規制のあり方座談会
JNESにおける新制度とその運用
日時 平成16年8月18日 15:00〜17:00
場所 NUPEC MTビル6F会議室
講師 独立行政法人原子力基盤機構(JNES)理事 安藤弘昭氏
司会 益田恭尚
司会 前々会、規制のありかたについての座談会を行いましたが、今日はその時の皆様のご要望に応え、新しくスタートした原子力安全基盤機構(以下JNES)がどういう考え方で検査を行っているかを安藤理事から伺うことと致しました。
安藤理事は昭和46年に通産省で原子力に関わりはじめ、発電設備技術検査協会に移られてからも原子力施設の検査や基準・規格等の改訂に貢献されました。現在はJNESで検査等の指揮をとられております。今日は有益な話が伺えると思います。
安藤さん、よろしくお願いします。
安藤 昨年10月1日にスタートした独立行政法人原子力安全基盤機構の概要の紹介と、新検査制度について説明させていただきます。
長い名前なので、JNES(Japan Nuclear Energy Safety Organization) と云う略称で早く親しんでいただきたいと思っているところです。当機構の役割・使命を一口に表現すれば「専門技術者集団として、原子力エネルギーの潜在的な危険性から国民の安全を確保する」ということです。ロゴマークは、強い使命感を持った眼、科学的・合理的な判断をする眼、中立性・公平性を保つ眼の三つの眼を表したものです。
[講演要旨]
JNESの概要と新検査制度について
1.JNESの概要
イ.経緯
JNESは平成14年3月29日に、行政改革の一環として閣議決定もとづき設置されることになり、平成16年度からスタートする予定であった。その後、東京電力の炉内構造物の応力腐食割れのトラブル隠しの問題が発生し、予定スケジュールが半年繰り上がり、平成15年10月1日に発足した。
当初は、(財)原子力発電技術機構(NUPEC)、(財)発電設備技術検査協会(JAPEIC)、(財)原子力安全技術センターで実施していた規制に関する試験研究を中心に活動すると共に、国の検査の一部を業務対象としていたが、東電問題に関連して規制制度が変わったため、これにも対応する内容となった。
閣議決定では、「原子力安全規制の被規制者からの独立性・中立性の確保を図りつつ、原子力安全規制のさらなる効率的かつ的確な実施を図るため、原子力安全規制の実施を目的とする独立行政法人を設置する」とされている。
JNESは独立行政法人通則法と独立行政法人原子力安全基盤機構法にもとづいており、行政の補完的な役割が強い。行政は社会のニーズに合わせ目標を変更することができるようになっている。
JNESは、検査業務、解析評価業務、原子力防災支援業務、規格基準業務、安全情報業務の5業務を実施するほか、施設への立ち入り検査も実施できる。
ロ.検査業務
検査業務については、検査制度の高度化支援業務、法令にもとづき国の一部の検査を国に代わって行う業務、法令に基づきJNESが行なう検査の3項目があり、それぞれが会計勘定項目が異なる。
ハ.組織
組織は6部1本部で、解析評価部、規格基準部、防災支援部、安全情報部と検査については原子力発電所対応を業務とする検査業務部と、核燃料サイクルに対応する核燃料サイクル施設検査本部(事務所青森)で対応している。
なお、国会付帯決議により検査業務や解析評価業務は当機構の職員で対応することになっており、国からの出向者を除き出向者はいない。
業務に応じ国と分担するものとJNESが実施するものを決めているが、国と分担する業務では、おおまかに云えば、原子力安全保安院が企画・立案し、JNESが実施するという区分となっている。
業務の遂行にあたっては、「全役職員は、その使命を自覚し、行動指針にのっとり、率先して業務を実施するとともに、不断の改善に取り組む」との行動規範を定め、職員が規範に定められた意識をもって業務を行うようにしている。
2.新しい規制制度の概要
安全規制の抜本策として、維持基準の導入、定期安全レビューの法制化(従来の10年毎の定期安全レビューおよび30年経過プラントの高経年化対策を事業者が自主的に実施してきたものを保安規程に取り込み)、安全規制体制の大幅強化(JNESによる検査・審査、原子力安全保安院の検査・審査、原子力安全委員会のダブルチェック等)などを含め9つの柱がある。
新しく法定化された定期安全管理審査制度では、事業者の行なう自主点検を定期事業者検査として法的に義務づけた。さらに、従来の国および指定検査機関が行っていた定期検査を継続するほか、定期安全管理審査を新たに実施する。定期安全管理審査では、事業者の定期事業者検査の実施体制について品質保証体制・保守管理活動に関して、法と日本電気協会規格(JEAC)のJEAC4111の品質保証規程、JEAC4209の保守管理規程にもとづく計画と実施状況の適合性を確認する。
検査業務としては9つの業務を実施するためには、9種の資格を必要とし、資格の基準は規則で定められており、経験、学歴と研修により資格が認定される。
