座談会「エネルギー基本計画について」

 

日時:第1回 平成15年6月18日(水)

    第2回 平成15年8月20日(水)

参加者:第1回 天野、益田、池亀、石川、小川、澤井、荒井、岩井、土井、小笠原、平山、太組、西郷、斎藤、林、松岡、松永、石井(亨)、篠田、松田、加藤、杉野、福田

         第2回 天野、益田、池亀、石川、小川、澤井、荒井、岩井、土井、小笠原、平山、太組、西郷、斎藤、林、松岡、松永、石井(正)、阿部、柴山、神山

座長:松永 補佐:林、松岡

 

1.概要

  平成14年の6月に議員立法により「エネルギー政策基本法」が成立し、わが国の今後のエネルギー政策が国民の目に公にされることになった。そしてこの基本法にのっとり、資源エネルギー庁を事務局とする総合資源エネルギー調査会基本計画部会において平成15年4月より審議が開始された。

  「エネルギー基本計画」は今後の10年間を見越した日本のエネルギー施策を定性的に示すものであり、原子力の位置付けについても十分に審議されることになっていた。

  エネルギー基本計画は内閣に答申され、平成15年10月に閣議決定された。それ以後、エネルギー関連の諸事項はすべてこの基本計画と照合された上で計画され、審議され、実施に移される。

このエネルギー基本計画の策定に当たっては、その重要性に鑑み事務局である資源エネルギー庁では試案作成の段階から、多方面の関係者からの意見を求めるとともに、答申案の段階で意見公募(パブコメ)を行うことが予め決められていた。

 

  当会では意見公募に応募することを前提として、2回に分けて座談会を行った。

 1回目 エネルギー政策基本法/エネルギー基本計画の説明 

 2回目 エネルギー基本計画答申案の検討

 

2.討議

(1)エネルギー国家戦略の推進について

 ・エネルギー基本計画に基づき、「安定供給の確保」「環境への適合」そしてそれらを前提とした「市場原理の適用」について触れてはいるが、実施主体が明確にされていない。

 ・エネルギーは国防、外交のように国家として考えなければならない最重要なもの。実施主体はエネルギーに関係した個別省庁にまかせられているが、これでは不十分。

・各省庁にまたがるエネルギー問題を統括し、総合的かつ具体的な国家戦略を立案、遂行する常置部門が必要。

 ・原子力には原子力委員会があるが、原子力もエネルギーの一部。小泉内閣では内閣府の役割が大きくなってきているが、各省庁を横断する政策をどうまとめるかが国の運営にとって重要なポイント。

(2)国と地方公共団体との役割分担について

・国は基本的な施策をたて、地方公共団体はその実施に協力するとなっているがその趣旨に賛成。

・F県知事はエネルギー政策基本法が設置県の参加なしで決められたので、基本計画に拘束されないといっているようだが、間違い。基本法は国会で議決されたもの。県知事も尊重する義務がある。

 ・今まで、ともすれば地方の声が大きく、筋違いと思われることでも国はあえて反論しないきらいがあった。中央と地方の関係を正す意味からも、国の毅然とした対応を望む。

(3)原子力による環境問題の緩和について

 ・「環境への適合」では原子力に勝るものはないはずだが、基本計画には具体的に原子力とは書かれていない。 

 ・エネルギー政策基本法を作る時に超党派で合意を得るために、あえて原子力のなまえを外したと聞いている。

 ・京都議定書で日本の約束「2010年の二酸化炭素排出量を1990年比6%削減する」を達成するためには、現時点からでは16%の削減が必要。120万KWクラスの石炭火力を原子力発電所に置換すると1%削減される。

 ・10基つくれば10%削減される。原子力による環境問題緩和策が必須。

(4)政策の重点の置き方について

 ・エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づき今後10年間を見通したエネルギー施策を定性的に示すもので、定量的な需給バランスを示すものではないとされている。しかしながら、需給バランスを計画を作る上での基礎となる考え方、つまり、どのエネルギーになぜ、どのくらいのウエイトを置くかの基礎的な考え方は示すべき。

・原案はそのエネルギーについても総花的に特徴を述べているのみ。

 エネルギーの自給率の向上や二酸化炭素の排出量の抑制への寄与度を、エネルギー別に示すべき。

・石油だけ別立ての節で記述しているが、これは石油を他のエネルギー源よりも重要視しているという誤解を与える。ガスや原子力と同じ節で扱うべき。

(5)原子力発電の安全規制について

 ・原子力発電の推進にあたっての安全確保の取り組みは「不正の再発の防止」と「法改正による新制度下での実効的な安全規制の実施」とされている。しかし不正の話は規制外の話として、コンプライアンスの世界で扱うべき。

 ・また、今回の法改正では原子力プラントの設備機器の健全性の担保」が前面に出ている。今回の法改正に続いて、「実効性のあるシステムとしての安全機能確認を安全規制面でいかに扱っていくか」の法整備が必要。

・安全規制体制については、体制論を論じる前に当事者の技術的能力をいかに高めるかの議論がほしい。

(6)核燃料サイクルに関する国の責任の明確化について

 ・電力自由化と核燃料サイクルの両立については一部記述が見られるが、自由化の進展に伴って核燃料サイクルに関する諸事業が、事業者の手に負えなくなっていることについての認識が不足している.

