エネルギー問題に発言する会,座談会議事概要
「各電源の発電原価比較」
1.
日 時:平成16年2月18日(水),15:00〜17:00
2.
場 所:虎ノ門4丁目、MTビル7階、NUPEC会議室
3.
座 長:神山弘章
4.
講 師:東京電力梶@原子力計画部 部長(原子力企画担当) 田中治邦氏
同伴者:東京電力梶@原子力計画部 バックエンドグループ 副長 長谷川英規氏
東京電力 原子力技術部 処分技術グループマネージャー 藤原啓司氏
日本原燃梶@経営企画室 事業戦略グループリーダー 原田光久氏
5.参加者(敬称略、順不動)
石井(陽)、石井(正)、池亀、天野、林、益田、安部、荒井、岩井、柴山、石井(亨)、竹内、水町、松永、太組、沢井、中川、篠田、杉野、西部、斎藤、武藤、山名、神山、土井、加藤、今永、小笠原、佐藤、松田、石川、森
6.提出資料:
1)原子燃料サイクルのバックエンド事業の見積もりについて、平成16年2月18日
(当日の資料番号25−6)
2)モデル試算による各電源の発電コスト比較、平成15年12月16日、電気事業連合会(25−9)
3)バックエンド事業コストの見積もりの見直しと各電源の発電コスト試算について、
平成15年12月25日、電気事業連合会(25−7)
4)バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価―コスト等検討小委員会から電気事業分科会への報告―、平成16年1月23日、総合資源エネルギー調査会、電気事業分科会、コスト等検討小委員会(25−8)
5)総合資源エネルギー調査会、電気事業分科会、コスト等検討小委員会資料集、電気事業連合会、平成16年1月、(25−10)
注:資料1)を除いて全て公開資料です。
7.座談会の経緯
.原子力発電のバックエンドについては、不透明なところもあったが、今回電事連よりバックエンドコストが発表されたので、担当部門よりご説明を伺うことになった。
8.講師説明概要
原子力発電のバックエンド費用はその必要時期がその燃料に基づく発電時点より遥かに時間が経過した後であるために、予め適切なコスト回収を行う仕組みが必要である。電力自由化拡大の下で、今後の原子力のあり方を考えるための資料として、今回、可能な限り現実に即した再検討をしたものである。
算定の前提は以下の事業を含むものとする。
1)
2006年から再処理事業を40年継続する。
2)
この事業に伴って発生したPuはMOX燃料として加工する。
3)
バックエンド事業全般の放射性廃棄物の処理、貯蔵、処分事業。
4)
この期間に発生した使用済燃料の中間貯蔵施設の建設、運転。
5)
再処理施設、ウラン濃縮施設等の廃止措置。
すなわち、本算定には2046年以降の再処理等の事業は含まれていない。また、原子力発電のエネルギー安定供給への寄与や将来、地球温暖化対策として考慮されるかもしれない炭素税の影響については考慮の対象外とされている。
原子燃料サイクルバックエンド事業の総事業費および燃料費をそれぞれ表1、表2に示す。
表1 原子燃料サイクルバックエンドの総事業費
事業 |
費用(百億円) |
再処理 返還高レベル放射性廃棄物管理 返還低レベル放射性廃棄物管理 高レベル放射性廃棄物輸送 高レベル放射性廃棄物処分 TRU廃棄物地層処分 使用済燃料輸送 使用済燃料中間貯蔵 MOX燃料加工 ウラン濃縮工場バックエンド |
1,100 30 57 19 255 81 92 101 119 24 |
合計 |
1,880 |
表2 燃料費(円/kWh、40年、割引率3%)
|
1999年 |
2003年 |
ウラン燃料 MOX燃料 (フロント計) |
0.
66 0.
07 0.74 |
0.
59 0.
07 0.66 |
再処理(輸送込み) HLW貯蔵・輸送・処分 TRU貯蔵・輸送・処分 再処理デコミ 中間貯蔵(輸送込み) (バックエンド計) |
0.
63 0.
16 0.
10 − 0.
03 0.92 |
0.
50 0.
15 0.
09 0.
03 0.
04 0.81 |
燃料サイクル計 |
1.65 |
1.47 |
他電源との発電コスト比較を要約すると、バックエンド費用を詳細に検討し、これらを織り込んでも
●発電所の設備利用率80%、割引率3%の場合、運転年数20年以上で原子力が最も安い。
●発電所の運転年数40年、割引率3%の場合、設備利用率60%以上で原子力が最も安い。
原子力発電は設備利用率80%以上、運転年数40年は現実的であり、発電コストの優越性は確保できるとの結果であった。
9.質疑応答
Q―1.Puクレジットを考えたか?
― 再処理費用の中に含ませ、独立には計算していない。
Q-2.変動があってもバックエンド全体では数%でたいしたことはないと言えるか?
― その通り。現在価値に換算すると影響は少ない。
Q-3.再処理稼働率が仮に半分になったとしても経費は変わらないのか?
-- 殆ど変わらない。再処理の設備利用率が50%になったとしても、使用する薬品が減り、TRU処分費、MOX加工費は減るが,代替ウランの手配、使用済燃料の中間貯蔵量の増加があり、差し引きバックエンド総事業費は余り変わらない。勿論、燃料トン当たり再処理費は高くなる。
Q-4.火力の場合もバックエンド費があるのではないか?炭素税が課税されたら火力の発電コストは上昇するのではないか。
-- 定性的にはそのように言えるが、現時点では数値的に示せるものがない。
Q- 5.総括原価方式では未回収部分(再処理施設の廃止措置など)があったことを明らかにすることも今回の発表の理由の一つではないか?
-- その通り。今回の発表の理由の一つである。
C(意見)−1.原子力発電が減少すれば、国としてエネルギーのSecurityを確保し、地球温暖化防止路線を維持してゆくことが困難になって来るだろう。
C-2.一般には18兆円と言う数字だけが一人歩きをするので、留意する必要がある。
10.まとめ
1)第70回総合エネルギー調査会原子力部会で用いた算定方式によれば、運転期間40年、設備利用率80%の条件で、バックエンド費用を含めても、原子力発電は他電源に比較して発電コストが安い。
2)以上の電事連の計算には多くの前提条件が含まれており、これらの中には国の支援なしには実現不能な業務(例えば中間貯蔵の実現)が含まれている。これらは国の政策の中で明確に打ち出す必要がある。
3)電力自由化が進むと、長期間では採算が採れたとしても、初期投資額の大きい原子力発電所の新設は敬遠され勝ちである。特に計算外のリスクの大きいバックエンド事業については、何らかのインセンティブを付与することが必要である。
4)バックエンド費用18兆円と言う数字が一人歩きする恐れがある。また逆に、「原子力が他の電源と比較してコスト的に遜色が無いのなら,優遇措置は不要」と理解される恐れがある。一般の人に正しく理解して貰うにはどうすれば良いかを考えるのも我々の役目ではなかろうか。
(平成16年3月3日 神山弘章)