(政策決定者の皆様へ)  

 

我が国のエネルギー政策に関わる提言

 

                 平成298月1日   

エネルギー問題に発言する会

                チームE 代表 富樫 利男

   

私たち「エネルギー問題に発言する会」は、原子力の様々な分野に従事してきたOBを主体とする組織で、15年前に発足し約300人のメンバーを擁しています。資源小国の我が国のエネルギー政策にとって原子力の活用は必要欠くべからざるものであることを確信し、社会的理解向上のために努力しているボランティア団体です。

 

福島原発事故以来既に6年を経過し、未だに原子力に対する社会的批判も根強い中で、国の原子力政策は重要な岐路にさし掛かっていると見られます。ご承知の通り、エネルギー問題は地球環境問題や途上国の経済力向上によるエネルギー需要の急上昇により国際的な大きな懸念事項となっており、資源小国の我が国にとっては国の死活に関わる国家の最重要課題の一つであると考えられます。

我が国の原子力発電の現況は、ごく一部の発電所のみが再稼働という厳しい状況下にあり、喫緊の課題として関係機関各位の一層のご尽力により再稼働が加速されることが強く期待されるところであります。

 

私たちは現役時代の経験も活かし、かつ最新のエネルギーの様々な課題を把握した上で科学的・合理的な思考に基づき、我が国のエネルギー政策に関わる提言を取り纏めました。

この提言では国のエネルギー基本計画の中の、特に電源ミックス論について様々な観点より提言致します。また世界では原子力推進に大きく舵を切っている国も多くあるのに、我が国では原子力技術・産業が今や存亡の危機に直面していることについても触れ、抜本的対策が必要なことを提言しています。

現在国ではエネルギー基本計画の見直し作業が行われようとしていますが、この議論の中で是非私たちの提言も反映させて頂きたくお願い申し上げる次第です。
            連絡先; 代表幹事 林 勉 

 

 

 提言

 

1.2030年、2050年の電源ミックスについて

2030年時点での電源ミックスとしての再生可能エネルギーや原子力発電の目標は現状のままでは実現困難とみられ、(1)再稼働の促進、(2)丸々20年の運転延長、(3)新増設・リプレースについては、次のエネルギー基本計画への盛り込みをぜひ実現して頂きたい。

また今世紀後半には化石燃料の生産減退が顕著になり、太陽光・風力の開発は限度を迎えていることが予想される。なぜなら

1)太陽光・風力は需要に応じた発電ができないため、既存の安定電源(火力、原子力)の代役を務めることができず、しかもそれらによるバックアップ・補完を必要とし、増えれば増えるほど過剰発電設備を生み、国民の負担を増やすこと、

2)同じ時間帯に同じような発電を行うため、増えすぎるとお互いの足を引っ張り合う「共食い効果」が生じるからである。先行国の例から見ると太陽光・風力の発電量が全体の20%近くになると限度を迎えていることが分かる。

2050年の電源ミックスでは、再生可能エネルギーは水力・地熱・バイオマスの安定電源を合わせても35%程度が限度と考えられ、原子力は最低でも45%は必要と考えられる(残りはCCS付き火力)。

化石・ウラン燃料の獲得競争激化と再生可能エネルギーの限度が顕著になる世紀後半においては国産のプルトニウム燃料の重要性が増すであろう。

将来世代のために、今からエネルギー備蓄を進めることが肝要と言える。そのためには使用済燃料の再処理とMOX利用を促進し、MOX使用済燃料(7倍のプルトニウムを含有)の形による「エネルギー備蓄」を目標に掲げ、高速炉の商業化と次世代小型炉の研究開発を長期計画の目標とするよう提言したい。

 

2.原子力発電の実現性について

2.1 2030年で原子力比率20%~22%を実現するには

20-22%の実現可能性は既存発電所42基と建造中発電所3基の稼働状況次第である。現在停止中の発電所には再稼働が懸念される発電所もあり不透明性が高い。実現のためには停止中発電所の着実な再稼働と運転期間延長、および建設中発電所の建設促進を進め、懸念される不確実性を克服することが必須である。そのためには早急に具体的な対応策をたてて進めることを提言したい。 

