「エネルギー問題に発言する会」座談会記録
検査制度の在り方検討会検討経緯
日時:平成18年7月19日
場所:NUPEC虎ノ門4丁目MTビル6階会議室
出席者:(敬称略、順不同)竹内哲夫、益田恭尚、伊藤睦、末木隆夫、荒井利治、土井彰、杉野栄美、和嶋常隆、太組健児、松永一郎、中神靖雄、石井亨、金氏顕、松岡強、柴山哲男、斉藤修、石井陽一郎、石井正則、佐藤祥次、林勉
傍聴者:永田匡尚、
講師:日本原子力発電技術協会
理事 情報分析部長 鶴田 忠和氏
資料:1.「検査のあり方検討会」検討の経緯
2.原子力発電所の検査制度に関する今後の検討方針(案)
3.第12〜124回検査の在り方に関する検討会における論点の整理(案)
4.原子力発電施設に対する検査制度改善について(案)
座長:伊藤 睦
議事概要
「検査のあり方検討会検討経緯」とのテーマで資料を基に、鶴田氏より検討会再開の出発点から論点整理までの流れを、事業者側、規制側がどの様なことを言ってきたか簡単に紹介し、その後で、報告書案の説明があった。
1.「検査のあり方検討会」検討の経緯と検討内容の説明
前回の検討会の結果はH14年6月に中間とりまとめとして公表されている。それ以来3年中断していた。その間美浜事故の教訓や高経年化対策などの法改正などもあり、そのフォローも含めて、昨年11月に検討会を再開した。
再開後の初会合12回では、再開に当り、保安院が資料「原子力発電所の検査制度に関する今後の検討方針(案)」に基づいて今回の検討の方向性を説明した。なお、方針(案)では15年10月新検査移行時の混乱をサラッと書いているが、現実は移行準備期間が不十分で、現場では過大な書類整備や検査内容の重複及び書類不備を専らとした検査指摘など、大きな混乱を経験した。
13回では、現行検査制度の問題点、課題を整理した。事業者、保安院双方から現状の問題点と改善の方向などを出し合った。
14回では運転管理、燃料管理、放射線管理などを含む保安管理活動に対する検査に対して、現状の問題点、課題を事業者、保安院双方から出し合った。
15回では、それまで3回の議論を踏まえて、論点整理を行った。
論点整理の中身は(NISA、事業者、JNESの言い分)や各委員の発言など)の、資料「第12〜14回検査の在り方に関する検討会における論点の整理(案)」に纏められている。
以降、保守管理検査・保安活動検査の両ワーキンググループでの議論の整理などを含めて16,17,18回と検討会を開き、最後に18年7月5日の19回で報告書案を取りまとめた。
2.今回取り纏めた「原子力発電施設に対する検査制度改善について(案)」の説明
資料「原子力発電施設に対する検査制度改善について(案)」に基づいて、要点を説明。
今回の案は原子力安全・保安院の名前で提出されており、保安院主導で検査制度改革を行いたい強い意志が出ている。
T.はじめに、
書き出しこそ、前回の中間報告で出された結論であるが、問題意識は美浜3号機問題と高経年化対策を専らとしており、恰も高経年化対策のため今回の検討があるかのような書き方となっている。
U.現行検査制度の概要
原子炉等規正法に基づき、保安規定の遵守状況を検査する保安検査と電気事業法に基づき、国が行う定期検査、および事業者の定期事業者検査の実施状況についてJNESがJEAC4111−2003を基準にして審査、評定し、その結果を公表する定期安全管理審査に分けられる。
その他、10年に1回行うことを義務づけた定期安全レビューがあるがこれは、保安検査の中で確認している。
高経年化対策については法令で事業者はプラントごとに評価し、その結果を国に報告する事が義務付けられ、国はその妥当性の確認を行う事にしている。
V.現行検査制度の課題
1.プラント毎の保全活動の充実
高経年化対策を講じる前から、日常的に、プラント毎の特性を踏まえた保全活動(状態監視保全など)が必要であるとしている。「プラント毎の検査」と言う概念は、一律13ヶ月毎に定期検査を課している現行制度から、プラント毎に定期検査期間を決める制度への転換を図るロジックにも使われる。
2.保全活動における安全確保の一層の充実
運転中でも重要な保全活動がなされており、これに立ち会う等、事業者における安全確保を一層徹底させる為の検査制度の導入が必要。現行の保安調査が法的裏づけを欠くとの認識、およびリスクの考えを検査へも反映とすることから課題として挙げられている。
3.事業者による不適合是正の徹底
現状事故・トラブルの人的要因および組織要因の分析が不十分であり、その充実と不適合是正を徹底していく必要があるとしている。
W.今後の検査制度の改善の方向性
1.保全プログラムに基づく保全活動に対する検査制度の導入
(1) 保全プログラムの充実
事業者は「保全プログラム」を策定する。
(2) 「保全プログラム」の策定の為の基準、規格、技術的な指針を学協会中心に整備する。状態監視保全を含めて保全プログラムの事前確認をする。
国は事業者が策定した「保全プログラム」の妥当性を予め確認する。
