「エネルギー問題に発言する会」会員座談会議事録
日本の原子力の将来と軽水炉の課題
2005年7月20日(水) 13:00−15:30
於 NUPEC会議室
講演 (13:00〜14:15)
テーマ;日本の原子力の将来に関する考察
講師;電気事業連合会 原子力部 田中治邦氏
座長;伊藤 睦
講演概要
講師の田中氏より、「日本の原子力の将来に関する考察」と題して、1.現状認識、2.当面の課題、3.最近の話題::長期的なテーマ、の順に電気事業者の立場から最近考えていることを、PPT46ページの資料を用いて説明があった。
(1) 現状認識
わが国の原子力発電の現状として、現在16地点、53基、4712万KWが運転中で、電力需要の約3割を供給しCO2排出量を約15%抑制していること、電力料金の抑制に寄与していること等をPPTの目次を追って概説。
(2) 当面の課題
当面の課題として、社会からの信頼回復、サイクルの確立、設備利用率の向上、高経年化対策などを掲げ、廃棄物処分の推進や中間貯蔵立地の推進を含めてサイクルの確立と共に既設原子炉の活用拡大が当面の大きな課題であると説明。
(3) 最近の話題:長期的なテーマ
最近話題になっている次のようなテーマを取り上げて説明があった。
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原子力発電規模の維持(30%〜40%)
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既設炉リプレースと次世代炉開発の戦略(大形炉か中小型炉か)
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原子燃料サイクルの長期戦略
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国際管理構想
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原子力技術協会
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人材確保
その概要は次の通り
1)既設軽水炉の将来として、当面の増設計画で5800万KWへ到達すること、そして供用期間を60年と仮定すれば、2030年以降大規模なリプレース需要が生じ、現状の発電規模を維持する為には、2030年から50年の20年間で3000万KW程度の軽水炉ベースの新規原子力の投入が必要。
2)原子力開発が停滞しているとの印象に対しては、現在3基工事中、1基着工準備中,3基安全審査中であり、世界的に見ても中国と並んで、羨ましい状況である。この計画で5800万KWは実現できる。問題は,その後大規模リプレース需要が出てくる2030年までの端境期であろう。
3)今後の増設プラントとしては合計15基約1970万KWあるが、その内8基で、新計画策定会議の想定5800万KWへは到達できる。
4)日本型次世代炉の開発については、2030年以降のリプレースでの採用が目標であり、大型炉が基本でABWRやAPWRをベースに改良を加え、経済性、安全性、運転保守性の飛躍的向上をじっくり追及すべきであり、時間は十分にある。その間既設炉に適用できる要素技術がでてくれば歓迎である。経産省提案の開発研究には大いに関心があり、積極的に参加しユーザーニーズなどを発言したい。
5)次世代軽水炉の方向性としては、いろいろな設計要求を具体化して、開発を進めることになろうが、その中でも経済性が重要で、新規導入で減価償却の進んだ平均原子力発電単価を上昇させないこと、そして、初期投資額が大きくならないよう建設費の低減が(10万円/kw台を目標)重要である。
6)大型炉か中小型炉かの議論では、いろいろの面からメリット、デメリットがある。電力需要が伸びつつも系統容量の小さい会社は中小型炉を選択する可能性があるが、大方は経済性や立地、許認可の手数等のデメリットから大型になろう。世界に日本の技術の独創性、存在感をアピールするには革新的な中小型軽水炉設計を提案することは効果的である。電事連台としては、中小型炉の開発を否定するものではない。
7)日本の原子炉メーカの将来については、(敢えて意見を言わせてもらえればとの前置きで)リプレースは海外が先行するので欧米の炉メーカは確実に生き残っており、電力としては余り心配していない。しかし、大量のリプレース工事集中では、欧米メーカだけでは対処困難で、国内メーカの活躍を期待する。それまで約20年間、技術能力の維持が可能か。国は、経済産業政策として日本型次世代炉の開発を推進する考えであり、また国際競争力の観点から国内産業の強化も視野に入れている。
8)サイクルについては、原子力委員会の新計画策定会議が軽水炉(第一世代)の規模、そのリプレースの時期と規模、六ヶ所再処理の操業とプルサーマルの実施状況を想定して、第二再処理工場を2050年頃操業開始の基本的なシナリオを描いた。第二再処理工場は、採用技術、規模など未だ全く白紙の状態で、経済性、実施主体、立地点等の議論は時期尚早であり、高速炉と同様、国の研究開発の推進に期待する段階である。
9)高速増殖炉開発の議論では、軽水炉時代に続き、エネルギーセキュリテイ,資源問題、環境問題を長期的に解決できるものはFBRしかなく、将来実用化したFBRを建設、運転するのは電気事業者との認識であるが、実証炉の必要性、設計、規模など未だ白紙であり、その実施主体、立地点などの議論は出来る段階に無く、国が主体となり、まずは実用化の可能性についてしっかりと研究が進むことを期待。
10)国際管理(MNA)構想は、新たな差別化により、平和利用の権限を制約する一方で、疑惑国への核不拡散の効果が小さく、実現は困難であろう。結局、IAEA保障措置の徹底、追加議定書の普遍化、NSGの輸出管理,PSI構想等を地道に進めざるを得ない。
