わが国の「2030年エネルギー政策」―資源エネルギー庁への提言
エネルギー問題に発言する会、幹事 林 勉
まえがき
資源エネルギー庁では、わが国の「2030年エネルギー政策」のあり方について、広く国民からの提言を求めている(https://wwws.meti.go.jp/enecho/info/teigenbosyuu3.htm参照)。われわれ「エネルギー問題に発言する会」(http://www.engy-sqr.com参照)でもエネルギー政策のありかたについては、これまでも広い観点から検討を重ねてきており、その結果は上記ホームページに掲載している。また必要と判断した時には、関係機関に対して、意見具申、提言等を行ってきた。今回の2030年という長期展望をふまえた提言募集は時宜にかなったものであり、当会としても積極的にこれに応募することを決定した。
提言は個人としての意見を求めているので、会員個々人が提出したものから代表的な意見をここにまとめ、皆様の参考に供したい。提言は6つの設問全部に答える形式になっているので、ここでもその設問毎に提言提出者の意見要旨を掲載することとした。提言締め切りは4月5日であり、本原稿執筆時の3月始めの時点では会員からの提言が出揃ってはいないが、当会会員の意見をほぼ代表していると考えてよい。ここで取り上げた代表的意見提出者は次の5氏である。天野牧男、伊藤睦、小笠原英雄、益田恭尚、松岡強。
末尾に「最後にひとこと」の項を設けて、その他の会員の意見をまとめて記載した。
設問―1.2030年頃における国際エネルギー情勢についてどう考えるか
・21世紀全般の国際経済、国際エネルギーの動向を左右するものには、世界人口の増加、
中国を中心とするアジア各国の経済発展、中近東の政治情勢がある。
世界の人口の増加。これは避けられない事実で、特別に貧困社会が今以上に拡大すればともかく、これは間違いなくエネルギーの需要の増大をもたらす。中国を中心とする東南アジアの経済の伸びもかなり力強いものがあり、その動き当分続く。2030年までの間、わが国を含む先進国の経済の伸びはそれほど高いものではないであろうから、2030年のエネルギーの需要量は、現在の30から50%増しぐらいと考えるのが妥当であろう。中近東の政治情勢がそう簡単に落ち着くと思えないので、エネルギー源の中心になっている原油の供給の安定性に関しては、現在と同様な不安定性は続くと考えられる。(天野)
・2030年頃を地球規模で見た場合、現在の発展途上国の人口の増大と文明の進展(拡大)によりエネルギーの消費は増え続ける一方、化石燃料の生産は、ベルカーブのピークを過ぎ頭打ちから下降線に入り、結果としてエネルギーの需給が逼迫し、エネルギー消費国(中近東、ロシア以外は殆ど消費国になっている)は、多大な費用と様々な外交戦略を使い、自国のエネルギー資源獲得に動くことは明らかである。(伊藤)
・世界の2030年辺りのエネルギー情勢は中国・インド等のアジアを中心にする人口の増大と経済発展による生活水準の向上によりエネルギー需要が現在の50%以上に増大し、その煽りでLNGを中心に資源の確保が困難となる。日本にとっても国際間の競争にうち勝ってゆかなくてはならないが、ロシアを挟んだ中国のエネルギー戦略との競合が懸念される。シーレーン確保を含めて国のエネルギー安全保障確保戦略が重要となる。(小笠原)
・2030年を視野に考えた時、石油の需要量が発見量を上回る時が訪れると考えておく必要がある。開発途上国のエネルギー消費量は増加の一途をたどっている。天然ガスの利用、再生可能エネルギーの利用は進むと予想されるが問題解決には程遠い。さらに、中東の政情不安定を考えると、石油価格が暴騰する可能性は高い。(益田)
・中国、インド、インドネシア等のアジアおよびアフリカの人口増と生活の豊かさの向上により、エネルギー需要は必ず飛躍的に増加するであろう。これに対し、石油、天然ガス等の化石燃料の供給力は技術の発展で増加するであろうが、需要を上回るほど増加するかは不明である。しかしながら、我が国の長期的なエネルギー政策を考える上では決して楽観的な予想で計画立案すべきではない。(松岡)
設問―2.2030年を視野に入れたエネルギー戦略の基本的な考え方はどうあるべきか
・エネルギーの国家戦略として考えなければならないことは、安定した供給の確保、環境問題対策である。これを満足させる事の出来る戦略は徹底した原子力発電の推進しかない。石炭火力などの老朽施設の代替は総て原子力発電という国家方針を明示し、それに必要な方策をとることである。当然電力の完全自由化などには、再考を計る必要がある。
