電動推進自動車の現状と将来

46回「エネルギー問題に発言する会」座談会議事録

 

日時:平成17年11月16日() 15:00-17:30

場所:NUPEC虎ノ門4丁目MTビル6階会議室

講師:東京電力株技術開発研究所 姉川尚史氏

原子力システム懇話会   堀雅夫氏 

(財)電力中央研究所   日渡良爾氏

コメンテータ:()電力中央研究所 岡野邦彦氏

座長:伊藤 睦

 

座談会主旨

大量の化石燃料に依存している輸送部門のエネルギーの脱化石に向けて、水素燃料電池自動車と共に最近話題になっている電気自動車とプラグイン・ハイブリッド自動車の国内外の開発導入の状況と普及した場合の電力需要への影響等などについて、3人の講師によるお話とコメンテーターのコメントを伺い、質疑応答お行った。

 

議事要旨

始めに座長の伊藤より、本日の座談会の企画経緯と趣旨を説明し、引き続き各講師の講演と、コメンテータのコメントの後、質疑応答を行った。

その要旨は以下の通り。

講演1:EVと原子力

講師:東京電力梶@技術開発研究所 電動推進グループ

グループマネージャー 姉川尚史氏

要旨:原子力発電の業務から電気自動車の研究に移った経緯などを紹介された後、PPにより最近の電気自動車の解発状況を説明。その要旨は次の通り。

何が問題か?

世界のエネルギー資源埋蔵量については、色々の説があるが何れ枯渇すると信じる。

ウランはプルトニューム利用により、利用可能年数は数百年に延びる。

しかし、高速増殖炉サイクルの実用化が30年後では間に合わない。

早く世の中の意識が代わって、原子力の意義の見直して、サイクルを最短で実現してもらいたい。

CO2削減も、今の状態では京都議定書の遵守も定かで無いし、地球温暖化防止には、排出量は90年代の1/3,1/4にしなければならないと言われている。

信憑性に疑問はあるが、何れにしろ、もたもたしていられない。早く行動しなければならない。

 

注力すべき分野は?

我が国の最終エネルギー消費量の推移を見ると、輸送部門のエネルギー消費量は伸びており、全体の1/4も使っている。ただし、伸び率は鈍化している。

原子力は電力で使うので、電化の度合いに注目する。

輸送部門は99%が化石燃料で、電化率は僅か1%。

輸送部門のエネルギー消費の割合は、自家用自動車が半分以上を占めている。

1世帯当たりの年間エネルギー消費は、冷蔵庫(75ℓ石油換算)や家電製品、空調(111ℓ)、給湯(390ℓ)などを全部足しても、自動車の消費(1,139ℓ)に満たないほど、自動車のエネルギー消費量は多い。

ここを何とかしなければならない。

 

燃料電池車は助けになるのか?

自動車会社も努力しており、燃料電池車やハイブリッド車の開発をしている。

しかし、燃料電池車は難しい。

触媒に白金を使っており、価格も問題だがその量が問題である。

一台で100g使うとしても、500万台でも500トンの需要となり、現在世界のプラチナ需要が170トン程度であり、とても供給できない。触媒を何とかしなければならない。

更に、耐久性も未だ実証されてなく、燃料供給インフラも費用が高くガソリンスタンド並みの設置は難しい。

ハイブリッド車も、所詮、燃料は化石燃料である。

 

何が最も環境によいのか?

電気自動車(EV)の総合効率(Well to Wheel)は燃料電池車(FCV)やハイブリッド車(HV)に比較しても非常に高い。

ある自動車メーカのホームページに記載している数字で見たものであるが、EVはが20%程度とHV(26.4%)やFCV(29%)に比べて低くなっているが、これは原子力発電を考慮しておらず、かつ石油火力も古い時代の発電所の効率で計算しており、また送電ロスも古いデータを用いていると思われる。HVについては当社の業務車両の実績で算出し、FCVについては、将来の理想的な効率に代えて、定置型の実績値で計算し直して比較すると、EVの方が高くなる。ただ、最近の改良されたプリウスの効率は初代のものより改善されているようだ。

CO2の排出量も原子力の電力であれば少ないことは自明である。

しかし、電気自動車の普及は進んでいない。

HVはプリウス発売以来1998年ごろより急速に伸びており、LNG車もガス会社がガススタンドを多数設置して頑張っており堅調に増加している。

 

なぜEVは広まらないのか?