11)電力自由化問題については、既に電力小売への新規参入で届出された電源の合計は約630万KWになり、競争入札では電力会社が連戦連敗と脅威になっている。しかし、既設原子力の競争力は遜色なく、電力間での原子力の共同開発は可能で、原子力比率の目標水準30〜40%は達成可能であり、原子力と自由化の関係は希薄と考えている。
12)原子力技術協会への期待と課題は、説明省略。
13)人材確保については、大学院の原子力専攻コースは復活の兆しがでてきたことや技術士(原子力、放射線部門)が生まれたことなどを評価。
電力会社は、特に現場の保修に携わる人材の確保が大切であり、電力会社と元請会社の体制、役割分担などに課題があり、長期的には質の維持、特に班長レベルの技能と意識の向上が課題である。
質疑応答
林:長計では原子力の比率30%以上を目指すと言っており、資料では以上が抜けていて気になるが、説明では5800万KWで40%に達するというが、そうすれば新設は後8基しかなく、それ以降の計画中は実現不確定で、これで本当に技術レベルの維持が出来るか心配している。電事連内ではヨーロッパでもアメリカでもやるんだから余り心配しないで良いと言う意見もあるとのことだが、本当にそれでよいのだろうか。メーカサイドでは大変心配しておる様に聞いている。両者に認識のギャップがあるように思うが。
田中:5800万KWは、単に数合わせで、今の計画の半分程度の実現でも30〜40%が達成できることを示したもので、決してそれで打ち止めという事ではない。しかし、計画中のプラントもいずれ作るにしろ、色々な事情で遅れ進みがあるだろう。
技術レベルの維持の件は、電力の中でも意見が分かれており、技術の維持として炉開発の設計研究活動を続けるべきと言う意見もある。維持すべき技術には、設計、解析など机上の技術と、工場で物を作る技術、それと現場で据付・建設する技術と三つぐらいに分けられるが、これをすべて維持するために、3千億規模の投資をボランタリーにする事は不可能である。やはり、現状の建設計画の中で何とか工夫して維持するよう考えていくより仕方が無いのではないか。その間に機器の取替え工事とか、中国に輸出が出来るかどうかわからないが、海外からの機器の製造を受注してやって行けるとしたら、今一番維持が難しいのは設計技術・能力の維持であり、そこあたりを今度経産省が始めたいと言っており、これには電力も協力したいと考えている。
石井(陽):このレポートは大変参考になり、考えには全く同感であるが、ラドウエストについての突込みが不足しているように思える。消滅処理などについてもよく考えて置く必要があると思うが。
田中:本日の皆さんの関心が薄いと思い端折ってしまったが、14ページの当面の課題に掲げているように重要な課題であり、今度の原子力部会で扱われる。
石井:トリユームサイクルも取り上げるべきではないか。
田中:今回の新計画策定会議でトリュームもしっかり研究しなさいとの意見もあった。しかし、電気事業者にやれと言われても困るので、基礎的な調査を日本原子力研究開発機構あたりでやっていただいたらよいと考えている。
国民から電力料金値下げを要望されている時期に、自分でやらないものに手を出すのはどうかと思う。
益田:原油価格上昇で、天然ガスも上がるだろう。これへの対策としてもっと原子力をやろうと言う発想は無いのか。
田中::そのご意見は皆解っていても、今そのために建設計画を変えるという考えは無い。動いている原油価格を見て、今すぐ、原子力に切り替えるというほどのことでもない。今後はむしろ、持っている供給計画の中で環境制約の強化などの動向も勘案し、原子力が生き残って行くことになるものと考える。
杉野:研究開発について、電力はかっての第3次改良標準化ように積極的にやる方向か。
田中:全電力が採用するものには電力共研も可能だが、そうでないものは、難しい。30年後のリプレースは全電力に関係するので、やがては力を入れてやることになるが、未だ25年先の話なので、今は電力会社が猛然と引っ張ると言うタイミングではない。電力需給の動向を見極めて、10年後ぐらいには走り出さないといけない。今は、ユーザーのリクアイアメントをしっかり出すことをやる。
杉野: 過去の経験では国に丸投げでは良い開発・実用化にならなかった。電力が国の委員会をリードしていた。今回も電力が主体になり、かなり口を出さないといけないと思うが。
田中:そこは認識している。今少し停滞しているABWRUやAPWR+の研究を再スタートさせ、しっかり物を言える状態にだけにはしたいと考えている。しかし、少なくとも大規模研究開発投資のタイミングではない。
石井(陽):例えば福島の第一号機46万kwなどのリプレースは大型炉となるのか。
田中:これは未だ何も決まってない。単純に考えれば、2号機まで纏めて廃炉し、170万KWのABWRUにするということも可能であるが、今はまず既設炉の運転を継続することが第一。
石井(陽):水素製造などの電力需要の開拓も大切では。
田中:それは当然。水素もあるが、まずは、全電化住宅の開拓などですね。
石井(亨):技術伝承として設計技術が問題との認識だが、これまでの開発で技術のプルーブン化に素材メーカも巻き込んで相当苦労した経験がある。ABWRUでもAPWR+でも技術のプルーブン化の道筋が見えてないのではないか。
田中:技術実証のみの目的で、炉を建設するわけには行かない。みんなで力を合わせて努力していくより致し方ないのでは。
天野:電力自由化は、原子力のポリシーに大きく影響せず、これまでのポリシーがそのまま継続していると理解してよいか。
田中:原子力の重要性に全く変わりは無い。
以上
出席者(順不同敬称略)
荒井利治、神山弘章、池亀亮、林勉、天野牧男、太組健児、和嶋常隆、石井陽一郎、加藤洋明、土井彰、杉野栄美、竹内哲夫、堀雅夫、松田泰、益田恭尚、石井正則、柴山哲男、篠田度、松岡強、山崎吉秀、斉藤修、松永一郎、小川博巳、武藤正、武藤章、金子顕、石井亨、今永隆、逢坂国一、山名康裕、今村啓一、佐藤洋次、西郷正雄、小笠原英夫、伊藤睦