会員座談会
わが国の原子力発電所の規制の現状・問題点・対応策について
期日:2007年5月16日 14:00〜17:00
場所:NUPEC会議室
講師:日本原子力技術協会 理事(九州電力最高顧問) 松下清彦氏
電気事業連合会(東京電力原子力運営管理部部長代理) 小倉信治氏
日本原子力産業協会 北村俊郎氏
司会:林勉
出席者:末尾
趣旨
近年発生した諸々の問題に鑑み規制の問題点や対応策が検討されている。それぞれの対応に対し本音ベースで問題点を明らかにするため、規制側を交えずに、原子力技術協会、原子力産業協会、電気事業連合会における検討内容を伺い討論を行なった。
1.
講演の概要
(1)原子力発電所における規制対応の実態と問題点、今後どうあるべきか、また、そのためにどうすべきか
日本原子力技術協会理事 松下清彦氏
発電所の現状はひどいことになっており、どうしたら良いかに焦点を合わせ説明したい。
発電所は1年中検査づけになっており、とりわけ書類審査が多い。更に来年からは18ヶ月運転と引き換えに保全検査が増加する。また事故や不祥事で保安院からの新たな指示があり、要領書、判定基準作りといった(無駄な)仕事が発生し、机上業務が増大、現場にゆく時間がとれない状況になっている。
検査制度運用改善プロジェクトチームの活動も、発電所員がJNES検査員と直接やりとりする時間は減少するなど、現場のムリムダをなくす面で有効に機能してきている面もあるとの評価もあるが、検査官と対等な立場で議論できるようにならなければ抜本改革は望めない。
また、現在規制側が行なっていること(保安院の権威で告白させること)は、社会の信頼の回復につながっていない。電力自らが説明し信頼を得る方法によるしかないが、JANTIの活用(ピアレビューや事故解析など)も効果があると思う。
米国のNRCは議会に指摘された問題点を踏まえ、安全に関わらない規制を削除、リスクベースの規制を採用した。またINPOもNRCの規準を超えるExcellenceの規準を目指し、NRCもINPOの存在を評価するようになった。
原技協のピアレビューでは好事例も取り上げており、結果を公表している。最近では好事例が新聞記事に取り上げられるようになった。ピアレビューでは徹底的な討論を行なっており、受ける側も納得し効果的であると評価されている。INPOでは結果を公表していないが、原技協は公表しており、この日本流のやり方はINPOからも評価された。
WANOの会議で改ざん・隠蔽の経緯を説明したが、海外では理解されなかった。安全性に関し自ら評価したうえであるなら、なぜ自分で言わなかったのかと言われたことは参考になった。不具合を公表するといろいろ指摘されるが、現場で働いている人の姿を説明し納得してもらった経験があり、自ら説明することが必要であると考えている。
日本流安全文化の基本は、「納得させて誉める」ことである。山本五十六の「ヤッテミセテ イッテキカセテ サセテミテ ホメテヤラネバ 人ハ動カジ」にあるように、ほめることが重要である。検査官も報告書作りに悩まされているようだが、ほめてやることも必要であろう。
(2)日本原子力産業協会における安全問題への取り組みの現状
日本原子力産業協会 北村俊郎氏
原子力産業協会が発足と今井会長の就任にあたり、知事訪問、事業者トップ会談や発電所訪問等を行なってきた。この経験から、信頼回復のため「原子力安全憲章」を制定することとした。更に、最近の改ざん問題に関連し、「会長声明」を出し、安全問題への取り組み姿勢を明らかにすることとした。「原子力安全憲章」は平成18年10月23日に制定し、後者は現在準備中である。本日はこの二つについて説明する。
安全憲章の制定においては、様々な議論があったが、「どんな事故も絶対に起こさない」ことを目指し、「安全確保をすべてに優先する」「マイナス情報も積極的に公表する」などを記載した。また、議論されたことを補足的に解説に記載した。
現在全国をまわって安全協議会などの場で安全憲章の浸透に努める一方、安全問題はトップから推進してほしい旨申し上げている。また、改ざんは現場が追い込まれた結果であり、追い込んでいる状況を緩和しなければなくならないと感じており、このためにも安全を叫びつづける必要があることを申し上げている。
現在作成中の会長声明では、改ざんを許さないこと、様々な問題が明らかになってことは体質が改善されている証であること、安全憲章を定着すること、一番大切なことは当事者自らの自主管理であること、を骨子とした提言をまとめる予定である。
提言事項は、@現場が誇りをもって仕事ができるようにする、Aしっかり仕事ができるように経営資源を投入する、B事業者の努力を促すような規制当局の技術向上、Cニューシアを生かすような情報(好事例も含め)の集積、D役割の明確化とマスコミへの説明強化(責任は規制側、自治体は見守る役割、業界の自主規制など)。
