会員座談会 「原子力長期計画」について
日時:平成16年5月19日(水) 15:00〜17:00
場所:(財)原子力発電技術機構 会議室
講師: 東京電力 顧問(前 原子力委員) 竹内 哲夫氏
元 日立製作所 土井 彰氏
演題:「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」について
座長:太組 健児
参加者(敬称略、順不同)
天野、池亀、石川、益田、山名、松永、斎藤、小川、阿部(進)、太組、土井、竹内、林、荒井、杉野、澤井、武藤、石井(亨)、松岡、岩井、石井(正)、小笠原、佐藤、今永、小池
資料:1)原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(抜粋) 28−8
2)核燃料サイクルについて 28−9
3)再処理事業に関わる論点について 28−7
座談会の内容:
司会;本年1月には原子力委員会のメンバーが変わり、新しい委員会の体制がスタートしました。
原子力長期計画は5年に1度見直しをされることとなっており、今年の6月から見直しの論議が始まることになっています。しかも最近になって特に核燃料サイクル路線について見直しすべきとの論調がマスメディアにも見られるようになってまいりました。その意味で、本日の座談会は誠に時宜を得たものといえます。
最初に 委員会の検討会などで活躍された土井さんから 現在の長期計画の全般についてご紹介戴きたいと思います。
土井:資料1)によって 長期計画の全体像を紹介致します。長期計画の構成は以下のようになっています。
長期計画の構成
第1部 原子力の研究、開発及び利用の現状と今後のあり方
第1章 20世紀の科学技術
第2章 原子力科学技術の発達
第3章 我が国の原子力研究、開発利用の現状と今後(原子力発電、核燃料サイル)
第4章 これからの原子力政策を進めるに当たって
第5章 21世紀に向けて
第2部 原子力の研究、開発及び利用の将来展開
第1章 原子力の研究、開発及び利用に当たって
第2章 国民・社会と原子力の調和
第3章 原子力発電と核燃料サイクル
第4章 原子力科学技術の多様な展開(加速器、核融合、革新的原子炉、基礎基盤研究)
第5章 国民生活に貢献する放射線利用
第6章 国際社会と原子力の調和
第7章 原子力の研究、開発及び利用の推進基盤
以上の内、特に私が担当しました検討会ならびにフォローアップについて述べますと、
第2部 第5章 国民生活に貢献する放射線利用 については
基本的考え方、国民生活への貢献、放射線の生体影響研究と放射線防護、放射線利用環境の整備の基本的考え方として、分かりやすい情報の提供と積極的な情報公開により国民の理解を得ながら、放射線利用の普及を図って行くことが重要との論調が主流であったと思います。国民生活への貢献については、国は消費者による自由な選択を尊重しつつ研究開発を推進する事が必要です。放射線利用環境整備については 担当省庁も複数に上ることから省庁横断的な協力や協調を円滑に進めることの必要性が論議されました。
第3部 第4章 原子力科学技術の多様な展開 については
基本的な考え方、多様な先端的研究開発の推進(加速器、核融合、革新的な原子炉、基礎基盤研究)ならびに研究開発の進め方(研究環境の整備、研究評価)が論議され、さらに検討会等での長計のフォローアップについては放射線専門部会、加速器検討会での論議に参加したことを付け加えて私の話を終えたいと思います。
質疑応答の概要
Mt:低線量被曝の影響評価についてはどのような議論がなされたのか。
Tk:大変な議論があったが、結局 「既に確立した{定説}を修正するのは大変なことである」との意見で集約された。
Ik:すでに確立した{定説}をそのまま認めるのは問題ではないか。
Is:影響評価と管理の問題を分けて考えないから混乱が生じているように思う。
Tk:研究継続のためのトラウマで、止めろとの意見も強い。
Ms:ガンマ線による食品照射も問題ありか。
Do:国の役目として統一見解を出す必要性は分かっているが、関係省庁が多く、纏め難いとの意見が大勢。安心と安全の問題を分けて考える必要がある。
Mt:許容値1ミリシーベルトについても、医療関係は除くとされているようだが。
Do:医療関係内にもメリットとデメリットがあり纏まっていない。
Is:放射線利用の98%が医療関係である。「リスク・インフォームド」の考えが必要。
Sa:4件の大型加速器の効果について充分に評価されているのか疑問である。
(1)大型加速器計画とその開発の効果は、現在評価されているが、将来、開発の実績・動向などに基づき、再評価・レビューが十分に行われるよう提言されているか。
(2)わが国において、国の大型開発施設は建設が終わると、改良費・改造費がなかなか認められない傾向がある。大型加速器計画に、これに対する的確な提言がなされているか。
Do:提言にも 評価の重要性が明記されている。
司会;まだ色々と質問もあろうと思いますが、本日の本題である「核燃料サイクル」に関する委員会での論議などについて 昨年までの原子力委員会委員であられた竹内さんに、ご紹介お願いしたいと思います。
竹内:私が直接取りまとめに当たった「核燃料サイクル」に関する委員会のポジションを資料2)によって紹介し、昨今論議が起こっている問題に焦点をあてて、資料3)を用いて紹介したいと思います。
講演要旨:
核燃料サイクルについて(資料2の構成と資料3の論議)
第1章 世界のエネルギー情勢
第2章 我が国と原子力
第3章 核燃料サイクルの考え方
(1)核燃料サイクルの意義
(2)核燃料サイクルの課題
@ 核燃料サイクルの経済性
A 核燃料サイクルの将来展望
B 核不拡散
