会員座談会報告

「誇張無しの持続可能エネルギー」と「2030年のウランリスクはあるか?」について

 

期 日  2010年5月20日(木)  15.00〜17.00

講 師  小野章昌氏

場 所  原技協会議室

司 会  林 勉 

 

T.講演概要

「誇張無しの持続可能エネルギー」(ケンブリッジ大学ディウィッド・マッケイ教授著)についての紹介

@ マッケイ教授は、エネルギーについては、需要・供給について統一した単位で表すことが重要であるとし、「一人一日当たりのkWh」で表すことが良いと言っている。

・英国の一人一日当たりのエネルギー需要は125kWhである。このうち再生可能エネルギーで賄えるのは最大18kWh/dである。全ての南向きの屋根に太陽電池を設置しても、一人当たり2kWh/dしか供給できない。風力発電は陸上,洋上合わせて最大7kWh/dである。

  A2050年のシナリオ

   ・2050年には、家電・電動機などの電力消費は効率化と経済成長が相殺され現行

    並み(18kWh/d

   ・熱利用分野ではヒートポンプによる電化により、経済成長分を差引いても25%の削減が可能。ヒートポンプは環境熱を利用し12kWh/dの消費電力で24kWh/dのエネルギー供給が可能。この他、木材(5kWh/d)、太陽温水器(1kWh/d)も一部貢献。

   ・輸送分野では電化による効率アップで消費は1/4となるが、経済成長により相殺され、現行の1/2になると想定。殆どが電動化され(18kWh/d)、航空機・船舶用バイオ燃料が2kWh/dとなる。

         以上の合計として最終エネルギー消費量は、56kWh/dであるが、電力としては送配電損失分2kWh/dを含めて50kWh/dが消費される。

  B2050年の電力50kWh/dの時の電源構成はバランス重視型と経済性重視型とで大きく異なるが

(@)バランス重視型では以下のように考えられる。

         太陽熱発電     10,000kW (アフリカの砂漠で発電)

            原子力発電      4,500kW (40基、現在の4倍程度)

      陸上風力発電     3,500kW

      洋上風力発電     2,900kW

      石炭(CCS)       800kW

      潮力・波力発電     3,000kW

      太陽光発電       4,800kW 

   (A)経済性重視型では太陽熱発電、太陽光発電、洋上風力発電はコストが高く敗退し、かわりに原子力発電が11,000kW(現行の10倍程度)と大幅に伸びる。

  C日本への応用

   ・日本の人口は現在1.27億人。一人当たりのエネルギー消費量は136.5kWh/dである。2050年の人口は1億人に減少すると予想。

   ・英国よりも重工業が多く、2050年の一人当たりのエネルギー消費は64kWh/dと想定する。

   ・重工業用の石炭熱利用が5kWh/d残り、輸送用のバイオ燃料利用が2kWh/dと想定すれば、電気利用は57kWh/dとなり、現在の約2倍(2800kWh)の発電が必要となる。

   ・2050年の電源構成は化石燃料が乏しくなっており、概ね次のように想定される。(小野氏の想定)

                容 量       発電量    一人当り供給量

     太陽光発電     10,000kW   1,100kWh    3kWh/d

         風力発電      4,000kW   1,000kWh       3kWh/d

     水力・地熱発電    5,000kW   1,000kWh       3kWh/d

石炭(CCS)    4,000kW   3,000kWh       8kWh/d

     原子力発電     19,700kW   14,700kWh    40kWh/d

      合 計      42,700KW     20,800kWh     57kWh/d

 

    上表の通り、原子力発電によって14,700kWhの発電を行うためには、その発電容量は19,700kWが必要となる。新型軽水炉180万kW109基必要となり、基数で現在の2倍になる。  

    

  主な質疑応答

     Q.何故LNGを除いているのか。

   A.石油がない時はLNGも無くなるとしている。若干シンプリファイドしている。

   Q.太陽光発電を1億kWと言うが可能だろうか。

   A.面積としては可能だと言う意見はあろうが土地代を考慮したら難しいだろう。

   Q.太陽光発電の他に太陽熱の利用を入れたらどうだろう。

   A.朝日ソーラーなどの過去の例でも太陽熱の利用は揺れている。入れても一人当たり1kWh/dが限度ではないか。

   Q. 自然エネルギーでの発電では、系統の問題があるはず。

   A.マッケイ教授は系統の話には触れていない。大規模な揚水発電所が必要だと言っている。

   Q.太陽光発電や風力発電の建設には補助金が必要となるが、国民がその負担を良しとするだろうか。

   A.太陽光や風力の建設には大きな投資が必要となる。国民負担は難しい問題である。

 

 2.「2030年のウランリスクはあるか?」との問題についての講演

  問題提起 京都大学山名教授の話 「2030年のウラン需要は約10万トン。今後、新規鉱山開発に投資して、現在の供給量4万トンとの差を埋めないと、争奪戦になりウランを安定的に入手できなくなる畏れがある。」

 