2.2 21世紀中葉以降も原子力依存を可能とするには

21世紀中葉を見据えた電源ミックスでは原子力発電の重要性はますます高まると想定されるが、運転期間を60年としても、2070年には既存発電所42基はすべて退役する。既存発電所が退役する一方、原子力の役割の維持、向上に対処するため、原子力比率を30%、45%、60%とした場合のリプレース・代替と新増設の規模を検討したが、いずれも大規模な新規建設が必要になる。一方、立地地点の問題、事業主体の問題、社会的受容性の問題など課題も多い。また建設期間を考えると、段階的に新規発電所に更新して行く必要があり、実現は容易なことではない。どの程度の原子力発電比率にするか、およびそのために必要な課題解決策を定め、早急に実現をはかることを提言したい。

 

3.太陽光発電、風力発電等変動電源の限界について

3.1 変動電源の導入には適切な火力発電規模との共存が不可欠電力の需給は「需要と供給の同時同量」原則を保つことで周波数・電圧を規定値以内に維持しなければならない。そのために家庭用・産業用などの時々刻々変動する電力需要に応じて供給力を調整する必要がある。

しかし太陽まかせ・風まかせで出力が変動する変動電源の「固定価格買取制度」による電力系統への過大な導入は、上記の原則を危うくさせ、電力の品質の低下をもたらす。これを防ぐのが火力発電であり、変動電源の出力欠損を火力発電が埋めざるを得ない。

しかし一方で、電力の自由市場を歪め、変動電源を低コストで優先販売するこの制度は、火力発電を経済的に電力市場から排除し、すなわち電力系統から駆逐しかねない。これは電力系統全体の高品質安定な運用に致命的にかかわってくる。

現にドイツでは「固定価格買取制度」による電気料金の上昇に加えて、変動電源によって低利用率を強いられる火力発電の高コスト化などが消費者にのしかかっており、火力発電運営が経済的に立ち行かず、運転停止さらには火力発電事業者の撤退も始まっているという。さらに、余剰な変動電源の電気が近隣諸国に流入して電力系統に影響しているともいわれる。

我が国は、ドイツを教訓に、先を見通した適切な電力政策、およびバランスの取れた政策設計・制度設計・技術設計に国を挙げて取り組むべき時である。

 また、欧州と異なり、系統規模が小さく電力利用の密度が高く、海外との連系線が困難な我が国の電力系統では、その高品質な安定運用を支える高効率火力発電の適切な規模の存続は、我が国の産業基盤を支え、国民の生活基盤を豊かにするために不可欠なものであることを、改めて深く認識すべきであることを強調したい。

 

3.2 再生可能エネルギーの導入には自ずと限界がある

原子力発電に代替する太陽光、風力等の変動電源の導入は、基本的には二酸化炭素排出量の増大を引き起こす。

2050年時点で原子力発電ゼロとし再生可能エネルギーを最大限度まで拡大して残りを火力発電とする案を先ず検証する。発電設備量(kW)は太陽光・風力80%、水力・バイオ等20%、火力80%となる。これだけの設備を設けても発電電力量(kWh)では太陽光・風力20%、水力・バイオ20%、火力60%であり、火力への依存度は高くパリ協定目標達成もおぼつかない。

次に再生可能エネルギー100%にすることを検討する。この場合発電設備量(kW)が膨大になるとともに変動電源のバックアップのために大量の蓄電池が必要になり設備投資額が膨大になる。現在価格で評価すると年間投資額が40兆円を超え、全く現実的ではない。変動電源への過大な期待は現実性がないことを強調したい。

 

 4.世界の原子力発電の潮流と日本の窮状

  原子力発電は先進国では足踏みの中、途上国での伸長が著しく、特に中国、インド、中近東諸国などでは計画的な明確な方針で原子力推進に注力している。

このまま推移すると我が国は電力コスト高で国民生活は圧迫され、かつ産業の国際的競争力が失われる懸念があり、原子力推進の明確な政策を必要としていることを提言したい。

 

 5.我が国の原子力技術・産業の維持

  我が国の原子力発電技術は米国原子力メーカーからの技術導入から始まり、設備機器の国産化、軽水炉改良・標準化・高度化の経緯をたどりながら世界一流の実績を上げるまでになった。

これを可能にしたのは国策として位置付け、官庁、電力、原子力メーカー、関連業界等が一丸となって推進してきたことによる。

いま原子力産業界は新規建設が途絶え、人材・設備・技術の維持が困難になり存亡の危機に直面している。抜本的な対策が必要であることを提言したい。
                               以上