二酸化炭素の発生などの環境問題を考えると、エネルギー需要の伸びている、民生と運輸に重点を置いて考える必要がある。民生は電力の伸びという形で現れるから、その対応をすればいい。運輸は今の状況での拡大には、特に石油を原料とするエンジンの改善には強力な対応が必要である。今後排出炭酸ガスの2割以上を占めることは、予見できる事であるので、国としての積極的な対応が必要である。この方策を進めていくために、ハイブリッドカーや二次電池による電気自動車の推進の必要がある。(天野)
・残存化石燃料(石油、天然ガス)資源は、保有国が中東、しかもイスラム国に偏在し、その生産供給は、地域の社会的、政治的な動向に左右されるリスクがある。また、輸送路の安全確保にもリスクがある。国としてのリスク対処戦略が必要。(伊藤)
・現在のエネルギー自給率4%、石油の中東依存度87.1%は極めて危機的な数字である。前者の対応策としては、半自前のエネルギーの原子力発電の増強が必須である。オイルショック以来省エネルギーとLNGの採用ならびに原子力開発に尽力した結果、一次エネルギーに占める石油依存度は77.4%から2003年の49.1%に改善した。また原子力発電を自給エネルギーと考えると、自給率が約20%になる。エネルギー供給確保戦略としては、国際間の平和の維持、自前のエネルギー源開発、供給ルートの確保が今後のエネルギー安全保障確保上重要である。石油・天然ガス等エネルギー資源開発に対する外交努力と民間への開発支援、シーレーン確保・パイプラインの設置等の供給ルート確保、原子力発電の立地支援が重要と思う。(小笠原)
・エネルギーと食料の過半を海外に頼っているわが国は科学立国、貿易立国しか生きていく道はないという現状認識からエネルギー問題を考える必要がある。
今後、我が国の電力消費は横ばい乃至減少傾向にあるとみられている。電力自由化の中、電力会社の経営者は原子力発電の新規建設には消極的である。一方、国際エネルギー情勢を考えれば、国家の存立に最も大切なエネルギーセキュリティーの確保が大きな課題である。せめてエネルギー自給率50%程度の確保の努力をする必要がある。国策として原子力建設目標を明示し、バックエンドに対する配慮等について優遇措置等を講じる等、政策的にもバックアップしながら、建設を継続して行く努力が極めて大切である。(益田)
・我が国の国益を第一に考えたエネルギー戦略を考えるべきである。その時に間違えてならないことは、マスコミや世論等の耳障りのよい意見に惑わされないことである。エネルギーの国際環境は冷酷な国益のぶっつかりあいの世界である。結局最後に信じられるのは我が国自身でコントロールできるエネルギー、すなわち国産エネルギー(含む原子力)だけなので、エネルギー自給率を上げる戦略を考えるべきである。(松岡)
設問―3.2030年の我が国のエネルギー供給のあり方についてどう考えるか
・エネルギーというその国の産業の基盤となるものは、国防とか外交と同様国家戦略というベースで考える必要がある。エネルギー資源が極めて乏しい国が、私企業にゆだねて自由化し、ただ経済的なインセンティブだけで国の意図を進めていこうというのは、極めて危険である。しかもエネルギーにおいては、環境と外交とも相関連して、国家戦略を進める必要がある。また環境問題などが絡んでくる場合、電力会社の利益と、国家としての方策とが一致する事にはそう容易ではなくなる。其の差をインセンティブだけでカバーするのにはかなり無理がある。
このためには総理府にエネルギー問題を総合的に検討する部門を設け、そこで国として管理する問題と、民間に任せる問題との分別を初めとして、国としての戦略を作る事が必要である。(天野)
・現在開発が進められている石油代替エネルギー技術(石炭液化や、DME,GTL、オイルサンド)は、ある程度開発実用化がすすむとしても、その量は、基幹エネルギー源としては不足であり、かつ、大量に使用すれば,CO2とその残渣(タールサンドの尾鉱等)などで、環境負荷の増大につながり、多くの期待は持てない。原子力は技術的には実用化されており、かつ更なる効率化や活用法に改良改善の余地も残っている。また、現在は発電が主体であるが、電力エネルギーと共に、化石燃料に取って代わる基本的なエネルギー源として期待が持てる水素エネルギー時代においても、その生産手段としても重要な地位を占め得るものであり、より積極的に開発を推進すべきである。(伊藤)
