座談会「低炭素社会に向けた挑戦ー問われる日本の総合力」
文責 荒井利治
1.期日: 2007年8月15日 15:00〜17:00
2.場所: 日本原子力技術協会会議室
3.講師: 藤野純一氏 (国立環境研究所 地球環境研究センター 主任研究員)
4.資料:当日下記資料が配布された。
(1)
2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討(2007年2月)
(2)
The Economics of Climate Cange気候変動の経済学;Executive Summary(2006年10月)
(3)
Comments on the Stern Review スターンレビューに対するコメント
(4)
当日のPTT;低炭素社会に向けた挑戦・・・コピーに対する許可受諾済み
5.経緯: 司会 荒井利治より経緯説明と講師の紹介を行った。
(1)2005年3月、会員和嶋氏の紹介で国立環境研の西岡秀三理事が本会の座談会に招聘し、 「長期の地球温暖化対策」の講演を聴講。対策として原子力利用がマイナーなことから原子力の寄与を増やしたケースの検討を依頼した。
その結果を含め、同研究所の藤野純一氏が4月に本会の座談会にて「2050年温暖化社会実現に向けたシナリオ研究アプローチと対策オプション」の講演をされた。
(2)2007年4月「(社)科学技術と経済の会」の第35回技術予測シンポジウム「イノベーションを牽引する技術と戦略」で藤野純一氏が「低炭素社会に向けた挑戦」と題してその後の検討をまとめた内容の発表あり。(本会会員では本郷、荒井が聴講)
(3)この研究成果を元に安倍内閣は閣議決定で2050年までにCO2を半減する目標を掲げ、ハイリゲンダムサミットでの日本からの提言のベースとなった。ここで和嶋氏から再度藤野純一氏にお願いし、上記(2)の内容に最近の知見を加えた講演をしていただくことになった。
6.講演内容:会員に配信されているPPT(資料(4))参照ください。
[要点]
(1)地球温暖化は自然の影響だけでなく、人為影響を含むと考えるほうが実際の観測結果と合致する。さらに地球温暖化は、正のフイードバック・メカニズムであることが最新の知見として分かっている。
(2)2050年に世界平均の気温上昇を2度C以下に抑えるには、大気中の温室効果ガス(GHG)
の濃度を475ppm以下にする必要がある。そのためにはGHG(以下CO2で代表)の排出量を世界全体で1990年レベルの50%以下に削減する必要がある。
(3)生活の質を落とさずにCO2の排出量を減らすには茅恒等式で
CO2排出量=人口x(活動量/人口)x (エネルギー/活動量)x(CO2/エネルギー)
第3項(エネルギー集約度)と第4項(炭素集約度)の変化率の和がマイナス(3〜4%)/年という大きな削減スピードが求められる。ちなみに過去の最大値は約マイナス2%である。
(4)低炭素社会への道筋を描くには、現在から未来を予測するフオアキャステイングではなく、まづ目標とすべき社会を想定し、将来から現在の対策を考えるバックキャステイングの手法をとった。
約60名のメンバーからなる「2050日本低炭素社会」プロジェクトチームで2004年から4年間で「2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討」を行い、現在までの検討で2050年に想定されるサービス需要を満足しながら、CO2を1990年に比べて70%削減する技術的なポテンシャルが存在することが分かった。
(5)2050年の低炭素社会像としては次ぎの2つの社会を選んだ。
シナリオA:活力(ドラえもんの社会)、都市型大規模集中社会、GDP(2%/人)成長
シナリオB:スローライフ(サツキとメイの家)中小規模分散社会、GDP(1%/人)成長
これらにつき、需要側での賢い技術選択、最新省エネ技術の開発提供の効果を、産業、運輸、家庭、業務の各部門別に検討した結果、現状のサービスレベルを確保・改善しながら、合理的な利用でエネルギー需要の40〜45%の削減の可能性を見出した。
供給側は低炭素エネルギー選択(原子力、バイオマス、再生可能エネなど)でCO2排出量70%削減は実現可能である。
(6)70%削減実現に向けての技術対策の追加費用の算定を行った。
低炭素技術の開発の為の年間追加費用および(GHG削減費用)は下記である。
シナリオA:1兆円〜1兆8千億円 ( 24,600〜33,400円/tC )
シナリオB::7千億円〜1兆6千億円 ( 20,700〜34,700円/tC )
結論として低炭素社会実現には早期の目標共有と総合施策の決定、その計画的実施が必要である。
(7)日本低炭素社会を世界に発信してゆくべきではないか.。世界の状況はIPCC第4時評価報告書を受けて下記のように動きつつある。
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EU 2020までに時地域だけで20%削減
−英国 2050年60%削減を法案化
−ドイツ 2020年40%削減目標
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カナダ 2020年に20%削減
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日本 2050年、世界全体半減(低炭素社会の提言)
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米国 主要排出国15カ国で共通目標設定
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中国 エネルギー源単位目標
日本にとって低炭素社会は、脱石油から資源リスクを小さくする。またイノベーションの創出をすることにより、日本の技術が世界に役立ち国際競争力が増す効果がある。
(8)エネルギー消費原単位(
Energy/GDP[toe/thousand$] )の推移を資料(4)の8ページの図で見ると1990年以降、米国、欧州主要国は着実に下降している。日本は1990年では圧倒的に低かったが、現在ほぼ水平で国際競争力の相対的優位性が失われてきている。