原産協会が行なった発電所での対話からは、毎回検査官が異なるため最初から説明しなければならないことなどが明らかになり、どの現場でも規制への対応で過負荷になっていることが伺える。現場に行けないことが不安であるとの声もあった。
(3)原子力発電所の保安最適化へ向けた活動と規制対応について(現状ならびに事業者から見た今後の対応)
電気事業連合会 小倉信治氏
総合的な品質向上と安全確保に努めるとともに、活力と魅力に満ちた職場を目指した、運転と保全の最適化の取り組みを紹介する。
運転中・停止中を通じた事業者の保安活動に対し、規制当局の定期的な検査・審査や第三者機関による外部評価が行なわれている。2〜3ヶ月のプラント停止時の電事法に基づく定期検査、定期安全管理審査と、炉規法に基づく年4回の保安検査の内容に重複する部分があり、同じ説明を何回もさせられる。現行検査制度の導入当初はこのような混乱もあり、検査にかかる時間、要領書や成績記録書の量が増大した経緯がある。
技能者の雇用確保、被曝線量の増大、発電所の高経年化、従事者の高齢化などの課題が顕在化している。故障要因のうちでは、保守不良、ヒューマンエラーが占める割合が多い。状態監視の導入による不要な検査の排除とこれによる停止中の作業量の低減、リスク情報の活用によるリスクの監視・管理など、保全の最適化に取り組んでいる。PDCAの充実による保全の最適化により、適切な時期に適切な方式で保全を行い、安全性と品質・信頼性の向上に寄与させたい。一方では、運転期間の延長と状態監視は地元雇用の低減になるとの心配の向きもある。
検査のあり方検討会で国は、現行の検査制度に関しては、法(電事法、炉規法)は改正せず、省令改正のみとする考えを提示した。定期検査の13ヶ月規定は省令なので、今回の改正の中に織り込んでいただけるものと考えている。
最近様々な問題が明るみにでたが、原子力については平成15年以降はほとんどないことを斟酌していただきたい。折角新たな保全プログラムを導入しても、書類審査等に対する規制が強化されては、保全の担当者が現場に行けないようなことになる。あくまで、事業者の自主保安を前提とし、事業者の改善努力、創意工夫による検査の実効性を高められるようにしたい。検査・審査の一元化、書類作りから現場重視への転換、パーフォーマンスにもとづく監査型の制度による事業者のインセンティブの増大なども期待したい。
2.
討論(敬称略)
司会 審議に入る前に、参議院の委員会における石川先生の指摘と、懺悔に対する竹内さんの意見も紹介したい。石川先生は日本の発電所で成績が悪いのは稼働率と被曝線量だけで、スクラム率や労働安全などは世界でも上位にある。このことから、検査制度に問題があることを指摘した。竹内さん意見は、ご当人から説明願いたい。
竹内 倫理観は時代とともに変わっているのに、最近の懺悔では、20〜30年前の事象を現在の倫理観で扱っていることが問題である。これらの原子力の問題は、最近の三菱ふそう、パロマ、シュレッダー、不二家の問題のように製品に問題があるのとは違う。PLの責任(製品責任)がないにもかかわらずたたかれるのは、いじめにあっているようなものだ。現場は意味のあることはやるが、意味のないことには手を抜く。このことを考えてやらねば良くならない。TQCでは改善されると一段落するが、ISO方式のQAは自分(審査屋)の仕事が永遠に続くだけで終わらない。この手法への依存も問題である。
司会 発電所の実態はひどいことになっているのに、規制強化の方向が良いと思っている規制側の対応は今までと変わっていない。現実を見ていないのではないかと思うがいかがなものか。
石井亨 抜本的な(ガラガラポンの)対策が必要にも関わらず、現状はそうなっていない。原子力の安全確保につながるもの明らかにかしたうえで、その点に焦点を絞り白紙から作り上げなければならないのに、現状のような綱引きをやっているのでは期待できない。
松下 手っ取り早く、手のつくところからやっているのが現状。これを打破するにはこちらの土俵でやらねばと思っている。そのためには現場を主役にし、世論を見方にすることが効果的と考えている。
司会 SNWのシンポジウムでこの問題を取り上げ、本音ベースの議論をして伝えることも考えられる。
松下 先日の参議院では公明党の議員が的確な質問をしていた。保安院の回答は型通りのものであった。現在は保安規定の責任者は社長になっているが、これでは全て社長が謝らなければならない構図は改まらない。
武藤 QCは日本で成功したが、QAは日本では機能していないのではないか。QAの目標は責任体制を確立することにある。
竹内 昔の品質管理(TQC)が成果を上げたのは、事業者のツールになっていたためである。TQCは経営の手法であり、やるのは事業者である。国がやるものではない。
宅間 QAは性悪説。現場で行なっていたTQCは性善説がベースである。従業員の改善意欲を尊重するTQCとQAは基本的に違う。
