欧米視察から学ぶー日本のエネルギー・環境教育のあり方

「エネルギ-問題に発言する会」平成18年11月座談会議事録

 

1.講演会

(1)        日時:平成18年11月15日 (水)

(2)        場所:NUPEC虎ノ門MTビル 6階会議室

(3)        講師:安元昭寛氏 ((社)科学技術と経済の会 特別参与)

       山崎 順氏 ((社)科学技術と経済の会 部長)

(4)        座長:荒井利治

2.講演

2.1       講演主旨

配布資料「欧米視察から学ぶー日本のエネルギー・環境教育のあり方」に基づき、エネルギー教育の調査研究のねらい、組織、国内実態調査、海外調査の結果、今後の日本のエネルギー教育に関する提言、エネルギー教育における企業およびNPOの役割について講演があった。

2.2 講演の概要

(1)日本のエネルギー・環境教育のあり方についての調査目的:

@     わが国のエネルギー安定供給に関わる中長期的課題

A     日本人の科学技術に関する国民意識の低下

以上を明らかにするため、国内教育機関及び欧米のエネルギー教育の実態を調査した。また、其れに基づく提言をする事。

(2)国内実態調査:

@     エルギー教育実践校4校:つくば市立吾妻中学校、蓮田市立蓮田南中学校、山城町立山城中学校、神戸市立多聞東中学校

A     調査内容: 

エネルギー教育導入の動機、カリキュラム、教育資源、地域との連携、実施体勢 

B     調査結果のサマリ

     補助金を受けてエネルギー教育を実施する制度が有り、この活用は、生徒の人間形成上有効と考えた。副次効果としてエネルギー教育を始めてから、不登校・校内暴力がなくなった。

     指導要領に縛られて必ずしも教師が力を発揮できない。効果を高めるには資質のある教師がいて、校長・教頭のバックアップが必要。

     補助金が有り、教育資源は充実してきている。

     企業支援は継続的には行われていない。

     教師個人の能力に強く依存、しかし専念できる時間は僅少であることが問題。

(3)海外実態調査:

@       アメリカ、フランス、ドイツ、フィンランド、スウェーデン5カ国

A       調査項目:

エネルギー教育への取り組み、教育内容、エネルギー教育に関する企業/NPOとの連携。

B       調査結果:

・米国では、技術的リテラシー育成のためエネルギー教育を実施。学際的にエネルギー問題を捉え、技術を使用・管理・理解・評価する能力を養う。日本では技術を管理・評価する概念が希薄。NEED(全米エネルギー教育開発プロジェクト)はDOEの支援。産官学の連携でカリキュラム、教材開発支援。KEEP(ウィスコンシン州エネルギー教育プログラム)は幼稚園から高校までのエネルギー教育の普及支援、教師の教育プログラム推進。

・フランスでは国民教育省がエネルギー教育の方針を決めトップダウンで展開。エネルギー問題は地理歴史で、経済的・地政学的・環境的に教える。自然科学では問題点を追及し解決する、体験重視の学習。企業の支援が多く、科学博物館・産業館が充実。

・ドイツでは地方分権的な教育行政。エネルギー教育は原子力についてきちんと書かれているが「省エネ」中心の実践的な活動である。学習指導要領で明確な位置づけはない。エネルギー教育支援機関(地域行政機関、州の委託機関、NPOなど)は多様で充実。

・フィンランドでは、総合学習で環境面(リサイクル)を重視。エネルギー教育に特殊なカリキュラムは無く、理科教育で実施。大学、研究機関、NPO などは活発ではない。国民の科学・技術リテラシーが高い。

・スウェーデンでは2004年に“持続可能な開発省”が創設され、ユネスコの“持続可能な開発のための教育”に沿って教育。教師自らが作成した教材を用いて持続可能なインフラの在りかたを教育。“知識を育てる姿勢”を強調(日本は知識を与える教育)。

C       本のエネルギー教育に関するスタンスの提言

提言1:技術的リテラシー育成のためのエネルギー教育を

提言2:持続可能な社会のためのエネルギー教育を

提言3:教科横断的・省庁横断的なエネルギー教育を

提言4:知識詰込み型でないknowledgeの授け方の工夫を

D       エネルギー教育における企業/NPOの役割

・エネルギー教育の目的を明確に、

・教育の実行体制・制度を整えて企業/NPOが教材作りなど具体的な支援を。

E       今後のエネルギー教育におけるe-learningの可能性

(4)スウェーデンの中学校教師によるモデル授業(東京8/22、関西8/25)

@     ミニボトル生態系やドリームハウスを設計するなどの総合的活知識を育てる授業を実施。

A     生徒は考えさせる教育の素晴らしさを体感した。

 

