座談会:高レベル放射性廃棄物の地層処分―断層活動、火成活動を中心として

 

講師:原子力発電環境整備機構(NUMO) 技術顧問 北山一美氏

    (QAの一部のみ) 広報部長 二口政信氏

日時:2008年1月24日 15:0017:00 於日本原子力技術協会会議室

座長: 運営委員 武藤

 

講演概要

座長から北山氏の紹介の後、同氏から標記テーマについて、わが国の地層処分の考え方とそのステップについて大変参考になる紹介があった。概要は以下の通りである。

 

⑴ 日本で地層処分ができるのか?

海外の地層専門家の一部からこのような疑問が提起されたことがあるが、国内外の専門家による国際テクトニクス会議[⑹参照]で、日本のプレートとそれによる地質構造を説明して、地層処分はわが国でも可能であることを納得して貰っている。

日本列島は、ユーラシア、北米、太平洋、フィリッピンと4プレートが接しているが、これらプレートシステムの枠組みは約1500万年前にほぼ固まり、その運動も約150万年前から安定しており、今後10万年程度は、現在と同様なテクトニクス状態が継続すると思われる。従って、過去数10万年程度の地質情報の外挿により、将来数万年程度までの予測は可能であろうと考えている。

 

⑵ 概要調査地区選定上の考慮事項の設定

「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律、同施行規則」に基づき、法定要件に関する事項として、地震(断層活動)、噴火(火成活動)、隆起・侵食、第四紀の未固結堆積物、鉱物資源を、概要調査地区選定上の考慮事項として設定したが、さらにNUMOの要件として地層の物性・性状、地下水の調査・評価、建設・操業時の自然災害、土地の確保、廃棄体の輸送等が付加的に評価する事項と決められている。付加的に評価する事項は法定要件に対する適格性が確認された地区を対象として、概要調査地区としての特性の総合的評価と、次段階の精密調査地区選定段階以降の選定要件や建設・操業に関する事項を含んでいる。

 

⑶ 地震に関する考慮事項の基本的考え方

処分場への地震の影響は、@地震による「ゆれ」、A地震の発生による「地質環境の変化」、B地震を起し地層の変位・変形を起す「断層活動」に分類でき、@Aとも処分場に大きな影響は与えず、@は耐震設計で対処可能であり、Aは影響が限定的であると考えている。Bは原子力安全委員会の環境要件をもとに、活断層の存在が文献調査で明らかな地域は、主に処分施設及び廃棄体の断層活動の直接的な影響を避ける観点から、概要調査地区に含めないとしている。また、個別地区ごとの評価において活断層の幅及び外側の変形帯に含まれる範囲や活断層の分岐等の発生の可能性が高い範囲、また顕著な活褶曲の分布範囲などは、調査区域から外すことをすることとしている。

 

⑷ 活断層

 活断層は避けることが原則であり、概要調査段階で、ボーリング、トレンチ、物探等を含む地表からの調査を行い、周辺の活断層の存在を調査、確認する。精密調査段階では、地下調査施設での調査で、地下施設周辺の活断層の調査、確認を行うが、こうした調査技術、評価手法等のR&Dは引続き実施する。また、断層活動の発生可能性について確率論的評価手法も検討している。

さらに万一の場合として断層ずれによる人工バリアのせん断挙動を、模型実験による実測データの取得、解析により評価手法の検討を行って破壊しないことを確認している。また、こうした活断層直撃ケースとして、千年経過後に四万本の廃棄体の内300本が破壊した場合で、地下水シナリオを用いても、地表面における放射能による被ばく線量評価は1.6mSv/y程度にしかならないことが示されている。

 

⑸ 噴火

 噴火に関する基本的な考え方は、過去2百万年間火山の分布の傾向に変化が認められず、将来数万年においてもこれまでと同様の地域内で活動すること、また、活動期間が長い火山ほどマグマの活動範囲が広い傾向にあることなどである。これら火山は帯状に分布し、このマグマは海洋プレートと一緒に引きずり込まれた含水橄欖岩から放出された水が、岩石の融点降下を齎してマグマを発生すると考えられている。

一部の大規模カルデラを例外として、大半の第四紀火山がその火山中心から半径15kmの円の範囲内にあることが示されるので、この範囲内の地域は含めないように、概要調査地区を選定する。15km以上の範囲については、火成活動に関連したマグマの貫入、熱や熱水の影響なども評価する。常磐や白浜の温泉は第四紀火山を伴わないが、それ以前の火成活動の影響が残されたものである。

 

⑹ 国際協力及びまとめ

日本の活発な火成活動や断層活動を伴う複雑な地質構造の長期安定性評価では、テクトニクスが重要であり、日本の地層処分の国際的理解や科学技術的検討のため、NUMOは国際テクトニクス会議を設立し、検討結果を海外雑誌や国際会議等の場で発信し、専門家の最新知見やノウハウを統合して、評価手法の体系化に役立てている。

以上のまとめとして、地震・断層活動では、揺れに対する耐震設計と安全確認、活断層を避ける、地質環境に変化が影響ないことの確認等を行う。また、火成活動では、マグマの貫入・噴出や、熱や熱水等の影響を避けることにポイントを置いている。これらは、3段階のプロセスを経て調査・評価を実施しその精度や信頼度が順次向上していく。また、継続的な技術開発とそのフィードバックを続ける事が重要としている。

 

質疑応答 (意見Oを含む)

 座長から講演の最後のまとめで「3段階のプロセスを経た調査・評価」と言う項目に、全体の理解が不十分に思われたので、質疑を始める前に説明を求めた。

 配布資料とは別資料で、市町村からの応募の後、@概要調査地区の選定、A精密調査地区の選定、B最終処分施設建設地の選定の3段階を行うことの説明があった。

 

 火山の15kmのように、活断層からどれだけの距離をとればよいのか?

