「エネルギー問題に発言する会」座談会、議事録
フランスにおける原子力産業とメディア
The
Nuclear Industry and the Media - How everything works in France
1)日 時:平成19年12月20日、15時〜17時15分
2)講 師:在日フランス大使館原子力部参事官 ピエール・イヴ・コルディエ氏
(通訳:同大使館原子力部 長谷川礼子補佐)
3)座 長:林勉、書記:力石浩
内容:
コルディエ参事官より次の点について講演を頂いた。
* フランスのメディア
・ 6局(内、国営3局)ある全国放送TV網が最強のメディア。夜8時のニュースが最も影響力を持っている。
・ 第二のメディアは新聞だが 、全国紙で最大のルモンドですら35〜40万部。これも年々減少傾向にある。
・ ラジオが依然強いメディアとして残っている。通勤の車中や仕事の合い間に聞いている国民が多い。
* フランスの原子力発電の現状
・ PWR58機、63184MWeが配備。1号機は1977年4月運開のフェッセナイム、最新のプラントはシヴォー2号機で1999年12月運開。EDFは2006年5月に第3世代炉であるEPRをフラマンビルに建設すると発表。
* フランスの原子力機関(日本機関との比較はあくまでも参考、必ずしも対応しない。)
・ MEDAD:エコロジー・持続可能開発整備省(日本の環境省と経産省に相当)
・ DGEMP:資源・エネルギー総局(日本の資源エネルギー庁に相当)
・ ASN:原子力安全規制当局
・ CEA:フランス原子力庁(原子力分野の全ての研究開発を担う)
・ AREVA:旧Framatome, 旧COGEMAを含む総合サイクル事業者
・ Alstom:タービン、発電機等の発電設備メーカー
・ EDF:発電事業者(自由化により、現在複数の発電事業者が存在するが、原子力発電についてはEDFが唯一の事業者)
・ ANDRA:フランス放射性廃棄物管理機構(医療・産業分野を含む、全ての放射性廃棄物の処分事業者)
・ IRSN:放射線防護・原子力安全研究所(安全規制当局が必要とする評価・分析業務を担う技術支援母体としては、日本のJNESに相当)
* フランスに於ける原子力に対する民意
・ 1970年代は石油危機、科学技術に対する期待、原子力機関への信頼等から国民の理解は得られていた。
・ 1980年代に入り、環境問題、チェルノブイリ事故、グリーンピース、汚染血液、BSE問題等の影響で科学技術に対する信頼感が薄れて行った。チェルノブイリ事故の際、隣国のドイツ、オーストリア等では、牛乳、他一部食品の飲食に関する一時規制を行なったが、仏は問題視せず、これが国民の不安を煽った。又、この時期、社会党がみどりの党との連立政権を取り、政治的理由によりスーパーフェニックスが廃炉に追いやられた。このような出来事が科学技術全般に対する不信感に拍車をかけた。
・ しかし2003年以降、エネルギー公開討論会を受け成立した2005年の“エネルギー基本法”、や2006年に行なわれた放射性廃棄物に係わる公開討論会や同年に施行された放射性廃棄物計画法、及び原子力安全保障と透明性を高める法律によって、国民の原子力に対する見方が変化してきた。更に国際的にも地球温暖化、エネルギーセキュイリティーの面から環境に優しく、安全・安定した原子力発電のメリットが認識され始め、国民の原子力に対する不信感は減少してきた。但し、フランス国民の大多数が原子力に賛同しているかと云うと、必ずしもそうとは言えない。質問によって回答の傾向も変わって来るが、原子力発電に対し賛成か反対かとの直接的質問に対しては、反対が23%、賛成が26%、どちらでもないが51%となる。よって、何か事故でも起これば反対数が増えるのは明らか。只、近年の傾向として、フランス国民はあまり反対派の言うことに信憑性があるとは思っておらず、それ程影響を受けることは無い。
* フランスに於けるメディアと事業者等との関係