C 核燃料サイクルを巡る国際動向
(3)国民との相互理解のために
第4章 今後の核燃料サイクル政策について
以上が委員会として纏まった意見であり、参考資料として「核燃料サイクルについての疑問と考え方」ならびに検討会での意見が収録されております。
次いで、資料3)に基づき、下記の論点があることと、それに対する考え方を紹介します。
・@現在 ウランの国際価格が安定しており、核燃料サイクルの費用面でのメリットはないのではないか
A1)最近のウランスポット価格は上昇傾向にあり、中長期的にも価格上昇が予測され将来的には供給力が不足する見通し。
・Aサイクル費用が19兆円ならば、その金でウランを購入して備蓄する方が有利ではないか。
A2)19兆円は今後40年間の運転を考慮して合理的に見積もられており、Kwhに換算すると約1円である。
・Bウラン試験に入ると引き返せない。延期して国民的論議をすべきではないか。長期計画の見直し論議が始まっている。ウラン試験は一旦延期した方が良いのではないか
A3)約2兆円をかけて建設した設備が 今まさに稼動しようとしているときにいたずらに論議することは国民経済から言っても不合理である。運転試験のために教育されてきた運転員のモラールを考えても試験は継続すべきである。
・C我が国は38トンのプルトニウムを保有している。毎年5トンのプルを取り出す六ヶ所を今稼動させる必要は無いのではないか。
A4)現在電力会社は2010年度までに全国で16乃至18基にプルサーマルを導入する計画。これにより、年間5乃至8トン程度の核分裂プルトニウムを消費。従って、30トンの核分裂性プルトニウムは約4乃至6年で消費可能な量である。
・D米国やヨーロッパの多くの国では、再処理をしてプルトニウムを使う方針を転換しているのではないか。
A5)欧州ではフランスが強固なサイクル政策を継続している。ロシア、中国もサイクル路線を継続。サイクル路線を止めていたアメリカも、再処理研究開発を含む先進的核燃料政策(AFCI)に昨年から着手し、将来のサイクル路線も視野に入れた動きをしている。
・E「もんじゅ」事故等により高速増殖炉の実現に目処が立たなくなったため、プルサーマルという「敗戦処理技術」でプルの処理をすることとなったのではないか。
A6)高速増殖炉に先だって軽水炉でプルトニウム利用(プルサーマル)を進める考え方は、昭和36年の原子力長計にも明記されており、原子力開発の当初からの基本方針である。
・F18.8兆円は根拠あやふや、3倍の50兆円にもなるのではないか。
A7)現時点で出来得る最も合理的な見積もりであり、積算の前提、根拠を合わせて提示した上で、専門家や有識者からなる委員によって論議を行い、一定の合理性があると評価されている。
・Gなぜ、ワンス・スルーとリサイクルのコスト比較ができないのか。
A8)使用済み燃料を直接処分する場合の処分形態、処分概念、安全基準等が無いため、現時点において、リサイクルコストと同等の精度での算定は極めて困難である。
以上が最近の論調の主要点でありますが、私としては、如何なる論議を踏まえても核燃料サイクル路線を、現時点において全面的に見直す必要性は感じておりません。いろいろのご意見があろうかとは思いますが大いに論議していただければ幸いです。
司会:有難うございました。簡潔に纏めてお話戴いたことに感謝申し上げます。時間の許す範囲で質疑応答に入りたいと思います。
質疑応答の概要
Ik: 28−7の資料の作成元はだれか。
Tk: 私の机上に置かれていたものであるが電事連だと思う。同じ内容を毎日新聞が報じている。
Ik: 自由化した場合の論議がなされていない。
Tk: 同じ危惧を持っている。
Ik: 「エネルギー基本計画」と「長期計画」との関係が明らかでない。
Tk: 「エネルギー基本計画」は国の計画で実施することが前提である。
Ik: 米国のDOEの計画では 予算が同時に明示されるが、長期計画にはそれが無い。
Tk: そのとおりで、方向性のみが強調されている。
Is: 長期計画は 研究計画から始まって現在に至っており、計画としての意義を見直す必要があるのではないか。
Do: 5月18日付け新聞に原子力委員会の存在意義の議論が載っており、第18回原子力委員会に配布された資料でも討論されている。
Sg: 長期計画の生い立ちから考えて、自由化に関する議論が欠落しているのは自然のように思われる。
Tk: 自由化の問題とセキュリティの問題は次元の違う論議であり、これが混同されることをおそれて いる。
Is: 「エネルギー基本計画」は国の計画であり、位置付けが明確である。原子力委員会は8条委員会で本質的に諮問委員会である。
Ym: 8条委員会では有るが、誰がボスであるかによって、国の施策への影響力が大いに異なる。過去においては大臣が委員長を勤め、大きな影響力を発揮した。
Is: 今の原子力長期計画に物申すのは意味がないのではないか。
Ik: ワンス・スルーとリサイクルの比較についても国の腰が引けている。仮定をおいてやれば良いではないか。
Ms: 例えば、スウェーデンと同様な仮定をおけば良いのではないか。
Is: 「もんじゅ」に関する議論にしても腰が引けているように思う。
Tk: ネガティブ・チョイスの意見ばかりになっていることを心配している。火力ではコジェネの議論の時、仮定を設けて議論し推進を図った。
Ha: 当会としての意見集約を図りたいと思う。本日は時間が無く無理であるので、別途六ヶ所再処理工場のウラン試験の是非について焦点を絞った座談会を開催し、「月刊エネルギー」の7月号の座談会の 形で記事を載せることで、意見発信としたい。
司会: 以上で本日の座談会を終了します。
(平成16年5月21日 太組 健児)