環境問題・座談会(第39回運営委員会に引き続いて)議事録
(副題:脱温暖化2050)
1.日時 : 2005年4月27日(水) 14:00−15:15
2.テーマ: 2050年脱温暖化社会実現に向けたシナリオ研究アプローチと対策オプションについて
3.講師 : 国立環境研究所 藤野純一 主任研究員
4.議事要約:
国立環境研究所で開始されている前記研究プロジェクト(略称“脱温暖化2050)を、原子力の役割に関する説明も含めて、紹介して戴き、その後質疑応答が行われた。
5.講演の要約:
前回の西岡理事による炭素循環社会の解説に続いて、今回は現在環境研で進行中の“脱温暖化2050”研究プロジェクトの紹介があった。これは2050年までに脱温暖化社会を実現するための方策を3年間かけて研究する大プロジェクトである。
国連IPCCの世界シナリオは2100年迄を描写しているが、このプロジェクトは2050年までと、社会インフラの変更が可能なタイムスパンで、かつ孫の代ぐらい迄の現実的時間スケールを選んでいる。
1)
1990-2001年のエネルギー集約度(一次エネルギー消費量 / GDP)については、日本は、ほぼ一定か、やや漸増であるのに対し、英、独、仏は漸減一途の傾向である。これは、1990年頃までに日本は省エネがほぼ飽和に達しているのに対し、欧州諸国はこの期間省エネが進んできた事を示している。
2)
通常の対策ケース(forecasting:現状で考えられる最善の方策を延長して、将来を考える)ではグリーンガス(GHG)を40%削減するのがせいぜいであり、脱温暖化の対策ケース(backcasting:目標とすべき将来の社会を想定し、これからバックして現在の対策を考える)を取り上げない60−80%の削減の道筋は見えてこない。
(注釈)前者はbottom up 方式、後者はtop down 方式とでも言える。
この目標とする2050年脱温暖化社会の描写例はスロー文化社会とでも云うべきもので、エネルギーの供給と需要の両面からの対策が必要である。
3)
これら両面の対策を効果的に実施するためには、政策的に、
(1)革新的な“技術”の開発と導入
(2)それを促進する“制度・仕組み”の設計と実行
(3)人々を行動ずける“しかけ”の設計と実施
の3つが必要である事が,自動車の例をあげて説明された。
4)
エネルギー供給は
(1)大規模供給:化石燃料、原子力、再生可能エネルギーの順番から再生可能エネルギー,原子力、化石燃料の順番に入れ変わるような構造の変化が必要
(2)分散供給 :燃料電池(定置、モバイル)等の革新技術の導入が必要
5)
原子力の役割:
(1)温室効果ガス削減に役立つ“技術”の開発
(注釈)原子炉そのもの及びその応用技術の意のようだ。
(2)技術の開発・導入を促進したり,人々の行動を促すような“制度・仕組み”の設計・実施
(例)安全安心(事故防止,核不拡散,テロ対策)の仕組み作り,人材育成。
(3)温室効果ガス削減にむけた“一人一人の行動ずけ”を促す
(例)原子力発電の現状の理解、原子力が不可ならば量的,質的に十分な代替エネルギー導入を本気で考えるなど。
(4)温室効果ガスの削減のみでなく、それと同時に世界二極化の問題(貧困,エネルギー,水、食料)や先進国共通の問題(高福祉、高負担)などの“構造的問題点”を解決する事が望ましい
6.質疑応答の要約:
集約度のグラフに関して
・
このグラフに掲載されている日本シナリオでは80%削減にむけての施策になっていない。
・
日本の場合switchover、combineのケースには原子力は入っているが、現状維持程度であり、原子力拡大ケースではない。
・
エネ総工研の松井一秋理事から原子力関係のデータ整備の助言を貰っている。
・
日本の脱温暖化社会実現のための抜本的対策(80%削減)としては原子力拡大オプションの検討が是非必要と考えられる。これには、原産で纏めた“2050年の原子力ビジョン・ロードマップ”で述べられている、原子力拡大ケースのデータが参考になるので、このオプションを検討してほしい。
以上