座談会議事録 長期の地球温暖化
1.日時 : 2005年3月16日(水) 15;20−17:20
2.テーマ: 長期の温暖化対策について
3.講師 : 国立環境研究所 西岡秀三 理事
4.議事要約
地球規模の温暖化問題について、その本質が分かり易く解説された。即ち、最初に炭素循環・管理の考え方が比喩的に説明され、それに基ずいて、必要とされる削減量はどの位か、またそれを実現する方策がどうなっているかの世界的動向が、国立環境研究所が開発したAIMモデルの解析結果も交えて解説され、そのあと活発な質疑応答が行われた。
5.講演の要約
(1)地球温暖化が進んでいる
1990年ごろはあるらしい、1995年ごろは兆候がある、そして2001年には科学的根拠があると、地球温暖化の事実が次第に分かってきた。この温暖化は人為的な温暖化ガス(主にCO2)の大気中への放出に起因する。
(2)炭素循環の管理
(a)地球上の炭素収支の現状
人為的排出量** |
地球の自然吸収量* |
CO2汚染のバランス (大気中の増加量) |
大気中の 蓄積量と濃度 |
6.3 GtC/Y |
3.1 GtC/Y (陸1.4、海1.7) |
3.2 GtC/Y (1.5ppm/Y) |
730 GtC 370 ppm |
*:地球の自然吸収量は減少の傾向にあり、これはバランスを増加させる。
**:このままの成り行きによれば、2100年には20GtC/Yの膨大な排出量になる。
(b)究極削減量
CO2濃度をどのレベルで安定化するにせよ、第一に人為的排出量を地球の自然吸収量以下に抑える事が必要である。 この時、世界での合意を得やすい妥当な単位は、ざっくりと一人当たりの排出量と考えられる。 従って、世界的には、現在の人為的排出量1tC/Y/人(6.3GtC/Y/61億人)を自然吸収量0.5tC/Y/人(3.1GtC・Y/61億人)以下に半減させることが必要となる。
この議論を日本に当てはめると、現在の人為的排出量2.5tC/Y/人(3.3億tC/Y/1.27億人)を0.5tC/Y/人とするのであるから、現在値から80%の削減が必要となる。 これをいつまでに達成する必要があるのか? この削減の考え方に加えて、後述するような考え方、即ち、危険な(温度上昇とCO2濃度)のレベルの認識、削減の道筋、国際的責任分担の考え方(欧州と同じ論理)を適用すると、2050年には0.5億
tC/Y((0.5tC/Y/人multiplyed by 1億人(2050年の人口))とする必要があり、1990年の3.4億tCから85%(つまり年間1.4%(85%/60年))削減する必要がある。
京都議定書の値((年間0.3%減(6%/20年)は序の口の大変少ない値である。
(c)CO2濃度の安定化レベル
究極削減量を決めた次には、どのCO2濃度レベルで安定化させるのかを決める必要がある. これに関連する温暖化リスク評価によれば、危険な温度上昇の値は2゜C位であるという事が段々と分かってきた。 即ち、最終的にこの値を超えないように、CO2濃度(つまり、大気中のCO2積算量)を安定化させる必要がある。 さて、.(b)で述べた究極削減量は、ある時突然ステップ的に達成できるわけではなく、ある期間をかけて到達する値なので、この間に自然吸収量をオーバーして排出され続け蓄積された積算量でCO2濃度が決まる。 つまり、この為にはどのくらいの期間をかけ得る余裕があるのか、従って究極削減量(=自然吸収量)にいつまでに到達すれば良いのか(そのスピード)の設定が次の鍵となる。 このように、危険温度上昇に相当するCO2濃度の設定と究極削減量到達へのスピードの設定とは一対のものとして考え決定しなければならない。
以上のような見通しは、最近の数次にわたるIPCC評価報告書に代表される知見の集積結果であって、特にCOP-3京都会議当事に大勢であった550ppm(産業革命時の280ppmの約2倍)のCO2濃度安定化目標レベルが、その後の研究活動の成果に基づき450−550ppm以下に下がり、かつその為には2050年以前に大幅な削減が必要であることが結論ずけられてきた。
(3)対策(安定化にいたる道筋の目標と各国の分担目標)
独、仏、英などの欧州諸国は、濃度安定化目標として450−550ppm以下で安定化させる長期目標を設定し、かつ中期目標として2050年までに排出量の45−75%削減あるいは0.5tC/Y/人への削減を掲げている。 この点で日本は大幅に出遅れている。このような70%−80%もの大幅な排出量削減には、マクロな省エネルギー推進と低炭素エネルギー導入の両面からの膨大な努力が必要である。
欧州各国と日本のこの様な道筋の差が、エネルギー集約度と炭素集約度のXY軸平面図上に図解して示された。これには欧州諸国の中期目標達成パスがそれぞれ示されており、日本も今後CO2ガスをどのように減らしていくのかの挑戦の例が示された.。
6.質疑応答を中心にして分かった事の要点
−世界、特に欧州では審議官より上のクラスは温暖化対策に本気である。
−日本の中は京都議定書を守ることに汲々としている。
−米国については、政府と一般の人々とは別物であると区別している。米国は今後環境問題では一番をとれない(世界をリードできない)だろう。
−前述のXY軸平面図などでは、日本のエネルギー集約度向上(省エネルギー努力など)並びに炭素集約度向上(天然ガス及び原子力などの非化石燃料へのシフト努力)それぞれの実績・寄与と努力目標が良く見えない。
−IPCCは選択肢の提示に徹し、政治的な配慮は一切入れないとの方針を厳しく守ってきている。
7.座談会の締めくくり
次の2点をお願いし、何れも了承して頂いた。
−温暖化が進んでいる事の発信は継続して欲しい。
−CO2ガスの削減には原子力の寄与が大きいと期待しているので、原子力の分担を取り入れた効果の解析も加えて欲しい。必要なデータをまとめて、後日お願いに参上したい。
拝承 相手方 エネルギー学会 ひきた氏
環境研究所 ふじの氏
以上