[質疑応答] A:藤野氏回答
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林:2050年にCO2を70%削減するには毎年数%の削減をずっと続けねばならないが、これは大変なことだ。本当に実現できるか。具体論が無いと画餅ではないか。このような発表があると50%削減が容易に出来ると勘違いされないか。
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A:出来るかどうかでなく、やらねばならぬとして、バックキャストで何をすべきかを検討した。実現にはロードマップをどう描くかということになる。
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青木:資料(1)14ページ図10で運輸旅客部門でのエネルギー需要削減でエネルギー効率の改善などでCO2排出80%削減とあるが、無理ではないか。このような技術があるか。
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A:燃料電池、ハイブリッド化などがある。確かに難しいがやらねばならないということです。
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金氏:エネルギー自給率向上、2050年でCO2排出マイナス50%とされているが、エネルギー需要を減らすのか。
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A::電化を徹底し、一次エネルギーの使用を減らしている。
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金氏:エネルギー自給率向上についてはEEE会議(金子熊雄会長)で自給率50%を検討していて、提言を考えている。
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石井陽:こうすればできる筈だけでは本当の答えにならない。自分の考えではイノベーションしか解はないと思う。炭素税をとるとか、原子力比率を大幅に上げるとか政策をしっかり立て、実行する以外に方法はない。
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斉藤修:この問題はマーカルモデルでいろいろな人が計算して来ている。今回の計算では、化石燃料、原子力のコスト予測に基づきいろいろな推定をされたと思うが、技術の進歩、経済性の見通しはどう考えられたか。
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A::原油はバーレル当り100ドルと考え、コストの積み上げ計算はやっていない。技術進歩の見通しは専門家の意見を聞き、既存の文献、資エ庁の発表シナリオなどの数値を用いた。
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小川:シナリオ構築のベースについて伺いたいが、例えば資料(1)の6ページ図4でエネルギー技術はシナリオA,Bで変わらぬと思うが、A,Bで差があるのは何故か。次に米国は主要16カ国でCO2削減の検討をしようとするなど、シナリオが異なっているのではないか。
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A:シナリオBでは、原子力が世間で余り好感が持たれていないので、原子力を減らし、その代わりにバイオなど自然エネルギーを増やした。
米国は9/26に世界主要16カ国の会議を開く。以前米国はCO2削減の主導権を握っていたが、ブッシュ時代になり後退した。ここに来て,もう一度主導権握りたいと考えている。また石油の価格上昇で流れが少し変わってきている。日本は省エネ技術があるのと、米国との協調を取りたい為熱心になっている。
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土井:日本のGDPあたりのエネルギー消費量は資料(1)の8ページの図のように外国に対し、止まっている。画期的な技術革新が無いとこの状態での競争は不利である。
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A:本レポートではバックキャストでこうあるべきとする立場から産業構造を変えるシナリオを描いた。しかし実際に進めるには御指摘のとうりと思う。
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宅間:人間活動や技術開発にはメリットとリスクが伴う。経済メカニズムに対する温暖化の正のフイードバックはどう考えたか。例えば南極の氷が溶ければ地下資源が得られるなど。
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A:確かに南極の氷が解ければ地下資源の入手はしやすくなる。しかしその前に大変なことになってしまう。人間の欲がエネルギー削減につながることがあれば一番よいかもしれない。
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堀:本研究は多方面にわたる問題をよく調査してまとめられたことに敬意を表したい。年2〜3%の削減を続けることは大変なことで、相当な技術革新がいる。プリウスのように技術の進歩で飛躍的によくなった例はある。しかしCO2の大量貯留(CCS)は日本ではかなり難しいと思う。
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A:そうかもしれません。いろいろ教えていただきたい。
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松原:資料(1)4ページ、図3の産業部門別国内生産額は純粋に国内のみか。日本が国外で生産したことによるCO2の発生分は?
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A:純粋に国内分のみです。国外の予想は入れていない。
以 上