環境対応車の今後の動向について
「エネルギー問題に発言する会」H18年9月座談会議事録
(以下、敬称略)
日時:平成17年09月20日
場所:NUPEC虎ノ門MTビル6階会議室
講師:潟eィラド 環境・エネルギー研究センター 所長 田保 栄三氏(前三菱自動車環境技術部長)
座長:金氏 顯
議事要旨
始めに座長より、本日の講師の紹介、講演の企画経緯と趣旨の説明があり、引き続き講師の講演、内容に関する質疑応答を行った。
講演要旨
1:自動車に対する環境要求と対応
自動車に対する環境対応の要求は、大気汚染から地球温暖化、エネルギーセキュリティへと進んできている。
これらに対応するため、2010年代を目指して、ガソリンエンジンでは直噴・カムレス・休筒などの技術、ディーゼルエンジンでは後処理・2段過給などの技術が開発されている。
しかし2020年代以降になると、エネルギーセキュリティが中心課題となり、脱石油の動きが加速すると思われる。日本では2030年で運輸部門の石油依存度を80%に低減、米国でも2025年までに石油輸入量を75%低減するという政策発表があった。
現在は、燃料電池車・HEV&EV・クリーンディーゼルの3方向に流れが向かっている。
2:電気自動車のポテンシャル
EVは、試算によればCO2排出量がガソリンの1/3、HEVの2/3で、ランニングコストもガソリンの1/3〜1/10、HEVの2/3〜1/5であり、環境面での貢献が大きい。
しかし、現在の国内保有台数は3000台程度で、その殆どが4輪カートである。マーケットの開拓が必要である。
その際最も問題となる電池の開発は、リチウムイオン電池の性能向上が目覚しく、実用化の可能性が大きくなってきた。
モ−タ−もインホイールモーターを搭載する事で自由度増大・軽量化が期待できる。
その結果、従来のEVの弱点の一つであった動力性能面ではガソリン車に引けを取らない所に来ている。
ただし、実用化にはコスト・航続距離が依然大きな問題であり、更なる努力が必要である。
3:環境対応車の将来
当面はガソリンエンジンが主流だが、2010年頃まで欧州を中心にディーゼルの比率が上昇する。
それ以降はHEV・EV等に押されて普及率は鈍化する見通し。
HEV・EVについては、1.5ℓ未満クラスはEV、1.5ℓ以上クラスはHEVという住み分けが生じると思われる。
駆動方式も現在のシリーズパラレルHEVから、充電式のプラグインHEV→エンジンは非常時の補助として扱うレンジエキステンダーEV→ピュアEVと進化していく。
そのコアとなるのは、やはり電池技術であり、産官学の連携の下、集中的な開発が要求される。
同時に、電池の安全規制・規格統一・量産促進・充電施設普及などのインフラ整備も進める必要がある。
また、燃料電池車やディーゼル車用触媒に使用されているPtの需要増加が懸念されている。
4:電気自動車の普及に向けて
どのように充電するか?が最大の問題。
急速充電対応のバッテリー開発・施設のインフラ整備(コンビニでも充電可能にする)等、既存のインフラにとらわれない、新しい生活様式にマッチした斬新・柔軟なインフラ展開が必要である。
質疑応答
A
私の試算と本講演でのランニングコストで違いがあるが、要因はどこにあると考えるか。
(A氏自身がランニングコストについて試算したレポートが同時に配布された。
要旨はプラグインHEVとピュアEVを一般電力と夜間電力の2種類でランニングコストを算出・比較したもの。一般電力と夜間電力でランニングコストに相当の差が生じるとなっている。)
田保
私の試算は走行条件が10−15モード計算だからです。これは都市部での走行に近い条件です。
始動・発進・加速の繰り返しがランニングコストへの影響が大きいと判断したためです。
高速道路の走行等を加味すると貴計算に近くなると考えます。
B
電気自動車には「運転する楽しみ」が感じられない。どういう魅力があるのか。