1990年ごろは鉛電池であったので、重量が重く、走行距離も40kmから60km程度と航続距離が短く又値段も400万円〜700万円と高いので普及はしなかった。

最近のリチュームイオン電池は発展途上の有望な技術で、電池の性能向上が期待できる。コストは材料として高価なものを使用していないので、市場が出来れば量産されて安くなる。

EVのコスト構成は、電池が半分(49%)であり、そのほかコントローラーなどのパワーエレクトロニクス部分が多い(18%)。

これ等は電機製品であり量産効果が発揮できる。

 

どれくらい走ればよいのか?(航続距離は本当に短いのか?)

ガソリン車は400km走れるので、400km走るべきとの議論もあるが、EVにとって現状これはキツイ要求だ。

電池は高価であり、高額な設備投資になるので、ランニングコストである燃費は安いのでできるだけ稼働率を上げる方が良い。

一般の自家用車は平均で1日40km走るといわれるが、日常は殆ど走らず、偶に長距離を走るので稼働率が悪くEVに代える対象としづらい。

業務車両は、持ち場が決まっており1日100km走れば十分である。

東電の業務車両の場合を各地域で分析すると、都市部では1日80km走れば90%満足できる。それでも、心配が残る10%に対しては、急速充電スタンドを設置することで対処する。東電の各支店、営業センターに設置すれば、都心部に約50箇所程度のスタンドが出来、ガス会社のLNGステーション58箇所に匹敵し十分である。

急速充電器は従来の鉛電池に対しても作られたことはあったが、電極での反応が化学反応であるので、無理に押し込むと電池を損傷する恐れがあり、早くても1時間から2時間半か掛かった。

リチュームイオン電池では15分充電を目標にしているが、電池の受け入れ性能としては10分の急速充電ができるようになっている。

 

電池は安くなるか?

リチュームイオン電池は、電極で化学反応をしていないので、電極が傷みにくい。従って寿命も長い。鉛電池に比べて10倍長持ちすると言う実験室データがある。

ハイブリッド車の普及と相まって、電池の性能はどんどん向上しており、充電のスピードも上がっているし、価格の低下も進んでいる。

電気自動車用としては100円/Whを切る事が必要であり、50円以下になったら電気自動車の方が得になると推測している。もう既に小型の電池はこのゾーンに入っている。

リチュームイオン電池の価格構成要素を見ても、高い材料は使っていないので、年2〜3万台作れば、60円/Wh程度に下がることは十分に期待できる。

 

なぜ自動車会社は作らないのか?

車重と販売価格の関係で、小型車は利益率が悪いことと、EVにしてエンジン関連の産業が一気になくなると困るからであろう。HVを経由してやっていくのではないか。

ただ、重い車ほど環境に悪い(燃費が悪い)ことを認識しておく必要がある。

 

東電は何をするのか?

一つの企業だけでEVの市場を開拓するのは難しい。

自動車会社、電池メーカや充電インフラを作る電力会社などとの企業連合で市場を創造していく必要がある。皆にメリットがある枠組みが作れるというところがポイント。

その中で、電力会社はリードユーザーとして、充電1回当たりの走行距離が短い自社の業務車両、特に小型車、軽自動車の電化を推進したい。

東電の業務車で軽と小型が6,000台あるが、地域性から当面都市部の3,000台の軽自動車を電化することを目標にしたい。必要な電池量を減らしてコストを下げる為に、充電スタンドを戦略的に設置する。

これを第一段階として価格低下、利便性向上、知名度向上を図り、

その次のステップでは、環境性への配慮を重視する姿勢と利用形態の観点から,EVの利用にメリットを感じて頂ける国・公共団体や都市部で軽、小型自動車を使う企業へと利用が広がることを期待している。