「保全プログラム」の基本事項は一定期間毎に(例えば、定期安全レビューに合わせることも考えられる)見直しをし、国が確認する。位置づけは保安規定と同じ。
運転期間は、重要機器の最短の点検間隔で決まることとなり、この基本事項で決められる。13ヶ月の運転期間延長の議論も、事業者毎にこの中で出来る。
ただし、認められるためのハードルが高いと思われる。諸外国で実績があるものは、国内での妥当な技術検討があれば認めても良いのではとの議論もあった。今後の運用次第。実質段階的な延長も考えられる。
点検周期の一部変更など頻繁に見直される部分については、次期原子炉停止までに点検周期を見直した保全計画を事業者が策定し国に申請し国はこれを受けて、その妥当性を審査、確認する。現行の定期安全管理審査は、保全計画の事前確認の中に整理統合するとしている。
(3) 保全プログラムの実施状況を確認する検査
事業者が保全プログラムに基づいて適切に保全活動をしていることを確認する検査を導入する。
国は運転中も検査を実施し、不適切が認められた場合プログラムの変更や改善を求めることが出来る。
保全プログラムに係る事項は規制強化であるが、この規制により実質的に13ヶ月運転期間の延長が認められれば事業者のメリットもある。
2.安全確保上重要な行為に着目した検査制度の導入
この検査は、状態監視保全など保全活動が運転中にも行われる状況、又保安調査の法的位置付けが弱いとの認識を背景として、運転中、停止中を問わず検査すると言う思想から出てきたもの。
(1)リスク情報を活用し、安全上重要な保安活動の行為を抽出し特定し、その行為に対して
検査し適切に活動されていることを確認し、不適切な場合は是正を求める制度の導入。
この検査は、規制を強化するということが前提である。
(2)効率的・効果的な検査の実現
現行の保安検査、定期検査、定期安全管理検査の3つの検査をどう整理するか見えてない。一元化、整理統合化するのか定かでない。検査の整理は、法改正と一体の話であり、本検討会の場では十分議論してない。
3.根本原因分析のためのガイドラインの整備等
(1)根本原因分析のためのガイドライン等の整備
保安院も事業者が実施する人的過誤の分析を良く見ていくということ。
@ 国として、事業者の人的過誤分析実施内容の確認・評価をするための指針を策定する。
A 国として、事業者がやる根本原因分析のガイドライン整備を学協会に求める。具体的には、JEAC4111(QMS関連)その下の指針4121の補完、改定をやる。
B 安全文化・組織風土の劣化防止のためのガイドラインの整備
これは既に高経年化検討報告書を受けて検討が進んでいる。定期安全レビューの中で事業者が評価し、その妥当性を国が見るということだが、事業者側でキチンと評価できる様な評価方法の検討を原技協で進めている。
(2)プラント毎の総合評価の実施による安全確保の充実
安全実績(パフォーマンスインジケータ PI)を活用する。米国ではROPと称して事業者の保安活動を見ていくやり方があるが、その中でPIとして7000時間当たりのスクラム率、安全系の不待機率や、被ばく管理の状況などを数値化し、基準と比較して良し悪しの判断をする仕組みがある。
また検査での所見に対する検査官の判断のばらつきを防ぐ為、米国のROPに範を求めた、重要度決定プロセスを導入する。
これは、検査で見つけた所見に対して、それが安全上重要か否かの判定をする手法で、こと安全性に係ることについては評価のバラつきが発生しないようになっている。
日本でも今後つまらない指摘が出ないように、安全上の重要度を踏まえた指摘をキチンとやってもらいたいとの主旨で、重要度決定手法の検討を進めていく。
これは、事業者側が強く要望したものである。
X.今後の取り組み
パブコメの後で最終案は纏められるが、実施は平成20年度から(2年弱時間をかけて)とする予定。
その間、事業者側は保全プログラムの策定などが必要であり、又ガイドラインや指針の整備などの技術基盤を固める必要がある。
今回報告書は、全般的には当初から保安院が言っているように規制強化を目指したものとなっている。ただし、実質的には産業界にもメリットが出るようにしたいといっていたが、結果の中身は、規制強化に偏っている感がある。
今後の運用に当っては、もう少し事業者が意欲を持って取り組めるような検査制度になるように、規制側と話をして行くべき。
以上鶴田部長の講演要旨
原技協永田副部長より下記の問題点の紹介があった。
1)8pの保全プログラムの基本事項に機械学会での検討結果を引用すべき。
2)9p下から6行目{例えば、・・ 期待されます}は 事業者点検漏れを国がチェックする事は過剰規制になる恐れがある為、削除してもらいたい。
3)10pの効率的・効果的検査の実現には、検査官の技量向上が大切であり、国側の技量向上への言及が必要。
4)11p下から5行目{こう言った根本分析・・品質活動の充実です。} は、この様な検討してないので、削除してもらいたい。
