原子力OB中心に「発言する会」
―各々の経験活かした意見や提言は貴重―
エネルギー問題に発言する会 幹事 林 勉
元日立製作所理事、原子力事業部長
憂国の士の思い
わが国にとってエネルギー問題はきわめて重要であることは、国民共通の認識であるが、実際のエネルギー政策は、様々な観点よりの意見、議論があり、なかなか正しい方向へむくことができていない。多くの識者がこのような事態を憂慮している。私たち「エネルギー問題に発言する会」のメンバーもこのような憂国の士の集まりである。
数人のリタイアした原子力のOBたちが、飲み会の席で、現在の原子力業界の状況や原子力政策、エネルギー政策、メデイア報道のあり方などについて議論しあったが、どうしても現状に対する憂いや批判になってしまう。しかしいくらそういうことを言い合っても所詮は犬の遠吠えであり、何の役にもたたない。それならいっそうのこと、きちんというべきことを、できるだけ公正な立場で当該者に聞こえるように発言していこうということになり、「エネルギー問題に発言する会」を結成することになった。メンバーは主として原子力OBであるが、原子力はエネルギー、環境問題とも深い関連があるので、広い意味でのエネルギー全般に発言するということで、会の名称を定めた。
会の趣旨は、日本のエネルギー政策のうえで、原子力は必要欠くべからざるものであるとの共通認識のもと、会員各自の正しい意見と正しい情報を世の中に提供していこうというものである。
当会の活動は全てボランテイア活動であり、どの組織からも経済的支援を受けていないことが大きな特徴である。このことにより独自性を保ち、客観的立場からの発言ができるようにしている。一方このために大きな活動はできないが、徐々に関係各方面からその存在が認められるようになってきており、それなりの発言力を持ってきている。本稿では当会の活動内容を紹介し、この種の活動の必要性を広く認識していただき、少しでも「エネルギーの実態を正しく理解する」輪をひろげることに役立つことができればと思っている。本特集ではさらに4人の会員がエネルギー、原子力の主要問題についての見解を紹介している。合わせてご参照いただければ幸いである。
正しい意見とは
日本のエネルギー政策のうえで、原子力発電は必要欠くべからざる物であるという共通認識が原点になっているが、エネルギー問題に関連する論点は実に幅広く、その一つ一つが深い内容を持っているうえに、常に新しい問題が起こってくるので、これ等も考慮した意見でなければならない。組織をリタイアするといままでの業務上入手できた情報は皆無になり、そのままでは陳腐な意見しか出せなくなってしまう。そこで会員には、毎日のトピックスとして、エネルギー政策全般、外交、教育、原子力情報等をメールで常に発信し、最新の情報に触れることが出来るようにしている。しかしこれだけでは問題点を深く検討することはできない。そこで毎月一回行われる運営委員会の席で、現時点での最重要問題についての座談会を開催している。座談会では毎回そのテーマに造詣の深い講師から話を聞き、質疑応答をする中で出席者それぞれが自ら正しいと考える意見を構築していくこととしている。出席者は毎回30名前後で、出身母体や業務経歴も多様な方が多く、ほぼ原子力全域をカバーしているので、幅広い観点からの議論ができる。現役時代には多様な問題について議論するにしても、そのような場が持てなかったし、よしんば委員会等での場があったにしても各委員の発言は派遣組織の枠内という制約があり、自由な討論は困難であった。
その点では当会の座談会ではそれぞれが組織の壁を越えた自由な発言ができることが大きな特徴といえる。組織の枠がないので、国家天下という観点から考えることができる。結果として、メデイア、反原発派等に対する批判のみならず、規制当局、関係組織、電力業界、メーカ、等に対する批判、意見提示等もでてくる。この座談会の結果は会員全員にも配信し、共通の問題として考えることができるようにしている。このようにして新鮮でかつ広い観点から検討した正しい意見をだせるように努力している。正しい意見というのはその人の立場によって大きく変わってくるので、当会では「発言する会」としての共通意見というのは特別な場合を除いて作らないことにしている。あくまでも正しい意見を考える場を会員に提供し、会員各自が自身の経験、信念から正しいと考える意見を「正しい意見」としている。
正しい意見をどこに向けて発信するか
正しい意見を積極的に発言するといっても、これをどのような形で誰にむけて発信していくのか大変に難しい問題である。
