講演テーマ: 4S炉(ペンシル炉)開発の現状
講 師: 東芝 飯田 式彦 技監 電中研 木下 泉 工学博士・上席研究員
日 時: 2005−6−15 1530時〜1700時
出席者: 順不同・敬称略
川人、石井(正)、杉野、松永、伊藤、山名、益田、池亀、阿部、斉藤、林、太組、竹内、税所、逢坂、永田、小笠原、佐藤、石井(陽)、堀、山崎、和嶋、西郷、土井、小川(座長・文責)
4S開発の現状
開発の契機・ニーズから、基本的なコンセプト、主要技術の概要、アラスカに於ける需要及び米国での許認可に係わる課題などにつき、東芝・飯田技監殿より、21枚のPPTを用いて明快にご説明頂いた。
4S開発の契機:国土のほとんどが土漠の荒野というバーレーンでは、海水淡水化により飲料水を確保している。一般に淡水化に必要な電力は都市単位で2万〜5万kWe、砂漠化地域の緑化には60万kWeのニーズがある。このようなニーズを踏まえてH3年度・IAEA計画推進委員会(委員長・近藤教授-当時)にて4Sの骨格が検討された。
望まれる原子炉の要件 を整理すると:
(1) 核不拡散・メンテナンスフリーを満たす要件:燃料交換が不要で炉心内部で燃料を増産できることとの条件から、高速中性子を利用する。
(2) システム・機器の単純化を満たす要件:動的機器の削減のために、低圧・高温・導電体(静的ポンプの利用)として液体金属(Na)を選定した。
(3) 静的・固有の安全性を満たす要件:小型炉心(小インヴェントリ)・自然停止炉・放熱除去を基本コンセプトとして、制御棒なし、自然通風除熱、金属燃料を用いる小型炉とする。
(4) 分散電源としての経済性を満たす要件:工場生産・標準化・輸送性を重視し、現地工事なし、軽量建物、大量生産向き原子炉としてインテグラル型コンセプトを採用。
これらの基本理念を満たす原子炉として、4S(Super Safe Small & Simple)概念が創出された。
4Sの主要仕様
金属燃料原子炉 出力:10MWe、50MWe
冷却材: Na 冷却材温度:510℃(原子炉出口)
反応度制御: 移動式反射体
主循環ポンプ: 電磁ポンプ2基直列(アニュラ型)
崩壊熱除去: 自然通風による炉容器冷却
RVACS(Reactor Vessel Auxiliary Cooling System)
一次ナトリウム冷却:二重容器 GV(Guard Vessel)
主要技術の概説
l 反射体と炉心:炉心長寿命化のために、高い燃料体積比を持つ大型集合体を搭載し、キャビティーを有する反射体が炉心を囲み、反射体により原子炉を制御する。
l 電磁ポンプ:フローコーストダウンを確保するために、慣性力を与えることに特徴を有するアニュラ型直列結合電磁ポンプを採用している。
l 原子炉建物の埋設設置と軽量化によるバージ輸送:埋設設置によりセキュリティの確保と発電所員削減を達成する。発泡コンクリートを活用して建物の軽量化を図り、大ブロックバージ輸送により現地工事を大幅に削減する。
l 原子炉の停止・自然炉停止:反射体の重力落下、中心炉停止棒の落下により原子炉は停止する。また炉停止システムが働かない場合にも、燃料破損なく自然炉停止する。
l 自然通風による崩壊熱除去:崩壊熱は原子炉容器からの放熱を自然通風による除去する。廃棄スタック倒壊を想定し、通風路の50%閉塞時にも崩壊熱除去が可能な設計とする。
アラスカの潜在マーケット
アラスカに於けるヂーゼル発電の実態と、10MWe〜50MWeニーズを紹介。
米国許認可に係わる課題
NRCの状況、Policy Issue(試験炉によるライセンス取得・新燃料・免震設計)、設計認証と試験炉による実証などについても概況を説明した。
4S研究開発の現状
電中研・木下博士・上席研究員殿により、PPT35枚を用いて、4Sに導入している革新技術の研究開発につき、丁寧なご説明があった。
炉心・燃料
l 反射体制御による金属燃料炉心、負またはゼロのボイド反応度炉心は、長寿命と受動的安全の確保を狙いとする革新技術で、核特性評価技術の高度化と合せて文科省「革新的原子力システム技術開発公募事業」(以下「革新公募事業」と略)の一環として実施中で、実験の基準となる炉心体系が原研・FCAにて2004/7に臨界達成との説明があった。
