講演・座談会 石油の無機起源説について

 

日時 2005年9月21日  第44回運営委員会

講師 日本エネルギー経済研究所 主任研究員 中島 敬史 氏

座長 松田 

 

誰も予想しなかった石油高価格が続き、世界経済への悪影響が懸念される情勢を背景に、石油資源のピーク説が有力視される一方で、その対極的とも言える無機起源説が最近の多くの事例を元に注目を集めてきている。人類の未来を考える大前提となるエネルギーの将来を検討するには、こうした考えを無視することはできない。これまであまり紹介されていない無機起源説を取り上げその内容の理解を深めることとした。

 

講演要旨

2003年から(財)日本エネルギー経済研究所で東シベリア資源開発の仕事に携わっており、地質学者として金属資源探査の路線から石油資源探査を行っている。1983年に三井金属資源開発(株)に就職してから「石油の無機起源説」に関心を持った。1991年に日本石油開発(株)に就職後、マレーシア、ミャンマーなどで石油資源炭鉱を通じて、従来の「有機起源説」では説明できない現象に遭遇していたが、シベリアの経験でウクライナやロシアの学者の間に支持者の多い無機起源説で説明する方が合理的で容易だという思いが強くなってきた。時あたかも2005年6月に世界の権威組織である米国地質学協会(AAPG)が従来の慣習を破り「石油の無機起源説」を取り上げた研究会議を開催し、私も参加してきた。

最近、NASAの“Deep Impact”計画がテンペル彗星の核に人工物を打ち込んで、飛散物質を採取・分析することによって、その物質組成を調査することに成功したが、水、炭酸ガス、炭化水素などから成っていることがわかった。またNASAの探査機により、土星の月タイタンに大量のメタンとエタンの存在が確認された。即ち、炭化水素(石油の主成分)は地球に特有の物質ではないのである。

地球の地殻は、マグマで形成された火成岩(大陸地殻は約40kmの花崗岩、海洋地殻は約7kmの玄武岩)で構成されており、さらにその下位に厚さ数100kmのカンラン岩で構成されている上部マントルがある。上部マントルは対流しており、その影響で地殻に亀裂が生じ、その部分に大陸地殻の表層から削り取られた砂や泥が堆積し、地殻の表層に堆積盆地を形成する。油ガス田の99%はこの堆積盆地内に分布するが、「有機起源説」は海生植物を原料として「根源岩」で生成した油ガスが堆積盆地へ移動して発見されるとする。しかし最近、基盤岩や火成岩で大規模油田が次々に発見され、有機物の埋蔵が少ないとされる古生層や先カンブリア系や原油が生成しないとされる深度5,800m7,900mの深層で日量数万バレルの原油を生産する例が出始めた。

「有機起源説」は確立した学説であり、異論を唱えるのには勇気がいるが、種々の反証が出始めている。原油の主成分である飽和炭化水素は海生植物には僅かしか含まれていないなどなど、「有機起源説」に対する反証は多い。東シベリアの例では、「根源岩」と石油鉱床の距離が300km以上離れており、この間、浸透性の悪い岩石中を石油が側方に移動したとは説明がつかない。

「無機起源説」には「宇宙起源説」と「マントル(地殻深部)起源説」があるが、「地殻深部起源説」では地殻の深部の火成岩層で無機的に生成された油ガス(実験的にも立証)が岩層の亀裂や地殻変動の影響で生じた断層などの割れ目に沿って地表近くに滞留したものと考える。ペルシャ湾の油田分布を見るとプレート境界に沿って線上に配列している。原油中の微量金属成分はカンラン岩の成分に近いことが分かっているし、石油中にはダイヤモンドの微粒子が含まれている事実や、ダイヤモンド中には炭化水素流体が包有されているという事実も知られている。西シベリアのウレンゴイガス田、ウクライナのドニエプル・ドネツ堆積盆地の基盤岩油田、東南アジアの探鉱例、東シベリアの例、ペルシャ湾のガワール油田の例など、「無機起源説」でないと説明ができない。

最近、英国地質学会のシンポジュウムやモスクワでの学会などで「無機起源説」を支持する活動が行われているし、「無機起源説」を長年にわたって無視してきたAAPGも“石油の起源”会議を開催することになったのは冒頭に述べたとおりである(056月、カナダ)。「有機起源説」は伝統ある確立された学問体系であり、無機派の見解は統一的ではないが、数々の状況証拠が挙がっており、科学的吟味が必要である。

「無機起源説」に依るなら、石油、ガスの資源量は現在確認されているよりかなり増えることになるし、探索方法も改善されることになる。資源的に悲観視されている日本列島近傍も、プレート境界の構造線の入り組んでいる地域であり、油ガス田発見の可能性があることになる。

 

質疑概要

Q. 地球創生の過程で内部に取り込まれたものが深部から出てくると考えるのか、今でも地球深部で創られつつあると考えるのか?

A 現在では後者即ち高温高圧の深部で創られているという考えが大勢である。

Q 生成される速度と採掘される速度の関係があると思われるが?

A 長い時間をかけて創られてきたもののほんの上部に採掘が達した段階で、今後新しい考えで深部を探査することが重要な段階である。

Q 日本で無機起源説に基づいて探査するような試みが考えられているか?

A 無い。

文責:小笠原、松田

 

出席者(順不動)

太組、土井、加藤、荒井、杉野、石井(正)、石井(陽)、和嶋、伊藤、堀、森、林、池亀、益田、武藤()、神山、松永、石井(亨)、武藤(章)、篠田、松岡、佐藤、小笠原、山崎、金氏