会員座談会報告
地球環境を壊さないで食糧問題を解決する
講師 新村正純氏
農学博士、三重大学生物資源学部非常勤講師、元味の素ゼネラルフーヅ常務取締役
期日 2008年9月18日 15:00〜17:00
場所 原技協 会議室
司会 竹内哲夫
講演概要
1.
21世紀は地球規模で食糧飢餓となる
20世紀は膨張の時代。100年間で人口は3.75倍、穀物生産は7.5倍に増えた。即ち一人当たりの穀物生産は2倍に増えたことになる。
21世紀はそうはゆかない。世界的な食糧不足の時代となろう。農地は増えない、農薬や肥料による増産効果も見込めない。
2.
CO2過剰排出による地球温暖化は進む
地球温暖化以外の環境問題(一般公害、廃棄物、ダイオキシン問題など)はコントロール可能となったが、CO2過剰排出による地球温暖化は進む。
3.
CO2排出削減への取組み
このままゆくとCO2濃度は現在の369ppmが2050年には600ppmになろう。
小宮山提案のビジョン2050では、エネルギー効率化と転換により化石燃料を削減(60→45億トン)し、一部を非化石燃料に転換(15→30億トン)する。1/3削減のためにエネルギー効率化と省エネ、ロス削減などを行うとしている。この提案では、火力発電に代わるエネルギーとしてもっとも期待されるのは原子力発電であるにもかかわらず、原子力にはあまり期待していないように見える。水力、風力、太陽光、地熱などの自然エネルギー発電は場所が限定されるが、原子力は場所を選ばないのが良い。
この他に封じ込めと吸収がある。
封じ込めでは、廃油田の活用や液化して地底に埋蔵処理する技術開発が進んでいる。
吸収源には海中プランクトンと森林がある。海中プランクトンの増殖には、海水に鉄粉を撒く方法の研究が報告されている。森林はCO2を吸収するので、京都議定書でも削減効果を算入している。
木造住宅は都市に森林を移すのと同じで、CO2固定効果がある。“木造住宅による木造都市文化”がCO2を削減する。木をふんだんに使った100年住宅を推奨する。建設費とリフォーム/メンテナンス費を3代で分担すれば経済的に成り立つ。
4.
森林破壊によるCO2吸収の激減
古代都市文明は森林を破壊した。一番森林を破壊したのは農業。その結果干ばつが起き土地が荒れた。ギリシャ、ローマ、中世ヨーロッパでも同じことが起きた。そのうえ、米国の1620〜1920年の森林マップをみれば明らかなように、植民地でも同じことをやった。アフリカ、南米、アジアでは今も進んでいる。
“CO2問題は化石燃料と森林破壊により発生した”と言える。
5.
農業こそが地球環境の破壊者
農作物や牧草は冬には枯れる。高さも低い。CO2吸収は森林より桁違いに少ない。田畑、牧場を森林に戻せばCO2吸収が増える。
現在世界の陸地の37%が草地(牧草地含む)と農地。世界の陸地の7%にスギ林を育成すると世界の化石燃料によるCO2排出量63.3億Cトン/年を吸収できる。
6.
地球環境を壊さないで食糧を増産する方法
現在の農業は農地が二次元(平面)であり、収穫回数も少ない。更に、農業機械・設備は利用時間が短いため、農業の土地生産性、時間生産性、労働生産性、設備稼働率が低い。
三次ないし四次元を活用する農業の工業化により、少ない土地で食糧増産が可能となる。余った土地を森林に戻せば、CO2の吸収源ともなる。
農業の工業化事例として、人工飼料養蚕、三角型栽培面や赤色発光ダイオードによる野菜工場などがある。
養液栽培による穀物工場を提案する。栽培水の養分管理や病原菌・病害虫のコントロール、温湿度・光線やO2、CO2を完全に人工管理する工場。例えば水稲栽培工場では20段の水耕パネル田を作り、年50回(毎週1回)田植をして、50回稲刈をする。土地生産性は通常田の100倍以上になる。99%以上の田が節約できるので、そこに植林する。
7.
その他の食糧増産
水産の分野では海面漁獲が増えていない。クジラが小魚を食べてしまうので、魚が増えないのが原因。増えすぎたクジラを捕獲して食べれば、漁獲も増える。
遺伝子組み換え作物も積極的に活用促進すべきである。遺伝子組み換えはスピーディーに育種をやっているだけで、従来の育種と変わりない。
この他、昆虫や微生物利用による食糧増産なども考えられる。最初は養殖魚や畜産動物の餌として利用すれば、受入れやすいであろう。
8.
