会員座談会記録「核燃料サイクルについて」

 

日時:   平成15年3月20日13時半から17時

座長:   池亀亮  補佐:天野治(東電技術開発研究所)

出席者: 荒井、土井、益田、天野、石井(正)、松永、小笠原、石井(亨)、水町、杉野、平山、松岡、松田、阿部、小川、白山、神山、沢井、柴山、加藤、林、大井、斎藤

 

   天野(治)より原子力学会誌1月号で取り上げられた誌上討論「プルサーマルと再処理問題を考える」について、慎重派と推進派の論点の要旨説明があり、特に纏まった提言として、慎重派の原子力未来研究会と豊田正敏氏の発表論文から、提言の要旨と提案理由と背景について説明があり、主としてこの二つの提言を中心に討論を行った。

 

原子力未来研究会の提言要旨     

                                                      

1.再処理の必要性について、とくに国会の関与を明確にして、本音の議論が必要。

  サイクル、バックエンドの具体的施策については、あらゆる選択肢の総合評価を踏まえて2010年までに決定。

2.六ヶ所再処理工場の建設は直ちに中止し、1.の政策が決定されるまで建設を再開しない。

3.この間、使用済み燃料は中間貯蔵で対処。

4.これまでに六ヶ所工場に投入された費用は、自由化に伴う回収不能コストとして処理。建設中止に伴う地元の収入減に対し、補償として一定の電源開発促進税を当てる等の措置。

5.再処理、核燃料サイクルに関する新技術の研究開発については、長期的に必要な要素技術を中心に新総合研究機関で実施。

6.社会的信頼(confidence asset)という経営資源の重要性を重視し、深刻な障害が発生する前に先んじて社会との対話に取り組む必要。

 

背景、理由

 1-1.原子力政策に関わる疑問や批判は、公開の場で議論されることがなかった。「落としどころ」が見つかるまで議論の公開を避ける風土。これが現下の原子力政策の選択にとって憂慮すべき状況を引き起こしている。

 1-2.国民的議論を喚起する上で、国とりわけ国会がその責任を明示することが成功の不可欠の要件。

 2-1.六ヶ所再処理工場が試運転に入り、既定路線の抜本的な決定のための時間的余裕は残り少ない。本提案の動機は切迫した危機感。

 2-2.六ヶ所再処理工場の以下のリスクを直視する要。

   (1)日本原燃の運転管理能力、エンジニアリング能力への疑問、COGEMA社への依存。

   (2)社会風土からみて、些細なトラブルでも長期停止は不可避。

   (3)プルサーマル計画の進捗状況に依存する回収プルトニウム管理に伴うリスク。

   (4)ホット試験に入れば、プラント全体が汚染し新たなリスクを生む。

 3-1.使用済み燃料の適切な管理は、発電所の運転継続の面からも、六ヶ所工場の不確実性への対処の面からも、万全を期すべき。発電所サイト内の貯蔵容量の増強、サイト外大規模貯蔵施設の設置。

 3-2.中間貯蔵は六ヶ所問題対応だけでなく、使用済燃料管理の柔軟性を確保するための戦略的バッファー機能を果たすべき。

 4-1.電力市場の自由化により、原子力も他電源と競争を余儀なくされる。「国策」としての原子力推進に協力して投じられた費用の回収は、自由化にともなう経過措置として認めるべき。具体的には、回収不能コスト(stranded  cost)と認定した上,移行期間にわたり特別損失として処理。

 4-2.「再処理引当金」は、特別損失の計上に併せて取り崩すことを特例として認め、引当金制度そのものも清算。

 4-3.再処理工場の建設中止は地元に多大な影響をもたらす。残されたプールの活用など,一定の核燃料税、電源開発促進税等の収入策を図った上、地元の理解を得る必要。このためにも原子力の基本方針に関する公開の議論が必要。

 5-1.日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構が統合される新機関で最も重要な改革はガバナンスの確立。

 5-2.六ヶ所再処理工場の建設中止は、再処理、リサイクル技術の開発の全面廃止を意味しな
い。高速増殖炉とともに燃料サイクルのオプションを確保しておくためには、革新技術の開発を継続する必要がある。