・焦眉の急は再処理とそれによって生み出されるプルトニウムの取り扱い。いままでは国策民営の下にバックエンドコストは国が担保することで事業を進めてきたが、自由化の進展でそれが外される方向に進んでいる。

・バックエンドについては、再処理とプルトニウムだけでなく、使用済み燃料の中間貯蔵、HLWの超長期管理など使用済み燃料に関する事業は、すべてコストが不確実でリスクが高いだけでなく、最終的な国の引き取り保証なしには遂行不可である。

・投資の回収が保障されない競争市場において、民間事業者にリスクの負担のみを求めるのは不合理。原案にはこのことについて、国の役割に関する記述がない。

 ・最もよい方策は米国式に国が使用済み燃料を引き取ること。あとのバックエンドに関する実処理については民間で実施するのが効率的。

(7)エネルギー自給率目標の設定について

・エネルギーの安定供給の確保の基本方針は「供給源の多角化」となっているが、今後のアジア地域の経済発展にともなう化石燃料の需要の急速な増大にともなう輸入競争の激化を視野に入れ、支配権を持った供給源の確保を目指すべき。

 ・エネルギー自給率の向上をうたってはいるが、その目標値の設定と具体的な達成方針が必要。

・50年位先を見通した上で10年先の目標をたてて政策誘導、技術開発、構造改革で進めるべき。

・基本計画に自給率の設定をすることで新設の原子力発電所の建設に関して、地方公共団体も国の政策に準ずる義務が生じる。

(8)新設原子力発電プラントの建設推進について

 ・部門別では天然ガスや石油についてサハリンパイプラインやナホトカパイプラインの記述が見られるが、原子力に関しては具体性に乏しい。

・原子力を基幹電源として位置付けるからには、新設原子力発電プラントについても記述すべき。

・従来炉の建設は事業者の責任でとの考えもあるが、電力自由化の下、事業者が積極的に推進しにくい事情もあり、余剰プルトニウムの問題や使用済み燃料の問題、地方自治体との対応等を含め国がバックアップすべき点は多い。

・国が具体的に目標を定めるのはそのバックアップとなり、電力会社としても努力していく道が見えることになる。

(9)運転中原子力発電プラントの設備利用率向上について

 ・原子力の開発推進に関しては、行政サイドの取り組みに関して安全の確保について触れられているが、現行のプラントの稼働率向上についての記述がない。

・電力自由化のもとでは、原子力発電所の稼働率を上げて設備利用率の向上を図ることが必要である。かっては世界有数の高稼働率を誇ったわが国も、規制合理化の遅れから世界最低レベル落ち込んでいる。設備利用率向上に向けた取り組みについても記述すべき。

(10)エネルギー教育の重要性について

・原子力発電への国民理解、省エネ意識の高揚そして情報公開の推進・知識の普及のために、それぞれ項を分けてエネルギー教育を子供の時から推進すると記載されている。いままでにないことで大きな進歩である。

・知識の普及には非営利組織を利用するとも記載されている。ボランティア活動で協力したいと考えているOBは沢山いるので、有効に活用して早急に実効を上げることを期待する。

(11)原子力研究開発の推進について

・研究開発の中で、高速増殖炉は核燃料サイクルの一部として位置付けられている。

 しかしもんじゅの再開も高裁判決で危ぶまれている。

・増殖炉や核燃料再処理技術などの技術開発は民間では無理。しかし基本計画では核燃料サイクル技術を早期に確立するための研究開発を行うと書かれているだけで、実施主体が明確に書かれていない。

 ・実施主体・体制を明確化し、ロードマップ作りをすべきである。

(12)原子力人材育成のための課題と取り組みについて

・エネルギーの研究開発と利用を進めていくために、長期的な観点から人材育成をはかり、基礎研究を進めていくとの記述がある。

 ・原子力業界は新規プラントの建設が殆どない状態であり、研究開発ではないが技術継承が困難な状況にある。このことを考えないと、将来国内技術での建設は不可能になる。 

 ・原子力発電所の建設を他国にゆだねるということになると、国産エネルギーとは言えないことを認識すべきである。 

(13)原子力の国際協力について

 ・今後、今よりもいっそう国際的に重要性を増すエネルギー問題に関して、多面的に国際協力を進めていくと記述されているのは大きな進歩である。

 ・しかしながらアジア地区における協力に関しては、石油・天然ガスについての記述はあるものの、原子力に関してはない。

 ・原子力はアジア地区のエネルギー安定供給と環境への適合に最もふさわしいものであり、原子力の平和利用に徹している日本こそが、アジア地区での原子力推進の役割を担うべきである。

・その意味から原子力のアジア地区での国際協力を記述すべきである。

(14)水素エネルギー源としての原子力の利用について

・これからのクリーンエネルギーとして水素をとりあげているのは正しい。

・しかしながら、それを作るエネルギー源として原子力を太陽光やバイオマスといった

  再生可能エネルギーと併記しているのは納得しがたい。原子力の比重が圧倒的に高いことを強調すべきである。

・また許容できるコストを明示し、助成措置を講じて実用化を進めるべきである。

(15)放射線問題の理解向上について

・日本では核燃料サイクル・原子力推進に対して観念的・情緒的な反対がなされているが、これは低レベルの放射線被ばくについての客観的な知識不足によることが大きい。

・低レベルの放射線被ばくはICRPのしきい値なし直線仮説によっている。核燃料サイクルの推進のためには、この見直しについての国民の正しい理解が不可欠。

   この点についての国民理解の推進を取り上げるべきである。

 

3.その他

(1)公募意見への対応

  本座談会での討議に基づき、39人の会員が137項目にわたる意見・見解を提出した。

(2)月間エネルギー誌10月号への発表

  詳細は本会ホームページの「公開発言集」を参照