具体策の提言
今後10年間になすべき具体的な提言策の事例を下記にしめす。
1)エネルギー問題(CO2発生源削減)
省エネ
火力から原子力へ
自然エネルギー
化石燃料の新たな発掘を禁止
2)大気中のCO2削減
CO2封じ込め
老齢・成熟人工林の伐採
木造住宅と木造家具
世界中に植林
植林という概念を持っていたのは日本のみ。世界で一番森林率が高い。
3)食糧増産
休耕地に穀物栽培工場と森林
遺伝子組み換え技術を穀物栽培工場に導入
クジラを食べる
養殖漁業
質疑討論
Q 食糧植物を光で栽培するとエネルギーを消費するのではないか。
A 植物の成長に必要なのは特定の波長。その波長を出すLEDを使えばよい。LEDはエネルギー消費が少ない。
(補足:土井氏から、炭化水素の形成にはエネルギーも必要のとのコメントがあった)
Q 遺伝子組み換えは、自然界では起こらないものが生ずるので不安となっているのではないか。
A 安全性試験をきちんとやればよい。マウスで20代の毒性試験をすれば、人間の6〜700年の安全性確認に相当する。
安心の問題は組み換え有無の両者を市場に出し、消費者に選択させればよい。消費者の選択は、キュウリやトマトのハウスものと露地ものなどで既に行われている。
Q 鉄粉を海中に撒くことによるプランクトン増産のメカニズムは。
A 植物プランクトンは鉄分があると繁殖しやすい。日本の研究者が北太平洋の海域で鉄の散布実験をして、植物プランクトンを20倍に増やした実績がある。
Q 人工飼料養蚕が実用化できなかった理由はなにか。また餌はどうするのか。
A 養蚕農家への影響を慮って、農林省が許可しなかった。餌は大豆やトウモロコシ。桑の嗜好性成分が必要なのはふ化したばかりの時のみでよい。
Q 製品の品質はどうか。
A 繭の色は白く均質で品質は良いが、製糸会社はいままでと違うものは悪い品質であると評価した。
Q 日本の森林は針葉樹が多い。日本古来にあった木を増やすべきではないか。また、牡蠣の養殖には森林が必要だが、スギはむかないとの話を聞いた。
A 日本の森林の4割は人工林。確かに早く育つスギ、カラマツ、ヒノキに偏っている。100年住宅では早く育たなくてもよいから、日本の気候にあった100年もつ木が必要。牡蠣の養殖では、「森は海の恋人」(牡蠣養殖者の畠山重篤著)と言われるが、森には土地にあった広葉樹を植えるべきであろう。
Q 植物プランクトンは食物連鎖の出発点。鉄粉の利用はどの程度進んでいるか。
A 2002年5月新聞報道されたが、その後はあまり報道を見かけない。
Q バイオエタノールは食糧問題があるので、セルローズから作る必要があろう。
A そのとおり。廃木材などからエタノールを作る商業生産が、日本で既に行われている。
Q 砂漠の活用はできないか。
A 砂漠で食糧を作ったり、砂漠を森林に変えるのは労多く功が少ない。それより休耕地や田畑を森林にした方が良い。
Q 米国での遺伝子組み換えはどの程度進んでいるか。
A トウモロコシは7割以上、大豆はそれより多い。主に家畜の餌。日本も家畜の餌なら輸入できる。
Q 京都議定書では排出量削減率6%のうち3.8%を森林のCO2吸収でまかなうことにしているが、達成状態はどうか。
A あまり順調には進んでいないように見える。
Q 世界の森林が38.7億haもあるのだから、63.3億炭素トン/年の排出CO2はその森林で充分吸収できるのではないか。
A CO2排出は化石燃料による63.3億トンだけではなくて、火山の噴煙、地球上の全生物が排出するCO2、薪炭の燃焼、山火事、一般火災、焼畑、廃棄物などの焼却等々から排出される大量のCO2があり、地球上の森林がそれを吸収しているが、間に合わず、化石燃料による約60億トンのCO2が大気中に年々増加している。よって新たに森林を増やしてこのCO2を吸収する必要がある。
以上