 6-1.失敗が起こってから、過ちを陳謝し、再発防止を誓うという従来型リスクガバナンスは、社会信頼という経営資源の損失を招く。重要なリスク変化が生じる局面に先んじて情報を公開し、時間をかけても社会の意向を確認しながら推進することが大切。

 

豊田氏の提言要旨

 

 1.英仏からの返還プルトニウム30トンは軽水炉(プルサーマル)で燃やさなければならない。しかし、これ以外のプルサーマルは経済的に容認できない。

 2.六ヶ所再処理工場は稼動するが、再処理ではウランのみを回収し、プルトニウムは高レベル廃液と混合し、ガラス固化体として処理。3.原子力委員会は使用済燃料の長期(40−50年)貯蔵を選択肢として認め、地元の了解を得る。電力が貯蔵施設を建設。

 4.六ヶ所再処理工場は長期貯蔵施設が完成するまでの間(10−15年間)稼動。

 5.40−50年後に、ウラン価格、再処理費、MOX加工費の動向、高速増殖炉の実用化見通しを勘案して、再処理政策を見直す。

 

背景、理由

 

 1-1.核兵器転用の疑念を晴らすこと、余分のプルトニウムを持たないという国際公約を守る。

 1-2.プルサーマルを続ければ毎年200億円の損失(800トンの再処理でプルトニウム約6トンを回収し、MOX燃料に加工)。プルサーマルを国策上続けるのであれば、国がそのコストを負担すべき。

 2-1.再処理をしないと使用済燃料が溜まり、大部分の発電所が停止に追い込まれるので六ヶ所工場は稼動する。

 2-2.国内再処理費は海外の3−4倍、MOX燃料加工費はウランの4倍程度、高レベル廃棄物処理費も高く(スイスの推定値580ECU/kgU),プルサーマルのための再処理はすべきでない。

 2-3.高速増殖炉の開発の見通しは明るくない。またウラン需要は今後長期間逼迫しない見通し。
この点からも直ちに再処理する理由に乏しい。

 2-4.海外からの返還プルトニウム30tを処理するのに10〜15年かかる。この間、プルトニウムを回収することは不可、プルサーマルによる経済的負担を避ける。また、電力は株主訴訟で敗訴する可能性大。

 3-1.現時点で最も望ましい解決策は使用済燃料の長期貯蔵である。

 3-2.原子力委員会が自治体に約束している「使用済燃料は原子力敷地に長期貯蔵することなく再処理工場に持ち出す」政策を見直し、改めて敷地内貯蔵を自治体にもとめるべき。福島県知事も安いウランを燃やすべきとの主張あり、そのための敷地内貯蔵は論理的。

 4-1.返還プルトニウムの処理に10〜15年必要であるから、長期貯蔵施設の完成までの期間とほぼ一致。(従って六ヶ所工場ではプルトニウムの回収は行わない?)

 5-1.40〜50年後までウラン価格はkgあたり100ドルを超えることはない。使用済燃料はウラン価格が上昇した時点でリサイクルするのが得策。

 5-2.高速増殖炉の実用化の見通しは極めて不透明。仮に実用化できるとしても40〜50年先のこと。

 

討論

  上記説明を踏まえて討論を行った。

 

 1.長期的視点の重要性

   ・わが国では原子力開発の初期から長期的視野に立って再処理リサイクル路線を取って来たが、その時と今では何が変っているか? 日本はエネルギー小国で、エネルギー資源に欠けるという情勢はかわっていない。変っているのは経済成長が落ちたこと。FBR開発の遅れとMOX利用の停滞。電力市場の自由化の進行である。 これからは再処理を中断するという結論は出ない。

   ・われわれは未知の世界を歩いて来た。常に複数の選択肢を用意することを考えるべき。

   ・過去の歴史は今日の意志決定を束縛する条件となりうる。大きく舵を切る時には、現実への配慮と共に将来への深い洞察が必要。

   ・長期計画は情勢変化に対応して見直して来たし、その審議過程も公開されるようになった。しかし、本音の意見が必ずしも反映されていないとする意見があった。

 

