座談会議事録

極低線量被ばくの広島原爆生存者は高いがんリスクを示している

 

講師: 名古屋大学 情報科学研究科 宮尾克教授

日時: 2009716日 15:0017:00

座長: 斎藤修

出席者: 末尾に記載

 

講演概要

1.              放射線影響研究所(以下放影研)の広島原爆被爆者約12万人について、1950年から寿命調査を行っているが、残留放射線は考慮されておらず、原爆の初期被爆しか考慮されていない。

被ばく線量の0点は、調査対象者についてのポアソン回帰分析により、0に向かって外挿して求めており、コントロール(対照集団:生活条件などが同じで、被曝が0の集団)を決めて、比較していない。

2.              調査ではコントロールとして、広島県・岡山県の1945年当時034歳の集団110万人を取り、この人々の平均死亡率により寿命調査対象者が死亡したとした場合の死亡数(期待死亡数)と実際の死亡数の比(SMR)を求めた。

長崎については、特有のウイルス性白血病があり、今回は比較対象としなかった。

対象期間:197111日〜19901231

線量区分

極低線量  00.005Sv 爆心地からの距離 2.710km

低線量   0.0050.1Sv         1.42.7km

高線量   0.1Sv以上          1.11.4km

 これらの条件で、年齢区分ごとに寿命調査対象者が平均死亡率で死亡したとした場合の死亡数(期待死亡数)と実際の死亡数の比(SMR)を求めた。

標準化死亡比=観察死亡数/期待死亡数

3.              検討結果

A)     広島県の比較では、全死亡・全がん・白血病・固型がん・肝がん・子宮がんについて多くの場合被爆者のSMRが有意に高かった。

B)      岡山県についての比較は、全死亡・全がん・白血病・固型がん・胃がん・肝がん・肺がん子宮がんの多くの場合に、被爆者のSMRが高かった。

C)     5mSv以下の極低線量被ばく者についてみると、広島県・岡山県とも男性の白血病においてSMR3倍と特異に高い。 これは男性の場合、原爆後、救援などのために市の中心に入域してかなりの被曝があったせいとも考えられる。

D)    肝がんは特異な傾向を示しているが、同じ注射針使用による感染が考えられる。

4.              放影研の調査との違いについての検討

A)     生活習慣等の要因(放射線に関係のない要因)

広島市は、広島県全域あるいは岡山県とも瀬戸内海沿岸にあり、得意な差異は認められない。

実際1985年の全死因の死亡率は同県とも同じ傾向を示しており、対照群とすることは適切と考えられる。

B)     放射線と関係する要因

放影研の調査では残留放射線を線量評価に含めていない。したがって低い被ばく線量群の人は、実際はかなりの被ばくを受けている可能性がある。

5.              論文に対する意見とそれに対する応答

A)     長崎大柴田氏よりコメント

     SMRでなく、直接的に死亡率を比較すべきである。

     ポアソン回帰分析による被ばく0点への外挿は、科学的に珍しいことではない等のコメントをしているが、

     直接比較については、性別、5歳階級別に個々に、直接比較するとしたら意味が分からなくなるので、代表値のSMRを性別に比較したのであり、妥当なまとめ方である。

     暴露集団からの外挿が許されるのは、0 Svにきわめて近い集団の正確な被ばく線量とリスクがわかっている場合に限られる。放影研の研究では残留放射線を無視しており、初期放射線のリスクが過大評価される

B)     放影研プレストン氏よりのコメント

プレストンらのコメントがあり、我々はそれに対し意見を述べた。中心点は、彼等が非被爆者をコントロールに使っていないで、被爆者集団から、初期放射線の線量推定のみから、計算でコントロールを「作っている」ことへの批判である。これが、彼等の結果と我々の結果の相違の原因となっている。

 

質疑討論

1) Q:広島県も岡山県も、胃がんと肺がんのMSRには男女で有意な差が認められる。女性は爆心地からの距離に対応して減少しているが、男性では逆の傾向を示しており、何か理由が有りそうだ。

A:男女の生活習慣や喫煙・飲酒・食べ物差、あるいは原爆投下後の救援活動も考慮すべきだが、このデータで説明できる明白な因果関係は不明だ。

2) Q:大変良いお話であった。残留放射線が重要である。

A:極低線量域のデータから推察すると、残留放射線被ばくは0.4Svくらいあると思う。

M氏:0.37Svくらいと推定される。

3) Q:岡山県と広島県の差はないのか。日本の中で広島はどうか。

A:日本全国では差があるが、岡山と広島の差はない。両県ともおおむね日本の平均である。ただし、肝硬変、肝がんだけは、広島県が岡山県より死亡率が高い。

4) Q:今回の研究は始めようとした動機はどこにあるのか。

A:正しい対照集団を取っていないのはおかしい。そこを正したいと思っている。

5) Q:先生の論文に対して外国での反応はどうか。

A:ドイツやEUは注目しており、話題になっている。

6) Q:放影研は、なぜ残留放射線の影響を考えなかったのか。

A:放影研の当時の形態は、米国の管理下にあるABCC(原爆傷害調査委員会)であつた。今と考え方が違う。当時はポアソン回帰分析でできると思ったのではないか。また、コントロールを被爆後入市の人や、呉市で作ろうとした形跡があるが、結局、それぞれの理由で放棄された。

7) Q:初期被爆に意味があるのか? 積算した被ばく量に線量率依存性があるということか? 低線量率での被ばくでは影響が出ないということになるのか? 事故時に短時間に被ばくすると、影響が大きく出ることにならないか?

A:そのように理解できる。

8) C:水俣に関しては、統計をみると一人の奇形児も生まれていない。

またチエルノブイリ事故では、事故発生時に緊急処理作業を行い急性放射性症になった人は別にして、その後事故処理作業を行った作業者の平均被ばく線量は、0.7Svであった。これらの事故処理作業者のその後の死亡は、放射線被ばくが原因ではなく、高血圧症や心疾患だったと言われている。統計上の誤差範囲を考えたらいかがか。

9) Q:しきい値なしの直線仮定についてはどう考えるか。

A:自分は放射線の専門家ではないのでお答えできない。

 

出席者

荒井利治、石井亨、石井正則、石井陽一郎、池亀亮、伊藤睦、上田隆、小川博巳、小野章昌、金氏顕、岸昭正、税所昭南、斎藤健弥、齋藤伸三、佐藤祥次、竹内哲夫、丹下理、力石浩、辻萬亀雄、土井彰、中神靖雄、林 勉、古田富彦、益田恭尚、松岡強、益田恭尚、松永一郎、若杉和彦