第170回 エネルギー問題に発言する会 座談会議事録
議事録作成 松永一郎
日時 場所:平成28年10月20日(木)16:00〜17:45 JANSI会議室
演題:我が国の核燃料サイクルについて
講師:池田信夫氏(アゴラ研究所所長)
コメンテータ:小野章昌氏、河田東海夫氏
座長:早野睦彦氏
参加者:会員約40名
(座談会主旨)
日本における原子力開発は商用炉としての軽水炉による発電と、その使用済み燃料の再処理から得られるPu利用、すなわち核燃料サイクルを両輪として、紆余曲折はあったものの、当初より国策民営の旗の下で一貫して進められてきた。核燃料サイクルの最終目標は高速増殖炉の商用化であり、無資源国日本が技術によって有資源国と成りえる最良の道であると考えられてきた。しかしながら、3.11東電福島第一原子力発電所事故により、国民の間に原子力発電に対する忌避感情が増大し、また核燃料サイクルの要である高速増殖原型炉のもんじゅは廃炉の瀬戸際にある。
講師の池田氏は原子力利用については前向きに取り組むことに異論はないものの、核燃料サイクルについては経済学的視点から疑問を呈しており、各方面で持論を展開している。
今回、座談会でそのご意見を伺うことにした。なお、「ウラン資源問題」で小野章昌氏、「核燃料サイクル」で河田東海夫氏がそれぞれコメントした。
(講演概要)池田信夫氏
「我が国の核燃料サイクルについて」
資料1 「核燃料サイクルに未来はあるか」GEPRホームページ 2016.9.30
資料2 「非在来型ウランと核燃料サイクル」GEPRホームページ 2016.10.14
資料3 ウランは十分あるか (小野章昌)
資料4 我が国の核燃料サイクルについて(河田東海夫)
1.原子力エネルギーの利用について
原子力エネルギーはエネルギー密度が石炭の300万倍であり、今後の最も有望なエネルギー源であることに間違いない。軽水炉以外では受動安全性があるPu使用の小型モジュール型高速炉(一体型高速炉IFR)が開発されており、経済性も高いことからビル・ゲイツも関心を持っている。
原子力は原理的には問題はないが、一般の理解が大切であり、コストについての考えがなければだめである。
2.日本の原子力開発の歴史−核燃料サイクルの観点から
・日本の原子力開発は正力松太郎や中曽根康弘らの政治主導で開始された。
・その目的として「平和利用」が掲げられたが、その陰では「将来の核武装」が隠されていた。
・平和利用の旗印の下に電力会社のコスト負担で国策民営路線が出来上がった。
・当時の米国の考えは日本をアジアにおける反共の砦とすることにあり、1965年までの日米安保条約の改正とともに、日本の将来の核武装は米国の暗黙の了解であった。
・しかしながら、その後の日本の急激な経済成長に伴い、日本は米国のライバルという敵視政策に変わっていった。
・核燃料サイクルに関してはカーター政権で米国は商用の再処理を中止し、日本にも中止を迫ったが、外交努力により継続することが容認されて現在まで続いている。
3.核燃料サイクル路線の変更について−もんじゅ廃炉決定を受けて−
・もんじゅ廃炉を受けて「高速炉開発会議」が経産省主導で発足した。
・わが国独自の高速増殖炉開発はやめて、フランスと共同開発するASTRIDの高速炉(FR)開発に方針転換するが、全量再処理路線は継続する方針だ。
・まずASTRID計画だが、まだ何も決まっておらず、フランスでは2019年にやるかどうか決めるといっており、なおかつ費用は日本と折半してほしいという極めてあいまいな状況である。
・一方、全量再処理であるが、FBRをやめたらプルトニウムの利用はプルサーマルに絞られ、現在ただでさえ多量のプルトニウムを抱えて、核不拡散上国際的に問題視されている上に、わざわざウラン燃料よりも格段にコストの高いMOX燃料を作るために、どんどん再処理してさらにプルトニウムを作る意味はない。
・ウラン資源には限りがあり、そのためにも再処理してプルトニウムを分離することが必要だとの話があるが、OECDの推定では在来型ウランのほかにリン鉱石に含まれる非在来型ウランを加えると、230年分以上もある。また海水ウランからの回収まで考えたらほぼ無尽蔵といえる。
・使用済み燃料の最終処分についても、再処理し高レベル廃棄物で埋設するよりも、直接処分したほうが安上がりとのコスト試算もでている。また、埋設しないでそのまま管理して置いておくということであれば、六ケ所地区だけでも300年分の保管が可能とも聞いている。
・核燃料サイクル問題は気候変動問題と同じく、未知のリスクが大きすぎて基本的に「テールリスク管理」ができない。経済学ではサンクコスト(今までに投入した費用)は無視して、今後に掛かる費用を計算して将来の方針付けをすることが必要とされているが、テールリスク管理ができない場合にはオプションをできるだけ広くとるのが鉄則である。最初の固定方針でどんどん進めてしまった場合、将来時点で取り返しがつかないことがあり得る。
・今回の路線の変更では、全量再処理を見直す良い機会と考える。
(コメント概要1)小野章昌氏
「世界のウラン資源について その特徴と需給」
資料:ウランは十分あるか?