石井正 日本の従業員は一定レベル以上であり、TQCでは彼等の継続的な改善指向を引き出すことにより成果を上げてきた。ISOは多様な従業員にマニアルで最低限のレベルを要求するだけで、日本ではなじまないのではないか。
竹内 トヨタのJU ST IN・JUST OUTの実現・高度化など、TQCは改善機能を果たしてきた。トヨタではTQCとISOを使い分けている。
石井亨 日本の原子力は、米国流のQAとQCを形式論で使用してきたのが実体である。ISOはヨーロッパの巻き返し。しっかり足元を見て適用してゆく必要がある。
伊藤 ISOの良し悪しよりも、その利用の仕方が問題である。社会の受容性を高めることが必要であり、この隠れ蓑であってならない。
石井陽 自主管理をしっかりさせることに帰結する。努力して役所と交渉しても図書が減らない。自主規制にもってゆかねば変わらない。
池亀 隠蔽や改ざんの風土は水力の古い時代から続いてきた。原子力の分野だけ変えることは不可能。02年の東電不祥事後の改善策は他部門意には不徹底で、会社の風土改革が本当に進むのか危惧していた。今回の騒ぎは、全電力会社、業界を巻き込んだ禊となり、当面は非難されるのはやむを得ないが、長い目で見れば近代的なコンプライアンス風土の改革に繋がると期待したい。もう一つの危惧は規制側の風土改革で、法体系の整備から、現場の検査官の解釈に至るまで前途多難と思われるが、現場は今どうなっているか心配している。
竹内 H7年に電事法が改正されたが、この時は、新品同様の神話が崩れているにも関わらず、原子力は無視されなにも変わらなかった。今だと隠蔽かもしれないが、役人も知っていたことである。今の論理で20年、30年前を裁くのはおかしい。
松下 維持基準はできたが、適用の可否を検査官が判断できないという問題が残っている。
山名 ISOは自主管理を基盤としており、これを促す点では意義がある。
益田、石井亨 「どんな事故も絶対に起こさない」は、事故の定義をきちんとしないと、誤解を与える。安全性に関連するものに限定すべきである。
司会 今回三つの組織の方にきていただいた。電事連は事業者の立場であり発言に制約があるかも知れないが、原産協、原技協には言うべきことを言い、闘ってもらいたいと思うがどうか。
宅間 原産改革のなかで原産協、原技協が発足した。基本的には原産協は規制システムに関して業界を代表して政策提言し、原技協は個々の規制緩和等に対しデータをそろえ専門的・技術的に対応するという分担である。例えば13ヶ月運転の延長に関しては、データをそろえ専門的な評価をするのは原技協、採用の有無のような経営問題は原産協で扱う。
柴山 何かあるとマスコミは国の責任という。事業者も国を隠れ蓑にしている面もある。事業者が自分の責任といわないと変わらないのではないか。
小川 日本ではすぐ長期停止になるのが外国と違う点である。自分の責任で背負い込むことが組織への貢献と考える風潮もあり、これが隠蔽につながった。各自治体も責任外にもかかわらずOKしないため、時間をかけて検討することになる。この問題は個々の自治体の関係にメスをいれないと解決しない。OKするためには何か判断基準を作る必要もあろう。
森 安全憲章をみると、「安全がすべてに優先する」など適切でない表現がある。原産協と原技協の関係はわかったが、現実には原産協と原技協の役割に重複している部分があるように見受けるがどうか。
北村 「事故を絶対に起こさない」はそういう意識をもつことを言ったものである。あえて言い切る表現としている。原産協と原技協の関係はNEIとINPOをモデルとした。原技協は技術的な問題を専門的に詰める。また、原産協は電力以外にメーカーや自治体も会員であり、業界の利益団体とは立場で発言している。原技協とは緊密な連携を行なっており、ダブルことはない。
松下 地方自治体には電力が進んで説明して成功した例もある。
小川、石井亨 メーカーも自分の口でもっと言うべきである。
小倉 安全に関しては、規制緩和と強化のバランスをうまくとってほしいと思っているが、一度トラブルが起きると規制強化の方向になる。一度できた規制を緩和するには実績を積むことが必要となる。地元の関係がこうなったのは事業者の責任もある。何んでもかんでも公表でなく、公表基準を見直す必要もある。
荒井 電力とメーカーの関係も、国と電力と同じ図式である。メーカーは国、電力の検査を受け三重苦といっている。結局コストに反映されるので、メーカーもしっかり主張すべきであるが、これには実力が必要。実力が低下していることを懸念している。教育をしっかりやらねばならないことを痛感している。
司会 これで座談会をおわる。この問題は日本の原子力の方向を決めるような問題であり奥が深い。強い関心をもって今後も進めてゆきたい。
以上
林勉(司会)、益田恭尚、松永一郎、太組健児、竹内哲夫、伊藤睦、金氏顕、小川博巳、武藤正、石井亨、松岡強、畑弘通、柴山哲男、宅間正夫、土井彰、堀雅夫、荒井利治、石井陽一郎、神山弘章、齋藤伸三、下田秀雄、菅原剛彦、高倉吉久、斎藤隆、山名康裕、野村勇、西郷正雄、石井正則(記)