会員座談会議事録(案R1

これが正しい温暖化対策

 

講師:電力中央研究所 杉山大志氏

期日:2010617日(木)14:0015:00

場所:原子力技術協会

司会:林 勉

 

講演要旨

温暖化問題は重要かつ手強い問題である。再生エネルギーによる代替や、その促進策として排出権取引など、様々な対応策が提示されている。しかしながらこれらの対応策には次のような課題があり。費用対効果をよく考えて本当になすべきことはなにかを見極めることが必要である。

1.再生可能エネルギー

太陽光発電の温暖化対策コスト、すなわち1トン当たりのCO2削減費用は10万〜40万円である。この値はCDMによる海外排出削減コスト2千円程度とくらべ極めて高い。バイオマス、風力、地熱、水力発電も1〜3万円で割高である。発電単価も原子力の5円/kWhにくらべ47円〜65円/kWhで、追加発電のポテンシャルは低いといえる。

一方、CO2を削減することによる価値としては、CO2のコスト、エネルギー安全保障、雇用創出、景気対策、産業振興、環境外部性、技術普及支援などがあるが、CO2以外の価値はほとんどゼロである。CO2のコストをCDMの相場から算定すると約1円/kWhとなる。このことから、kWh当たりのCO2削減コストは1円程度で、これが全量買取制度において再生可能エネルギー価値として上乗せするに値する水準である。15円〜20円の上乗せというのは、この水準を大幅に引き上げることに他ならない、

 

2.温暖化防止策

COP15で事実上京都議定書型の国際交渉は破綻した。すなわち、数値目標を各国に強制する“ターゲット&タイムテーブル(数値目標と期限)方式”が破綻、かわって各国が自主的に政策を宣言し、相互にその進捗をレビューする“プレッジ・アンド・レビュー(宣言と審査)方式”へと国際脇組みの方向が転換した。

COP15でもうひとつはっきりしたことは、米国と中国が国際的な枠組みで重要なプレーヤーとなったことである。日本もできるだけ早い段階で方針転換をはかる必要がある。

国内政策については、2020年までに25%とい性急すぎる中期目標の見直し、電化戦略の確立、キャップ・アンド・トレード型の排出権取引の導入見直し、省エネ政策を強化する必要である。

また、温暖化対策ではコストが重要である。コストを度外視した温暖化対策は問題の解決を遠ざける結果となる。この観点から、政策には「コスト抑制条項」を盛り込むことを提案する。

再生可能エネルギーの全量買取制度のように1トンのCO2を減らすのに10万円も使い、その結果1兆円投じ日本全体のCO2排出量10億トンの1%しか減らない「1兆、1パー、10万円」。3000円/トンCO2程度になれば、同じ1兆円使って30%減らすことが可能となる「1兆、30パー、3千円」。

 

3.超電化

温暖化対策のカギは電気主体のエネルギー利用に転換することである。直接燃焼にくらべ電気のエネルギー効率が高いことによる。直接燃焼から電気利用に置き換えることにより、エネルギーのCO2原単位を下げるのか、温暖化防止のもっとも重要な手段である。

 

4.ワイルドカード

温暖化防止の救世主となる技術には、次のようなものが考えられている。

海水ウラン回収

海水ウランは鉱山ウランより2円/kWh程度の高さに抑えられる可能性が示唆されている。もしこれが実現されれば、可採年数6万年という、事実上「無尽蔵のエネルギー源」となり、エネルギー政策と温暖化防止対策の根本的な見直しが可能となる。

気候工学(ジオエンジニアリング)

雲を白くした太陽光の反射などにより太陽放射を管理して地球の温度を下げたり、海洋によるCO2回収したりするなどのアイデアが考えられている。

これらは温暖化のリスクを軽減する「リスク管理技術」であり、温暖化問題の本質的な領域といえよう。

 

主要討論

(注 発言者 S は講師、それ以外は出席者)

 再生可能エネルギーに関して、太陽光発電や、風力発電でどこまでが限度であるか  誰も検証していない。5300万kWをどうやって実現するのか。全ての屋根の上に太陽光発電を並べても3000万kWが限度であろう。日本で太陽光発電が本当にどれだけ可能か誰も考えていない。

S おっしゃる通り。温暖化防止のために、何をやったら良いか良く分かっていない。太陽  電池を買う以外に手が無い。原子力を支持するような行動をおこさせるような動機付け  が必要だろう。

B 単純に温暖化防止のためという人たちが多い。おかしいと思っていないのが現状。宗教に入っているようなもの。

C 欧米等諸外国は本音でどうしようと考えているのか?その戦略を参考にできないか?

D 日本はマインド・コントロールされている。原子力の推進にも再生可能エネルギーを取り込み、再生エネルギーと同時に原子力も必要という論議にしてはどうか?

S 再生エネルギーが好きな人たちは原子力がきらいだ。欧米はそれほど真剣に考えていない。温暖化防止を真剣に考えているのは日本ぐらいである。

E 頭のよい人もいるのになぜこうなったのか?

S わかっている人もいるが、情報が整理されておらず、いろいろな情報が飛び交っている。

F 民主党の25%は変わる気配がない。これからの政策は25%アリキで進む可能性が高い。どうしたらよいか?

G 「1兆、1パー、10万円」と「1兆、30パー、3千円」はゴロがよい。これはなにからきているのか?

S 李白の「三春三月憶三巴」(宣城見杜鵑花より)を参考にした。

G 「コスト条項」を入れ込むアクティビティーはどのくらい進んでいるか?

S 関係者には伝わっていると思うが、民主党には伝わっていないだろう。温暖化対策基本法はいろいろな読み方ができるようになっている。しかしながら、25%だけは入っているので、コストについてのシバリがないとそう読めない。なにかのシバリがひつようだろう。

H 堅い話を柔らかく説明する必要は重要である。女性からはどういう反応があるか?

S 温暖化対策のなかに原子力が入ると、社会の雰囲気が変わると思われる。

I コスト抑制条項や海水ウラン導入とFBRの商業化の関係はどうか?

S 影響があるかもしれないが、研究開発を進める必要はある。今どうこういう時期ではない。

J 電気料金の負担増や環境税は国民の経済にとって問題。

S 税金だと国民が公平に負担することになるので、環境税の方が排出権取引よりましであろう。

K 海水ウランの実用化のための、実証試験などを推進する研究投資が必要との声をあげる必要があるのではないか?

L 原子力が中核にならざるをえない。しかし原子力を進めようとするといろいろなしがらみがある。原子力の持っている法制面、行政面で声を上げて欲しい。

 これからやって行きたいと思う。

以上

出席者

林勉、金氏顕、松永一郎、齋藤伸三、竹内哲夫、加藤洋明、斎藤修、紺谷健一朗、橋本哲夫、辻萬亀雄、斎藤健弥、菅原剛彦、後藤廣、税所昭南、古田富彦、伊藤睦、荒井利治、小川博巳、土井彰、益田恭尚、若杉和彦、西村章、佐藤祥次、上田隆、太組健児、岩瀬敏彦、小野章昌、宅間正夫、石井正則(記)