会員座談会議事録
新潟県中越沖地震に対する対応
日時 2008年7月17日15:15〜17:15
場所 原子力技術協会会議室
講師 東京電力(株)執行役員 原子力設備管理部長 吉田昌郎氏
司会 益田恭尚
講演概要
1.新潟県中越沖地震の特徴
* 既に報告しているように原子炉建屋基礎版上の地震加速度は総て設計加速度を超えていたが、1〜4号機の東西方向が大きく、5〜7号機はそれに比べ有意に小さかった。1〜4号機の地震動が大きくなった原因調査を続けてきた。漸くその概要が掴めたので、国と審査委員会に報告した。先ず開放基盤面(地下約250m)の地震動採取できたサービスホールの値を参考にして、それぞれの地盤定数などから計算により推定した。それを基に原子炉建屋基礎版上の地震加速度を算定した。1〜4号機側最大は1699Gal、5〜7号機側最大は766Galとなった。(これに対応する原子炉建屋基盤における観測記録はしれそれぞれ680、442Gal、)
* 震源から開放基盤面までに増幅された要因は、震源での増幅1.5倍、深部地層の不整形性の影響2倍、褶曲構造による増幅1号機側で2倍、5号機側で1倍程度と推定された。
* 建物が埋められていることによる動的相互作用の効果などにより、建屋の応答は開放基盤の地震動レベルより小さくなる。
2.中越沖地震の発電所への影響
* 外部電源が生きていたので、ディーゼル発電機等の非常用電源に頼ることなく、通常系統で停止できた。
* 岩着されている原子炉建屋・タービン建屋内で確認された不適合はAs、Aクラスは損傷なし、B、Cクラスでは原子炉建屋天井クレーンジョイント部等一部損傷が生じたのみで、Cクラスも異常がなかった。
* 原子炉建屋では耐震設計に動的解析と静的地震力が考慮されているが、原子炉建屋内で健全な状態が保たれたのは、特に建築基準法の3倍という大きな静的地震力が考慮されていたためである。
3.健全性WGの状況
* 健全性評価として設備点検と地震応答解析を実施してきた。
* 先ず7号機を中心に点検評価、地震応答解析評価を実施したが、総合評価は7月中に終了する予定である。
* 7号機の主要設備の地震応答解析結果はすべて評価基準(許容応力)範囲内である。そしてこれは弾性値の範囲内である。
4.基準地震動Ssの策定
* 今回の調査結果を反映した活断層を検討用地震とし、基準地震動を策定した。(基準地震動1号機側2280Gal、5号機側1156Gal)
* これにもとづき発電所の耐震強化に向けた揺れの大きさを決める。(建屋基盤では1号機側Max829Gal、5号機側Max656Gal )
5.災害に強い発電所に向けて
* 全号機原子炉建屋基盤の地震の揺れを1000Galとして、耐震強化を行う。
* 主な強化ポイントは配管・トレイ、主排気塔、原子炉建屋屋根トラス等
質疑・討論
(司会)まず地震動についての議論から始めたい。
(林)一般の建物は上の柔らかい層で増幅されるが、原子力発電所は岩盤の上に建てるので揺れが少ないと説明されてきたが、上の柔らかい層で減衰されるというのは、他の発電所の場合と違うのか?
(Ans)観測波から見ると間違いなくそういうデータが得られた。開放基盤表面を自由表面とすると、計算では1699Galであるが、実際は(自由表面ではないので)900Gal程度であった。これが建屋基部では2/3程度に減衰する。建屋がない所では増幅し地表では1千数百Galとなる。相互効果ということで説明している。
(竹内)(深部地層構造による増幅という現象は)他の発電所へも影響があるのではないか?
(Ans)堆積層(4〜5km)がこれだけ厚いところはない。近いのは福島と浜岡。従って他への影響は少ない。震源での1.5倍の増幅は他への影響が大きいと思われる。
(竹内)これだけ調査・検討しないと認められなくなるのか?
(Ans)今後は詳細な調査が要求されるであろう。
(竹内)国がこの地点では建設するなと言ってくれた方がよくないか?
(Ans)地震の専門家はコメントはすが、どうしろという立場にはない。国も責任を取るようなことは言わないのが実態である。
(山名)震源での増幅値の1.5倍はエビデンスはあるのか?
(Ans)従来は太平洋側の耐震スペクトルの統計処理値によっていたが、今回の発生場所に近いEB断層は、それより大きそうだということは分かった。近くの断層については強度を大きく見る必要があるというのが現在の方向となっており、各社もチェックしている。
(林)柏崎はこれで先生方の了解は得られるのか?