これらを実施する検査業務部の審査員、検査員は70名でスタートし、本年4月に85名となった。実際の業務は1チーム5名、17チームで実施している。1つのプラントの定期検査、定期安全管理審査を同じ5名のメンバーで対応するため、事業者からコミュニケーションが図られやすいと聞いている。慣れすぎるのも問題なので、翌年は違うチームで対応する。
年間平均20基の定期検査を円滑に進めるため、来年には21チームに増員する予定である。
定期安全管理審査は、プラント停止1ヶ月前に申請書を受理、文書審査、停止中の実地審査を実施のうえ、総合負荷試験の1ヵ月以後に審査結果報告書を原子力安全保安院と事業者に通知する。原子力安全保安院は更に1ヶ月以内を目標に評定を行い、安全管理審査評定書を発行する。
実地審査は抜き打ち的な実施を特徴とする。実地審査は全項目の約10%、10数項目である。この件数は日本電気協会規格(JEAC)の抜き取り基準を参考にして決めた。実際には定期事業者検査の期間中に3〜4日を数回実施し、検査項目は当日朝、実施計画の項目の中から抽出、決定している。
国の評定はマネージメントの機能状態によりA、B、Cに区分、次回の審査の抜き取り抽出率に反映するなどのインセンティブを設けている。
スタート以来現在まで審査中も含めると15基から16基の定期検査を実施している(評定済みは6基の定期検査)。
実施に当っては、厳正、公平とともに、事業者の業務を邪魔しないよう配慮(要すれば日、祭日にも実施)している。また、必ずしも文書に明記されていないことや、「こうでなければならない」と云うものではないもの(明確な判断基準が決められていない)もあるため検査員が直ちに判断しにくい場合には、事業者の誤解のないよう、きちんとした説明、主張を聞いた上で判断するような配慮をしている。
JNESの概要と検査制度は以上のようなものだが、JNESの業務には受動型業務(検査や解析評価等)と能動型業務(基準作成等)がある。受動型業務では効率的にきちんと行う、能動型業務では社会の動向を把握し長期的観点、即応的に対応すべきものを見極めて業務を的確に推進する事が要求されているものと思う。
まだ、始まったばかりなので、未熟なところもあるが、機会があればぜひまたご指導いただきたいと思っている。
[質疑・応答・討論]
司会 どうもありがとうございました。
それではまず、今のご説明でわかりにくかったこと、詳しく聞きたいことについて質問し、後半の時間で、反論なり意見なり云って頂くようにしたいと思います。
太組 組織における総括参事はどのような立場か?
A 法で理事の人数は3人に制限されている。位置付けは違うが、総括参事は理事と同格で理事長の補佐を分担している。
石井(亨)予算の内、外部委託はどのくらいか?
A 装置を持たないので人件費以外は外部委託。(データを持ち合わせていないが、2/3程度か?)
山名 BWRとPWRの定期検査項目にはどのようなものがあるか?
A 省令と電事法施行規則で具体的に決められている。
益田 運転中の発電所の検査の業務には定期検査、保安検査、定期事業者検査、定期安全管理審査の4つの検査・審査があると説明されたと思うが、これらは同時に実施しているのか、また、その場合個々の検査が区別されているのか?
A JNESが行うのは、定期検査と安全管理審査であり、これらは、5名で構成された1チームにより行う。定期検査は1項目毎に行うものであり、安全管理審査は全体を審査するものであり、実施の方法も違うので審査と検査とは明確に区分されている。
石井(亨)定期安全管理審査の内容を見ると、運転中に実施してもよいものがある。それなのに、何故忙しい定期事業者検査の最中に同時に行なうのか?運転の最中に実施すれば混乱も少ないと思うが。
A 定期安全審査は、定期事業者検査を事業者がきちんと実施しているかどうかを審査するためであるから、定期事業者検査中に見なければ意味がない。
山名 文書だけで良いとは思わない。実地審査では、UTなど検査する人の技能に依存する場合も含め、しっかりと見抜くことが重要と思う。抜き打ち検査にはどういう項目があるか、抜き打ち的に実施するのにふさわしい事例の説明がほしい。
A 具体的に当該装置が良いかどうかは定期検査で確認する。定期安全管理審査は安全管理をルール通りに実施しているかどうかを確認するものである。
小川 JNESの行動規範の中に透明性の確保、説明責任とあるが、どういう方法で実施しているか?米国では検査結果を即日公開しているようだが。双方が緊張感をもって対応するというプロセスは望ましい面もある。
A 審査結果報告書を事業者、国に提出すると同時にホームページに開示している。チーム員もオープンにしており、従来のやり方より透明性は高められている。将来的には即日公開もあるかもしれないが、事業者から事実を確認したうえで判断する事項もあり、途中で出すと誤解を招くこともあるので、現在は行なっていない。
池亀 指摘事項や議論の過程や説明経緯が記録に残されていることが重要である。記録がないと云った、云わないが問題となることが往々にして発生する。
A 議事録風にはなってないが、確認シートで経緯を含め記録するようにしている。
加藤 JNESは公平・公正をうたっているが、審査を受けるのは民である。どうしてもお上と民との関係になる。本当に公平性が保たれるのか?