 2.六ヶ所再処理工場の運転をめぐって

   ・ホット試験で工場が汚染される前に建設を中止すべしとする未来研究会の案に賛同する意見もでたが、大勢は六ヶ所工場を稼動すべしとした。

   ・もう建設は殆ど終了しており、止めても資本費が節約されるわけではないし、第一このプラントはパイロットプラントで、これを創業することによってknow-howを修得することが目的。

   ・現在の社会的風土では、たしかに無用な停止を強いられるリスクは大きいが、核燃料リサイクル路線を維持するためにはこのリスクを負う必要がある。

   ・電力市場の自由化を控えて、電力にこのリスクを取らせることには無理がある。国がリスクを負うべき。

   ・再処理しないで中間貯蔵だけとなれば最終処分をどうするか?最終処分について方針が纏まらないとトイレなきマンションに戻る。

   ・六ヶ所工場の建設を中止した場合、当分の間中間貯蔵でいくという方針が認められなければ原子力発電所の停止を招く。中間貯蔵は現在、最終的な再処理を条件として認められており、この点からも建設中止は無理。

 

3. 再処理とプルサーマルの経済性

   ・六ヶ所工場の建設費が高い理由には幾つか挙げられるが、これはいわばパイロットプラントである。ここで生産されるプルトニウムの軽水炉利用も高コストとなることは初めから分かっていた。

   ・このプルサーマルの高コスト分を電力自由化という競争市場のなかで既存電力だけが負担すべきという議論には無理がある。

   ・再処理事業は自由化と共存できない。使用済燃料は国の責任で管理すべき。

 

4. 返還プルトニウムと余剰プルトニウム

   ・余剰のプルトニウムを持たないというのは国際公約だから必ず守るべきとする考え方は硬直的。
余剰プルトニウムを持っても、貯蔵の安全保障と透明性が保たれればよいのではないか。

   ・そうは言えない。ここ数年核不拡散の要求が厳しくなっている。国際的に見ると、プルトニウムを持っていること自体がリスクである。

   ・核保有国に再処理を依頼した返還プルトニウムを、持ち帰らずに貯蔵依頼する手もあるが高コストに付く。やはり返還プルトニウムは優先的に燃やす必要あるだろう。

 

5. 中間貯蔵について

   ・六ヶ所工場で年間800トン処理できたとしても処理容量は不足だから、いずれにしても中間貯蔵という選択肢は必要。

   ・サイト内貯蔵が望ましいが、これを実現するためには、国と県、とくに福島県との間の関係修復が先決。

 

6. 国際協力

   ・核燃料サイクルに関する国際的な協力、とくに原子力発電所を建設しようとしているアジア諸国、韓国、中国の原子力開発に関連して今後、使用済み燃料貯蔵、再処理、高レベル廃棄物処理での協力を念頭に置くべき。

 

7. 社会的信頼の獲得

   ・当面電力の社会的な信頼を回復するためには徹底した情報公開が必要。

   ・国の社会的信頼もまたゆらいでいる。国と事業者間の相互信頼もゆらいでいる。新しい合理的な信頼関係の確立が急務。

   ・青森ではこれまで国の行った事業は全て中断している。県民の心の中にはまだ痛みが残っている。地元への対策費といった金だけの問題ではない。

 

8. 透明で公開の議論

   ・日本の社会的風土として公開の議論を通じて纏めていくということは好まれなかったが今は変りつつある。

   ・原子力についてはとくに国会の関与が最も重要であるという指摘は正しい。エネ基本法の成立もあり、議員間の関心も高まっているが、フランス国会の対応などと比べるとおくれている。

   ・国会での議論が大切なのは分かるが、国会を当てにはできない。原子力は票にはならないので議論をさけている。

 

9. 電力市場自由化と原子力

   ・これから本格的に自由化の中での原子力のあり方が議論されることになっている。どのような官民の分担が日本にとって効率的なのか考える要。

   ・この討論会でも核燃料サイクル事業は電力自由化になじまないという意見も出ているが、原子力全体についてどうすべきかという主題の中で議論していく必要がある。

 

以上