会 員 座 談 会 報 告

原子力発電を中心に見た世界と日本

 

期 日   平成22715日 1630分〜1740

講 師   尾本 彰氏(前IAEA原子力発電部長、原子力委員、東大大学院原子力国際

専攻GCOE特任教授)

場 所   原子力技術協会会議室

司 会   竹内哲夫

 

講演概要

 「原子力発電を中心に見た世界と日本」と言うテーマで、最近の世界の原子力発電の動向、外から見た日本の原子力発電の課題とこれに対する今後の取り組み等について講師のお話をお聴きし、若干の意見交換を行った。

(1)世界の原子力発電

・原子力発電を巡って、近年起きていることは、国境を前提とした国際化の動きから、国境を越えたグローバル化とネットワーク化の拡大の動きである。

・一方、開発途上国でも原子力発電の導入を考えるようになり、資源を巡る争奪戦と開発途上国の市場獲得等での国家間の熾烈な競争がある。

・世界で原子力発電設備容量増の鈍化にも拘わらず、ベストプラクティスの普遍化による稼働率の向上等によりkWhでは1990年から2005年の間で40%増加している。

・原子力教育のための地域ネットワークが構築され、2004年からアジアでの原子力教育のための地域協力(ANENT)が進んでいる。15カ国が参加しているが日本は参加していない。

IAEAでは毎年原子力発電の予測を行っているが、2009年の予測では、2030年には世界の原子力発電は現行の2.18倍になると予測している。(ハイケース)

・現在、原子力発電を実施していない60カ国以上の国からIAEAに原子力発電の導入支援の要請がきている。

・最近の動きの中では、中国は2030年に150GWe程度の原子力発電容量を目指し現在24基を建設中であるが、内16基までは国産のCPR10002014年に国産化比率を80%、建設費1500$/KWeという目標を達成して「海外拓展」すると言っている。また米国では中小型炉への期待が拡大していること等があげられる。

(2)外から見た日本の原子力

・海外から見ると、日本の情報と人にアクセスするのが困難で、かつ、IAEAに対する

 日本からのアクセスが少ない。

・理念や基準や仕組みに対する発信が乏しいという面がある。

・状況を見ながら進めるというしなやかさの不足が見える。

・世界の標準的な慣行等からの乖離がある。

長期サイクル運転、出力増強、検査期間の短縮、炉設計と燃料の型式認定など多くの国が実施してきていることが実施されていない。

原子力産業が経済成長と雇用の関連で見られていない。

温室効果ガス削減への寄与認識が原子力推進の民意につながらない。

安全規制は国だが、地方自治体が施設運転を左右する大きな影響力を持っている。

規制のダブルチェックと規制当局の職員の頻繁な移動。等

(3)日本の原子力の課題

・世界標準からの乖離を解消すること。

・持続可能な発展戦略の中で原子力技術の利用を明確に位置づけること。

・リスクがあるが便益をもたらす技術の利用に関するリテラシーの向上をはかること。

IAEAを含む世界のネットワークに参加し積極的に活用すること。

・他国の作った仕組みに動かされる者から「仕組みや基準を作り動かす者」になること。

   ・原子力技術で世界の持続可能な発展に一層の寄与と経済成長を図ること。

(4)ではどうすればよいか

・乖離の問題への取り組み

まず乖離の実態把握と原因明確化を行い、乖離解消の戦略を定め、必要に応じ原子力界が束になって提言すること。

・理念の発信や仕組み作りおよび国際戦略への取り組み

IAEAの分野ごとの活動に関われる専門家リストの作成と戦略会合の実施、アジアにおける原子力協力の推進。 等

 

意見交換では、下記のような課題が提起された。

A.外から見た日本の原子力の課題について分かったが、今後これらの課題に具体的にどう取り組むことになるのか。

  B,安全規制について、国の委員会と地方自治体との在り方について、今後どう考えたらよいか。

C.安全規制に関わる組織の一元化についてどう考えるか。

D.海外から見て乖離があるとの話がメインであったが、日本の良い点もある、このような点についてのアプローチも望みたい。

以  上(佐藤祥次記)

 

(出席者)

荒井利治、石井正則、石井陽一郎、岩瀬敏彦、上田隆、小川博巳、金氏顕、菊池新喜、後藤廣、紺谷健一朗、西郷正雄、税所昭南、齋藤修、齋藤健弥、齋藤伸三、佐藤祥次、竹内哲夫、宅間正夫、辻萬亀雄、土井彰、中神靖雄、西村章、橋本哲夫、林 勉、古田富彦、益田恭尚、松岡強、松永一郎、水町渉、若杉和彦。