・ CEAを例に取って説明すると、プレス発表の頻度は週に2〜3回、活動状況の報告記者会見は年に10回前後、CEAの施設見学会を2〜3回/年、研究室の視察は要求ベースで対応、又、研究者への直接インタビューも適宜行なっている。
・ これらは本局、並びに各研究施設に於いて其々実施している。
・ 如何に幅広いコミュニケーションを持つかが重要。
・ こうした広報活動はメディアを介してのみならず、地元議員・首長、学校、地方情報委員会等を通じ、広く地域住民に対するアプローチを行なう事も肝心。
・ 最終的には、以下に迅速に正しい情報を住民に届けるかということが目標であることから、最も身近で、伝達の早いメディアと信頼関係を構築し、正確で、真実に基づく、判り易い情報を継続的に提供する事が重要である。情報は何が何でも全て出せば良いと云うものではない。
・ EDF、AREVAとも同等の方法でコミュニケーションを取っている。透明性が高く、迅速、且つ正確な情報を、誰にでも解る言葉で、簡単に説明するということがキーワード。相手が理解して初めてメッセージが伝わる、ということを認識する必要がある。
・ 地元行政当局にも同じ情報を提供している。
・ 事故時、緊急対策本部は発電所と本社、双方に設置される。安全、技術担当のヘッドと共に、必ず広報の担当チームも配置につき、24時間対応をする事になっている。通常これは広報を統括するマネージャー、外部との窓口(電話受信)、情報収集、メディア対応、スポークスマン等、5〜6名の担当が専従で対応する。
・ 肝心なのはこのような訓練を実際に1〜2回/年ペースで繰り返し実施している事。又、事業者側の課長以上の幹部は例外なく外部専門化(メディア関係者)によるメディアトレーニングを受けている。例えば、一日中、1分間に10本の電話が鳴りっぱなしの状況で、矢継ぎ早な質問に答えるプレーシャー対応型の訓練であったり、記者会見、TVカメラを前にしたインタビュー、また複数のマイクを付きつけられた状況下で如何なる説明をするのか、しゃべり方、目線、言葉の選び方から説明内容まで、実際のジャーナリストによる現実的な研修が行なわれている。
・ 実際の防災訓練にはメディアも参加する。毎回新しい発見があり、それらを元に改善がなされて行く。
・ メディア対応では、如何にメディアをコントロールするのかということではなく、メディアを通じ、如何に正確な情報を迅速に伝える事が出来るかと云う認識が重要。
* 柏崎・刈羽の中越沖地震に関してのフランスでの報道
・ 最初は仏でも大きく取り上げられたが、事実に基づく正しい情報が伝達され、7月末頃(2週間後)には沈静化。
・ この機会を利用しようとした反対派の動きに対してもメデイアは殆ど取り上げなかった。
・ フランスのメディアは先ず記事等にする前に専門家の意見を聞く。
総括として氏曰く、フランスでは、時間はかかるが、メディアとの信頼関係を築く事が一番大切だと認識されている由で、これはメディアをコントロールする事が目的ではなく、情報を正しく、判りやすく伝えてもらう事が第一の目的である事を忘れてはならないとの事。このような関係が維持出来ていれば、メディアが事故時等において情報を誇張したり、劇的状況として報道するような事は無いと思われるとのことであった。
日仏間にメディア文化等の違いがあるにせよ、大いに参考となる講演であった。
Q&A:
・ Q:仏ではPRが発達していると感じた。関連事業者、国等が一体となって行なっているようだが、歴史的展開は?
・ A:歴史の中で必要に応じそれぞれが、その重要性を認識した為。広報活動で終着点というものは無く、これで良いということは無いので、これからも改善して行く。
・ Q:それにも係わらず反対派が未だ多い理由は?
・ A:仏人はあまり反対派の意見を重要視していないし、正しいとも信じていない。公正な民主主義を具体化するためのカウンターウエイトとして、その存在価値を認めているのだと思う。
・ Q:仮に先の中越沖地震がフランスで起こった場合、メディア対応でASNとかIRSNはニュースの前面に出るのか?
・ A:それぞれの立場で会見に応じる。
・ Q:その場合、国民は誰を信頼するのか?