・2030年までの長期にわたるエネルギー供給量確保戦略としては特定の手段に偏らないバランスのとれた「ベストミックス」戦略(リスク対策)をとる必要がある。2010年度の目標ケース(受給部会報告)では、石油45%、石炭19%、天然ガス14%、原子力15%となりそれなりのバランスとなっていると思う。また、石油の中東依存度の改善もリスク対策として重要であり、日露間のアンガルスク・ナホトカパイプライン計画等推進が重要に思う。(小笠原)
・今やエネルギー問題は地球環境問題を抜きにしては考えられず、エネルギーミックスの最適化が重要課題である。新エネルギーに対しては補助金の交付やRPS法により或る程度の伸びがみられるであろうが、高々全エネルギーの2〜3%に過ぎない。環境負荷を考え公平な考え方でエネルギー間のバランスを取るには排気ガス税の創設が必須であると考える。国際競争力の点からも世界共通の排気ガス税の創設を世界に向けて提案すべきであると考える。
それぞれのエネルギーについて誰の目にも分かる数値目標を明示し、飴と鞭の政策のもと、その実現に向けて各界が努力することが必要であると考える。(益田)
・エネルギー政策基本法の精神を遵守したエネルギー供給体制を構築すべきである。現状の電力やエネルギー産業界の流れを見ていると、電力の自由化が中心に考えられ、長期的なエネルギーの安定確保がおろそかになっている。誰が我が国の長期的なエネルギーの安定供給に責任があるのか不明であり、長期的エネルギー供給の責任部署を明確にすべきである。(松岡)
設問―4.2030年の我が国のエネルギー需要のあり方についてどう考えるか
・最近の経済産業省の試算結果によると、人口の減少と景気停滞、省エネルギー機器の普及を条件としても2022年まではエネルギー需要は増加傾向となっている。省エネルギーシステムの普及については、ビルや工場等の大型設備は良いとして、各家庭への普及には時間がかかると思う。さらに核家族化、夜型生活、老齢化、利便性の追求等によりエネルギー消費効率の悪い生活様式が進行している。人間の欲望に際限が無いことが懸念される。(小笠原)
・エネルギー問題について国民の理解と協力を得るには、エネルギーの常識問題についての学校教育が最も大切であることを強調したい。省エネについては教育と啓蒙を通し、各自のエネルギーコスト削減努力により、民間主導で改善されると考える。エネルギー問題は設備の新設、インフラの整備など一朝一夕に対応できるものではない。先を見越した先行投資が是非とも必要である。製造業についてはある程度各事業体の自主性に任せることができよう。しかし、民生と運輸の分野は政府による総合的・計画的判断が必要になる。自動車について脱石油と環境問題を解決するには、鉄道等公共交通機関の利用促進を図る必要があるが、電気自動車か水素エネルギーの利用についてのインフラの整備が必要である。その上で、脱化石燃料化を目指し、電気分解法か、原子力からの直接製造法について税制上の優遇処置、政府機関による水素発生用原子炉の開発を進め、天然ガスからの製造に対抗する方策が必要であろう。(益田)
・エネルギーのありがたさを忘れた「エネルギーの無駄使い」や、誇大報道に惑わされて「知ろうともしないでただ単に原子力反対」と言うような風潮を改める必要がある。
また化石燃料(石油、天然ガス、石炭)は有限のもので、貴重なものであるので、付加価値の高い化学繊維等に利用すべきであり、ただ単に燃やすだけの、しかも燃やすと地球温暖化に悪影響を及ぼす炭酸ガスを大量に放出する発電への利用はできるだけ限定すべきである。
一方原子力エネルギーは高速増殖炉利用まで考えるとほぼ無限に利用可能なので発電用の主力にすべきである。これは国産エネルギーと言え、長期的な安定供給も保証されているので、エネルギー分野のあらゆる面に活用すべきである。少なくとも国民生活に必要なライフラインはこの原子力発電に主力を置いたエネルギーで賄うべきである。2030年およびそれ以降を考えると、電気エネルギーを原子力と水力発電主体に変換していき、更には1次エネルギーの中での電気エネルギーの比率を高めていくべきである。
しかしながら原子力に対する誇大・歪曲報道の結果、国民は非常に原子力に不安を抱いているのも事実である。これを正すには報道にも一定の制約を加えるべきである。情報も製品ならば一般商品のようにPL法的なものを決めて、報道による被害に対しての訴えの挙証責任を報道機関にするのも一案であろう。要は今の報道のあり方は需要家に正しい情報を流していないために歪んだエネルギー政策になっている。これを先ずは正すべきである。(松岡)
