会員討論会テーマ  『エネルギー教育について』

座長:荒井 利治   補佐:加藤 洋明、土井 彰

 

1.現状の認識−このままでよいのか

座長:国民一般のエネルギー問題に関する認識はきわめて薄い。日本は小資源国であり、エネルギーセキュリテイが国の存在を左右する根幹の問題であるにも拘らず、危機意識がほとんどない。学校でのエネルギー関連の教育は諸外国に比べて遅れている。例えば、(財)日本原子力文化振興財団が平成4年に、学校で原子力を含むエネルギーについて学ぶ程度をヨーロッパ6ケ国に日本を加えた7ケ国の高校生8,000名について調査したところ、日本が最低であった。さらに、原子力発電は核分裂でエネルギーを出していると正しく理解しているのは、スイス90%、フランス60%に比較して日本は38%で最低である。
原子力は「危ない」「不安」という感覚で捉えられていて、その重要性についての認識が希薄である。素養の全く劣らない日本の子供達への教育の実態がこれである。

 

討論

(財)日本原子力文化振興財団の募集に応募してくる子供たちの作文を見ると、原子力は怖いとの感覚は不変であるが、危険に対する感覚は次第に良くなってきているのではないか。原子力は気をつけていれば使ってゆけるエネルギーであるとの考えに次第に変化していっているので、あまり悲観しなくても良いのではないか。

・次第に変化しているとするのは少し楽観過ぎるかもしれない。熱心な先生がおられるところはよくなっているが、一般的には先生の認識が薄いので、良くなっていない。日教組は戦後一貫して原子力反対を主張してきたので、なかなか変らないであろう。

・教育の現場を見ると、理科の先生は力不足である。教科書は国民の過半数が合意したことのみを教えるとの立場であり、学校では原子力は教えられない。しかし、子ども自身には学ぶ気持ちと能力はあるので、少しはよい方向に動きつつある。

・学習指導要領にもエネルギー問題が取り上げられてきたので、原子力の話は出来る。最近、日教組は変ってきているので、むしろ同僚の先生同志の関係や職員会議の雰囲気で決まることが多いようである。一方で、若い世代の先生には高校生を引き連れてエネルギーや原子力の工場を見学に訪れる例もある。

・今ここで戦後歩んできた旧態の日教組を思い浮かべるのは誤りである。小渕内閣の際「教育国民会議」を設立したが、日教組は戦後50年の教育を振り返って新たな教育改革を目指して同じ会議をすでに発足させていた。この中では、今の教育で得られる教養で21世紀をリードできる人材をつくり出すことが出来るかとの観点から提言を出している。少なくともここ10年、日教組は変っている。

 

2.問題点―なぜそうなのか

座長:問題発生の原因は多くあると思うが、次の三点を上げてみた。

(1) 国民の意識 オイルショック(1973年および1979)以降、経済成長とともにエネルギー消費は増大したが、危機らしい危機はなかった。関係者の努力により、消費者にとっては電気や燃料はいつでも容易に手に入るものとなっている。

(2) 今回の東電問題による停電の危機に対しても、節電の運動はまったく盛り上りに欠けている。

(3)学校教育 学校教育を見るとようやく平成12年度の「新学習指導要領」により新設された「総合的な学習の時間」(小、中学校は平成14年度、高校は平成15年度から)の中で、エネルギー・環境問題を取り上げることができるよう指導している。さらに、発電所や機器製造工場の見学なども考慮するとしている。一方で、大学生の理科離れが顕著になり、文理分割教育の弊害も指摘されている。文系が非理科系であってはならない。

(3) 省庁間の協力不十分 文科省、経産省、環境省等の連携が十分出来ていない。学校教育に問題が多いのは、省庁間の協力不十分にその原因の一部がある。

 