・ A:基本的に意見調整はしていると思われるので、発表の大筋は何処も同じ。但し事象内容は当事者である事業者が最も良く知っているはずなので、その当事者が一番信頼出来るはず。トラブル内容のレベルによっては、安全当局が出てこない場合もあるし、即報告する必要のない場合もある。
・ Q:仏では、防災訓練で想定しているような事故は今まで発生していないと認識しているので、本当に重大事故が発生した時に、今のトレーニングが有効か判らないのではないか?
・ A:確かにサイト外へ影響を及ぼすような事故は幸い発生していない。しかし、何回も訓練を実施し、準備している事は必ず役立つであろうし、毎回の訓練で改善はなされている。
・ Q:9.11以降サイト内の視察等は制限されたとの認識だが?
・ A:9.11以降、政府主導によるテロ対策が取られている。政府は、緋色、赤、オレンジ、黄の4段階*の管理コードを決め、それに従って視察受入れの判断をしている。確かに同対策導入以降は施設見学にも制限が出て来てしまったが、煩雑な手続きを経て、担当行政官が問題ないと確認出来れば、了解が得られ、サイト内の見学も可能となっている。(* 当日は、赤、オレンジ、黄色、緑の4段階だと思うとの説明を致しましたが、正確には緋色が厳戒最高レベルで、警戒の最低レベルが黄色、緑は存在しておりませんでした。お詫び方々、訂正をお願い申し上げます。)
・ Q:先程、緊急対策本部に広報担当者が5〜6名配備されるとの話だったが、全体で何人居るのか?
・ A:広報担当者だけの数字は持ち合わせていないが、現在フランス国内の原発サイトは21箇所存在し、技術・安全担当を含め、総数100名からの担当者が24時間体制で対応出来るようになっている。
<事後、参事官より以下の確認情報の連絡があった。:原子力発電所に設置されている炉の基数により異なるが、通常の一つのサイトには約80〜110名の緊急待機班に任命された社員が存在。同メンバーは班毎に指定された1週間の間、24時間体制で何時でも呼び出しに応じる義務があり、4~6週間に一度の頻度で、1週間の当番が廻って来る。班のメンバーは発電所から一定距離内に居住し、呼出し後、一時間以内にサイトへの到着が義務付けられている。つまり、当番の週は家族など遠出をする事も、アルコールを摂取する事も出来ない。班は緊急対応に必要なメカ、バルブ、電気、自動制御、化学等、全ての職制の専門家で構成されている。当直班(オペレーター)は待機班には含まれない。
緊急時、当直班が不具合の状況を確認した後は、全ての対応策の決定と実施は緊急待機班により実施される。実際、原子力事故としての緊急対策本部が立ち上がると、当直班は所内、若しくは自宅待機となり、全ての作業は緊急対策班が行なう事になる。状況が長期化する場合は当直班が呼ばれ、交代要員として緊急対策班に参加する形になる。各発電所の緊急対策班は、その班毎に広報担当を抱えており、例えば原子炉が4基設置されている発電所では4つの待機班が存在し、各班に広報担当班が存在している。但し、各発電所にそれほど多くの広報専従者が存在しないので、通常時には他の職制を担っている職員、エンジニアが緊急対策班の広報担当として参加するようなシステムとなっている。彼らは事前にプレスリリースの書き方、スピーチ、インタビュー対応等、広報担当として必要な専門研修を受けて初めて待機班の広報担当に任命される。>
・ Q:フランスで児童に対する原子力の教育は如何?
・ A:現時点では具体的に実施されていないが、国民教育省で検討中。副読本はあるので、先生が独自の判断で教育をしているところはある。
・ Q:CLI(地方情報委員会)にメディアは入っているのか?
・ A:ラ・アーグは入っているが、その他の地域では判らない。義務付けはされていないはず。(法律を確認したところ、その構成メンバーについては、地元議員、事業者、他地域の社会経済に関与する機関・組織の代表ということで、メディアを参加させることという限定的な規定は設けられておりません。)
以上