会員座談会報告
原子力法制研究会 技術と法の構造分科会 活動報告及び関係者の動き
期日 2009年10月15日 13.15〜14.20
講師 東京大学大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 客員教授 西脇由弘
場所 原技協会議室
司会 若杉和彦
1.講演概要
(1) 東大原子力法制研究会の検討状況
東大法制研究会では研究会の下に「社会と法制度設計分科会」と「技術と法の構造分科会」を設置。「技術と法の構造分科会」では19年度に論点整理を行い、20年度は工事計画認可と使用前検査及び燃料体規制の在り方等について検討した。
(2) 原子力の法規制の変遷
原子力三法制定時代、原子炉等規制法制定時代を経て、昭和43年の改正で、設置許可も(設)工認も安全規制の色彩が明確にされた。
有澤行政懇を受けた改正(昭和52年〜53年)で、基本設計と詳細設計の区分の不明確さが認識されたが、この問題は両設計の規制官庁が分かれていたことに起因するとして、規制の一貫化により両設計の連携を強化するという対策が打ち出された。
また、原子力安全委員会の分離・独立と、同委員会が設置許可を法定ダブルチェックを行うこと、後段規制についてもダブルチェックを行うこととされた。
(3) 保安院発足後のオーバービュー
検査については、平成14年の検査のあり方におけるプロセス型検査の導入、平成21年の新検査制度の導入等、一定の成果をあげた。
審査(設計)については、最新の地震学の動向を導入した規制、PSA手法の進展、トピカルレポートの導入などが行われたが、法の構造に及ぶ検討・変革は未実施である。
(4) IAEAのIRRSの指摘(包括的安全解析報告書関連等)
一昨年実施されたIRRSでは、包括的安全解析報告書など昨年度の検討項目に関連し、次の提言が行われた。
・ NISAは包括的安全解析報告書またはそれと同等な許認可の総体的を集約する包括的安全文書の作成と更新について、IAEAの安全基準がきちんと考慮されるよう配慮を払うべきである。
・ NISAは運転安全計画の承認と定常運転の開始の前に、安全上重要な全ての要素の総合的評価を行うためのホールドポイントを設けるべきである。
IAEAの安全基準に合致しつつ、この提言に我が国法制を適合させるためにはいくつかの改善検討が必要。
(5) 法の構造が抱えている課題(設置許可に関して)
法に欠缺が存在するわけではないが、各規制の骨格のずれのようなものがあり、変更が望 ましい。全体を見渡すと、設置許可の「許可の要素」が不分明で、変更要件が本文記載事項と形式的に決められていること、工事計画認可が構造強度に偏した規制となっていること、構造強度規制に本格的に品質保証が取り込まれておらず、また民間の第三者認証活動が行われていないこと、機能・性能は規制が比較的簡素なこと、設置許可と工認の二段階設計審査の関係を整理する必要があること、保安規定に運転管理の全てを盛り込んだため、基本設計が要求する事項と基本設計における仮定された運転管理事項の具体化が混在していること、段階規制構造をとったため、規制側が被規制側をどのように捉えているかという規制側のドキュメントがアズ・ビルトされていないことなどの課題があり、見直しが望ましい。
(6)「設置許可の許可要素と変更要件」の解決策
現行法令では、原子炉安全を構成する要素(許可の要素)が法令上明確でなく、設置許可の変更要件は形式的に本文事項の変更とされているが、原子力安全の観点から許可の変更や届出要件を定め、許可の要素を明確にし、同時に設置許可申請書を変更・届出や補完することによりアズ・ビルトすべき。
(7)「構造強度規制と民間第三者認証」の解決策
工認は構造強度に重きを置きすぎていること、構造強度にかかわる第三者認証がなく、国自らが設計の確認(工認)や検証(使用前検査)をせざるをえない状況となっているが、構造強度に関しては、品質保証体系に本格的に移行し、構造強度の設計に関しては、工認における審査対象を、方針・概要・使用する民間規格や品質保証などとした上で設置許可に移行、構造強度の使用前検査については品質保証を前提としたプロセス型検査に移行すべき。なお、民間の第三者による設計認証制度及び検査制度の導入を検討すべき。
(8)「機能・性能の重視と段階規制問題」の解決策
規制が、構造強度に偏重し機能・性能の確認とのバランスを欠いているが、設置許可、工認の機能・性能に関する規制を充実し、使用前検査に関しても機能・性能の検査を充実すべき。中期的には設計の審査は設置許可のみとし、工認は廃止すべき。
(9)「保安規定と包括的安全解析報告書」の解決策