設問―5.2030年頃に実用化が期待されるエネルギー技術のついてどう考えるか
・この時期の技術開発はなんと言ってもFBRの実用化しかない。電力の自由化などが出てきてしまった現在、これは実用化の段階になるまで、国として進めるより方法はない。現在本質的にコストも高いが、先日の事故も二次系統などと安全のためとして作った本来は不要な系統で起きている。徹底的にシンプルなものとし、空気と隔絶する。今でもBWRの格納容器内は窒素雰囲気である。安全で安価なFBRの開発に全力を上げる。
このFBRを日本で開発することにかけては、ほかにない特別な意義がある。
1)世界で最もエネルギーの海外依存度の高いわが国のエネルギーセキュリティの確保
2)食料もエネルギーも海外に依存しているわが国は、国際的な貢献のできる国である
必要がある。このFBRの技術がわが国で実用化できれば、そのための切り札になりうる。
「もんじゅ」がトラブルを起こしてから既に9年たってまだそのまま放置しているほど無駄なことはない。着実に建設を進め、いろいろな試験の中で問題点を解決していくのが技術の進歩というものだ。
FBRいがいでは開発すべき技術は、二次電池である。安価で小型で、電気容量が大きい電池の開発はあらゆる面で人類に貢献する。この技術は現在国際的に日本が一番進んでいる。積極的な国家的な推進が必要である。
失敗から学ぶ事が、人類の技術の進歩の唯一の方法である事を認識し、失敗を恐れず遂行し、失敗したら徹底的にそれから学ぶ態度がなければ、あすの日本はない。(天野)
・2030年頃には、水素エネルギーの活用は本格化していないし、代替エネルギーの活用も大きく期待できなく、また、省資源の努力もわが国の生活レベル、貿易立国としての生産活動の維持を考えると大きな進展は期待できないので、基本的なエネルギー需給構成は現状と大きく変わらないとの想定し、(1)輸入資源の安定確保に向けて外交努力、国際協調に努めると共に、(2)自然エネルギーの利用と原子力の活用を可能な限り拡大し、(3)そして将来の世界の平和と人類の発展のために,化石燃料に代わる基本的なエネルギー資源として期待が持てる水素エネルギー利用の技術開発に国際的なリーダーシップは発揮していくことが大切である。(伊藤)
・技術開発については、燃料電池は自動車用電源として、GTLは天然ガス利用の高度化として2030年には実用化を期待したい。しかし、これまでの実績と環境対策から核燃料サイクルを含む軽水炉技術の高度化に関わる開発が最も重要であろう。例えば材料開発のようなブレイクスルー技術にもっと注力する必要があろう。一部の人達に評判が悪いが、ナトリウム冷却FBRは実用段階にあるので2030年稼動を目指して建設を計画してはどうか。(小笠原)
・燃料電池、GTL、DME等の開発は、政府が政策の方向を示し、必要に応じ研究補助金による援助、税制上の優遇措置等を講ずれば民間ベースで進められると考える。
将来のエネルギー問題を考えると、軽水炉と増殖炉の組み合わせという原子力長期計画は間違っていないであろう。高速増殖炉の開発については今や民間にはその活力は無く、政府が主体的に開発を進めなければならない。技術継承を考え“もんじゅ”の再起動と、次なる実証炉の建設を計画しなければならない。高レベル廃棄物の処分を含む燃料サイクルの完結は、原子力を推進するためには国としてさらなる努力が必要である。(益田)
・基軸エネルギーは常に改良開発を続けていないと技術も産業基盤もなくなるので、第1に原子力発電(軽水炉、FBR)の改良・開発に注力し続けることである。将来の我が国のエネルギーにとって、消えかかったエネルギー技術の維持がいかなる新規のエネルギー開発よりも重要であるということを認識すべきである。また再処理は米国からの認可取り消しにならないように建設運転継続すべきである。(松岡)
設問―6.2030年頃のエネルギー需給を踏まえた国際協力についてどう考えるか