(Ans)7〜8月に中越沖地震の反映事項評価のための委員会が開かれる予定。地震学者は多士済済なので、一定方向に行っている状況ではなく、安全委員会でもまだ議論が集約していない。今回提示している内容に疑義も述べられているので、もう一度見直し評価する必要があるかもしれない。
(石井亨)震源の増幅値の1.5倍は柏崎特有の値であろう。観測値のないところでは震源倍率をどう決めたらよいのか?
(Ans)各発電所によって違うが、観測値がないと推定するのは厳しいかもしれない。
(司会)次は応力解析や評価に関する質問に移りたい。
(林)7号機は7月に点検が終わるようになっているが、その後はどうなるのか?
(Ans)今週の評価委員会で個別点検が終了し、これから系統試験に移行することが決まった。系統試験が終わったらプラント起動試験のプロセスに入る。
(益田)昨日のNHKの中越沖地震1周年のニュース(9:00)では、残留熱除去系配管の応力が厳しいことが報じられ、それについて班目先生のコメントがあったように報じられたが、どうもNHKによる解釈が入っているように感じたが?
(Ans)NHKの放送については早速コメントを出してある。当該部も評価値以内に収まっており、弾性範囲内で問題ない。一部だけが取り上げられ報道された。
(石井亨)鉛直地震動が大きかったが、設計上ドミナントにならないのか?
(Ans)測定された地震動そのものを使って解析している。建屋は大丈夫だが設備は3波合成で許容値ギリギリの箇所もある。
(益田)6号機が大きいのはなぜか?
(Ans)各号機で埋め込み状況に差がある。6号機では減衰が少なかった。
(司会)対策に移りたい。
(伊藤)埋め戻し部の対策はどうしているか?
(Ans)沈下の影響を受けないよう、直埋はトレンチ化や地上化する。また緊急時に必要な道路などは地盤の強化や移設をする。
(竹内)主変圧器の点検結果はどうだったか?
(Ans)6、7号機は工場に持ち帰り点検した結果問題なかった。3号機も問題なかったが1、2、4、5号機は取り替える。
(石井陽)これまでにない報告だ、鉄、銅の剛と絶縁物という柔、やはりさすがである
(加藤)主発電機はどうだったか?
(Ans)シールリングに当り傷があった程度で異常はなかった。
(税所)6、7号機のタービンの羽根のキズは地震によるものか?
(Ans)地震とは関係ない。運転時間からみて志賀、浜岡の損傷とも違う。現在調査中。
(石井陽)中央制御室はどうか?
(Ans)免振床もそうでない所も問題なかった。建屋がしっかりしている所は問題なかった。
(林)「止める」「冷やす」「閉じ込める」機能の設備はどうだったか?
(Ans)全く損傷なかった。
(石井陽)変電設備はどうか?
(Ans)一部送電線のガイシが割れた程度で健全であった。
(竹内)くいが基盤に届いていない箇所があったが、どう強化したか?
(Ans)地盤改良のため くい打ち、凝固材で土を固めるなどの処置を行った。
(益田)設計基準は減衰定数や許容応力等余裕をみて設計している。今後設計地震動が厳しく決められるとその点考慮が必要だと思うが?
(Ans)その辺の議論や弾性範囲を超えていても再使用可能といった議論はこれから。
(石井陽)今後、免振など機械的な対応も考える必要があるのではないか?
(Ans)地震動一辺倒に限界、は同感。将来炉は機械設計も含めで合理的な答を求めていくべき[動きつつある]だ。上物については、何があってもよいようにすることも、考える必要があろう。
(落合)FB断層は今回動いたので、もう(数百年は)動かない。従って考慮する必要がないのではないか?
(Ans)今の考えは、いつ動いたかには関係なく、歴史上の最大地震を考慮するとされ、何時動いたか(次に動くのは数百年後などいったこと)は考慮されない。地震学者の意見は(理屈から考えると)不合理と思う。現実的には可能性としては陸側の長岡平野西縁断層帯の方が高い思われる。
(林)地元の受け取り方はどうか?
(Ans)昨日報じられたアンケートでは6割が運転再開に賛成している。拒否しているのは一部の先鋭的な方々のみのように見受けられる。電力は地元の方々に現場を見てもらうことを強力に推進するとともに、地域説明会も頻繁に開催、生データも含め情報公開を徹底している。
(司会)これをもって討論会を終わります。講師の吉田さん、どうもありがとうございました。(拍手)
出席者:(敬称略、順不同)
石川迪夫、竹内哲夫、宅間正夫、益田恭尚、伊藤睦、土井彰、加藤洋明、松永一郎、金氏顕、石井亨、松岡強、石井正則、齋藤伸三、斎藤修、掘雅夫、西郷正雄、石井陽一郎、古田富彦、野村勇、力石浩、矢野隆、黒川明夫、菅原剛彦、水町渉、税所昭南、末木隆夫、齋藤健弥、林 勉、前川則夫、清野浩、辻萬亀男、