会員座談会報告
エレクトロニクスの苦戦とスマートグリッドの可能性
日 時 2010年9月16日 15.00〜17.00
場 所 原子力技術協会 会議室
講 師 経済産業省 製造産業局戦略輸出室 伊藤慎介氏
司 会 堀 雅夫
講演概要
日本のエレクトロニクス産業の苦戦の現状とその対応を巡る問題と、スマートグリッドを巡る海外の動向や日本にとってのスマートグリッドの意味合い等について、講師のお話をお聴きしその後若干の質疑応答を行った。
T。エレクトロニクス産業の苦戦
1.わが国エレクトロニクス産業の現状
・ わが国エレクトロニクス産業の世界生産額におけるシェアはパソコン(16.5%)、携帯電話(14.5%)と小さい。強かった電子部品のシェアも半分を切っている(42%)。ソフトウェアーのシェアは3%に過ぎない。
・ 製造業の中で、エレクトロニクス産業のみ営業利益率が悪化し、競争力を失っている。その結果、エレクトロニクス産業では、研究開発費に対してのリターン(営業利益)が低下してきている。
・ 欧米の部品メーカー(インテル等)では製品の頭脳に相当するコントロールチップを商品化するとともに、他の部品との接続部分をオープンに標準化し、韓国、台湾、中国の企業等で完成品を安く大量生産している。その結果、インテル等は頭脳部分の大幅な販売増加で莫大な利益を上げている、一方日本を中心とした完成品・部品メーカーは価格下落により市場シェアを失っている。
・ DVDなどでは、知的財産を持っていた日本のメーカーがコア部品にライセンスの設定をせず、無断でコピーした中国・台湾メーカーが安い価格で市場参入し、日本企業の市場シェアが低下したケースもある。
・ 日本では技術競争で勝負できても、世界市場でのコスト競争で負け、国内市場だけでガラパコス化(ローカルプレイヤー化)するケースと、さらにより高度な製品を目指し再度技術競争の場に挑戦するケースとがあるが、いずれも研究開発費を十分に売り上げにつなげることが出来ないため、投資対効果を悪化させる結果となっている。
・ 日本の企業にとって不利な条件に法人税の問題があり、韓国・台湾に比べ次のような 差がある。(実質税負担率(%)=法人税等/税引き前純利益)
サムスン電子 実質税負担 10.5% (韓国 表面実効税率24.2%)
シャープ 実質税負担 36.4% (日本 表面実効税率40.7%)
2.デジタル化の意味を考える〜ものづくりの競争のルールを変化させたデジタル化
・ ソフトウェア技術の進歩と半導体コストの低減により、デジタル化が進展するとともにデジタル化によって、誰でも容易に機能をコピーすることが可能になった。
・ 技術競争がハードウェアーの組み合わせから、ソフトウェアの開発に移行し、世界共通の、複数製品共通の「プラットフォーム」を握る企業がデジタル化の競争力を握るようになった。(幅広いユーザーニーズを満たす機能を開発・提供できる企業が勝つ時代となった。)
3.欧米企業から学ぶデジタル時代の経営戦略
戦略1;途上国の成長力をテコにした「プラットフォーム」戦略
@ 完成品全体をコントロールすることができるコア部品に自社の知財やノウハウを詰め込む。
A コア部品と周辺部品との接続を標準化し「キット化」する。
B 技術力はないが市場への新規参入を望む新興国のセットメーカーと提携する。
戦略2;オープン/クローズを駆使した「やみつき饅頭戦略」
@ 普及のアクセルである「標準(オープン)」
A 保護のブレーキである「知財、ブラックボックス、改版権(クローズ)」
この2つを駆使して攻めと守りを行い利益をあげる。クローズ領域=収益源である。
4.ネットワーク化の意味を考える。
ネットワーク家電とは、製品同士がネットワーク経由でつながり、住宅の中で各機器が部品(又は端末)になるということ。デジタル化+ネットワーク化によって、使用時に応じた機能変更が可能になる。また、オープン化によって第三者による機能開発が可能になることや「統計化」によって、ネットワーク効果が生じる。
U。スマートグリッドを巡る問題
1.日米欧の電力事情とスマートグリッドに求める役割の違い
・ 米国の電力システムは大手と小規模の電力会社が並存(3100社程度)している上に発電、送配電、小売が分離されており、電力システムへの投資が十分に行われてこなかった背景がある。したがって米国のスマートグリッドには、信頼性が失われている電力系統に最新の情報技術を融合させることで、一気に高信頼性のシステムを実現する狙いがある。
・ 欧州では、近年デンマークやオランダなど北欧地域からの風力発電の流入が増加していることから、北方地域を中心に変動する風力発電による電力を吸収するためスマートグリッドの必要性が高まっている。
・ 日本では米国に比べて信頼性が高い上に、欧州に比べて再生可能エネルギーの導入量が少ないため、需給調整を含むスマートグリッドの必要性が低い状況にある。
2.スマートグリッドに関する海外の状況
・ 米国が狙う真のスマートグリッド=全ての機器が繋がる第二のインターネット
米国政府の狙い
石油の中東依存からの脱却、雇用確保、電力系統の信頼性向上と効率化、CO2削減等。
米国IT系企業の狙い
第二のインターネットの構築⇒エネルギー需給構造のパラダイムシフト。
