美浜3号機問題を検証する。――― 原子力専門家の立場から

「エネルギー問題に発言する会」幹事、林 勉

 

美浜問題とは何だったのか?

 5名の死者を含む11名の死傷者を出すという、わが国の運転中の原子力発電所での最大の労災事故を引き起こしたこの事故を、原子力関係者は等しく重く受け止めなければならない。亡くなられた5名の方々には衷心からの哀悼の祈りをささげたい。

この事故の原因は,PWRの2次系(タービン側)の炭素鋼配管のオリフィスの下流部分での著しい減肉により、配管厚さが極端に薄くなり、強度的に耐えられなくなり、高温高圧水・蒸気が噴出し、その場所に居合わせた作業員が被災したという事実である。

この事象だけを見れば単なる労災事故との見方もできないではないが、ことは原子力発電所で死傷者をだしたということであり、もっともっと重く受け止めなければならない。

一般国民は原子力発電所の安全は万全と聞かされているのにこれだけの死傷者が出たという事実に驚愕し、原子力に対する不安を一層募らせてしまったということを関係者は猛反省しなければならない。これがきっかけで、原子力発電に対する拒否意識の高まりや、原子力政策に対する悪影響のでることを危惧している。わが国のエネルギー事情を考えれば、原子力発電は今後ますます重要な電源として健全な発展を図らなければならない国家の基本政策であり、今回の事故でその行方が左右されるようなことになってはならないとの思いで、今後原子力関係者はどうしなければならないかについて、私見を述べたい。

原子力発電所の安全問題

 一般国民から見ると、これまで培われてきた原子力発電所の安全が大きく損なわれたと受け止めたことであろう。確かに原子力発電所の安全確保はなされなかったが、いわゆる放射能漏れを防止することを対象とした原子力固有問題としての安全が確保されなかったということではない。一般産業と同様な設備の健全性が損なわれ、作業安全確保が損なわれたことに過ぎないが、人身事故にまで発展したことを重く受け止めなければならない。あってはならない事故が起こったことは事実である。それでは設備の安全確保はどのように扱っているのであろうか。今回の問題の原因である減肉現象のような経年劣化問題は、どのような設備であっても必ず発生することであるが、適切な検査とメンテナンスで対処することが必要であり、原子力発電所を運転管理する電力会社の責任でこれを実行しなければならない。電力会社も計画的な自主点検計画の下に配管減肉摩耗の予防保全に努めてきている。それにもかかわらず今回美浜3号機において、何故配管破断事故が生じたのであろうか。このことを十分に検証し、原因とその要因を徹底的に究明し、再発防止の万全を期さなければならない。またこの検証のプロセス、および結果を国民に広く公開し、国民からこれで安心と言ってもらえるようにしなければならないと考える。

美浜3号機の問題点の検証

 今回と同様の蒸気噴出事故は18年前に米国のサリー原子力発電所で発生しており、4人の死者を含む8人の死傷者をだしている。また炭素鋼配管で形状変化部分での高温水の流れの乱れによる減肉現象は、関係技術者の間では周知のことであり、適切な時期での検査、メンテナンスは当然なされてきている。これが美浜3号機の当該部でなされていなかったことは、技術者の目からみて理解できないところが多い。サリー原子力発電所の事故を反映した管理基準も出来ていたはずであるのにである。今回の事故では当該箇所の近くで発電所の運転中に多くの作業者がおり、高温高圧の蒸気をもろに浴びるという痛ましい災害になった点も特筆すべきである。

詳細な経緯はいまだ調査中のために正確にはわからないが、すくなくとも当該部分の検査、が運転開始以来27年間もなされていなかったことの理由は、検査点検リストから漏れていたがためであることだけは事実のようである。しからば点検リスト漏れはなぜおきたのであろうか。リスト作成に伴う単純な作業ミスであったのか、摩耗の進行管理で使われている代表プラント方式に問題があったのか、あるいは検査業務がプラントメーカーから検査会社に移管されたことが遠因であったのかは今後の調査に待たなければならない。今必要なことは真の原因究明を早急に行い、再発防止対策を図ることである。

再発防止対策に望まれること

検査漏れは美浜3号機のみではなく、関西電力の他のプラントにも数件あったことが報じられている。これをもって関西電力の管理体制が全くなってないということにはならない。むしろ何万件とある検査対象のうちのほんの数件が漏れてしまったというのが正しい。問題は検査対象の管理のあり方にあったと思われる。今回の経験をもとに、運転管理責任者である電力会社が検査対象管理について様々な角度から検討し、再発防止対策に反映しておくべきであろう。また従来から予防保全プログラムの作成に当たっては、プラントメーカーの技術力が活用されているが、このプログラムの具現化、実機適用の段階においては必ずしもプラントメーカーが参画しているとは限らない。従って今回の事例を受けて電力会社、プラントメーカー、検査会社等の役割分担のあり方についても再発防止対策の中で扱われることが望ましい。

更には運転中のプラントへの作業者立ち入りについては、これまで以上に危険防止対策を織り込んだ管理システムの導入が必要になろう。

関係業界としてなすべきこと

 今回の問題に直接関与していない電力会社、プラントメーカ、関係業者等も自らの問題としてとらえ、当面の当該箇所の見直しだけではなく、プラント全体としての健全性確保がなされているか、この機会に徹底的見直しをするべきであろう。

合理的で有効な規制のあり方について

 原子力問題が発生すると、電力会社はもう信用できない、国の管理はどうなっているのか、国がしっかりした管理をしなければ安心できない、という声が高まってくる。これも当然なことであろう。しかし問題は単に厳しい規制強化をすればよいという問題ではないことも理解していただく必要がある。今回の問題はこれまで述べてきたように、まず電力会社がみずからの管理体制を強化し、再発防止の徹底を図ることが第一義でなければならない。規制強化はなされるとしても、電力会社の管理状況を全体としてレビューする程度にとどめるべきであろう。必要以上な検査要求等は時として膨大な対応を余儀なくされ、そのための作業量と対応時間の長大化をもたらし、かえってなすべき安全確認作業に悪影響が出るようなことにもなりかねない危険性をはらむものであることも考慮する必要がある。合理的で有効な検査のありかたについて、電力会社、監督官庁、必要により第3者も加わって、国民の理解の得られるしっかりした対応をはかっていくべきであろう。

終わりに

 原子力政策として重要なプルサーマル計画やもんじゅの立ち上げ計画等にも影響が出てくるような報道がなされている。これ等の計画は今回の問題とは全く関係のない物である。

わが国では何か事が起こると過大な過剰反応が起こりがちであるが、これは厳に慎むべきであろう。原子力の健全な発展こそが国民全体へ最も貢献できる道であることを再認識していただきたい。