座談会 中国の電力事情

−中国のエネルギー事情と原子力動向−

 

日 時: 平成16年9月15日(水) 15〜17時

場 所: NUPEC MTビル 6階会議室

講 師: 古市 正敏氏

(社)海外電力調査会 理事 電力国際協力センター 副所長

 

<講演要旨>

(講演は75図に及ぶプロジェクタ―で行われたが、その要旨のみ記述する)

海外電力調査会(海電調)の紹介
 海電調は、ワシントン、パリ、北京の3箇所に海外事務所を置き、海外諸国の電力事情を中心とした調査研究を実施している。特に、電力国際協力センターでは、アジア諸国を中心とした開発途上国に対して、各種の国際協力を行っている。

 

海電調と中国の電力機関との調査・交流

中国の電力事情の情報は、中国の電力機関との定常的な交流なくしては入手が困難なので、海電調は「国電信息中心」(電力情報センター)と20年間にわたり、研修生の交換などの交流を続けている。その際北京事務所の存在が有効に機能している。

原子力では、電力大の協力を得て、秦山原子力発電所の安全運転や千人研修などを通して協力している。

また、水力、火力、分散電源、省エネ、ガス技術などの分野での調査や、電力法制定のための、わが国の電気事業法の勉強や、中国が興味を示している揚水発電技術を含む水力セミナーなど、各種分野の協力を行っている。

 

(1)中国のエネルギー動向

2001〜200年の中国のエネルギー政策(「十・五」計画)では、西部開発、省エネ、環境問題が強調されている。
 また、中国の電力政策(「十・五」計画)では、電源構成全体の調整、原子力発電の適度な開発の方向が示された。

●最近の電力不足に対応して計画変更がなされている。 2003年9月発表の電気事業の発展原則では、原子力発電の積極開発、電力体制改革の深化などが目玉となっており、2006〜2010年の「十一・五」計画の特徴になる予定である。

●中国の1次エネルギー消費構成は、石炭が中心(6〜7割)であり、消費量は年間14億トンで、世界最大の石炭消費国である。 日本は石炭の液化を止めたが、中国は熱心に開発を進めている。中小炭鉱は整理される方向にあったが、石炭の需要の高まりにより復活の方向にある。中国産石炭は需給の逼迫により日本にも供給できなくなる恐れあり。中国では石炭の国内価格の高騰と国内輸送力の不足が、エネルギー供給のネックになっており、中国はオーストラリア等、海外炭に手を伸ばしている。現在、西部の産炭地で発電し、東部の電力消費地に送電する(西電東送)プロジェクトを進めている。また、環境面では、脱硫対策に力を入れようとしている。

●中国は1993年から石油輸入国で、その消費量は2003年に日本を抜いて世界第2位(2億5千万トン)である。ロシア、中央アジア、中東などに資源外交を展開している。石油備蓄基地も計画中である。中国の石油需要の急増は、日本へ大きなインパクトが予想される。

●中国の天然ガスでは、2004年9月に「西気東輸」パイプラインが完成したが、外資がプロジェクトから撤退する等、採算性に問題があるといわれている。 一方、LNGターミナル建設計画とともに、中央アジア、ロシアからのガスパイプライン構想が進行中である。

●中国は積極的に海洋資源の開発(東シナ海、尖閣諸島、南沙諸島など)を行っている。尖閣諸島の資源開発で、日本との外交問題になっており、南沙諸島の資源開発では、フィリピンなど東南アジア諸国との外交問題となっている。 

西部大開発の一環として、石炭火力や水力発電の「西電東送」プロジェクトがあり、北部、中部、南部の3ルートから送電する計画である。「西電東送」の象徴的なプロジェクトである三峡ダムは、総出力が1820万キロワット(2009年完成予定)で、その上流にも複数の開発計画があり、全体で5000万キロワットに及ぶ水力発電基地となる。

 

(2)中国の電力需給

●中国のGDPの推移は、過去20年間で急激に増加している。 所得4倍増計画(20年で個人所得4倍)を進めており、2020年 4000ドル/人を目標としている。この時点で国としてのGDPは日本をはるかに上回る。

  GDPの電力需要の長期マクロトレンドは、両者に若干の乖離が認められるが、GDPは政策的に操作されやすい要素もあるので、むしろ電力需要が実態を表している。

●中国の発電設備容量は、この10年間で約2倍と急速に増大し、現在3.85億キロワットで、内火力が74%、水力が24%、原子力他が2%である。また発電電力量は、現在1.9兆キロワット時で、内火力が83%、水力が15%、原子力他が2%である。中国の電力消費構成の特徴は、工業用が7割(先進工業国では3〜4割程度)を占め、家庭用の比率が低い。

●中国の電力需要予測は、電力消費量が2020年には約5兆キロワット時、また発電設備予測は、現在の約4億キロワットが2020年には9.5億キロワットとなり、現在の米国の水準を上回ることが予想されている。

●これに見合う中国の新規電源開発の規模は、年間3000万キロワット(関西電力、中部電力の保有設備規模)を計画しているが、中国は既に1990年代に同規模の電源開発を実現させた実績を有する。なお、この計画の実現には、電源開発資金として約1,500億元(15円/元として約2.3兆円)が必要であると試算される。 

 

(3)中国電気事業の民営化

中国は、1990年代の電力不足時代に、内・外資を優遇して電源開発を進めたが、アジア金融危機前後に設備過剰時代を迎え、国家電力公司の分割民営化など、電力競争市場導入による効率化を計画した。1998年には政企分離(政策機能と企業機能の分離、民営化)、2003年には発送分離(発電と送電の分離)を実施し、国家電力公司が発電5社、送電2社に分割された。