こうして、需要が拡大し、自動車会社と電池メーカが本格参入することで、

第3段階として、利便性、経済性が向上し,EVの魅力を出して、本来の目的である一般の市場に普及してくれることを望んでいる。結果として、原子力の活用について一般の方の理解にもつながることを期待する。

 

 

講演2: プラグイン・ハイブリッド車導入の効果

講師: 原子力システム研究懇話会・原子力水素研究会代表 堀 雅夫

要旨: 輸送部門のエネルギーを原子力により供給する取り組みとして、プラグイン・ハイブリッド自動車について、その概要、米国・日本における導入効果、米国における導入推進の動きなど、スライドを使用して解説した。その要旨は次の通り。

 

プラグイン・ハイブリッド車とは

自動車へのエネルギーの流れとしては、一次エネルギー(化石燃料、原子力、再生可能エネルギー)がエネルギーキャリア(炭化水素、電気、水素など)を経由してエンジン車(ICE―V)、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(B−EV)、燃料電池車(FCV)に供給される。

プラグイン・ハイブリッド車(PHEV Plug-in Hybrid Electric Vehicle)とは、HVに外部から充電用の差込プラグを備え、電池の容量を増やし、走行しない夜間等に商用電源からバッテリーに充電し、HV車より電力走行機能を増強した車である。

PHEV車の走行のエネルギー源はガソリンと電力であり、現在狙っている所はその約7割を電力走行とすることである。

PHEVの開発は,自動車メーカではDaimler社がSprinterバンの開発で先行している(米国電力研究所と協力)。米国では、既に3台走っており、近いうちに更に10台加わると言われている。

ハイブリッド車の形式は種々あるが、プラグイン化を狙えるのは、Priusのようなフルハイブリッド・タイプか、或いはSeries HEVと呼ばれるエンジンとモーターが直列になっているタイプで、これに外部充電出来る差込プラグを設ける。

 

アメリカにおける動向

アメリカでPHEVを主唱しているのは、輸入石油を減らしてエネルギー自給率を上げる活動をしている”Set America Free”などの団体と、それに環境派の団体である。

情報連絡推進活動の中心的な団体は”CalCars”で、ここではプリウスをPHEVに改造して実際に走らせている。プリウスを改造するキットも発表されており来年から売り出すとのこと。このように、自動車会社以外の運動が激しくなっている。

PHEV導入の狙いは、米国の車の半数は1日20マイル以下の走行であることから、この部分を電力駆動にすれば輸入石油への依存度を減らす事ができるということ、さらに燃費が安くなるメリットがある。

 

テネシー大学Uhrig教授の試算

このような環境派や政策的な動きとは別に、6月の米国原子力学会でテネシー大学のUhrig教授が米国の車をPHEVに置き換えた時の効果や必要電力量、必要原子力発電容量などを試算して発表した。これが、私の検討の基になったものである。

この内容は時間の関係で簡単に説明するが、米国の乗用車とその他の軽量車22500万台が30年かけてPHEVに切り替わるとし、その半数が1日15マイル,あとの半数が35マイル電力走行するとし、残りはガソリンで1ガロン20マイルの燃費で走行するとして計算して、1日当たり670万バレル、約74%の石油節約になるとしている。

走行費用も、3.6セント/マイルでガソリンに比べて1/3であり、税金を差し引いても半分である。3$/ガロンのガソリンが1年間で約1,500$の節約になる。

充電のための電力は8時間充電で442GW、米国の時差や現在の余剰電力を考慮に入れても200GWは必要で、100万KWの原子力発電所200基の増設が必要だが、これを30年間でやる事は不可能ではない。

水素自動車に対して有利な点は、より簡単で、より早く達成出来、費用対効果も良い、できるだけ早くPHEV化したほうが良いというのが結論である。

ただ、種々の課題も指摘されており、とくにバッテリーが問題であるとのこと。

 

日本の場合の試算

日本の場合について、Uhrig教授と同様の手法で計算した。日本では、約54百万台の自家用乗用の登録車(普通・小型車)と軽自動車があり、これをPHEVに代えた場合どうなるかを計算してみた。これ等の車は実働率(実際に走行する日数の割合)が大体7割で、走行日には平均で軽自動車は約30km、登録自動車は約40km走行としたが、このあたりの想定は難しい。

