会員座談会議事録
地球温暖化抑止に向けて
―水素利用技術の最近の進歩―
講師 東京大学名誉教授、日本コージェネレーションセンター会長 平田賢氏
日時 2008年3月25日 15:00〜17:00
座長 益田恭尚
講演概要
地球温暖化抑止技術には@エネルギーの高効率利用(コージェネレーション)A燃料の脱炭素化(水素)B排ガスからのCO2回収・隔離等がある。
エネルギーは 第一法則:エネルギー不滅、第二法則:熱は高温から低温に向かって流れ、元には戻らない、という極めて単純・明快な基本原則に示す通りであり、この点を理解し熱を有効に利用しなければならない。
@ のエネルギーの高効率利用をするためには、高温から低温まで熱を有効に使い尽くさなければならない。しかし、熱がどのように利用されているかを示す熱バランス図をみると、有効利用の割合はむしろ悪くなっている。
有効利用のためには最高温度の利用ではピストンエンジンが最も良く、それで発電する。さらにその排熱を使いガスタービン、蒸気タービンとして利用し、残りの熱で給湯・暖房等に使う。このように高温から低温まで熱を直列に利用するのがコージェネレーションである。既にシステムとして商品化され、高効率を達成している。日本は総計約880万kWあり、コージェネレーションの利用の点では、世界の中でも大変上手くいっている方である。
A の燃料の歴史的展開は薪・石炭(固体)から石油(液体)を経て、21世紀は気体(水素および天然ガス)の時代であろう。欧米のガスパイプラインは非常に発達しており40気圧以上のパイプラインで全土に輸送している。これに比べ日本には殆どパイプラインは敷設されていない。北東アジアにパイプラインを敷設しようという計画に付いて毎年国際会議を開いてきた。シベリアに世界最大の資源量が未開発のまま残っている。これを開発しパイプラインで輸送し北東アジアで利用していくことが重要である。パイプライン計画には中国が熱心でロシアやカザフスタンから砂漠の下に眠る天然ガスを採掘したパイプで輸送している。
自動車への利用では燃料電池ハイブリッド車の実用化が発表された。ミュンヘンの空港のリムジンバスは250気圧の水素ボンベを搭載し、水素燃料のピストンエンジンで動いている。これ等を支えるインフラはパイプラインである。気体燃料のパイプラインを水素輸送にも役立てるため、混合ガスとして輸送する計画である。輸送先でそのまま、またはメンブレンを利用し水素を分離して利用する。水素利用の技術は燃料電池だけではなく、エンジンの場合、純度はあまり問題にならない点が有利である。
討論概要
質疑応答と討論を行ったが、将来の動向に対し様々な議論があり、結論を出せるようなものではないので、議論になった話題を以下に列記する。
* 固体、液体資源の消費量はすでにピークを過ぎているに対し、天然ガスは2050年以降も上昇傾向が続くのか?
* 水素の利用に関して燃料電池車が脚光をあびているが、実用化は相当先と思われる。他にどのような利用先があるか?
Ans.天然ガスに水素を混ぜて利用する方法が考えられている(50%程度まで)。
* 高圧水素ボンベ方式と液体水素方式があるが将来方向は
Ans.使いやすさの点では液体水素方式であろうが液体水素の流通は簡単ではない。高圧化も冷却も相当エネルギーを使う。いずれが良いか議論が分かれるところである。
* 液体水素はボイルオフの問題もあり、使いにくいのではないか?
* 水素を石油や天然ガスから作ったのではメリットがない。エネルギー効率良く水素を取り出すのが課題(EPRの高い方法)である。この面から、高温ガス炉の活用が望まれる。また近未来には原子力と水素の接点が必要となろう。
* 電気需要と熱需要の比率により、コージェネレーションかコンバインドサイクル(熱はヒートポンプ)の選択が決る。日本の気候風土では熱利用が少ないのでコンバインドサイクルの方が有利ではないか?電力会社とガス会社と永年の議論であるが、結局は消費者が決めることになろう。
Ans.様々な選択肢(バリエーション)があっても良い。
* 有効利用エネルギーの定義が問題である。特に、運輸・民生は効率が悪いのが問題である。熱バランスの図から、電化すると有効利用率が減るように見えるが、内燃機関の効率が悪いので、電化すれば実際はむしろ効率が良くなるはずだ。
* 発電効率は50%を超えるところまで上がってきている。水素の製造方法として電気分解法も一つの選択肢になっている。将来の選択肢として水素化か電化かを考えた場合どちらが便利になるであろうか。
* 自動車燃料の問題ではプラグインハイブリッド車が実用化され、改良が進めば電気自動車の方が有望なのではなかろうか。
* 地下の温熱利用など、ヒートポンプの利用拡大が望まれるがどうか?
Ans.ヒートポンプは原理が簡単で、画期的なアイデアがそうあるとは思われない。作動流体の選択肢などがあるが、限界に近いのではないか。
* 中国はタクラマカンのパイプライン設置・増設などを初め、積極的に他国のエネルギーに手をだしている。エネルギー自立を目指そうとアメリカのまねをしているといってもよい。
* 東アジアの2030年に向けたエネルギービジョンでは、サハリンからのパイプラインが計画されているが、サハリンの資源量はどの程度あるのか?また、パイプラインとLNG輸送はどちらが有利か?
Ans.パイプライン:日本近海は深いので、欧米のようには行かない。
LNGによる輸送も近距離なので、従来と違いピストン輸送となり、新たな問題もでよう。
パイプライン設置はアラスカの方が現実的かも知れない。アラスカから本土へのLNG輸送は大変である。
* アラスカのガスは米国本土に持っていかれ輸出にまで回らないのではないか?
* OHPの8頁の地球温暖化抑止技術の(4)番目に原子力を入れておいて下さい。
Ans.了解
全員拍手
以上
出席者
荒井利治 池亀亮 石井正則 石井陽一郎 伊藤睦 小川博巳 加藤洋明 金氏顯 西郷正雄 斎藤修 竹内哲夫 土井彰 西村章 野村勇 林勉 益田恭尚 松永一郎 外5名