討論

・学校教育では何を教えるべきか、先生にはそれを教える能力があるか、の二つについて考える必要がある。前者では、エネルギー教育についてみると、熱からエネルギーや力への変換のように科学として教える入り方と、人間生活にはなぜエネルギーが必要なのか、我々はどのようにしてそれを得ているのかなど社会的な問題として教える入り方とがある。 子供への教育としてまず必要なのは社会的な問題として教えることではないか。現状は、理科としての取り上げは見られるが社会としてはほとんどなく、ここに問題の根源があるのではないか。

(財)日本原子力文化振興財団、(財)社会経済性生産性本部その他から多くの教材が準備されている。また多くの調査報告書も出ており、平成9年には外国との比較をした報告書も出ている(末尾の参考資料参照)。エネルギー教育実践校も100校近くある。このように教材もあり、実践校も指定されたが、活動はまだ一部でしかない。

・国旗、国歌の問題と同じで、教材があってもイデオロギーの問題が根にあって職員会議優先で学校が運営される中ではエネルギー教育はなかなか進まない例も多い。入学試験や入社試験と関連させると効果的ではないか。

・昨年、名古屋大学の野依教授が読売新聞に投稿されているように文系、理系の分割教育には問題が多く、国民一般にエネルギーや環境の問題を広く教えるシステムが出来ていない。日本では「文」と「理」の融合の教育が特に遅れているため、初等から大学までを通じて両者の間にくる分野は入るところがない。

・総合学習では『総合知』を目指しているが、専門家がそれぞれ自分の得意の分野に拘泥して内容を個々に分割して教えており、俯瞰的な物の見方が出来ていない。経産省系と文科省系の連携が薄いのもそれを生み出す原因の一つである。

・総合学習の現場ではそれを実行できる先生が不足している。それぞれの担当が自分の能力に合わせて教育しているので、授業内容への強制的な組み入れや先生を教育してあげるプログラムが必要かもしれない。教育は二世代かかるが重要である。

・原子力は長期スパンで対応する問題で、短期に論じることは出来ないが、少なくとも Not in my backyard 的な発想が生まれる教育であってはならない。

 

3.解決策−どうすればよいのか

座長 問題がいろいろあり、今すぐ簡単に解決策があるとは思われないが、解決策として例えば次の三項目をあげることが出来る。

(1)政策の徹底「エネルギー基本法」を核に、日本の政策を国民に強く訴える。エネルギー省の設立に向けて提言することも一案である。

(2)啓蒙運動  メデアの問題意識改革や市民啓蒙活動の強化・支援をする。

(3)学校対策  教員教育の実施支援や総合的な学習の時間等を通じて民間のボランテアとして支援する。

 

討論

・学力レベルは低下し、公私を区別することすらも下手になっている子供たちの現実をふまえると、エネルギー問題を科学として教えるに先立ち、人間生活にはなぜエネルギーが必要なのか、我々はどのようにしてそれを得ようとしているのかなど、まず社会的な問題として教える事が必要ではないか。良い先生が不足していれば、すでに実行している方もおられるが、本日の出席者のような実社会のOBが出向いて手助けしてはどうか。

・実社会のOBが出向いて手助けする際、利己主義的な発想を持ってはいけない。新エネルギーが近い将来に極端に増えることもないし、原子力がすべてでもないのでこの点は注意が必要である。

・説得力のある話をすれば子供も聞く。当会のホームページなどを使い、受ける側が求めるものを提供してゆくことが重要である。

・社会の構成のほぼ半分を占める女性に関心をもってもらうようなキヤンペーンが重要である。最近は変ってきているが、今までは女性が物理関係を勉強する機会は少なかったので、理解を助けるようなプログラムに参画してはどうか。

・教育には“物を見せる”ことが重要である。例えば放射線についてみると、話をした後、放射線を測定してみる実習をしたところ自然界にも放射線があることを知り、当初は暗いイメージを持っていた子供達が全く変った。 大人が子供の興味を遮っているのではないかとすら思える。