・20世紀の後半人類は、国際協力が相互の利益になるということを始めて学んだ。それまでは相手を自分の傘下に入れる、つまり植民地的手法が国の富を増やす事と考えられていた。20世紀の後半、アメリカや日本が自国の人件費が高い事で失った国際競争力を補うため、海外生産を始めた。これが生産の国際協力体制を作る事になり、東南アジア、さらに中国の最近の急激な経済発展のベースを作った。このあり方を今後も続け、発展する事が世界の今後のあるべき姿である。エネルギーの需給においても、相互依存の体制をより強化していくべきである。相互依存関係を強く持つようになれば、問題の解決の手段として武力を使う事は不可能になる。このことはエネルギーの80%、食料の40%を海外に依存するわが国にとって最も重要な事であるし、この体制をアジアで作る上でのわが国の貢献は高く評価されて然るべきものである。(天野)
・エネルギー問題は、国の安全保障問題のそのものであり、エネルギー安全保障という観点に立って、適宜、適切な国際的なエネルギー問題の調査、予測、そしてその対応戦略の確立とその推進責務は国にあり、国は、エネルギー需給状況、安定確保、技術開発などについて、国民に説明責任を果たし、国益を守る外交、国際協力の実行、そして民間の能力、知恵を最大限引き出すようなルール(国際協定、国内政策)の策定、実行監視を行う必要あがる。(伊藤)
・我が国にとって、国際間の協調こそエネルギー確保の最重要問題である。そのためには平和が長期にわたって維持されなくてはならない。国を挙げて関係国との関係を良好に維持する努力が緊要であろう。核燃料サイクルの推進にはあらゆる問題について米国との密接な連携が重要であろう。また、今後の資源確保の戦略としては、中東はもとよりロシア、中央アジア、中国、オーストラリア、アフリカ等との連携が必要である。また、化石燃料の価格抑制からも、アジア等への原子力発電普及について協力する必要があろう。(小笠原)
・エネルギー・環境・経済成長というトリレンマを抱えた人類にとって、エネルギー問題解決は正に人類の将来を占う至上命題である。この解決には国際協力が是非とも必要であることは言を俟たない。原子力分野の国際協力は国の政策として強力に推進すべきである。核拡散問題、規制の高度化と統一、規格・基準についての協調等なすべきことが非常に多い。現在世界の先進国で原子力発電所を建設し続けているのは日本だけといってよい状況の中、わが国の経験を生かすためにも本腰を入れて臨むことが必要である。経済成長の著しい開発途上国では原子力開発のニーズは高い。世界が原子力の開発を望んだ時、直ぐにでも役に立つことができるのはわが国の高度な技術である。技術伝承を続ける必要を痛感する。一方、原子力開発には核拡散防止、燃料供給、使用済み燃料の処理・処分の問題というやっかいな問題が伏在する上、膨大なファイナンスの確保、技術移転等の課題も多く、国として強力なバックアップ態勢の確立が強く望まれる処である。(益田)
・2030年頃というと、エネルギー資源面および地球環境面から、原子力エネルギーの重要性が認識されるであろう時期であり、それまで我が国の原子力発電プラントの建設技術力を維持発展させ、それを技術指導等で教えることにより国際貢献ができるであろう。その際発展途上国では資金不足の可能性があるので、次に計画されている地球温暖化防止条約で、CDMの中に原子力を組み入れる事によりその資金源とすべきである。そのためCDMへの原子力の組込みについて国家を挙げて取り組むべきである。これが我が国が国際貢献できる最大の活動である。また、化石燃料は今世紀中はまだまだ世界、特に開発途上国のエネルギーの主流のままであろうから高効率の火力発電所建設等の技術開発を続けていき、それを教えることにより国際貢献ができるであろう。
これらはいま正に世の中から消えかかろうとしている技術である。重要なのは我が国が誇る技術をいかに維持向上させておくかと言うことが将来の国際貢献に大きく繋がることである。(松岡)
最後にひとこと
(1)長期的に見れば、化石燃料に代わるエネルギーとしては原子力しかないというのが、我々に共通する認識であるが、私はさらに、原子力の本格的な出番はもっと早く来ると考えている。それは、化石燃料の価格は化石燃料資源が枯渇するずっと以前に上昇すると考えるからである。今日、原子力の発展を阻害する最大の要因は、放射能にたいする極端な恐怖心である。この恐怖心は、広島、長崎の原爆経験と分かち難く結び付いており、正しい理解への道程は遠く見える。しかし、化石燃料価格が上昇し、原子力発電が安価な電力を供給することが誰の目にも明らかになれば、事態は急速に改善すると楽観している。そして、それはそう遠い将来のことではない。(池亀 亮)
