会員座談会議事録
放射線利用の最近の動向と海水からのウラン回収
講師 日本原子力研究開発機構、 高崎量子応用研究所長 南波秀樹氏
日時 2007年9月20日 15:00〜17:00 於日本原子力技術協会会議室
座長 益田恭尚
講演概要
1.放射線利用の最近の動向
原子力長計で、原子力の研究開発および利用にあたって、動力としての利用面と放射線の利用面を平行的に促進するものとし、放射線化学研究の中核機関として、昭和38年に旧原研に高崎研究所が設置された。
放射線の工業利用は、1952年にチャールスビーがポリエチレンの放射架橋を発見、1960年にGEにより架橋ポリエチレンが実用化されると、急速に進展したことが背景となっている。昭和62年の原子力長計では、放射線利用の一層の普及・拡大と技術の高度化が取り上げられ、イオン照射研究施設(TIARA)が設置され(平成5年)、平成17年の原子力政策大綱では、量子ビームテクノロジー技術の形成が取り上げられ、日本原子力研究開発機構、量子ビーム応用研究部門/高崎量子応用研究所が発足した。
放射線利用は農業・工業・環境保全、食品、医療の分野で国民生活に貢献している。これまでに、材料面ではラジアルタイヤやボタン型アルカリ電池用隔膜などを実用化してきた。環境面では電子線排煙処理、バイオ関係ではイオンビーム育種などが産業化し、あるいはしつつある。その他、馬鈴薯の照射やウリミバエ不妊化照射施設などにも貢献してきた。
放射線利用の経済規模は、平成9年度で約8.6兆円と見込まれる(原子力のエネルギー利用の総額7.3兆円より大きい)。この数値は現在見直し中である。主な分野は半導体(約5兆円)、ラジアルタイヤの加工(1.1兆円)、医学医療利用(約1.2兆円)、農業利用(0.1兆円)である。
平成17年の原子力大綱に取り上げられた量子ビームテクノロジーでは、加速器による新しい放射線とその利用を狙いとしている。量子ビーム応用研究は関西、東海、高崎の3地区で行っている。
高崎研のガンマ線施設はトータル6桁の広い範囲をカバーしている。これは世界にも類を見ない。
イオンビームの利用分野はエネルギー付与による突然変異育種、イオン注入による半導体製造、元素変換による医薬品製造などである。
高崎研の近年の研究開発では、バラ咲きカーネーション、無側枝性キク、バイオ修復機能をもつ試薬、選択的な有害金属捕集、燃料電池用導電高分子膜、新湿潤治療用創傷被覆材などの分野で、成果が得られている。また、群馬大学21世紀COEプログラム等、群馬大学の小型重粒子線照射施設の整備にも協力している。
東海研の中性子を用いた研究開発では、たんぱく質の構造解析や燃料電池中の水分分布計測、関西研ではインテリジェント触媒の機構解明等を行っている。
2.海水からのウラン回収
海水中には鉱山のウランの1000倍にあたる45億トンのウランが含まれている。ウランのスポット価格は一時$138/lbにまで上昇した。2007年9月17日現在では、$85/lbでやや落ち着きを取り戻しているが、海水中からのウラン回収への関心が高まっている。
当初行われた含水酸化チタン捕集材による捕集では、海水汲み上げのためコスト高で挫折した。高崎研では、放射線を利用して金属吸着性能を向上したアミドキシム捕集材を開発し、海水くみ上げに頼らず、波力、潮力の利用により、捕集することを考えた。ポリエチレンのグラウト重合によるアミドキシム捕集材は重金属を選択的に捕集する性質をもつ。当初は捕集材を生け簀方式に設置し捕集したが、構造材にコストがかかる上、捕集効率にも問題があった。海流中に漂わせるモール状捕集材に着目し実験を行った。この結果、捕集性は約3倍に向上した。いけす方式の実験は陸奥湾、モール方式は海水温の高い沖縄県で行った。
ウランの捕集コストは捕集性能と繰返し使用回数に依存する。現状の試験結果では約8.8万円/kg-Uであるが、現状で大型化すれば2.5万円/kg-Uは達成可能と考える。目標は1.3万円/kg-Uで、現状の3倍の捕集性能(6g-U/kg-捕集材)、10倍の耐久性(60回)であれば可能である。捕集性能と耐久性が課題である。
質疑応答
ウラン捕集に関して
Q 国の方針はどうなっているか、また再処理へのインパクトはどうか?
A ウラン確保の国策は今の所明確でないように思う。この研究も、「有用金属の回収」目的とし、広く産業界に関心をもってもらえるような配慮をしている。実際、価格に関しては、ウランよりスカンジウムの方が高い。
Q 捕集材を海に戻す場合、原子力施設からの廃棄物とされ、問題があるのではないか?
A 調べてみる必要はあるが、捕集材はまた回収するわけだから、問題はないと考えている。
Q 実験で採取したウランはどうしているのか?
A 国産ウランとして登録し、三菱マテリアルに譲渡している。
Q IAEAの査察はどうなっているか?
A 核燃物質として査察の対象となる。海水ウランという分類はレッドブックに登録されている。
A(参加者A)FBRがうまく行かないときのためにバックアップとして取っておく必要がある。
Q 海外の研究動向はどうか?
