放射線問題について会員座談会議事録
日時 2008年5月15日 15:00〜17:40
座長 益田恭尚
テーマ:第1部 放射線教育の重要性と今後の進め方
講師 NPO法人放射線教育フォーラム事務局長 松浦辰男氏
第2部 WENのくらしと放射線プロジェクトから―放射線に対する女性の不安と関心―
講師 ウイメンズ・エナジー・ネットワーク 碧海酉癸女史
第1部 放射線教育の重要性と今後の進め方
講師 NPO法人放射線教育フォーラム事務局長 松浦辰男氏
講演概要
放射線の正しい知識はエネルギー・環境問題解決のため原子力・放射線に対する社会受容を進めるために是非とも必要な知識であり、医療放射線利用を不安なく受容するためにも必要である。
放射線が怖がられている理由は原爆を嫌悪する感情、マスコミの報道、低レベル放射線影響に関する正しい情報の不足である。
我が国の科学的リテラシーの水準、原子力発電でエネルギーを出すメカニズムの認知度等いずれも世界の文明国と比較して低いレベルにある。
大学生のアンケート調査でも自然放射線の存在を知らなかった割合は30%を超えている。一方、正しい講義で認識は改善する。
放射線教育フォーラムでは教科書の不適切な記述の指摘、学習指導要領へ放射線を導入する努力を続けてきた。学習指導要綱は10年に一度改定されるが、漸く、平成20年の改定で取上げられることになった。中学理科第1分野では「エネルギー資源について、放射線の性質と利用にも触れること」と記述されている。
これに呼応し放射線教育に関する研究グループが設立されることになった。放射線教育フォーラムが計画を立案中である。
低レベル放射線の影響に関する閾値なしの直線的仮定は広島・長崎の疫学的データから来ているが、慢性的被ばく線量に付いての統計データに問題があり、演者はこの点を学会でも発表している。演者の評価によると原爆の直接被ばく者も直接被ばくの他に、その後市内において入市被爆者と同様に相当量の慢性的被ばくを受けており、それは急性の放射線障害の発症状況から計算できる。
いろいろな調査結果における急性の放射線障害を基に評価すると被爆者の全平均被ばく量は0.495Svとなる。一方、放射線影響研究所の報告からは86,632人の直接的な被ばく者の平均線量は0.123Svとなっている。このことから、慢性的に受けた線量は0.372Svと見積ることができる。この値だけ直線仮定から平行移動させねばならず、これを閾値と考えることができる。
これからの方向としては全国的組織で学校教育の教育内容を検討し、文科系の学生にも放射線・エネルギー教育を行う必要がある。社会教育でも正しい知識の社会への浸透を図っていかなければならない。
討論概要
林:広島・長崎の疫学的データの横軸値0.372Svを「しきい値」としてよいか?また、白血病以外となっているが、白血病を含めるとどうなるのか?
Ans:現在一般の評価に使われているのは直接被ばくしか考えていない。間接被ばくを含めると、図に示すように改定された関係となり、0.372Svの「しきい値」が存在する。
白血病は潜伏期間が短く、すぐ症状があらわる。また、100〜200mSvなら影響がないことが知られている。白血病は白血病以外にくらべ死亡率が低いので、厳しい方をとっておけば問題ない。学問的な論文も白血病と白血病以外を区別して扱っている。白血病以外のガンのリスク係数は直線仮定ではゼロから立ち上がるので、チュルノブイリの死者の推定値はオーバーエスティメートとなっている。
林:閾値が学術的に認められていないのは何故か?