軽で40km、登録車で50km走るバッテリーを積んで、電力走行の割合を夫々78%69%として計算した。以上の前提で、走行コストは、ガソリンに比べて登録車で1/5、軽自動車で1/4.5になり、この差額がメリットである。税金を考慮に入れればもう少し差額は小さくなる。1日50kmの走行電力を夜間8時間で充電すると100V24A、平均で月約200KWHの需要になる。

日本全体で約5千万台がPHEVに代わった時の電力需要は約45GWとなる。深夜の余剰電力は現在50GW程度あるのでこれで補なうことができるが、その分は火力発電となる。自給率向上と環境保全のためには、将来は原子力などクリーンで自給可能な発電を増やした電源構成に変えていく必要がある。

 

最近のPHEV推進への動向

PHEV推進への動きでは、今年に入って、ニューヨークタイムス、ワシントンポスト、その他雑誌等の論評が出て来ている。8月に成立したエネルギー法にも議員提案でPHEVの予算が入っている。

地方都市や電力会社でも推進の動きがある。テキサス州オースチン市がオースチン電力と協力して、導入キャンペーンを始めた。Lieberman上院議員などが石油削減に効果がある車の販売量義務付けを含む新法案を提唱している。

自動車メーカの中ではトヨタの動きが注目されている。トヨタ(米国)の見解では、輸送用エネルギー・ミックスに多様性を追加する一つの手段としてPHEVの研究をしているが、電源が石炭火力ではPHEVにしても環境上は効果が無いこと、電池技術のブレークスルーが必要であること、など課題を挙げて、慎重である。

 

プラグイン・ハイブリッド車の普及について

私自身の見解としては、一番の課題は電池のコストである。先ほど言ったPHEV改造キットも今は100万円ぐらいしているが、これが30万円程度になれば普及が加速すると考える。それと、何らかの政策的な優遇措置が必要だろう。

半数の車の一日当り走行距離は、米国の20マイル以下に比べて、日本では20km程度と短距離型なので、より楽に導入することが出来、その効果も大きい。

総合エネルギー効率(Well-To-Wheel)では、トヨタが発表している化石燃料ベースの場合のハイブリッド車28%〜32%、水素燃料電池車29〜42%に対して、電動推進車は35%と推定される。これを原子力ベースの場合で比較すると、原子力熱を水素や電気に変換するときに両方とも熱力学的サイクルの制限(カルノーサイクルが上限)を受けるので、駆動系の効率が良い電動推進の方が燃料電池より総合効率が良くなる。

 

輸送のための原子力の役割・方向

この先、EVPHEVFCV、あるいは合成燃料自動車など、どのような自動車になって行くにしても、これらの燃料を供給する上で、持続的大量供給可能で、CO2排出の無い、高密度のエネルギーである原子力の役割は増大すると考える。

 

講演3:「EPRI・電中研における研究」

講師:電力中央研究所原子力技術研究所主任研究員 博士(科学) 日渡良爾氏

要旨:原子力で水素製造の研究をしていたが、FCVは短期的にはなかなか進展しないが、PHEVは何とかなると思われて研究を始めた。最近のEPRIの研究と電中研と東京大学との共同研究の成果を中心にPPで説明。その要旨は次の通り。

 

EPRIにおける研究

1999年に国、自動車会社、大学、電気事業者から成るWorking Groupが結成されて、環境負荷、経済性、エネルギー効率の観点から、HEV(ハイブリッド車)の最適化研究が行われた。

最近では、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)の研究がEPRIでの大きな研究課題の一つに取り上げられている。

2001年にその報告書が出され、PHEVの性能評価、コスト解析、市場調査が報告されている。色々な前提条件があるが、その結果の概要は、

燃料効率(電力はコンバインドサイクル火力の効率(39%〜53%)を仮定)

CV(従来車):30、HEV0(純ハイブリッド):41、HEV20(20マイル電気走行車):41〜120、HEV60(60マイルまで電気走行車):41〜120

(単位はMile/Gallon)