魅力を感じられない物が普及するのか。
田保
今は研究段階なので、魅力という意味のアピールは難しい。しかし、ガソリン車とは違った魅力が出るかも知れません。また、環境問題等で必要とされているのは間違いないので普及は見込めます。
C
電気自動車の寿命はどのくらいか。
田保
リチウムイオン電池は変質することは少ないと考えているので、現在のガソリン車の規格である、「10年または15万km」をクリア出来ると想定しています。
D
講演中にあった、ランサーエボリューションMIEV (東京モーターショー参考出品車) の価格はいくらか。
田保
詳細は不明。電池ユニットが、ある程度の量産を考えてもkWあたり10万円というのが目安になると思います。
E
リチウムイオン電池の資源に問題は無いか。電極に使用するCoの供給量が問題にならないか。
田保
Coは熱暴走を起こす事があるので、現在はMnが主流に戻っています。MnにCoを配合する事で電気容量を増やせる方法があり、これで対応しています。資源の問題はそれほど心配していません。
F
国からの補助や支援として、どのような事が必要と考えているか。
田保
リチウムイオン電池の低価格化・そのためには電気や電池の規格を統一化し大量生産が必要なので、その指導・買い替え時の補助金・充電施設建設費補助などが必要と考えています。
G
スバルR1eが3000台リースされるというニュースがあった。300万円/台と聞いている。
それが10倍になったら、コストはどの程度下がるのか。一般普及可能な値段まで下がるのか。
田保
コストがどの程度下がるかはわからない。先にも触れたように、電池ユニットがkWあたり10万円で、スバルR1eだと15kW〜20kWの車格だから、電池ユニットだけで150〜200万円です。
一般普及可能な値段に下げようとすると、これが50万円位にならないと実現は難しいと思います。
H
電池をリースまたは交換式にすれば普及が促進するのではないか。
田保
電池ユニットが重すぎるので「スタンドやコンビニで気軽に交換」というわけにはいかない。
充電施設を普及させるのが現実的です。
I
次のステップである、プラグインHEVの実用化への問題点は何か。
田保
搭載エンジンの大きさをどう決めるか・法令上、それは動力として扱うのか・排ガス規制の新規設定が必要、などの問題があります。
J
燃料電池車やディーゼル車用触媒に使用されているPtはリサイクル可能と聞いているが、供給難になるのだろうか。
田保
確かにPtは分離や抽出が容易ですが、多量に出回ると全量を回収出来るか疑問です。
K
自動車業界が主導して開発している感がある。そのため、開発に閉塞感がある。
他の業界は参入出来ないのか。例えば、電機と自動車の業界が融合すれば一気に発展するのではないか。
田保
現状では業界・メーカー共に開発はバラバラです。
エンジンが無いので自動車業界以外でも参入は可能かも知れません。
しかしシャーシの技術は自動車の技術、そこが難しい部分です。
今後、どれだけの業界が「EVは良い」と感じるかがポイントになると思います。
L
以前、沖縄で太陽光発電のEVを見た。こちらは進歩の可能性があるのか。
田保
一般化は困難と考えます。イベント会場内といった局地的な使われ方に限定されると思います。
M
以前、インホイールモーターを搭載した試作車が200km走るところを見せてもらった。
しかし鉛電池だったので、車内が電池で一杯だった。とても実用化が可能とは思えなかった。
それから考えると、素晴らしい進歩を遂げている。今後の更なる進歩を期待したい。
出席者:(敬称略、順不同)
林勉、天野牧男、益田恭尚、荒井利治、池亀亮、太組健児、竹内哲夫、中神靖雄、斉藤修、神山弘章、松永一郎、小川博巳、伊藤睦、石井亨、松岡強、柴山哲男、待場浩、金氏顕、石井正則、末木隆夫、土井彰、加藤洋明、堀雅夫、石井陽一郎、佐藤祥次、今村敬一