3.質疑応答

Q. 日本の教科書に偏見が強いのは前から分かっていて問題提起した。今日例示あった教科書は現在のものか。

   ・現在の教科書は、「原子力は安全でない」と言っていない筈。

   ・燃料電池自動車もまだ実用化されていない。

A.      理科ではなく公民の教科書からの抜粋です。

Q.       提言1で技術リテラシーを入れたのは良いが、科学的・技術的リテラシーとすべきではないか。

A.      そのとおりです。

Q.       持続可能な社会などはあり得ない。

   ・「少しでも持続可能」とすべきでないか。

   ・「持続可能な社会を目指して」と言うのなら良い。

A.      注意を喚起するために、大げさに表現しているのではないか。

Q. エネルギーは社会科で扱うことを勧める。また、量や効率の概念なしには議論できない。エネルギー教育実践校に行っているが、社会・理科の両方の観点から教えられる先生は少ない。太陽光で発電できるのは当たり前(理科の範疇)。効率や量からいったら必要とする電力を賄うには不十分(社会の範疇)。各種エネルギーのメリット/デメリットを勘案して教える必要がある。

A.      そのように思う。

Q.       スェーデン、ドイツは緑の党の強い国、今度の調査で原子力反対などの話は出なかったか。

A.      無かった。ドイツでも緑の党の影響は殆ど無くなっている。ただ、原子力ではなく省エネが中心である。教科書には原子力はきちんと書き込まれている。

フランスのエネルギー環境教育は国民教育省所管で、経済・地政学・環境の観点から総合的に教えている。

  Q.エネルギーは教科横断的な教育が必要。エネルギー問題ではEPR(エネルギーを作るために使ったリソースと、その結果得られたエネルギーから得られる効果の比)も重要で、これを考慮すると、屋上農園を推奨するような目的と効果が異なるテーマは誤解を招く事が分かる。(屋上庭園を造って省エネルギーが出来ると教えるのは間違い、ということ)

     EPR評価には、企業がもっとデータを提供すべきである。

     全てがEPRで解決できない。価格を避けて通れない。原子力が優位なのも石油の価格が上がっている影響が強い。

     フィンランドで原子力の調査をした時、教育についても調べた。博士課程まで全部無料で、かなり質が高いことが分かった。

     学士会報にはエリート教育をしっかりやれとの論文あり。先生方は真っ先に反対するが、目的に合致した人材を育成するには人をもっと峻別すべきである。

     フランスは国民のエネルギー問題に対する意識が高い。調査で何か感じることはあったか。

B.      フランスには初めて行った。国家としてどう生きていくかということを本当に強く考えていることはすごいなと感じた。教育は政治・政策と裏腹である。90年代はトーンダウンしたが、もう一度見直しをかけている。教育も、カリキュラムから改定しようとしている。

Q.       フランスの取り組みを日本の教育為政者にも伝えて欲しい。

A.      討論時のテープを文科省に渡してある。

Q.       フランスが日本の教育について調査した際、高校卒業までに「原子力発電は電力の30%を賄う」くらいしか教えていない事が分かった。フランスの人は、こんな教育しかしていないのに、どうして優れた原子力発電所が動いているのか驚いていた。

日本では、学校で原子力教育をすることが難しいらしい。

生徒の保護者からクレームがあるらしい。保護者が原子力は危ないと教えられているからでしょう。

Q.       京都山城中学校で、「エネルギー教育を進める事によって、登校拒否、校内暴力がなくなった」とある。こういう事を文科省によく伝えてほしい。

A.      この種の講演を10回以上行っている。文科省にも説明しているが、文科省はその通りでしょう、と言うだけです。

Q.       エネルギー環境教育指定校は誰が指定するのか。

A.      資源エネルギー庁の委託を受けたエネルギー環境教育情報センターが選定している。純然たる環境教育(河川の浄化など)は対象外。

Q.       エネルギー教育を重視するようになったのは、東電問題からです。

     山城中学では原子力を教えても問題ないとのことだった。最近は、先生も良くなってきている。

     学校の状況は県によって違う。茨城は原子力先進県として全般的に原子力に肯定的である。

     エネルギー教育は今なぜ必要か。文科省の役人はこれが分かっていないのではないか。

     ラブロックさんの本を推奨する。文科省の役人もせめてエッセンス位分かって欲しい。フランスはエリート層がエネルギー教育を主導している。

Q.       安倍首相の教育再生会議は20〜30人で構成されている。これはどのように動いているか。

     エネルギー教育について意見を言える人は野依さんくらいだ。野依さんに期待したい。

     中曽根さんが臨教審、森さんが教育国民会議を作った。これらは、心の問題から入って失敗した。今回は再生会議、エネルギーリテラシーはやらねばならぬが、最近の状況から、「いじめ問題」が大半になるだろう。議論の例示としてエネルギー問題が上がっていないのが気になる。

     再生会議にどう提言すればよいのか。

     原子力は原爆から始まった。エネルギーと言っても一般の人にはなかなか原子力につながらない。要は、エネルギーが不足する事をしっかり教える事である。そうすれば、やがては原子力をやらねばならぬ、と言う事になる。今、漸く変わってきたと言える。 

 

4.座長所感

 現在のわが国のエネルギー教育は、量、質ともにはなはだ不足しているとの議論が各方面でなされている。(社)科学技術と経済の会でもこの問題に取り組み、国内模範校の調査に続いて、欧州、アメリカのエネルギー教育の実態について調査した。これらの結果を纏めて要領よく説明された。質疑応答も活発であった。エネルギー教育についての欧米の実態を知る事ができ、大変参考になった。今後とも、折にふれてこの問題を討議し、現在の状況を改善すべく努力していく必要があると思った。

以上