会員座談会議事録

原子力社会工学、特に原子力法工学について

 

講師 東京大学 大学院工学系研究科原子力専攻 班目教授

日時 2007620日 13001500

座長 益田恭尚

 

講演概要

○大学院工学系研究科原子力専攻の設立の趣旨

新設発電所が少なくなってから、卒業生の3割程度しか原子力業界に進まなくなり、原子力工学科の名称を変えざるを得なかったが、この結果、原子力工学を体系的に判る技術者が少なくなった。横に広く知っていて、かつ専門性のあるT型人間がいなくなり、I型人間ばかりが原子力を支えることの危険性を感じ、3年前に原子力を付した大学院を立ち上げた。

かつての原子力工学は原子力と放射線利用が対象であり、原子力社会工学が不足していた。原子力社会工学の内容には倫理、法工学、核不拡散、危機管理、リスクコミュニケーションが含まれる。

日本は非核保有国で唯一フルセットが認められている国である。核兵器を持つと損をすることを分っている人が少ない。この分野の人材育成のため、原研とタイアップして国際保障の客員講座を開き、修士学生や社会人の博士学生を育てている。IAEA勤務を大きな目標としている。更に、IAEA勤務経験者は帰国後社会人ドクターを取得、再度上級幹部職員として勤務してもらうことが目標である。

     社会的受容性

原子力広報は予算がついている割には成果がでていない。パブリックコミュニケーションの専門家の不在が原因。市民講座などにより、アンケート調査しながら、どうしたら社会の理解が得られるかを実践的に進めていけばもっと上手く行くはずである。

原子力界と外部のコミュニケーション以前に、原子力界内部のコミュニケーションにも問題がある。かつてT型だったのが現在はI型人間が中心である。原子力界の人間を再教育する必要がある。

倫理については原子力学会の倫理委員会を中心に進めている。

○法工学

原子力法工学の面では、今の制度をきちんと分析・評価したうえで提案してゆく必要がある。アメリカでは大統領が変わると、上級官吏は一旦野に下り、大学教授等になり、その間に法律に付いて評価研究を行い、官吏として再登場する。日本は現制度の評価研究が行なわれていない。

新しい制度の提案に際しては、本音で議論する場として、学会を活用していくことが最もよいと考え進めている。

法工学の対象は知的財産をはじめ幅が広いが、原子力の場合は原子力安全規制制度が最大の課題である。東大グループでは原子力法工学ワークショップを開催し、新しい提案をするために過去の経緯を把握するとともに、原子力の安全管理と社会環境ワークショップを開催、人材マップを作り対応している。

原子力法制研究は問題点の洗い出しと論点整理、ならびにあるべき姿の調査の二本立てであり、いずれ公開の場で進めたいと考えている。問題点を調査し論点を集約するが、これまでは法律は基本的に代わらず、追加改定で処理され、問題点の整理すらなされていなかった。

検査のあり方検討会は役所に審議会を設置する旧来の方法であるが、常設の委員会とし、素案作りでは機械学会の公開の場も活用した。検査の実効性では米国の業者の自主性を尊重する、 ”We trust licensee, but verify them” が目標であるが、日本の現状はいまだしである。米国は30年早かった。電力もひどい。積極的に何もやってこなかった。JEAC4209は米国の1970年代のレベル。H20年から新検査制度になる。目標はNRCであり、停止中の検査中心から運転中も含めた自主検査中心に変えるのが目標である。電事法の部分改正において改正案を提案すると、内閣法制局の見解はそのくらいの改正事項は、運用で可能というものであった。どういう問題があり、誰が提案しているかをきちんと示さないと認められない。このことが原子力法制研究の動機である。

社会と法制度設計ならびに技術と法の構造に関して各業種の有識者にヒアリングし、譲れないものを明らかにしてゆく。日本は法律の改正を避けたがること、行政法に対する認識不足、平和利用、リスクゼロの要求、入口規制など海外と違いがあり、その点に留意する必要がある。

学会で議論した後、公聴会で議論するというのが新しい行政改革のプロセスであり、機械学会でも研究会を行なっている。

 

討論概要

司会 原子力工学科がなくなり、核不拡散の人材がいなくなっているという点に付いては問題意識が不足していた。この辺の問題から議論を始めたい。

Q() 核不拡散など、国際機関で実際に活躍できるようにどのくらいの期間がかかるか?

A 社会人ドクターは4〜5年先。IAEAへの日本の出資額(約20%)を考えると、日本人プロパーをせめて5%程度(約100人)にしたいと考えている。現在はドクターをもっていない人をムリして押し込んでいる。

Q(竹内)帰ってきてもキャリアを生かせないのが、問題である。日本の社会が変わらないとだめでないか。

A 国際機関全部を視野に入れている。国際公務員の経験を生かす筋道作りが必要である。なお若者は必ずしも終身雇用を求めていない。人気のあるマッキンゼーでもほとんど勤務期間は10年以下(10年以上なのは大前氏ぐらい)。

Q(池亀)現状では、トップ以下が認識していないのではないか?こちらのメンタリティーも変える必要がある。

A 日本人が海外で活躍しないのは給料の問題ではない。国際機関は長年勤務すれば年金など条件がよい。

司会 I型人間のため、内部のコミュニケーションが悪いという指摘に対して。

Q(石井亨)立場論を優先し、本質論ができないのが原因である。

A 上の方は分かっているが、下の方になると本当に知らないのが現状である。

Q(石井亨)コミュニケーションについて言えば立場論優先が問題である。I型が多くなったのは、仕事を効率的に行なうため、ある時期I型が重宝がられた経緯がある。

Q(荒井)一種のエリート教育と思う。国際的に通用するには教養が必要。このために横を広げることをやっているのか?

