「リスク論に基づくエネルギー外部性研究のスコープとその現状」
講演者:政策科学研究所・伊東慶四郎
講演要約:
第15回運営委員会において、政策科学研究所・伊東慶四郎氏による「リスク論に基づくエネルギー外部性研究のスコープとその現状」と題する講演が行われた。エネルギー利用に関しては、市場経済性のみならず環境・健康影響、エネルギーセキュリティ関連リスクなどの外部性* を考慮して評価することが重要であると言われており、本講演はこの分野の研究スコープ・現状を展望したものである。講演の概要は以下のとおり。
信頼される科学技術の前提として、それが齎すリスクの包括的波及・影響の評価とこれについての公衆との対話が重要であり、エネルギー利用に関してもそれに付随するリスクなどの外部性の研究は重要である。外部性の定量評価は、欧州委員会によるExternEプロジェクトなど欧米では既に10年以上前から実施されている。我が国においても、エネルギー利用の外部性、それに関わるガバナンスのあり方、社会の理解へ向かっての政策対応などについて、研究・対応を充実していくことが必要である。
エネルギー外部性研究が対象とする領域は、エネルギー利用に関して、人の健康や環境におよぼす影響、供給途絶などのセキュリティに関するリスク、事件・事故や人・組織の行為がおよぼす社会的影響、核拡散・核テロなどの安全保障に関わるリスク、エネルギー開発への投資リスク、など広範である。
上記ExternEプロジェクトによる欧州の発電システムの外部コストの試算は、発電システムが排出する公害に伴う環境コスト(地球温暖化、騒音、建築材料、農作物、職業人の健康、公衆の健康など)を算出したもので、国別に石炭、石油、ガス、原子力、バイオマス、水力、太陽光、風力、都市ゴミなどによる発電シテムの比較がなされている。英国の場合は外部費用の大きい方から以下のようになる。(単位はミリユーロ/kWh)
石炭:55、石油:42、オリマルジョン:42、ガス:17、バイオマス:5.5、原子力:2.6、風力:1.4
原子力利用の外部性評価に関わる問題としては、放射線線量から健康リスクを評価する際にICRPによるLNT(線形、しきい値なし)仮説を用いているために影響を過大評価していることなどが挙げられる。
日本原子力学会は昨年、この分野の研究の展開に資するため、外部性研究専門委員会を発足させた。近時、我が国の内外でエネルギー利用に関して、社会的、政治的、制度的、あるいは安全保障に関わる様々の社会リスクが多発して社会問題化している。これらは環境外部性とは異なる領域であり、これからは科学技術と社会に関わるリスクとそのガバナンスを指向した研究も重要な課題になってこよう。
なお、伊東氏は第41
回原子力総合シンポジウム(2003
年5 月22
日・内幸町ホール)で「エネルギー外部性評価と原子力の役割」について講演する。
* 外部性とは、ある経済主体の行動が他の経済主体に影響を及ぼすことで、金銭的(市場的)外部性と技術的外部性に分類される。金銭的外部性とはある経済主体の行動が市場を通じて波及する効果のことで、技術的外部性とはある経済主体の行動が市場を通じないで他の経済主体に影響を与えることである。近年、これら経済学の範疇のみでは位置付け難い社会的・政治的・制度的な外部性問題が出てきている。