種々検討した結果、対象は第一にメデイアの記者とすることとした。原子力の問題が発生すると、メデイアの方たちは即刻記事にしなければならないが、当事者である電力会社やメーカの担当者は調査中とかの理由でノーコメントとなってしまうケースが多い。メデイアの方たちはやむなく反対派等の方たちに取材せざるをえず、記事はどうしても偏ったものになりがちである。これが原子力の正しい理解を妨げる大きな要因の一つになっているとの認識で、これを是正するための活動をするということとした。当会のリタイアした会員は組織の枠を離れており、自由に発言できる点を活用して、当会会員が問題発生時にメデイアの取材に積極的に応じていくこととし、発足時に新聞記者会見を行い、その旨宣言した。その後東電問題等が発生し、実際に朝日、読売、毎日、NHK等から数名の会員が取材を受けており、それぞれの実務経験をふまえた対応をし、正しく理解してもらう活動をしている。
対象の第二は原子力、エネルギー政策に関与する関係組織、関係者である。関係官庁や原子力立地県などが種々の政策案についてパブリックコメントを求めることが多くなってきている。通常はこのような時に積極的に意見を提出する方は反対派の方が多く、推進派の方たちはサイレントになりがちである。そこで当会の会員が正しいエネルギー政策の観点から積極的にパブリックコメントに応募していくこととしている。また必要により、特定の組織、個人にたいしても会員の意見を提出していくこととしている。
対象の第三は原子力の実務担当者である。現役の実務担当者はかなり狭い限定された業務に携わっていることが多く、広い観点からの問題点や対応策についての知識が少ないことが懸念されている。当会の会員は幅広い分野で指導的役割を果たした経験の持ち主が多く、この方たちの意見は若手現役の人達にも大いに役立つものと思われる。
対象の第四として、一般公衆の方たちも視野にいれるべきとの意見もあったが、そうなると提出する意見の内容を判りやすく書くのが難しいことや、正確度が失われるとかの問題の他に、どのようにして一般公衆の方に伝達するかの問題があり、現時点ではその手段がないことから、当面これは対象外としている。
どのような手段で何を発信するか
ボランテイア活動であり、資金面でのサポートがなく、その手段は自ずと限定される。第一の手段は金のかからないホームページ(http://www.engy-sqr.com)からの発信である。
ここには「私の意見」、「会の討論(座談会)」、「技術・用語解説」、「トピックス」、「公開意見」、「会員名簿」の欄を設けている。「私の意見」欄では、エネルギー全般・環境問題、エネルギー・環境政策、メデイアの誤報道を正す、重要な原子力問題等についての会員各自の多様な意見を掲載している。「会の討論(座談会)」欄では、現在の最重要問題についての検討結果を掲載している。テーマの例としては、東電問題、原子力の発電原価と他電源との比較、核燃料サイクルについて、設備利用率の阻害要因は何か、高経年化とは、等がある。「技術・用語解説」欄では、トピックス技術解説、エネルギー用語関連、原子力略語検索、技術の理解を深めよう等の内容となっている。「トピックス」欄では、原子力・エネルギー・環境に関する情報の提供を行っている。内容は、技術問題、トラブル、地方自治体の動き、国の政策、外交・国際問題、教育等の多岐にわたっている。「公開意見」欄では会員がメデイアに発表したものを紹介している。「会員名簿」にはメデイア取材に応じることに同意いただいた会員の名前、専門領域、連絡先等を公開し、メデイアからの取材を可能にしている。いままでこのホームページへのアクセスは約30,000件に達しており、メデイア、会員、業界(電力、メーカ等)関係者、からのアクセスが多いが反対派のかたもアクセスしているようである。
第二の手段は意見公募に対する応募である。最近、エネルギー政策、原子力問題についての意見公募がかなり行われている。しかしこのような意見公募に対して、反対派の方たちは組織的に意見を積極的に提出しているが、推進派のかたはいままでサイレントであることが多く、公募意見が偏ったものになりがちであったので、当会では各自が正しいと思う意見を積極的に提出していくこととしている。これまで、福島県の「エネルギー政策中間報告」に対する意見、経済産業省の「エネルギー基本政策」「新しい検査制度のあり方」に対する意見、原子力安全委員会の「安全目標」に対する意見、文部科学省の「原子力二法人統合について」に対する意見、原子力委員会の「原子力長期計画」に対する意見等を提示してきた。