 @世界のウラン需要は以下のとおり。(出典 WNA「世界市場レポート2009」)

ケース

2010

2020

2030

 基準ケース

68,646トン

91,537トン

106,128トン

 高ケース

70,118トン

106,591トン

140,052トン

  Aウランの資源量

ウランは石油やガスと異なり金属資源である。ウランは地球誕生の時から地殻に存   在するいわば無限の資源。

計算上は地殻中に10兆トン、海水中に40億トンが存在する。

  B世界のウラン資源量(単位1,000TU、出典 IAEAレッドブック2007)

     既知資源

未発見資源

確認資源

推定資源

予想資源

期待資源

3,339

2,130

2,769

7,771

      5,469

10,540

             16,009

  Cウラン資源の静態的耐用年数

   ・確認資源量を対象とする場合   

334万TU÷6.9万TU=48

   ・既知資源量を対象とする場合

     547万TU÷6.9万TU=79                             

    ⇒金属資源の経験を踏まえればこのような耐用年数が将来とも維持されよう。

  D世界のウラン資源国

   オーストラリア、カザフスタン、ロシア、南アフリカ、カナダ、米国など

  Eウラン鉱床の採掘方法

   通常採掘法(坑内・露天)   62

   イン・シチュー・リーチ    29

   副産物(銅・金)         9

   F主要ウラン生産国

   カナダ、カザフスタン、オーストラリア、ナミビア、ロシア、ニジェールなど

  Gウラン二次供給源

電力会社等の民間在庫、政府在庫、兵器解体高濃縮ウラン(HEU)、回収ウラン(REPU)、回収プルトニウム(MOX)、劣化ウラン再濃縮

  Hウラン超長期需要(軽水炉)

   2050年の軽水炉が10億kW(現行の3倍程度)のケース、15億kW(現行の4.5倍程度)のケースについて、2070年までのウランの需要予測をすると、それぞれ1,000万TU,1,300万TUであり、レッドブックの資源量1,600万TUの中に収まっている。

 I原子力技術進展によるウラン資源の寿命

 

 

既知資源による

供給年数

在来型資源による

供給年数

軽水炉/ワンススルー

85

270

高速炉/再処理リサイクル

2,570

8,015

  J中国・インドのウラン需要

   ・WNAの基準ケースでは中国の発電容量を2020年5,000万KW,2030年9,400万KWとみている。

   ・インドはWNAの基準ケースの2020年1,600万KW,2030年3,100万KWに近いのではないか。

   ・この2国で2030年には現在の米国需要の1.3倍(26,000トン)程度のウラン需要を見込む必要がある。これに対しては、例えばオリンピックダム鉱山の拡張(13,000トン)、カザフスタンの増産(10,000トン)が達成されれば見込みの立つ数量である。

 K中期的課題

  ・日本の電力会社の手当状況から見ても2020年までの供給は心配ないであろう。

  ・2020年―2030年の将来を目指して中国、インド、韓国による資源確保の動きが強まるであろう。

  ・日本はカザフスタン、オーストラリア、カナダを中心に利権確保を図っており先行している。この手を緩めてはならない。

 L長期的課題

  ・WNAの原子力発電「高ケース」では2030年の発電容量を8.2億KWと見ている。2050年には世界の発電容量が15億KW以上に達することも想定される。そうなるとウラン争奪戦が激しさを増すことが想定される。石油枯渇と言う環境からも高速炉によるウラン資源の有効利用は避けて通れないことになろう。

   トリウム利用も平行的に考慮されることになろう。

 Mまとめ 

  ・ウランは金属資源。枯渇の心配は無いがリサイクルしながら浪費を避けるべき。

   廃棄物低減のためにも高速炉が必要。

  ・ウラン価格は長期的に見れば3080ドルの範囲に収まるであろう。

  ・「2030年のウランリスク」よりも「2050年のウランリスク」に備えて高速炉(およびトリウム炉?)の開発を進めるべき。

      

主な質疑応答

Q.海水ウランとの関わりは。

A.海水ウランまで手を伸ばす必要はないのではないか。海水ウランはEPRが低い。

Q.2009年の原油生産量が下がり、2010年に再び上がったのは。

A.2009年は需要が減少したが、2010年は景気回復の方向である。

Q.海外のウラン資源確保で動燃があった時には動燃が頑張ったが、動燃が無くなった時にマイニングまで切り捨てたのではないか。

A.今は、海外ウラン資源開発(株)や日加ウラン(株)が動燃の持っていた利権の一部有望部分を引き継いでおり、動燃があったお蔭で利権が残っている。

以 上(佐藤祥次記)

(出席者)

石井 亨、石井正則、石井陽一郎、伊藤 睦、上田 隆、小川博巳、加藤洋明、金氏 顕、菊池新喜、後藤 廣、斎藤 修、齋藤伸三、佐藤祥次、宅間正夫、太組健児、竹内哲夫、土井 彰、林 勉、古田富彦、益田恭尚、松岡 強、松永一郎、若杉和彦、