座談会『設備利用率向上の阻害要因は何か?』議事要旨
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日時 平成15年2月19日 14:00 〜 17:00
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場所 エネルギー問題に発言する会
第13回運営委員会
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出席者 略
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資料 略
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内容
はじめに座長より、本座談会の当初のタイトルは『設備利用率向上の阻害要因は何か』という挑発的なものであったが、ここでは、この10年間で我が国の原子力発電所でいかに設備利用率向上に努め、どこまでの成果を挙げてきたか、そして今後の改善のための課題は何かについて現役の方々から御説明を受け、より正確な現状認識に立脚して議論を進めたい、とのまえおきがあった。
5.1 原子力発電所の稼働率を向上させるための課題について
資料により、表題の内容について説明を受けた。
・定期検査期間については、約10年前に最短でも60〜70日であったものが、最近の最短期間は20日台にはいりつつある。ただし、これは機器の点検や保全の実施時期を相前後する定期検査の中で調整した上で達成された最短工程であり、いつもこの工程が実現出来るわけではない。
今後改善の可能性の大きい課題としては、〔1〕リスク評価を用いた定期検査周期や検査方法の見直し、〔2〕運転中保全や状態監視保全の導入推進、〔3〕タービン分解検査周期、方法の見直し(原子炉施設の定期検査周期との整合性)、〔4〕国の関与する検査の簡素化、実施方法の改善、〔5〕個別検査項目の米国並みの見直し、〔6〕定期検査中の発見トラブルの処置の迅速化、等の指摘があった。
・運転中のトラブル停止については日本では発生頻度は他国に比べてはるかに低い。ただし、一旦トラブルと認定されると発生の第一報から最後の原因対策報告に至るまで数多くの報告、プレス発表があり、その間規制当局、行政当局、関係学識経験者への説明、と担当組織は24時間体制で忙殺されることになる。しかも一連の手続きが終わらないと復旧の準備にも取掛かれない場合もあり、発電損失時間が大きい。このプロセスがいくつかの実例で示された。改善事項としては〔1〕各種報告基準の明確化、〔2〕原因調査と復旧・運転再開の切り離し可能性の追求、〔3〕現実的な維持基準の早期策定、〔4〕暫定及び恒久補修工法の標準化、〔5〕一般住民の不安を解消・軽減しうる方策の検討(地元が頼れる技術顧問組織の活用等)、
等の指摘があった。
5.2 米国原子力発電所における設備利用率向上の分析
資料に基づいて、表題の内容について説明を受けた。
・米国原子力発電所の設備利用率はこの10年間で約20%向上しているが、これはトラブル停止の減少、計画停止や計画外停止時間の減少、Tech.
Spec変更手続きに基づく検査頻度の削減や長期運転サイクルへの移行、出力増大措置などによる。また、一時期規制当局が採用した問題プラント・リストを用いた管理システムでは末梢の問題指摘等の弊害が強く、プラント管理者の自発的な改善意欲が阻害される傾向があったが、この管理方式を廃止した1998年以降、問題プラントに分類されていた発電所の稼働率が飛躍的に向上したことが判明している。現在は規制当局の方針変更もあり、リスク情報に基づく規制要件への移行やPerformance
Indicatorを用いた管理方式の導入によって、規制当局と事業者のコミュニケーションを改善した上での設備利用率向上がはかられている。
・米国では電力自由化の中で償却の進んだ原子力発電所の経済性が見直され、多数基を所有する運転管理会社が大幅な設備利用率向上に向けて積極的な施策を講じつつある。
米国NEI(原子力エネルギー協会)による規制当局とのコミュニケーションの改善推進等の活動が事業者の施策とも相俟って効果を挙げている。
・米国の原子力規制はTech.
Specに基づいた安全規制に終始するので、報告対象事項や検査対象等は明確な基準の下に運用がなされる。一方我が国では、規制の大枠は法律によって定められ、細部の運用は下部の規則や内規類場合によっては行政判断によって行われる。規制対象のボーダーラインにある場合は事業者の判断による事になるが後日問題を生ずる事なきにしもあらずである。トラブルの対処についても安全上重要な事象でない限り、米国では事業者の自主的判断により評価と対策が進められ、規制当局には適宜報告が行われるだけである。
・我が国での長期運転サイクルへの取り組みの歴史が披露されたが、国レベルの検討会が何度も設置され、ほぼ成案を得る段階になって事故やトラブルの余波を受けて実施に至らず潰えてしまっており残念の極みである。
5.3
前回座談会説明事項の補足
・わが国の検査制度の見直しの方向性、フェルミ2号機での組織改革、アメリカの飛躍的設備利用率向上の資料の改訂の説明があった。検査制度の見直しについては当初の意気込みがかなり薄れて、実態は規制強化の方向にいきそうであるとの危惧が報告された。
5.4
討論の概要
(1)米国と我国の規制の相違をもっと明確にする必要がある。
(2)日本流の設備保全管理のよい点は残しておきたい。スクラム停止回数は低く保つ。
(3)トラブル時の規制当局と事業者の責任分界を明確にしておく必要がある。
(4)自主保安の領域への規制当局の介入のあり方を明確にする必要がある。
(5)法定自主検査の取り扱いについても、事業者の自主性の確保策を明確にする必要がある。
(6)我国の立会検査官と米国NRC検査官の法律的な位置づけは大きく異なることを理解する必要がある。
我国の検査官にはNRC検査官のような権限は与えられていない。
(7)検査を合否の判定にもちこむのではなく、監査形の要素を取り入れる方がよいのではないか。
(8)規制上の改善要望が規制当局に十分伝わっていない。事業者はもっと積極的に規制当局等に要望を
突きつけるべきである。技術的に正しい事を正面きって追求すべきである。過去には検査の合理化の
ために正しい理論に基づいて執拗に成果を求め頑張った先輩達がいた。
戦略を立てて、それを簡潔・明瞭に表現する努力がたりない。問題点を明瞭に列挙すべきである。
(9)事業者と規制当局が話し合える状況をつくるべきである。現場の検査官が合否の判定をきめられる
システムを作る必要がある。
(10)日米の規制のあり方を十分比較検討の上改善提案をまとめよう。
(11)日刊レビューの場で座談会を開いて討議を進め、これを掲載してもらえないだろうか。(幹事アクション)
(12)検査見直し検討会が事業者の意見を聞くように申し入れるべきだ。
(13)国の規制だけでなく、自治体の行政当局の動きについても検討すべきだ。
以上
( 文責・座長 篠田 )