Ans:多くの放射線の専門家はこうした事実を知らないが、一部の組織ではこうした論文も引用されており、ある程度は知られている。線量の少ない所にピークがでているデータがあることにもよるが、細胞レベルの話でガンに結びつくものではない。
放射線防護はICRP一辺倒で、判ってくれる専門家も放射線防護の立場から厳しくするといっている。このようなことは、一般の人達には伝わらない。放射線の専門家には様々な分野の方がおり、低レベル放射線の影響に付いて自信をもって云える人がいないのが現状である。
竹内:ICRPに関与しているのは放射線の専門家が多く、権威主義に陥っているように思うが。
Ans:「しきい値」どころかプラスの効果があるといっている人もいるのに、危険と云った方が無難だからであろう。
斉藤修:補足させて頂くと、最近の裁判では入市被ばく者に対する原爆症認定問題で政府の規準が裁判で否定され、入市被爆者が被爆者として認定されたケースがある。この判決は、直接被ばくの小さいとされている2km以遠の住民に、放射線被ばくが原因と考えられる脱毛・紫斑・下痢などの急性症状が認められた事実を考慮した、人道的立場からのものである。結果的に被ばく線量が裾上げされた形になっている。一方日米共同作業で行われた線量評価では、入市被ばくを評価することは不可能として数値的に明瞭にされていない。入市被ばくは、従来から放射線影響研究所、政府の原爆症認定審査会及びICRPから無視されてきている。
土井:図の縦軸にはエラーバーがあるが、横軸にもエラーバーがあるのではいか?全員同じ線量ということもないのではないか?
Ans:この図には入市被ばく者は入っていない。直接被ばくをした人は間接被ばくもしており、詳細は判らないが、数万人のデータをベースにガウス分布で求めたものである。今となっては一人一人の調査もできないので、平均値で議論するしかない。
武藤:ある会合で後からの影響は小さいという元放影研の方の発言も聞いているが、こういう問題について学術的な議論をもっと行って真実に近づくべきである。
司会:被ばくに関するデータはすべて日本まかせとのことである。日本はどうも逃げているようだ。
Ans:間接影響を少なくしようという意図がある。
司会:我々ももっと議論し、提言してゆく必要がある。
金氏:海外で放射線教育をしている国があるとのことであるが、どこで、どの程度教育をしているのか?
Ans:一番やっているのはハンガリーで、国として取り上げている。発端は個人の力であった。教育が行き届いているためチェルノブイリ事故の際も、ハンガリーでは動揺が少なかった。
金氏:大学入試にも取り上げるべきと考えるがどうか?
Ans:その前に高校入試にも入れる必要があると考えている。
司会:今後どうしなければならないかについては、次の講演のあとで纏めて議論したい。
第2部:WENのくらしと放射線プロジェクトから
―放射線に対する女性の不安と関心―
講師 ウイメンズ・エナジー・ネットワーク 碧海 酉癸(あおみ ゆき)女史
講演概要
WENの紹介(略:http://www.ne.jp/asahi/wen/net/index.htm参照)
アンケート調査の結果、一般の女性は「放射線」に「怖い」というイメージを持つ人が80%いる。放射線の利用に関する知識は低い。しかし、放射線に関する情報の提供や勉強の機会は望んでいる。
一般市民を対象としたコミュニケーション活動で大切なことは、○用語の認知度が低いことを前提に話すこと。○しかし、用語の解説をしても受け入れられないので暮らしや生命との関連で分りやすく。○放射線利用の実例は例を挙げて説明し、同時にデメリットを具体的に示す。○一方的な価値観を押し付けない。○判断や選択は相手に任せる。○双方向のコミュニケーションを。○説明には(配布資料を使用して)通訳が有効。
質疑応答
林:問題点に対しては全般的には理解できる。これらにどう対応すべきかを考える必要がある。“シーベルトを知らない、怖い/怖くいないにかかわらず知りたい”などは貴重なデータである。メディアは必要なことを伝えるべきと考えるが、メディアは社会が要求することを伝えると云っている。これではメディアは社会の知りたいことを伝えていないように思う。
Ans:私達はしょっちゅうメディアを批判しているが、日本の教育などではメディアを批判することがほとんどない。最近メディアリテラシーが必要だと云われるようになった。例えば劇評などでも、やたらと誉めているものばかりである。きちんとしたものは嫌われ、都合がよいものだけしか入ってこない。一般の人たちを教育しないと、メディアだけをつついてもだめであろう。
ニューヨークに住んでいた時に月ロケットが成功したが、その際のNYタイムズの見出しは同紙の歴史始まって以来の大きさであった。しかし、その大きさは日本ではめずらしくない。いかに日本がセンセーショナリスムに毒されているかを表している。
林:教育でもメディアリテラシーを取り上げないとだめということか?