l 高燃料体積比の炉心及び低圧損燃料集合体は、長寿命と事故時の自然循環除熱目的で導入し、これも「革新公募事業」として実施中である。
l 長尺・太径の燃料ピンは、長寿命を狙いとして導入し、現状では米国ANL蓄積データと経験をもとに外挿技術の開発中。
自然通風冷却型崩壊熱除去系(RVACS)
受動的崩壊熱除去の目的で導入し、実験結果をもとに評価式を提案した。
反射体駆動装置
メンテナンス軽減の目的で、既存技術による方式と電磁反発駆動の革新的方法を開発中で、
これも「革新公募事業」として実施中である。
電磁ポンプ メンテナンス軽減の目的で採用。小型のフローコーストダウン試験し終了。今後大型試験は必要。
改良9Cr-1Mo鋼 高速中性子に対するスエリング抵抗特性を期待して、照射データ調査中。
水平免震 設計の標準化の目的で導入し、免震設計の技術指針の策定を、METI「FBR免震システム確証試験」の一環として実施した。
二重伝熱管SG Na-水反応事故の排除の目的で開発。
関連研究 動特性解析コードの開発
炉心損傷解析コードの開発
質疑応答
Q :アルゴンガス、イナートガスなどはどうなっているか?
また、補修時の扱い及び予熱はどうするか?
A :炉内Na自由液面上部の空間にはアルゴンガスを封入し、密閉している。原子炉内に回転部・摺動部がないので、漏れは考慮する必要がない。また、原子炉の蓋を開けるメインテナンスは全くないので、ガスを封入密閉している。
原子炉を一旦起動すれば、崩壊熱があるのでNaは凍ることはない。建設時には仮設ヒータで予熱する。
Q :我々の常識からすれば20年・30年に亘って、メインテナンス・フリーとは俄かに信じがたい。何も起きないとは考えられないが・・・。
A :メインテナンス・フリーは我々の目標である。これを達成するためには何が必要かを、3つに分けて考えたい。先ず最もユーザーに魅力があるのは、燃料交換が不要だということだ。燃料交換が無いのは、核不拡散性の上から優れている。また発電所の人員削減の面からも決定的である。不安要素は燃料破損かと思われる。棒状の金属燃料はシースで覆われているが、シース内にもNaが封入されており、たとえシースにリークが発生しても、シースの内外がNaゆえ燃料への波及問題はない。
燃料のバーンナップ或は変形についてはANLによりEBRUの運転経験で蓄積されているデータ、FFTFのデ−タなどの挙動の範囲内で使うことを前提にしている。30年間でのシースの腐食については、設計余裕を見込むことで対応する。
次に原子炉容器など、系統・機器の健全性については、低圧系として設計することで、低圧系としての特性を最大限に活かし、運転中の超音波探傷や目視検査などのISIは不要だとして、NRCと折衝中である。唯一監視が必要なのは漏洩検出である。
Q :性能低下については、年数をどの様に担保するか?工学的には経年変化が最も気になるところだ。
A :何か起こるだろうという懸念は、ASMEでもNRCでも同様に指摘されているところだ。我々は1号機をリファレンス炉と称して、全てのアンサーティンティーを吐き出させる積りで居る。第3点の経年変化による交換部品の必要性については、メインテナンス・フリーではない。そのような該当機器、例えば電気品などは全て格納容器の外に配置することで、運転中であっても交換可能なプラントとする考えだ。
Q :燃料体積比はどの程度か?
A :木下:軽水炉で炉心断面積比30%程度、これに対して4Sでは50%である。燃料体は大型で、集合体あたり燃料棒271本である。燃料集合体圧力損失は実規模試験体を作って水試験で評価した。30年の経年変形については、現段階では解析評価をしている。炉内構造物については、改良9Cr-Mo鋼を採用して、スエリングに対する抵抗特性に期待している。
Q :運転方式と運転員はどの程度の数か?技術的には運転員は不要だといえないか?