スマートグリッドが完成すれば、家電や室内センサーなど住宅内の情報へのアクセスが可能となる。
電気自動車がスマートグリッドに接続されれば、車での移動中の情報へのアクセスも可能となる。
・ 欧州が狙う真のスマートグリッド=再生可能エネルギーと電気自動車の大量導入を支えるインフラ
風力発電、太陽光発電の大量導入。
電気自動車を電力変動吸収装置として活用。
Super GridやMega Gridなど巨大プロジェクト構想を計画。
3.日本にとってのスマートグリッドの意味。
・ エネルギーの観点から見ると太陽光発電、風力発電等の自然エネルギーを最適に利用するための新しいエネルギーシステムの構築。供給側で制御することが困難なこれらの電源を蓄電池やデマンドレスポンスの活用によって需要側と供給側の連携プレーで最適制御するシステムの出現。
また、家電、家庭用蓄電池、電気自動車等が「つながる家電」化する。
・ 自動車の観点からすると、電気自動車やプラグインハイブリッドカーが「動く蓄電池」としてエネルギーシステムと融合する。
・ 情報の観点からみると、情報ネットワークの世界が、家電、エネルギー機器、自動車等がつながるホームネットワークにまで広がり、「物のインターネット」の世界が誕生する。
4.その先の狙いは「新しい街づくり」の提案
スマートコミュニティとして日本が世界に提案すべきこと。
・ 価値体系の変革(「自然制約の克服」から「自然との共生」を前提とした価値体系への意識変革)、生活スタイルの変革(自然のサイクルを無視した生活から、自然のサイクルを重視した生活へ)、ならびにそれを前提とした新しい街づくりの提案を。
5.スマートコミュニティアライアンスの設立(2010年4月6日設立)
目的 スマートコミュニティの実現のための官民一体となった活動を推進。
事務局 NEDO 会員企業数 453社
6.スマートコミュニティ国内実証地域の選定(4地点)
神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、福岡県北九州市
7.最後に
・ グリーンニューディールをきっかけに世界ではグリーン革命が進行中。
・ 日本にはポテンシャルがある。
・ 新しい街づくり、新しいインフラを提案したい。
・ 国際協調とスピード感が重要。
主な質疑応答
Q 太陽光発電の単価が高いが、エネルギーのコストについてどう考えるか。日本で太陽光発電を2800万kWにするというのは目標が大きすぎるのではないか。
A スマートグリッドのビジネスモデルに関して、まだコストの問題について解を見つけていない。太陽光発電を2800万kWという目標の実現性は厳しいと思う。いろんな工夫が必要だと思う。
Q 発展途上国でも中国などは原子力の輸出まで考えている。日本も原子力建設のノーハウを積極的に海外に出して、何か問題が起きればその情報を得て改善するようにすべきと考える。
A 大事なレシピだけ隠して、後はオープンにすることは必要だろう。
Q スマートグリッドのポイントは蓄電技術がポイントではないか。不安定な自然エネルギーより、原子力発電の余剰分を蓄電する方が先ではないか。
またスマートグリッドの弱点としてサイバーテロの問題があるのではないか。
A 原子力発電の稼働率を上げると、夜間乗用車やバスに充電し、負荷の平準化を図ることが出てくるかもしれない。海外で考えると、電力輸出を行う時、スマートグリッドを考えた対応を行うことが考えられる。
サイバーテロの問題は電力会社のセキュリティ対策を考えれば安全であろうと考える。IT化が進むと言うことは世の中の大きな流れである。
Q エコシステムの技術は日本がリードしているが、環境に良くても自分にプラスにならないとなかなか広がらない。
A 環境悪化に対しては、途上国でも強い関心があり、それなりに努力している。
Q スマートグリッドについて、電力会社はどれだけ本気で取り組もうとしているか。
A 電力会社の間でも取り組みに差がある。スマートコミュニティの検討では腰が重い。
Q スマートコミュニティについて、米国では大規模な取り組みのようだが、日本では経済特区のような取り組みは考えていないのか。
A 4つの実証地域では経済特区的にしたいと考えている。政治のサポートも必要と考えている。
Q 情報とエネルギーは同じような側面を持っている。都市に人口が集中するので都市の中でこそスマートグリッドを考慮した取り組みが重要である。それを邪魔しているのが組織の縦割りの問題である。一つの概念の中で共通に取り組む方策を取れるように出来ないか。
A 都市を中心としてスマートコミュニティを築いていきたい。組織の縦割りの問題もエネルギー、情報、自動車等を連携させて取り組んでいきたい。
Q 原子力は怖いものだと言う考え方を払拭するような方策を望む。
A 制御された環境と、制御されていない環境とは全く違うと言うことが良く理解されていないことがある。技術とサイエンスに携わる人にとっての一つの課題である。
原子力教育の必要やメディアに対する働きかけの必要を感ずる。
以上(佐藤祥次記)
(出席者)
荒井利治、石井陽一郎、伊藤睦、岩瀬敏彦、上田隆、小川博巳、加藤洋明、金氏顕、後藤廣、紺谷健一朗、税所昭南、齋藤修、齋藤伸三、佐藤祥次、清野浩、宅間正夫、辻萬亀雄、土井彰、中神靖雄、橋本哲夫、林 勉、古田富彦、堀雅夫、益田恭尚、松永一郎