CO2排出量(ライフサイクルを考慮)

CV:400、HEV0:300、HEV20:230,HEV60:180

(単位はg/mile)

コスト評価(2010年を想定,Mid−sizeCAR)

CV:18000$、HEV0:2200$、HEV20:24000$、HEV60:27500$ 主に、蓄電池、充電器のコストが差となる。

燃費評価(電気代はoff peak price)

CV:6000$/10万Mile、HEV0:4700$、HEV20:3700$、HEV60:2600$

消費者動向調査

400名のインタービュウー調査の結果CVより、HEVを好む割合がHEV0、HEV20で35%、HEV60で17%であった。

価格に敏感で、21,975$であれば、50%以上がHEV20を好むと答えた。

 

 

電中研における研究(日本のPHEV導入による電力事業への影響)

電中研では東大新領域創成科学研究科の藤井先生と共同で、PHEVの性能評価、自動車走行データを作成,そしてPHEV導入による電力需要への影響を評価した。

性能評価

電気走行可能距離と必要なバッテリー性能を比較する。(電池はNiMHで、充電率20%で電動モードからHVモードにすると仮定)

HEV0では、バッテリーパワー49Kw、バッテリーエネルギー量2.9kwhが必要。

PHEV20では夫々54Kw5.9kwh、PHEV60で99Kw17.9Kwh必要である。

日本の自動車の走行データ分析

平日の時間分布では、殆どの車は朝8時から夜8時までの走行。

自家用車は走行パターンを9グループに分けて、夫々に車の台数を割り付けた。

充電パターンとして、容量の8割を7〜8時間で充電するとして、運転終了から開始までとタイマー制御で運転直前に充電する二つのパターンに分ける。

電力需要への影響

以上から、日本の全車両(約2,400万台)がPHEVに替わったとして、必要電力需要を計算する(燃費はEPRI報告の5.473Km/Kwhを使用)と、PHEV20の場合2,000万KW、PHEV60では3,200万kwとなり、電気走行距離が36kmのPHEV20でも、大きな電力需要が見込まれる。

負荷曲線への影響は、深夜0時から充電開始して、朝の運転開始直前までに充電終了するように充電をコントロールできれば負荷平準化に大きく寄与し、原子力の需要も増えるだろう。

PHEVの導入予測

耐久消費財の新製品導入モデルを用いて計算すると、導入開始から15年後に本格普及期に入り、25年程度で現在の車の市場規模になると予想。

CO2排出削減効果

自動車登録台数すべてがPHEVになったとして、輸送部門のC02排出量の2003年度比で、LNG発電の電力の場合は60%、本格普及期までに原子力を増設して負荷平準化が出来れば原子力の電力が使用でき50%以下にすることができる。

 

コメント

電動推進自動車の現状と将来についてのコメント

コメンテータ:(財)電力中央研究所上席研究員工学博士 岡野邦彦氏

コメント要旨:どんな車を作ったら売れるかという観点からコメントで、その要旨は次の通り。

ガソリンエンジン車は性能の上では競合相手が無い優れた商品

燃料は、利便性が同じならコストが勝負であるが、ガソリン,軽油は差別化の無い商品である。LPGはガソリンや灯油に対して競争力があり、成功した唯一の例だが、税金を除けばLPGも決して有利ではない。

一般消費者向けには、燃費と車両価格のコストを同一に扱って、コスト優位を議論するのは不適切。

ガソリンは差別要因が無いので、安ければ安い方が良いが、車両価格は色々な要素で価格に大きな差がでる。場合によっては、むしろ高い方が好まれる場合もある。

過去、自動車が想像を絶する普及を遂げたのは、単に安かったからではない。ステータスとしての価値と利便性が同時に満たされたからではないか。

初期のエコカーが、総合費用で安いという理由で選ばれるのは難しい。

1オーナーで5万km走っても、燃費の差は30万円程度にしかならない。

初期の普及のポイントは歴史的に見てもステータスとしての価値と利便性が高いことが不可欠である。

エコカーはステータスや地球環境に良いという満足感は十分に存在する。利便性の方が問題である。

エコカーに懸念される不便さは、車両の使い勝手が悪い、走行性能が劣る、電気切れの心配、充電ステーションが少ないなどであるが、技術の進歩やハイブリッド化で解決される可能性はある。