A そのように努力している。
竹内 ISO方式を検査の手法に使うとなると、双方で確認することが重要になる。途中段階の説明では図書がないと説明しにくい面もあるので、図書が膨大になり、どうしても双方の重荷になる傾向があると思うが。
石井(亨)関連質問であるが、このような審査を事業者検査と同時期に行なうのは混乱につながる。今まで抜けていたQAシステム通りになっているかどうかの監査を審査に置き換えたのなら、事業者検査が終わってからでもでききる。検査の是非(含む検査要領書の確認)は検査のフェーズに合わせて行うべきである。
益田 NスタンプやISOは非常に厳しい審査を行うが、あくまで、資格審査であり、特定のプラントと関係ない。こういう方法で審査と検査を分離することは考えないのか?
A 将来は別とし、現在は法体系上、自主検査で実施していた定期事業者検査をチェックするという目的のための改定であり、この時期にならざるを得ない。
文書審査は事前に行っているが、時間軸的には、原子力発電所を止める1ヶ月前からスタートするようにしている。準備で忙しい時期を少しでもはずすようにと認識しているが、離し過ぎると法的に合わなくなる。
なお、文書審査の主要部は発電所毎または電力会社毎の要素もあり、毎回行なうこともないので、今後、整合性のとれた合理的な方法を考える余地はある。
石井(亨) 試験要領書をご理解いただくための説明等に時間がかかると云われているが、試験要領書の審査はどちらの立場で行っているのか?
A 定期検査と安全管理審査の情報が錯綜して混乱している。業務が増えたと言われているが、伺ったところでは増えたのは定期検査である。定期検査はプロセス形になり、準備段階から見るため量が数倍になった。定期検査は、国と分担している業務なのでJNESだけではどうにもできない。
石井(亨) 合理的な審査と検査のすみ分けを考えるべきである。上流から入り細部に至るまで確認するプロセス形が本体の目的かどうかは考える必要があろう。
A そうでしょうね。
林 チームが変わると、良いとこ取りより悪いとこ取りが増え、チームによっては労力が大幅に増える可能性がある。今は過度期としても、実施方法についての妥当性について問題意識をもって見るべきである。
A “あり方検討会(あり方検)”で検討して行くことになろう。今回は東電問題で電力の社内検査をどうするかの議論の中で急いで作ったところもあり、急には変えられないが、実績をあげ徐々に合理化し、変えて行くことになろう。
石井(亨)JNESとMETIも事業者の立場をご理解願いたい。JNESもMETIも自らの行動のQAシステムを作り、電力やメーカーの監査を受けたら、本当の姿がわかるのではないか?
A QAシステムの構築は中期目標に入っており検討しているが、具体的な監査はまだ未検討。併せて業務のリスクマネージメントについても体制作りをしているところである。
益田 今の話と関連するが、JNESの行動規範の行動指針の科学的・合理的判断に書かれた「私達は「専門技術者集団」として、科学的知見に基づき合理的に判断する。」の後に、「そして、国民の利益のため、原子力発電所の経済的運営について配慮する」を入れていただきたい。
荒井 17チームで実施する場合、各チームリーダーの裁量権が大きいのではないか?
山名 関連質問として、Competency(資格制度)という点で工夫されている点があればお教え願いたい。
A 研修を行いある程度レベルを合わせたが、全部満足とは云えない。現在、検査員・審査員は公募で採用しており、検査員・審査員としての能力を把握しきれているわけではない。平均年齢は50歳代。チーム長にはMETI出向者、JAPEIG、電力、メーカーの出身者などがいる。原則5個以上の資格を取得している。チーム長のコミュニケーションも工夫している(デスク配置など)。チーム員もいろいろな出身の方を組み合わせている。
山名 国の委員会は公開されているものが多いが、透明性の確保のためにも定期安全管理審査は是非公開してほしい。現場を見たい。
A 現在のところ、安全管理審査は公開していないが、報告書は開示している。
石井(亨)検査業務と審査業務では内容が違うので、同一のチームで行なうと中途半端にならないか?
A 検査員と審査員は資格を変えており、それぞれの資格を保持したものが対応している。
加藤 発足してほぼ1年たつ。現場では新制度への対応、特に膨大な量の書類の作成に非常に労力を要していると聞いている。是非現場の声を汲み上げて、より合理的な検査・審査制度にしてほしい。
A スタート時に各社に説明に伺い、今も各社とのコミュニケーションを密にしている。今後も改善点など、意見交換をしながら、許される範囲で良いやり方にして行きたいと考えている。ご意見を伺いに今後もおじゃましたい。
司会 今の言葉で本日の座談会の締めくくりにしたいと思います。本日は率直なご意見を伺い、非常に参考になりました。どうもありがとうございました。
以上
出席者 池亀、林、天野、松田、竹内、山名、西郷、堀、伊藤(睦)、杉野、土井、加藤、荒井、和嶋、太組、益田、石井(正)、岩井、松永、斎藤、神山、石井(亨)、小川、柴山、松岡、小笠原、伊藤(祥二)、今泉、(敬称略、順不同)