A その通り。少なくとも原子力を理解してもらうのが、どれほど難しいかを理解してもらう。

Q(金氏)教育は産業界でもやっている。プラントメーカーはI型だけではだめ。横を広げるのは企業がやらざるを得ないのではないか?I型にしているのは大学と学会。学会も専門の先生、I型人間が中心。

A 産業界、メーカーの方がまだましであるが、電力はI型が進んでいる。新設がないと決められたことだけやればすむ。メーカーも団塊世代が卒業するとえらいことになる。他からつれてくる場合I型になってしまう。大学も昔みたいにおっとり横を広げる勉強などしていられない。文科省はノーベル賞をとれるようなのが大学の教員と思っている。評価されるため論文書くのに必死なのが現状。T型人間が支える規格作りのような研究は「その他社会的貢献」で評価が低い。

Q(山名)学会と大学のミッションを確立する必要がある。その道筋があるのか?

A 学会は大学の先生のサロン。今のままでは駄目だ。ASME(技術者協会)はJSMEと違い、規格委員会が最大の予算を持っており、本当に役に立つことをやっている。学会に産業界がもっと入ってもらいたい。大学はしばらく荒波が続くが、ピアレビューなどを通し、だんだん変わるであろう。

Q(小川)これまでの論点に対してどんな検討をしているのか?

A 核燃料事業、電気事業の関係者から意見を聴き、まとめた形にして社会の人に知ってもらう。意識統一のあと法曹界に投稿、学会(公開)の場で案をまとめる。

Q(杉野)核不拡散関係でIEAEに人材を送る場合、核兵器の勉強もするのか?

A ある程度のことは原子力工学の基礎知識でわかるのでその程度は勉強してもらっている。

Q(松永)IAEAの安全基準が国際標準になってきた。国外に売るにはこれに準拠しなければならないが、国内はバラバラで国際標準になっていない。日本独特の規準になっているのは問題ではないか?

A 原子力安全の指針作りは学協会に移すべきである。輸出ではメーカーが一番困る。東芝もWHの名前でしか輸出できないのではいか?型式認定のような制度が必要と思うが、まだ着地点が見えていない。

Q(宅間)能力のない人には規制の方が楽。原子力にいるとチャレンジ精神がなくなる。企業内での育成の方法についてお考えを伺いたい。

A 今までガンジガラメであった。これだけは変えないとならないと思っている。

司会 次は皆が一番関心を持っている規制問題に移りたい。

Q(石井亨)保安規定では電事法と炉規法の二本立て。保安規定には品質保証制でやるべきことが入ってきた。電事法と炉規法の保安規定は同じか?品質保証は保安規定にはなじまない。

A 炉規法は保安規定でソフト面、電事法の規程でハード面が対象。条文はおかしいかもしれないが法制局を論破できない。品質保証は電力に改善努力をしてもらいそれを見るために保安規定に入れた。なじむかどうかは運用の問題。

行政法は元来政府がこれを越えてやってはいけないことを縛るものである。JNESの定期安全管理審査は本来検査とは分離して行うのが趣旨である。指摘事項については全部集め、監査にかかる。不適切とされる指摘もあり、現場は急速に良くなっているという事実もある。

Q(石井亨・竹内)保安規定はTech. Spec.の名を変えたもの。品質保証は入り込むことによりTech. Specが薄くなる。その一方、品質保証部分がエスカレートする。品質保証をはずすべきである。

A ハードの検査をやめたい。検査は品質保証一本にし、不適合管理をきちんとやっているかだけでよい。問題は保安院の現場に浸透しないことにある。入口規制だけになっており、運用段階が欠けている。不適合管理に集中したい。

Q(竹内)名前を不適合管理に変えたほうがよい。

Q(池亀)一番問題なのは現場に来る人。今の案は定性的で、現場で問題が生じ易い。

A JNESが行なう品質保証の定期安全管理審査では、検査官の話をもっとチェックする必要がある。保安院、JNES、電力のメンバーによるプロジェクトもあり、現場でどういう歪が起こっているかを調べて、良い方向に軌道修正しているはず。

Q(林)保安院幹部は理解しているとのことであるが、現場に聴くと苦労しているといっている。今度の改正案も「すべて文書化」など、対象が具体的でなく拡大する恐れがあるので、パブコメで意見をだすつもりである。

A 発言していただくには結構。反原発派の意見がどんどんきていると聞いている。

Q(石井亨)ハードの検査からソフトの検査にするのは賛成である。原子力の安全が何かを理解して検査に臨まないと、視点がずれてゆく恐れがある。

A 方向はぶれていない。視点がぶれるように見えるのはマスコミに配慮しすぎた発表のせいではないか。様々なプレーヤーがそれぞれの思惑で動いて、こうなっている。電力会社が地元と行なっている安全協定なども含め、「どこがどうなっているからこうなった」ということを分析しないと、保安院だけで解決できる問題ではい。

Q(太組)JNESは保安院の下部機関となっているが、社会から信用される第三者専門機関(TÜFのような)にすべきでないか?

A 産業界がしっかりしていれば官がでることはない。税制改革の方向も含め、全部をみて行なう必要がある。電力が検討機関を作って良い提案をすれば変わるか知れない。

司会 大変貴重な討論ができたと思う。時間の関係で本日はこれで終わるが、機会があれば是非また先生を囲んだ座談会を開きたい。どうもありがとうございました。

全員 拍手

以上(記 石井正則)

出席者

荒井利治 池亀亮 石井正則 石井陽一郎 伊藤睦 小川博巳 加藤洋明 金氏顯 西郷正雄 斎藤修 下田秀雄 杉野栄美 末木隆夫 宅間正夫 太組健児 竹内哲夫 土井彰 西村章 野村勇 林勉 益田恭尚 松永一郎 山崎吉秀 山名康裕