A 米国はワンススルーなので関心をもってはいるが、海洋国でないと難しい。この点で日本は有利で、本格的とはいえないにしろ、研究を続けているのは日本だけである。
Q 漁業権との関係はどうか?
A ある海域を占拠することになるので、漁業権を持つ漁協との合意は不可欠である。最初英虞湾で行う計画もあったが、漁業権の関係で、原研が使用できる陸奥湾で行った経緯もある。
Q 捕集材の再利用はどのように行うのか。
A 捕集された金属は溶離・回収する。捕集材は海にもどし再利用する。
Q 繰返し回数60回は実現可能性があるか、また、浸漬時間は60日時間が最適なのか?
A 実験室規模では可能性があると考えているが、海水中の実証試験が必要である。
浸漬時間に関しては、浸漬に伴って単位時間あたりの捕集量は減っていくため、浸漬時間と回収頻度のバランスをとる必要がある。現時点では、60日程度が最適と考えている。
Q モール方式だとどうしてコストが改善されるのか、また嵐などの場合大丈夫か?
A 生け簀方式は、海上構築物のコストが大きいため経済的にペイしない。海面下40m以上あれば嵐の影響はほとんど受けない。
Q 不純物も一緒に捕集されないか?
A 捕集したものにはMg、Pbなど、他の金属も共存する。これらは捕集後分離溶離する。
Q 海水ウラン回収の研究のウエイト付けは低いように思われるがどうか?
A 国としては積極的に位置付けをしていない。このためJAEAでは、重金属の抽出研究(有用金属回収)としてきた。
放射線利用に関して
Q 燃料電池の膜は、白金が不要になるのか?
A 原子力機構が行っているのは電解質膜の開発であり、白金触媒の要否とは関係ない。触媒との関連では、燃料電池においては、最終的にはMEA(膜/電極接合体)として使われることとなるため、この接合部の作製に放射線を使うという考えもある。
Q 燃料電池用高分子膜の課題は?
A これまでメタノール燃料電池を対象として開発を行い、非常に良い膜ができている。現在家庭用ならびに自動車用の優れた高分子電解質膜が求められている。市場規模では自動車用が焦点となるが、高温での耐久性が課題となる。
Q 突然変異と遺伝子組み替えは同じか、また、照射の有無を識別できるか?
A 放射線による突然変異は、自然界でこれまでにおこった、あるいは将来おこりうる変異を加速しているもので、生物がもともと持っていたものを引き出すことになる。一方、遺伝子組み替えは他の生物の遺伝子を組み込むことになるので、構造的に違うものとなる。俗に、突然変異は引き算、遺伝子組み換えは足し算だと言われている。照射の有無はDNAの変化で検出できる。検出技術は進歩しており、数キログレイなら検出可能。
Q 照射されたものは嫌われ、売れないといった傾向はないか?
A 照射がプラスイメージをもっているかどうかによる。医療品関係では抵抗がない。しかし、ラジアルタイヤ等では放射線照射を広告に使うことを嫌がる。
Q リチウムイオン電池の改善はできないか?
A 直接的ではないが、内部の状態を調査・研究するなどの面で放射線を利用できる。中性子を用いて、電池中のリチウムの挙動を調べる研究などが考えられる。
Q 照射されたものの持ち出しの問題はないのか。ガンマ線の場合はいくら強くてもよいか?
A 被照射物の持ち出しで問題となるのは放射化である。コバルト60のガンマ線の場合、エネルギー的に放射化の問題はないといえる。照射の効果は、コンプトン効果によって叩き出された二次電子によって引きおこされるものであって、核反応によるものではない。
Q 植物だと突然変異が応用できるが、高等動物は突然変異により遺伝する可能性は非常に低いということを証明する実験はやっていないのか。これが説明できると原子力のPAがやりやすい。
A 言葉は悪いが、突然変異は奇形を作っているようなもの。植物の場合は、高等動物よりも変異に伴う許容の度合いが広く、少しくらいの変化ならば乗り越えて生きていけるということは云えるだろう。
Q 放射線利用の経済規模のデータは古い。見直しはどうなっているのか?
A 現在内閣府からの受託で、放射線利用の経済規模の見直しが行われている。今年度中に報告書が完成するので、その後公表されることになる。
Q ウリミバエのような方法を、小笠原の外来種のトカゲ駆除に使えないか?
A 大量の成虫を放す必要があり、それによる害を配慮する必要がある。ウリミバエの場合は、食害を起こすのは幼虫であるので問題はなかった。
Q 放射線利用(のご利益)を学校の教材に入れられないか?
A 現在は放射線そのものが殆ど教科書に取り上げられていない。まして放射線利用にはほとんど触れていないのが現状である。
以上
出席者
竹内哲夫、金氏顕、林勉、池亀亮、益田恭尚、荒井利治、齋藤修、加藤洋明、力石浩、松岡勉、田中長年、末木隆夫、柴山哲男、石井亨、野村勇、小川博巳、神山弘章、齋藤伸三、土井彰、西郷正雄、畑弘通、西村章、石井陽一郎、下田秀雄、松永一郎、石井正則(記)