・無資源国日本ではエネルギー安全保障上、原子力しかない。莫大な金をかけて石油備蓄しているが、これは1回使ったら終わり。
・MOX燃料をプルサーマルで軽水炉で使うと、使用済みMOX燃料にまたプルトニウムがたまる。ただウランの使用済み燃料に比べて体積が1/7くらいなので、効率よくプルトニウムを貯められる。
貯まったプルトニウムは日本にとって貴重な資源であり、MOX使用済燃料は優れたエネルギー備蓄となる。したがって再処理は維持すべきである。
・ウラン資源は確認埋蔵量が重要である。IAEAのレッドブックの最新のものによれば、その量は460万トンであり、地球温暖化対策としての原子力利用の伸びを考えたら、20年〜30年で枯渇する計算となる。
・リン鉱石のウランの利用は濃度が一般的ウラン鉱床の1/10であり、ウランだけ取るのは割高である。海水中のウランはリン鉱石のさらに10万分の一であり、膨大な海水を処理することを考えても、あてにするわけにはいかない。
・日本にはウラン鉱山の開発利権はほとんどなく、技術もない。将来的に中国などとの購入競争に勝てる見通しはない。
・核燃料サイクルは多様性が必要なことはわかるが、その中で絞っていくことが必要である。フランス、ロシア、中国、インドは再処理、高速炉路線で進んでいる。アメリカは参考にならない。
(コメント概要2)河田東海夫氏
1.核燃料サイクルについて
資料:我が国の核燃料サイクルについて
・再処理をやめると使用済み燃料の最終処分は「直接処分」しかない。
・直接処分の問題点はガラス固化体に比べて発熱量が大きいこと。その結果廃棄体の埋設間隔を大きくとらねばならず、単位発電量あたりの処分場の面積がガラス固化体にくらべて3倍ほどになる。これは30Gweの発電規模で羽田飛行場埋立地規模の処分場を30年に1つずつ建設することに相当する。再処理をすれば、同じ広さで80年もつし、高速炉時代には100年以上もつ。kWh当たり1円のペナルティで済むのだから、国土の狭い日本では再処理路線は死守すべし。
・また、直接処分では長半減期のプルトニウムを一緒に埋設するので、放射性毒性がウラン鉱石並みになるのに10万年かかるが、ガラス固化体は1万年程度で済み、さらに高速炉時代には1000年にできる。
・ガラス固化体の最終処分地の選定だけでも日本では難儀しているのに、プルトニウムを埋める直接処分では場所が見つからないであろう。処分の見通しがたたなければ、中間貯蔵を受け入れる地元もない。
・核燃料サイクルの再処理を止めれば、結局軽水炉は、直ちに「糞詰まり死」するだろう。
2.軽水炉使用済み燃料のプルトニウムの核兵器への利用について
原子力利用の当初の隠された目的は「日本の核武装に有った」との池田氏の話に関連して
・軽水炉の使用済燃料から得られる原子炉級プルトニウムは兵器級のプルトニウムにくらべて、発熱量が何倍も大きいため、ミサイルに搭載可能な本格的な核兵器は作れない。作れるのは、パーツで持ち込んで現場で組み立てて爆発させるような核爆発装置。
・本格的な核武装をするなら、専用のプルトニウム生産炉が必要。
・米国は1962年に原子炉級プルトニウムの核実験に成功したとの情報があるが、偽情報で、実際には英国のコールダーホール型黒鉛炉(発電と軍用Pu生産の二重目的炉)で生産されたかなり兵器級に近いプルトニウムを使った核実験で、爆発威力も大量の火薬爆発程度。ただし、詳細は機密情報として公表されていない。
・IAEAで保障措置担当事務局次長を長年務めたブルーの・ペロー氏は、引退後、すべての品質のプルトニウムを同じ厳しさで管理するのは保障措置上バランスを欠いており、グレード別管理を導入すべきであるという論文を発表している。原子炉級プルトニウムの管理はもう少し緩めてよいとの趣旨だが、現役時代にそれをほのめかしたら、米国から強烈な圧力がかかったという。
(質疑応答)Q:質問 A:回答 C:コメント
Q1.エネルギーセキュリティーの話が出なかったが、どのように考えておられるのか。インドでは高速増殖炉の開発を指向しているが、プルトニウムがないのでまずは重水炉を作り、それからPuを生産して核燃料サイクルを廻すつもり
A1.気候変動問題を考えたら、向こう100年は原子力しかないことは事実である。しかしながら、
気候変動問題、原子力の核燃料サイクルはUNKNOWNファクターが多すぎる。そんな場合にはオプショを広くとることがセキュリティーにつながる。核燃料サイクルでは、うまくいった場合と、行かなかった場合の両方を考えておく必要がある。
Q2.使用済み燃料の直接処分といっても、プルトニウム資源として残しておくという考えもあるのではないか。
A2.学術会議でも再処理しないで暫定保管と言っている。これは乾式のキャスクによる中間貯蔵と同じことで、オプションとして考えればよい。反対派も納得するのではないか。
Q3.原子力のリスクをオプションの中でどう考えればよいのか。
A3.原子力のリスクは一般に言われるほど大きなものではない。チェルノブイリの事故で、大きく見積もって50年間で4000人死者が出るといわれている。一方石炭では年間30万人の死者が出ているといわれている。PM2.5だけで36万人/年、火力発電の寄与が半分として20万人/年である。このようなことは100年スパンで見たらだれでも知っていることになる。
以上