・低線量被曝の影響のように真実が確定していない事柄は教えるべきではない、とする一方ですべてのことが確定していない事柄もそれを説明して考えさせることも重要ではないか、との意見もある。これらを十分考慮して実行してはどうか。

・子供たちには物を見せ、臨場感を持たせることが重要であるが、良いものが少ない。米国などでは、大学が中心となって小、中、高、の生徒に科学を教えている。我が国でも過去に各大学に1W程度の炉を設置してはとの意見が原産中心にあったが、現在では大学の原子力学科それ自体の存続すら問題で、とても無理であろう。

 

座長 教育や教宣活動について多くの組織が努力しているが、官主導の縦割りが強く全体が力を合わせることが少なく大きな力になっていないと思うが。

 

討論

・エネルギーは大切な問題であるので、経産省の一部ではなく、エネルギー省位が必要である。 原子力を正しく理解してくれる独立した省の設立に向けて提言してはどうか。

 

座長 今後の課題として、日本のエネルギー問題の国際的位置付けを子供たちに教え、物を大切にする考えや習慣を植え付けることが必要である。例えば、世界の人口増加、環境変化、経済成長との関係や、今は贅沢しているが、日本が過去に経験した公害の克服などエネルギーと環境の問題を正しく教えるべきである。総合学習の中で、自分達もボランテアでやってみてはどうか。

 

討論

・何をするにしても一般の人々の同意が必要である。一般の人々はマスコミから多くの情報を得ているので、マスコミに情報発信してもらわなければならない。

・マスコミにどう働きかけるかは難しい。マスコミは忙しく、少ない人数でエネルギー問題を扱っているので、当会としては発生した新しい問題にすぐ反応してタイムリーに答えを出せるようにしておく必要がある。

・当会のホームページにも、学校での教育体験、教育についての提案、スイスにおける原子力の選択についての状況、などを提示し、当会から情報をどんどん発信してゆく。

・この度の東京電力の問題については,マスコミは現状を当然の帰着と受け取っている。従って再立ち上げは容易ではない状況にある。この際,是非、国民に停電になった際の影響を知らせ、エネルギー問題の背景を考えてもらってほしい。

 

4. まとめ

座長 エネルギー教育について,現状の認識、問題点などについて議論し,解決策について提言いただいた。

今回話し合った問題は当会で積極的に取り組まねばならないこともありますが,並行して出席者各位が常に心がけ実行に移せる事項も含まれていると思います。これらを通じて今後のエネルギー教育のあり方に何らかの影響を与えていければ幸いと思います。どうも有り難うございました。

以上

 

参考資料

1.初等・中等教育における資源・エネルギー・環境教育の教材開発の総合的研究―第三次報告書;平成9年10月 資源・エネルギー・環境教育に関する総合研究プロジエクト

2.平成11年度 原子力に関する教育検討会 検討結果のまとめ; 平成13年 (財)日本原子力文化振興財団

3.エネルギー環境教育推進に向けた学校・家庭・地域社会の連携のあり方に関する研究 報告書  平成15年3月  (財)社会経済生産性本部 エネルギー環境教育情報センター

4.「エネルギーと環境」 第2巻  ― 高等学校「総合的な学習の時間」のためのワークシート教材; 平成13年3月 (財)日本原子力文化振興財団

5.「総合的な学習の時間」環境学習ブック  …………  生徒用及び教師用別冊『やってみよう! 考えよう! 資源/エネルギー』(中学校 平成15年度版);東京電力株式会社

6. 「総合的な学習の時間」環境学習ブック …………  生徒用及び教師用別冊『やってみよう! 考えよう! 資源/エネルギー』(小学校高学年 平成15年度版);東京電力株式会社

 


開催日時:2003年5月21日

出席者: 林、益田、水町、平山、小笠原、篠田、石井(正)、松永、西郷、石井(亨)、松岡、松田、山名、澤井、天野(牧)、太組、荒井、加藤、土井