第三の手段は原子力政策の当事者に対する直接の意見具申であり、これまで、原子力安全委員長、福島県知事、自民党の河野太郎氏等に行っている。
第四の手段はメデイアへの投稿である。電気新聞には一部の会員が定期的に投稿している。原子力産業新聞では、当会の発足を大々的に報じてくれた。月刊誌では「月刊エネルギー」に、多くの記事や座談会記事等を掲載し、また本年4月号から「発言する会」の「発言コーナー」を設けようとの提案をうけ、毎月会員の意見を掲載することにしている。月刊「エネルギーレビュー」では今回当会の特集記事をとりあげていただくことになった。その他各種の小冊子等に機会あるごとに投稿している。
第五の手段はメデイアの誤報道に対する直接的反論である。これまでも「朝日新聞」、「毎日新聞」「西日本新聞」「週刊金曜日」「共同通信」等の問題記事に対して、その非をホームページで指摘するとともに、直接当該者に送付している。
学会・各種原子力推進団体との連携
日本原子力学会とは強い連携を取っており、春、秋の大会での招待発表や討論会への参加等を行う一方、昨年9月の「アトムズ、フォー、ピース日本会議」では協賛団体として参加している。金子熊雄氏が主宰するEEE会議には多くの会員が参加しており、講演会に参加し、意見の提示および提言のまとめに大きな貢献をしている。宮健三氏の主宰するIOJ(Innovation of Japan)の企画運営委員会に参画し、意見情報の交換等を行っている。また本年3月にハワイで開催されたPBNC(環太平洋原子力会議)にパネリストとして参加を要請され、当会の活動を広く海外の関係者にも報告し、意見交換した。
当会の会員はどんな人
当会は平成13年8月に、5人の有志が飲み会で論じ合った会話からスタートしたが、現在は会員数約160名に達している。メンバー構成は原子力各界で活躍したOBが主体(約60%)であり、現役の会員も多くが60歳以上であり、実務経験の多いメンバー構成となっている。出身母体はメーカー、原子力サービス分野の日立、東芝、三菱等(約60%)、電力会社の東電、関電、中部電、原電等(約20%)、原研等研究機関(約10%)その他出版、建設、金属、電気、商社、大学、役所等(約10%)となっている。それぞれの会員が出身母体では、指導的役割を果たした方が多く、日本の原子力の今日までを実質的にリードしてきた方たちの集団であるとも言える。
会員になるためには
出来るかぎり多くの方に会員になってもらい、エネルギー正論の輪を広げてもらうために、会費は原則無料として、活動は全て各個人のボランテイアとしている。ただし当会の活動を紹介するなどのために、海外や遠方に出かけるための費用は特別会費を募集し、会員有志から拠出していただいている。会員になるための資格は、当会の趣意書に同意すること、会員の推薦と運営委員会での承認が必要であること、Eメールアドレスをもっていることの三条件だけである。会員になるためには、ホームページ(http://www.engy-sqr.com)の「会の紹介」欄の「趣意書」に同意できたら、「入会」の欄を開き、必要事項を記入し、送信していただければよい。会員の推薦が特にない場合は、推薦欄に記入しないで送信していただければ、幹事が推薦人になり、承認手続きを進めることができる。
会員の特典と責務は
会員の特典としては、原子力を含むエネルギー環境問題の最新の情報が入手できること、関連する各種会議、講演会等の情報が入手できること、国・地方自治体・関係団体等が求めるパブリックコメント募集の情報入手および意見提示に参加できること、ホームページ・各種メデイアへの投稿に参加できること等がある。責務としては、特に拘束していることはないが、積極的に会員各自が正しいと考える意見を発言していくことだけである。
最後に
2年半前に模索しながら始めた当会の活動も少しづつ、関係各方面からも認められてきている。今後はさらにこの活動の内容を充実したものにし、健全な意見がきちんと世の中に浸透していくようにしたいものと思っている。
この会を通じて様々な情報や意見に触れることにより、いままで以上に幅広い見識を深めることができるというのが、多くの会員の感想であり、世のためにする活動だけではなく、自分自身の人生をより充実したものにすることに役立っているということはうれしいことである。より多くの方に会員になっていただき、努力と喜びを共有していただきたいと思っている。