普及段階でのキーポイントは、単に安いことではなく、顧客にとっての利便性であることを認識して開発の方向性を定める必要がある。

 

質疑応答

石井(亨):PHEVの性能比較で、走行距離に対してバッテリーパワーが大きくなって無いのは何故か。HEV0のケースは少な過ぎないか。停車中でも冷房や暖房に費やすエネルギーが相当必要である。走行距離以外にこのようなエネルギーも加えて評価すべきではないか。

日渡:走行距離はバッテリーパワーではなく、バッテリエネルギー(kw)に関連する。HEV0のデータはプリウスではない。

姉川:一般の人を対象にしてない。電気自動車の場合、エアコン特に暖房のやり方は考え方を変えないといけない、走行前に,余熱しておいたり、遮光板や断熱材を活用するいわゆる躯体蓄熱等の利用を検討している。蓄電した電力を使うと限界がある。

日渡:特に走行データに関しては、東大の藤井先生から提供受けているので、そのデータを引用する場合はその旨を断って欲しい。

松岡:バスやトラック等の大形車を電池走行にするには技術的な問題があるのか。

姉川:大形の重量車を電池で走らせるのは適してない。本来重量物を動かすことを指向するのは無駄が多いように思う。技術的には出来ないことも無いが、経済合理性を達成するのは難しい。 宣伝用には使うが、市場開拓用には使えない。

池亀:利便性から考えて、充電ステーション網が出来上がる前はプラグインから始まってその後に電気自動車を普及すると考えるが。

姉川:プラグインにしろ、電気自動車にしろ、今すぐ一般への普及は難しいと考える。

 今出来る範囲のことをやって、普及への橋頭堡を作りたいと思っている。

プラグイン・ハイブリッドはガソリンタンクもバッテリーも持って、駆動系も二つ持つことになり、明らかに重量が増し、エネルギー効率から言っても不合理で、化石燃料の節約とCO2削減と言う本来の目的にそぐわない。一般の用途には不便でも、特定の目的の業務車がそれで満足するならそこから始めたい。まずは、身の丈にあったことから始めるという事である。

土井:日本とアメリカでは車の使い方が違う。例えば、アメリカは、近場用と遠出用を分けて使う。日本では、ハイブリッドは安心して乗っていられるが、プラグインだと不安が残る。米国のデータで日本を考えるのは誤りではないか。

(?):私も同じ考えだ。HEVからEVであり、プラグインはスキップされるのではないか。

(?):プラグインはバッテリーが問題だ。プラグインにして電池走行距離を伸ばせば、電池は増え(4倍)車体に納まらなくなる。今のHVはその当たりまでよく考えてある。

姉川:何が何でも電気自動車と言っているのではない。リチュームイオン電池の出現で一部のマーケットでやっと軽い車で実現可能になったところである。

高性能の電池を開発すれば良いが、電池だけを一人で開発を進めるよりは、市場があって関連産業が活き活きし、皆で頑張る方が安い高性能な電池が開発される。小さいが、まず市場を創り出していこうという考えだ。市場があれば、魅力ある商品も出てくる。

益田:今後自動車は電気自動車と水素燃料電池車とどちらに向かうか。水素燃料電池車は良いところが無いような気がするが。

姉川:アメリカは国策として開発した成果を民間に下ろすと言うことで水素燃料電池車の開発を進めている。日本の自動車会社も本当にFCVが普及するとは思って無いのではないか。一度上げた旗は下ろし辛いのが本音ではなかろうか。

 

出席者:(敬称略,順不同)

石井亨、小川博巳、石井正則、金氏顕、高木伸司、松岡強、池亀亮、林勉、和嶋常隆、竹内哲夫、益田恭尚、松永一郎、石井陽一郎、神山弘章、山崎吉秀,荒井利治,杉野栄美、加藤洋明、土井彰、山名康裕、森雅英,小笠原英雄、堀雅夫、伊藤睦

以上