●送電部門は、従来は省、区単位で自立していたものを、6大区域電網(東北、華北、華東、華中、西北、南方各有限公司)に再編成された。各区域電網の発電規模は、3000〜7000万キロワットで、うち4区域電網は東京電力相当の規模である。

●電力自由化の一環としてプール市場の展開が計画されており、既に6省市で試行が開始され、今年から東北電網でプール試行を開始したが、電力不足で現在中断している。

 電力小売価格の現状は、地域格差が大きく、広東が非常に高くなっている。

 

(4)中国の電力需給の逼迫

●中国では、電力多消費産業の需要および各家庭の旺盛な空調需要の増大などにより、昨年から電力の需給が逼迫しており、22の省、直轄市、自治区で電力の供給制限が行われた。例外として、山東省は歴史的に電力の自給体制を敷いており、東北は産業の発展が遅れているため、電力の需給は逼迫していないが、他の区域はピーク需要および発電電力量とも2桁の伸びを示し、電力行政、政策の失敗も加わり、深刻な電力不足の状況にある。

●電力行政、政策の失敗としては、1990年代の需給緩和に際して行った3年間のモラトリアムの反動が挙げられる。

  前述の想定を超える電力需要の急増以外に、都市部における配電網の容量不足および農村部の高電力料金の格差是正に伴う電力需要の拡大と言うような特殊条件も原因に挙げられる。

 また中国では、電力で産業調整政策が行われていることも特徴的で、これが電力不足の一つの原因になっているようにも思える。 

●今年の電力不足は、全国で2000〜3000万キロワット規模と予測されており、既に1〜3月では24の省・市・区で供給制限が行われた。
 特に華東地区が深刻で、大きく見て1700万キロワットの不足が予想されている。この電力不足は2006年まで続くとされている。
 中国の電力政策の難しさの一つには、この電力不足を急速に解消した後の電力需要が本当にあるかと言うことがある。

 

(5)中国の原子力動向

●中国の原子力長期計画は、2020年までに3200〜3600万キロワットの建設を目標としている。これは2020年の全設備容量9.5億キロワット(目標)の4%に相当する。

また新規プラントの炉型は、2006年以降「3設計方式」のPWRと重水炉に統一される。

●中国の原子力発電事業者は、秦山T〜V期などを有する中国核工業集団公司(CNNC)、大亜湾などを有する中国広東核電集団有限公司(CGNPC)、中国電力投資集団公司(中電投)の3社であるが、中電投はまだ地点を持たない。

 海電調は、CNNCとは今までに500人以上の人を受け入れるなど、深い関係を築いており、この11月にもミッションを迎える予定である。

●中国の原子力開発地点は、運転中が5サイト9基(7014MW)、建設中が1サイト2基(2120MW)、建設候補地が6サイトである。

 

(6)中国の環境問題

●全世界のCO排出量は、237億トン―CO(2001年)であるが、その内中国の占める割合は13%である。今後のエネルギー需要の急増を考えると、CO排出量抑制策が必要となろう。

 また中国のSO排出量(2002年)は、単位排出量で14.3g/kWhで、日本の70倍である。最近中国も脱硫装置を付けることを決定したが、殆どの主要都市で、日本主要都市平均濃度0.0143mg/m3を数倍上回っている。

 逆に中国主要都市の二酸化窒素濃度は、低NOXバーナーはあるが、脱硝装置がないにも係わらず、日本の主要都市平均濃度0.051mg/m3より低く、南方都市で0.032mg/m3、北方都市で0.037mg/m3である。これは主としてモータリゼーションの相違によるものと思われるが、中国はこれからが問題である。

 また中国では、浮遊粒子状物質も多く、特に北方都市ではTSP年平均濃度が 0.359mg/m3と高く、日本の主要都市平均濃度の10倍である。

 

(7)中国の電力動向と日本の戦略

●中国の抱える電力需給上の問題は、設備率(発電設備容量/最大電力)が1.58(2002年)と大きい(日本は1.33)のに電力が不足することである。これは休止設備とか発電効率の悪い設備が多いとか、送電網の脆弱性とか、水力発電所の出力低下とか、いろいろな原因が考えられるが、よくチェックする必要がある。

●中国の生産効率の課題は、日本の1/3のGDPに対して、なぜ2倍の電気を必要とするかと言うことである。これは電力多消費型産業の比率が大きいとか、生産効率の悪い工場が多いとか、省エネ型電化製品(エアコン等)の普及が遅れており、メーカーが育っていないことなどが原因として挙げられる。

●日本の対中国戦略としては、日本の優位性を生かしたアプローチが望ましい。例えば、技術面では効率的な発電技術、安定性では効率的な保守管理、電力系統の安定化、資金面では高い供給信頼度、負荷の平準化、環境面では環境負荷の低減、新エネルギー発電、信頼性では電源立地の円滑化などが挙げられる。

●世界市場の60%を占める液化天然ガスの戦略的な海外調達が、資源小国の日本には特に重要である。中国をはじめ近隣のアジア諸国と協調しつつ、価格交渉力のアップ、弾力的な調達計画、燃料輸送コストの低減を図ることが大切である。合せて国内の備蓄も忘れてはならない。

●中国は、近隣諸国への進出を視野に、戦略的に動いている。例えば、隣国のラオス、ベトナムの上流地域にあたる雲南には億単位の水力資源が眠っており、南方電網から東南アジアへの電力供給の可能性も視野に入れて動いている。日本は残念ながらそのような戦略性に欠けるが、中国は既に1980年代からアジア戦略を考えている。

 

備考:上記の古市氏のご講演には、アシスタントとして海電調電力国際協力センター業務部副長 樋口良典氏のご協力を頂いた。