(2)エネルギー供給では重要な位置を占める運輸分野は、自動車台数増加や大型化などが省エネ効果を相殺する傾向は今後も続くであろう。この分野で最も期待されるのは水
素であるが、水素は製造から消費に至るまでの過程でエネルギーが消費され、損失が
大きい。従って改質して利用するより当該燃料を直接利用した方が有利であろう。こ
のような観点から燃料費の安い自然エネルギーも選択肢であるが、量的に需要をまか
なえるのは原子力による水素製造である。原子力による水素製造と、貯蔵、輸送を含
め技術革新が、水素燃料戦略の鍵である。(石井 正則)
(3)わが国の電力需要の停滞予測、石油資源のコストの高まる要因、世界的にも環境改善の要請が高まると考えられるところから提言したい。原子力の焚き減らしをはかるとか、将来の火力、特に原子力プラントの更新すらままならぬようでは情けない。国が新たな組織を作って進めるのではなく、側面支援にとどめ、民間主導とすべきであろう。
環境立国を目指した国内需要の喚起:水素エネルギー、電気自動車、電気による廃棄物のリサイクルなどの新産業の育成、造水、家庭用蓄電に対応していく。そのために深夜電力として公害成分を出さないかつ増分コストも安い原子力発電を活用していく。
将来の電源開発:世界の市場に積極参入できるようさらに高度化された軽水炉を開発していくべきと考える。増殖炉はセキュリテイとして完全実用化を目指すも、軽水炉との競合の面は生ずるが、競争と協調により互いに高度化が期待できる。(石井 陽一郎)
(4)原子力を電力供給の主役とすれば、これが例えばフランス並に70〜80%レベルとなると、当然のことながら夜間休日等の低需要時期にはベースロードとしての全出力運転はできなくなる。この場合に揚水発電所を併用して需要と供給をバランスさせる手もあるが、やはり原子力の出力を絞る運転が必要なことも考えられる。
もともと軽水型の原子炉では出力を数10%まで低下させて連続運転することには何ら技術上、安全上の問題があるわけではなく、容易に出力を増減することが可能な設計になっている。事実フランスではあたりまえの運転方法になっている。しかし、チェルノブイリ事故での低出力運転云々、という足かせがあって、日本ではそれが不可能であるような状況になっている。これを正しい形に戻すために、規制側に働きかけて必要時にはいつでも柔軟な運転ができる実証を早めにしておく必要がある。(織田 満之)
(5)2030年頃の国際エネルギー情勢は石油、石炭、天然ガスといった化石燃料に関しては、安定供給問題と地球温暖化問題から現在では想像もできないほどの非常に緊迫したものとなっており、一方原子力開発も現在では想像もできないほど促進されているのではないかと考える。このままの勢いで行くと2030年には世界の一次エネルギーの需要は2000年の7割増とのことであり、資源が中東に偏在している石油や地球温暖化に有利とされる天然ガス等の需給はタイトとなり、価格は相当上昇するであろう。資源的に有利とされる石炭は地球温暖化問題から使用に制限がかかるであろう。しかし、いずれにしろすべての化石燃料の使用は、今後次々と顕在化する地球温暖化問題上その使用は抑制せざるを得なくなっていくであろう。クリーンといわれる自然エネルギーは需要をまかなえない。必然的にすべてを補完するエネルギーとしての原子力に目が向くのは時間の問題であろう。(松永 一郎)
(6)会員からは多様な提言が提出されているが、要点は我が国の長期的エネルギー政策としては国際的枠組みの中での戦略と、着実な原子力推進政策が肝要ということである。
一方一部の原子力反対の立場の人達は、我が国のエネルギーは原子力を全廃しても成り立つという見解を展開している。例としては、原子力資料情報室のCNICエネルギーモデルがある。ここでは我が国のエネルギー効率化技術やライフスタイルの変化等による需要の抑制、再生可能エネルギーの拡大等による供給拡大等により原子力全廃可能というストーリーを展開している。しかしこの議論は我が国の内部のみの議論にしかなっていないことに大きな欠陥がある。原子力以外のエネルギー資源は殆どが輸入の我が国としてこれらが入手困難になる事態も当然考慮しなければならない。その様な時に原子力は大きなエネルギー資源として活用できる。それをみすみす全廃するなどというのは全く論外の議論としか言いようがない。会員が指摘しているように、エネルギー問題は国際的問題であり、我が国だけの事情のみでは解決できないことを改めて肝に命ずるべきである。(林 勉)