A :原則として熱出力一定運転を狙うが、負荷変動への対応はタービン系の蒸気放出で対応するので、運転員による原子炉の運転制御は不要で、中央制御室は設置しない。タービン制御室は設置する。検査については一時的であり、原則として技術的には運転員の常駐は不要だが、セキュリティは必要だと考えられる。タービン運転員の常駐が必要か否か、そのミッションは何かを検討中である。
Q :反射体の電磁反発制御が3μとの説明であったが、この程度の高精度制御が1mm/Wkの位置制御に必要なのか? 熱膨張などから担保出来ないのではないか?
A :この程度の誤差が炉心反応度へ及ぼす影響は殆どないので、ロバストな制御が可能である。実機での電磁反発駆動は、15分に1回程度となる。
Q :電磁ポンプの選定に際しては、メカポンプとの比較はしたのか? 熱効率は?
A :動的機器を排除することを第一義的に考えた。熱効率としてはメカポンプに劣る。
Q :反射体に30年間の反応度を持たすということは反応度制御の感受性が高すぎるということにならないか。
A :燃焼反応度は約7%Δk/kと低い。燃焼度が軽水炉なみであり大きな燃焼反応度を反射体にもたす必要はない。
Q :30年間でのバーンナップは?ANLの蓄積データを利用しているとの説明だが、そちらではどの程度か?
A :4∼5万MWDで、文殊より低い。ANLでは15万MWDまでの実績がある。
Q :30年間の運転経過後はどうするのか?
A :アラスカ州からはすべての廃棄物は持ち出して欲しいと言われているが、受益者負担の原則を主張している。アラスカに限らず米国内での処理が原則であると考える。30年後の米国事情は分らないが、米国内で直接処分或いは再処理をして欲しいと主張している。
Q :リファレンス炉を建設するとの説明だが、費用負担はどうするのか?
タイムスケジュールはどうか? また、日本国政府の支援は?
A :米国にニーズがあるので、リファレンス炉の建設費用は米国に負担して欲しいと考えている。その前に設計認証を得なければならないが、NRCの審査にどの程度の期間を要するかは、質問次第だ。一般的に18ヶ月とすると、人件費だけで3億円を要する。近藤委員長もニーズがあっての開発は、大いに結構だと言っている。METI他も精神的な支援、沢山の応援は頂いているが、金の支援は残念ながら無い。
Q :炉心崩壊した場合の再臨界については、どう考えるか?
A :Puは使用していない。Puを使っていれば米国では受け入れられない。18%濃縮のU燃料を使っている。
Q :スクラムはどうするのか? またスクラム後の再立ち上げはどうするのか?
A :反射体の重力落下、中心炉停止棒の落下でスクラムする。再立ち上げには起動時と同様に、臨界近接の操作が必要だ。この場合は運転員が必要になる。反射体の急速引き上げは、メカ方式の場合は油圧による引き上げ、電磁反発の場合はNaの流体浮上を利用する。
Q :NRCにおけるライセンシングの現状はどうか?
A :新しい原子炉として、EPR、PBMRが先行する可能性がある。NRCは人的資源が限られているので、4Sが加わると資源の取り合いになる。タイミングについては、NRC自体が混沌としており、現時点では何とも言えない。
Q :試験炉による安全実証が必要だとの説明であったが、そのような試験炉の必要性は何処にあるのか? 既存データの利用では不十分か?
A :4Sは、原子炉の固有の安全性をこのコンセプトの眼目にしているので、NRCは核的な立証を強く求めている。コンポーネントについては、既存の技術や試験データの利用は考えられるが、炉心の核的特性の立証については、試験炉が必要になる。
試験炉による安全の実証は、設計認証の審査と平行に進めることが認められているので、試験炉建設の設置許可が先ず必要となる。何処に試験炉を建設するかについては、2案があり、アイダホとアラスカが候補地だ。アイダホでは試験の後をどうするかが難問である。アラスカには出力1万kWのニーズもあるので、許認可の中で試験炉をアラスカに設置し、試験後もニーズに応えて活用する方向を目指したい。
もうひとつの理由はたとえ設計の許認可を得ても、1号機はだれも作らない。それならば1号機のもつ不確かさを政府資金で事前にはきだすことが必要だ。
以 上