 応募にあたっては活断層の直上を避けることとしている。さらに、活断層近傍も含めよく調べて、影響がどの範囲まで及ぶかについて調査・評価する。先に進めても好いと判断されれば、次の段階の調査でさらに詳細な調査をして判断する。著しい影響が出そうな範囲には処分場を配置しないようにする。

 

 火山の場合の一部は15km以上で火山活動があるデータ(23)があり、問題ないか? 一部の大規模カルデラの場合がそうで、阿蘇山は15kmでも未だ外輪山の中であり、国内の大規模カルデラは概ね特定されている。概要調査以降は15kmにこだわらないで影響範囲を評価する。

 

 埋め戻し後のモニタリングは必要なのか?

 深い地層に埋設し他の外乱をシャットアウトしており、漏れる可能性は無いので、やる必要ないと個人的には考えている。何度も住民と率直に議論して埋戻し後のモニタリングの意義などを十分話し合い、不要であることを理解してもらえることが望ましい。

 

 埋め戻し前の施設が水浸しになることは?

 勿論、排水は必要であり、電力で実施した事業化計画報告(1999)では、出水の取扱や支保等を検討している。JAEAの瑞浪の経験なども参考にしている。

 

Q 地層の安定性は何年を考えればよいか、10万年か。

A 天然ウランレベルまでの低下を考えれば、4万年程度である。10万年あれば十分だと思うが今後の安全評価の考え方の決定を待つ必要がある。

 

Q 以前、国際的に1万年を目途に考えていた時期があったが、10万年という目途は何が原因で長くなったのか?使用済燃料も対象として考えるからか?

A 使用済み燃料の問題は関係ない。地層の安定性という観点からH12レポートでは10万年程度信頼性がもてる地点があると評価された。1万年は工学的な信頼性を考えたもので地質の安定性とは別の観点であると思う。

 

 先ず応募を求めているようにみかけるが、火山国、地震国の日本で、火山や活断層地帯を除外するような条件を事前によく説明しておく必要があるのではないか?

 そうした条件を含む評価と調査方法は国会でもよく説明したし、各地方には公募資料としてその条件を説明したパンフレットも配っている。

 

 東洋町の場合、反対派の間違った主張もあってあのような結果になったので、特に放射線問題を国民によく理解させるようにすべきである。図19断層によるオーバーパック剪断からの被ばく量1.6mSv/yはそれ程大きな数値ではないが、よく前提や根拠を明確にしないと、数値が一人歩きする。

 これは原子炉の初期のシビアアクシデントの例と同様に思えばよいので、今まであまり外では知られて無かったと思うが、断層が直撃してもこの程度のオーダーで済むと言う事は、良かったと思う。

 第二次レポートに掲載されているので、公表されている。あれは保守的な評価であるが、断層が直撃しても十分大丈夫という論調にはしない。あくまでwhat  ifという万が一のケースとしてその結果のオーダーを理解するものと考えている。

 

 住民参加をどう考えるか 議員と長だけと接触すると密室と非難されるし、住民の参加体制をどうしたら良いと思うか?

 住民を最初から参加させると、反対派が参入してうまくいかなくなることもある。広報の立場でNUMOは未だ一般の人に直接働きかけてない。住民の代表も含む全てのStakeholderに合意を取るのが一番よい方法だと思っているがその具体的方法が重要である。

 

 ステップを踏みながらやって長い時間が経つと、反対の知事が出てきてそれで終わってしまい、長い努力が無駄になる事態にならないか?

 住民に対する説明のやり方として、勉強会と立地を分ける方策を考えた。下北で勉強会をやることにしたら、県知事は文句を言わなかった。時代が変れば変る。逆に、知事が予想もしない方向に行く時期が来て引っ張り凧になるような、びっくりする事態が起きる可能性もある。

 今日の議論のように地点が増えるとか好意的な状況になることを前提に活発な議論はした事はない。将来知事が替わっても住民が支持してくれるような状況を作っていきたい。

 

 TRU廃棄物はどうなるか?

 4月に決まるが、公式には実施主体が決まっていないので、NUMOからは何ともいえない。ただ、準備だけはしている。

 

 併置処分はどうか?

 先ずは同一地域でやれることを決めた後に、事情が許し、検討が深まってから決めればよい。

 

 支保で耐震設計して100年も保たせた後、埋め戻し後の耐震はどうなるか?

 支保の寿命は概ね埋戻し時期+α程度と考えており、それ以後は、廃棄体は地震の揺れでは壊れないので問題ないと考えている。

 

 岩盤の岩石と埋設部の岩質が違うので、亀裂が入って地下水が流れたりしないか?

 ベントナイトは亀裂が入っても比較的短期間に充填すると考えられるので問題ない。

 知事が後で反対したらどうなるか?

 

 かなり時間が経った時のことは想定が難しいが住民の内諾が前提であり、大部分の住民が納得していれば、知事は変えられないと思う。

 

 リスクを完全に理解させるため、説明の仕方を考えるべきである。

 東京で地層処分が可能か? 可能であればそれを考えるべきである。

 地層処分の必要性、重要性、安全性といったことについては説明の工夫をしているし、今後も続ける。

 

 

出席者; 荒井利治 池亀亮 石井亨 石井正則 石井陽一郎 伊藤睦 小川博巳 加藤洋明 金氏顯 西郷正雄 税所昭南 斎藤修 斎藤伸三 佐藤祥次 菅原剛彦 宅間正夫 竹内哲夫 田中長年 丹下理 力石浩 中神靖雄 野村勇 林勉 益田恭尚 松岡強 松永一郎 武藤正 山名康裕 山脇道夫 (以上29)

 

[文責 武藤 ]