討論会記録  

エネルギー問題に発言する会

 

1.       テーマ: 日本の失われて10年とアメリカ他の飛躍

2.       日時: 平成15年1月22日 14時―16時半

3.       講師: 水町氏、  纏め: 林氏

4.       参加者: 水町、林、池亀、荒井、澤井、土井、益田、天野、石井(正)、松永、岩井、阿部、小笠原、石井、加藤、石川、杉野、神山、平山、篠田

 

5.       概要:

日本は近年改良・標準化プログラムの中で様々な改善を行い、世界に冠たる成果を上げてきたと自認していた。しかしここ数年の実績は設備利用率、放射線被曝量ともに世界の中では低迷を続けていることがはっきりしてきた。この現実を見極め、他国、とりわけ飛躍の著しいアメリカの実態を勉強し、今後の日本のあり方を探る。

 

6.       講師説明内容

1)        世界主要原子力発電国の設備利用率の推移(1992年―2001年)

フィンランド、韓国、スペインが85−92%で世界トップ3日本は1992年から1998年にかけては75%から84%と着実に改善をしてきたが、1999年以降、約80%に低迷している。

米国は1992年には70%と最低クラスであったが、その後着実な改善を続け、2001年には92%に達し、世界トップクラスに飛躍。

2)        2001年度、世界原子力発電国の設備利用率

1位オランダの94%を筆頭にフィンランド、スペイン、韓国、アメリカ、スイスが90%以上。ついでベルギー、チェコ、ルーマニア、ドイツ、中国、ハンガリー、台湾、が85%以上。ついでスロベニア、スウェーデン、ブラジル、日本、インド、アルゼンチンが80%以上。最後がフランスの74%となっている。フランスは原子力発電電力を周辺国に輸出しており、相手先の需要に応じて供給しているために、負荷運転を実施しており、設備利用律が低迷しているという特殊事情がある。フランスを除けば、日本は蒸気発生器やシュラウドの取替え等の大工事のためもあり世界17位で最低レベルである。

3)        世界トップクラス90%台に乗せるには、運転期間で18ケ月以上、定検期間で60日以下を達成する必要がある。日本の現実は運転期間は現規制下ではほぼ14ケ月が最長であり、定検期間も現在の検査項目数ではこれ以上の大幅な短縮は困難である。

4)        主要国の運転状況

米国:12−24ケ月運転(定検:平均40日)

韓国:18ケ月運転(定検:平均55日)

スペイン:12ケ月運転が主、24ケ月運転も許容

フィンランド:12ケ月運転(定検:20日前後)

ベルギー:12−18ケ月運転(定検:30日前後)

スイス:12ケ月運転

ドイツ:12−15ケ月運転

中国:12ケ月運転(大亜湾18ケ月予定)

5)        わが国の記録

運転期間:平均350−400日、最長448日

短期定期検:平均140−60日、最短29日

6)        主要国のBWR一炉あたり線量の年度推移(1991−2000)
世界のトップ4はフィンランド、ドイツ、スイス、スエーデンで各国とも毎年改善をして2000年には1(人・Sv/基)以下を達成している。アメリカは91年は3.2と最悪であったがその後目覚しい改善をして、2000年には1.68を達成。日本は1991年には1.8レベルで世界のトップクラスに入っていたが、その後シュラウドの取替等の大工事のため2000年は1.96でこれらの国の中では最低に落ちている。
PWRについても蒸気発生器の取替え工事等があり、似たような状況にある。

7)        アメリカの飛躍の要点

SALP(Systematic Assessment of  Licence  Performance)の弊害(膨大な量の書類による審査、罰則の乱発、規制・許認可の非効率、NRCと電力のいがみ合い)からの脱却

ROP(Reactor  Oversight  Process)の導入
 Quality Management:膨大な紙の審査のQCから、実態の品質をみるQMへの移行
 Communities:規制と電力とのいがみ合いの反省からまずは信頼、裏切られたら罰則ほねお移行
 Multi-Skilled Work:きめられた仕事の範囲から関連の仕事もみる多機能性への移行

ROPの特徴

  アメリカ独自の改善

   Performance Indicator(性能指標)の導入

     成績の良いプラントは基本検査のみとし、悪いプラントは検査を増やす。アメとムチ
   Maintenance Rule(保守規制)

     維持基準など保守規制の明確化

PIの項目
 原子炉安全、放射線防護、安全保障の3つの大項目の下にさらに細分項目を設け、
 それらに明確な基準を設定し、良、悪基準を明確にして、これ等の改善を目指せるよ
 うにしている。

8)        米国の出力増大の現状
米国では、(1)Recapture Power Update(2%未満の出力増大を原子炉出力計算
の技術的増強で実施するもの)(2)Stretch Power Update(2%以上、最大7%までの出力増大を大規模な改造を行うことなく、計測制御の設定点の変更で行うもの)(3)Extended Power Update(Stretchより大規模があり、大幅改造をともなうもの)がある。
これ等による出力増大の実績は、2002年12月までで、各々、40万KW、216万KW、134万KWがある。合計で390万KWに達する。
ABWR級原子炉3基分に相当する規模であり、それほどの経費を要せずにできるので原子力の経済性に大きく寄与している。

 

7.討論

   上記説明を踏まえて討論を行った。

(1)主要点を下記する。

・ 米国では検査官はデイリーに報告書を提出し、これが公開されている。
  このようにすれば、この情報を受ける側にも受ける責任が生じてくる。その中できちんと
  した、国民が納得できる対応ができてくるのではないか?

日本では何か事故やトラブルがあった後の立ち上げまでの期間が長すぎる。ここを何
とかしないと利用率の改善はむずかしい。

日本では運転許容期間は原子炉とタービン側で不整合な点があり、この点も対応を難しくしている。

米国での利用率改善の大きな要因の一つは事故率が目覚しく減っていることにある。その原因には発電所の努力がある。Performance  Indicator(性能指標)をうまく活用し、何が問題点かを明確にして重点的に努力を重ねている点が大きいと思われる。

米国では原子力の経済性があるとの認識で電力業界の再編がドラステイックに行われた。経済性のないプラントは切り捨てられ、見込みのあるものは、出力増大対策も含め、合理的な対策が大金を掛けて行われた。それでも原子力は十分にペイするとの認識があった。

米国でのこのような変化の背景にはNRCの変化も大きい。NRCジャク ソン委員長がリスク評価の重要性を説き、それを浸透させた点が大きい。

(2)まとめ

米国でのこのような改善はわが国でも是非取り入れていくべきであり、そのためにこのような 実態をもっと広く知ってもらうことが必要である。当会としては、このことをわかりやすい形でまとめて世に問うていきたいということで合意を得た。このために少人数の下記検討会をもつことにした。
メンバー:天野(纏め者)、荒井、益田、池亀、石井(正)、林
・日本では利用率向上に対し改善すべき課題が多くありそうである。次回の座談会ではこの点につき、現場の悩みを聞き、この中から何をしなければならないかにつき、当会として検討を深めていくこととした。

座長を篠田氏にお願いし、PWR,BWRの双方につきその実態の説明をしていただくこととした。