入する事故が一番厳しい。黒鉛は炎を上げて燃えるこ とはないが、酸化して減耗する。燃料は黒鉛の中に入れられているので、空気が燃料に接触するような事態になると、放射性物質の放出の可能性が出てくる。それを防ぐために設計上の考慮が図られている。
Q 今の研究体制は。
A 全部で100人程度。今後に向けてもっと強化したい。
Q 電気出力30万kWのプラントで、水素生産可能量は。
A 80,000㎥/h程度である。
Q 経済性が高い理由は。
A 軽水炉に比較して安全系が少なくて済むこと、高温ゆえ高効率であることなどが大きい。
以上(佐藤祥次記)
出席者
荒井利治、石井 亨、石井陽一郎、伊藤 睦、上田 隆、小川博巳、小野章昌、加藤洋明、後藤 廣、紺谷健一郎、税所昭南、斎藤 修、斎藤健弥、佐藤祥次、嶋田昭一郎、菅原剛彦、宅間正夫、太組健児、竹内哲夫、辻 萬亀雄、土井 彰、西村 章、林 勉、古田富彦、益田恭尚、松岡 強、松永一郎、由岐友弘、若杉和彦