Ans:食べ物の番組でも「美味しい」としか表現できない、どのような味か説明しない、つまらない食事番組がはびこっているのが現状である。
加藤:原文振の出前授業を経験したが、放射線は事前アンケートでは広島・原爆の影響が大きく、「怖い」が8〜9割である。WENの資料を使わせてもらって1時間の講義をし、その後1時間、「はかるくん」と「霧箱」を使った実験をした後の、事後アンケートでは逆転する。教えたことが目に見えるのが放射線である。医療や工業で使われていることも含め、学校で教えるべきであるが、そのためには先生を教える必要がある。
Ans:WENのメンバーには先生もいるが、どちらかといえば一般の女性である。ミリシーベルトやグレイをどう説明するか悩むこともあるが、放射線は知れば知るほど広がって面白い。三朝温泉に行った折、腕時計型の測定器を持参したが、その測定器ではα線の測定ができないことに気づくなど、やればやる程新しい発見があり面白い。知らせれば喜んでもらえることも多い。
土井:国民にメリット、デメリットを説明、比較して選択させる方が効果的ではないか?また、オピニオンリーダーの育成も遅れている。
Ans:日本では自分の意見を云うような教育がされていない。意見を言い合う雰囲気がない。
土井:放射線が怖いのは当たり前。アンケートでは役にたつかどうかなど、判断を求めるような設問を入れたらどうか。知識をもった人を意識的に育成する必要があると思っている。
Ans:WENの活動はそのような方向には行かないと思う。ゴーヤ/ウリミバエに関連し、ウリミバエをなくすことが自然の法則に逆らうことから反対の人もいる。このような人がいてもよいと思っている。
小川:80%を超える人が自然放射線を知っているとのアンケート回答には、我々の経験からすると違和感がある。どういう理由だろう?
Ans:質問を順番に読んで答えてゆく方式で、この設問の前に放射線利用などの設問があり、それらに回答した後だからであるのかもしれない。順番を変えると違う結果がでるかしれない。
なお、自然と名がつけば何でもよいと思う心理が底辺にあるようにも思う。自然放射能といえば抵抗がない。広島地区でのWEN以外のフォーラムでも自然放射線の認知度は高かったが、人間の体内にあることに関しては知らない人の割合が増えた。
林:香辛料は照射していないとなると、日本の香辛料のバイ菌だらけということになる。
Ans:香辛料はすべて天然の植物の部分なので当然細菌は多く、香辛料は106のオーダーである。自分の庭で採れた山椒などそのまま使う分には問題ないが、加工食品に使用する場合は殺菌・殺虫など必要がある。唐辛子やゴマなどは長くおいておくと虫が孵ることもある。
荒井:女性と放射能というとキュリー夫人を思い出すが、最近は伝記もあまり目にしなくなった。そういった歴史を伝えるようなことはしていないのか?
Ans:私が最初に見た映画がキュリー夫人伝であり、個人的には話しをしている。三朝温泉にはキュリー夫人像もある。
電中研のホルミシス研究グループが本を出版した際に、一般向けという観点からWENのメンバーが原稿のレビュー依頼を受けた。その際、歴史を勉強するチャンスを得た。広島や長崎の研究がどれほど大事か、我々が今日あるのも先人がやってきたおかげであり、歴史を伝えることは大切なことと思っている。
司会:放射線教育を今後どうしていけばよいか、松浦先生も交えて議論したかったが時間が大幅にオーバーしてしまった。残念ながらまたの機会にしたい。
全員拍手
以上
出席者
荒井利治 池亀亮 石井正則 石井陽一郎 伊藤睦 小川博巳 加藤洋明 金氏顯 西郷正雄 斎藤修 斉藤伸三 宅間正夫 竹内哲夫 丹下理 土井彰 西村章 林勉 益田恭尚 松永一郎 武藤 正 外