保安規定に運転開始以降のほとんどの規制を盛り込んでいることから、保安規定を@基本設計が要求する事項(運転上の制限値など)と、A基本設計段階において仮定された運転管理事項の具体化(品質保証、運転手順、教育訓練など)に分類・整理し、Aについては運転開始前に、保安検査により、その実施状況を確認し、中期的には、設置許可に移行すべき。また、包括的安全解析報告書を「設置許可申請書本文と添付書類」+「保安規定」により構成すべき。
(10)燃料体の規制の在り方(検査)
品質が安定している国産燃料体に対して加工の工程ごとの検査を実施しているが、燃料体検査への品質保証の取り込みを進め、加工の工程毎の検査については「一部又は全部の検査省略」の活用が妥当である。中期的には燃料体を原子炉施設の設備と捉え、他の設備・機器と同様にプロセス型の使用前検査の対象とすることも検討が必要。
(11)燃料体検査の規制(少数先行照射等)
燃料体の少数先行照射については、被覆管の材質、燃料棒配列、最高燃焼度等が変わり、設置許可の本文事項の変更となることから、現状では設置変更許可が必要だが、設置許可の変更要件を安全上の観点から定める体系に移行すれば、安全への影響が無い場合は設置許可の変更を要せず炉心での照射が可能となる。
燃料に関する運転制限値が予め決められているが、取替炉心については、燃料に関する運転制限値をサイクルごとの解析にて決定し国に報告する扱いとすべき。
(12)最近の保安院の動向
このような検討に関し、最近設置された原子力安全・保安院の基本政策小委員会において次の指摘・議論がある。
安全審査関係文書の統合・最新化の検討、運転開始前の総合レビューの導入、安全審査制度における品質保証の考え方の取り入れ、検査制度における品質保証の取り入れの拡充等について検討することが適当かつ有益である。また、大学や学会などにおいて原子力安全規制の法制度に関する課題について検討が行われているが、こうした研究成果が今後の取組みに有益な示唆を与えることが期待されるとしている。
2.質疑応答
Q.東大の「技術と法の構造分科会」で検討している内容はもっともなことと思うが、実際の規制に反映させることが大切である。この内容を規制行政庁である原子力安全・保安院などへ、どう反映しているか。
A.研究会の委員には、電力、メーカー、役所が入っている。原子力学会に法制検討会があり、ここに反映し、原子力学会を通じて社会に発信したい。また原子力安全・保安院の基本政策小委員会に研究成果を反映させ、保安院の審議会の結論として提案してもらう。
Q.我々もその活動を支援したい。保安院はこの方向で動いているか。
A.構造強度に係る第三者認証については、この方向で動いている。包括的安全解析報告書、設置許可変更要件については、まだ煮詰まっていない。
Q.IAEAから指摘を受けているが、米国流に法体系を変えるべきではないか。
A.アメリカも、IAEAの安全ガイド等には適合しており、この観点から両者のスタイルは変わりが無い。工認と設置許可について、設置許可の方へ寄せて行く方向。
Q.構造強度に関し品質保証体系に移行と言っているが、具体的イメージは。
A.米国では10CFRで規制の要求事項が明確になっている。米国流の品質保証を入れる良いチャンスでもある。
Q.物の検査から、品質保証型のプロセス型検査を中心にすべきではないか。
A.2002年の検査の在り方中間報告が、そのように提言しており、未実施なだけである。プロセス型に移行した場合、IAEAでも規制に聖域はなく事業者の行為は全て見られることになっており、規制側がサンプリングで抜き打ち検査をする。どこでもアクセスする権利は担保した上で、事業者に頼らず抜き打ちサンプリングを行い、事業者に負荷をかけず、かつ現場の法制遵守意識を維持・向上させることが望ましい。
Q.原子力安全委員会を国家行政組織法の「3条委員会」にすることについてはどう考えるか。
A.「法制度設計分科会」の検討分野である。(個人的考え方ではあるが)国会に根拠を持つ独立行政委員会は、日本では実現は困難。3条か8条委員会でとなろうが、いずれにせよ、原子力の規制は専門家が行う体制とすべき。
Q.構造強度に関し、民間の第三者による設計認証制度(PE制度)の導入と言っているが。
A.米国では製造者の中にPE(Professional Engineer)がいるが、日本ではメーカーの中のPEで良いとは云えない。いろいろの体系がありえるが、我が国では個人認証では国民の納得がえられないと考える。
Q.原子力発電所に限って、炉規制法と電気事業法との関係が混乱している。
A.法制研究会で今年検討しようとしている。
以上
出席者
荒井利治、石井亨、石井正則、石井陽一郎、伊藤睦、上田隆、小川博己、加藤洋明、金氏顕、斎藤修、斎藤健弥、西郷正雄、佐藤祥次、柴田一成、宅間正夫、太組健児、竹内哲夫、田中長年、丹下理、辻萬亀雄、土井彰、中神靖雄、西村章、野村勇、林勉、古田富彦、松岡強、益田恭尚、松永一郎、若杉和彦