質疑応答および意見
(質疑と言うより、意見表明・交換が主だったので順不同、発言者名秘匿でテーマごとに主要な発言を纏めた。)
1.検討会のメンバー体制などについて
1) 検討会のメンバーには現場はおろかプラントを知っている人がいない。この様な体勢では、事務局の用意したストリーに逆らえないのではないか。素人が住民の意向に応えて、思いつく事を何でもやればよいとしている。非常に危険な方向だ。
2) ワーキンググループには、原技協、事業者、メーカー,JNESなどの専門家が入っているようだが、その場で本音が出たか又その意見が検討会の審議に反映されたか疑問である。
3) 事故やトラブルで規制側に頭が上がらない、事業者やメーカーは本音を言えないのではないか。
4) この様な委員会体勢(事務局のシナリオの正当化させる審議会、委員会の方式)は、日本の政治の悪弊であり本質的にはこの体勢を打破しないといけないが、この議論は別である。
2.規制のあり方について
1) 鞭ばかりで飴が見えない。米国が飴と鞭でやってきた事が生かされていない。
2) 何でも国がやれば安心と言うのは可笑しい入。安全は国がシッカリやるが、安心は別。 地方自治体もこのところをシッカリわきまえて貰いたい。
3) 米国は炉規正法1本と民間基準のASMEでやってきた。日本はASMEが電気事業法になってしまっている。根本的には電気事業法から来る定期検査と炉規制法の保安検査とのねじれ現象の解決をしてもらいたい。一本化するとの大前提で検討すべきではないか。
4) 人身事故が起きたからといって、原子力の安全と係りのない機器の検査を強化するのは、原子力の本質からずれている。保全に失敗して、人身事故を起こして損をするのは事業者だ。事業者側に責任を持たせるべき
5) 米国と日本の差がわからない。米国がなぜ良くなったかのかの分析が不十分ではないか。米国でも、保全プログラムを事業者が作ってそれを守っている。米国は契約国家だから、マニュアルとかをシッカリ作って、それを守りなさいとやってきた。日本で同じことをやると、プログラムを作るとそれを守ることが目的になってしまう。米国はどうやってそれを防いできたのか。6) アメリカはとことん悪くなってこれではいかんとなり、事業者のトップがこの見直しをしたのではないか。規制は成果主義でやってきたからではないか。米国は中小の事業者に改革の意欲があった。
7) 米国との基本的な違いは,大きくないが、米国は稼働率がおかしくなり、事業者が自主的に改革に努力した。
8) 米国は検査員が多いことと見るポイントが違う。日本は文書上のあら捜しであり、どうしたら良くなるかと言う意識で見てない。
9) 2年前の検査制度改革のときは、現場は大混乱だった、この程度の文言であの改革の混乱の改善が出来るとは思えない。
3.保全プログラムについて
1)目的が設備の安全確保で、コンポーネントの健全性とシステムの機能確保がある。
システムとしての機能確認は詳しくなし、機器の健全性確認についても、動的機器と静的機器、何が状態監視保全にし、何が停止検査となるかなどの、入り口論が明確になっていない。 都合の良い事に言葉が羅列されており、結果から見るとコンポーネントの健全性だけに絞られているとの印象である。
2)保全計画と保全プログラムは同じもの。構成機器ごとに分解して、その機器について劣化モードを分析しそれに対応して点検周期を決めるなど、体系化したものが保全プログラムである。保全計画も一緒である。
3)保全プログラムは基本的なことを決めたものであり特に見直し周期は決めてない。
機器の点検周期は、長期の部分は基本的には変わらないが、短期的な部分は見直される。
トラブルや経験で見直す事は要求されている。
事業者側が自主的に見直し、国かその妥当性を見る。国の命令で見直すものではない
4)「保全プログラム」は事業者が現在もっている保守のあり方、点検計画を体系的にしたのがプログラムで、事業者が作るものである。
5)保安プログラムの妥当性を客観的に評価出来るものが無いので、実態がない経文だ。評価する為の保全データは事業者のKHであり、火力ではデータ出さない。特にCCのデータは企業機密であり絶対出さないだろう。
6)保全プログラムの策定の指針とかガイドがシッカリしてないと、規制側が恣意的に妥当性を判断する。学協会に作らせるというが何時まで誰が作るのか明確にすべき。
7)保安プログラムの作り方次第である。事業者が必要と思う保安院検査を絞って盛り込めばよいのでは。それには知恵と度胸が必要である。
4.パブコメの出し方について
1)各自出身母体の現役の生の声を聞いて、コメントすべし。
2)現役はワーキンググループに入っており、実際委員会で意見が出されている。
再度出しても抹殺されたら仕方ない。前の改革の時にも言ったが全く無視された。
3)現役は本音を言えなかったのではないか。現役に代わってコメントするのも良いのではないか。
4)今日の議論を踏まえて、出来るだけ多くの人がコメントを出す事にしよう。
以上