講演テーマ: スーパー軽水炉(超臨界圧軽水炉)の研究開発
講 師: 東京大学原子力専攻 岡 芳明 教授
日 時: 2006−4−19 15:00時〜17:00時
出席者: 順不同・敬称略
荒井利治、磯村賢一、小笠原英雄、石井正則、石井陽一郎、石井亨、今村敬一、小川博己、奥出克洋、加藤洋明、金氏顕、栗原裕、斉藤修、佐藤祥次、下田秀雄、杉野栄美、太組健児、竹内哲夫、高木伸司、土井彰、林勉、畑弘通、掘雅夫、藤井晴雄、中神靖雄、永田匡尚、松永一郎、松岡強、森雅英、武藤章、和嶋常隆、米原禎、益田恭尚(座長・文責)
スーパー軽水炉(超臨界圧軽水炉)の研究開発
米国原子力エネルギー省の第4世代原子炉(GEN-W)[目標:持続可能性、安全性と信頼性の向上,経済性向上、核拡散の抑制]の研究開発候補の一つに取上げられた超臨界軽水炉の開発の現状について、20年近くに亘り研究開発を進めてこられた岡教授に、超臨界水の特徴、開発の背景と原子炉についての詳細について明快なご説明を頂いた。
超臨界軽水炉開発の背景と目的:
原子力発電は建設費の大幅低減が望まれている。そのためには技術革新へのチャレンジが必要である。超臨界軽水炉は大学院学生の人材育成にはもってこいのテーマである。
炉心は現在の軽水炉と類似しているので、それらをベースとして、数々の新概念を考案、導入し研究開発を行った。燃料・炉心設計、プラントシステム設計(安全評価)、過渡特性・安定性評価、制御(含む、起動・停止)プラントヒートバランスと多面に亘る研究を実施した。これらの評価のためには多くの計算コードを開発した。
2002年には、米国エネルギー省が提唱した2030年までに導入可能な次世代原子炉(GEN-W)の一つに認定された。
超臨界軽水炉の特徴 :
(1) 超臨界水冷却の貫流型原子炉。
(2) 沸騰現象がない。高エンタルピー、コンパクト、高熱効率、低炉心流量。
(3) 経験豊富な火力・軽水炉発電技術の利用。
(4) 軽水炉から超臨界軽水炉への発展は、ボイラーの発展方式と同様。
(5) 同一のプラント系で稠密燃料格子とすれば高速炉とすることが可能。
超臨界軽水炉の炉心の特徴 :
(1)低濃縮ウラン燃料を用いた熱中性子炉。
(2) 低流量(BWRの約1/8)で冷却材の炉内エンタルピー上昇が大きい。
(3) 炉内の冷却材の密度変化、温度変化が大きい。
(4) 出口付近では冷却材の比熱が小さい。
(5) 気水分離が無く、出口密度が低く、炉心流量が低い。
超臨界軽水炉の主要仕様:
圧力:25MPa
冷却材入口 / 平均出口温度:280 / 500℃
炉心流量:1,420kg/sec (電気出力当りBWRの約1/10)
熱効率:43.8%
平均線出力密度/出力密度:180W/cm / 60W/cm3
燃料棒外径 /(被覆管材料):10.2mm /(Ni合金/改良SS鋼)
平均U235濃縮度:約5〜6%
主要技術の概説
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軽水炉と同様な安全性評価を行い、過渡事象・事故事象に対して安全性を確認した。
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プラント起動は亜臨界圧に過熱後、核加熱を行い、タービンを起動し、超臨界圧へ加圧し、バイパス系統から主蒸気系統へ切り替え、出力と流量を定格まで上昇する。
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起動時必ず沸騰遷移を通過するが適切な出力・流量比とすることで燃料被覆管表面温度の上昇を防いでいる。
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起動時の運転モードについても安全解析を実施ずみ。
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経済性評価:
再循環ポンプ不要、気水分離器・蒸気乾燥器が不要等システムが簡素化される。これにより圧力容器高さ小、格納容器体積小とすることが可能。結果として原子炉建屋も小型になり、建設費低減が期待される。
タービンも、タービン回転数増大でコンパクト化できる。
熱効率がよいので燃料費を含む運転費低減が期待できる。
質疑応答
Q :増殖炉でないが次世代原子炉(GEN-W)に採用された理由は?
A :GEN-Wは増殖炉である必要はない。将来の発展性と経済性が高い点が評価されたものである。超臨界圧水冷却炉(SCWR)には、熱中性子炉と高速炉があり、高速炉は増殖可能である。
Q :タービンサイクルで再熱はしないのか?
A :必要に応じ再熱を行うことは十分可能である。再熱器は開発が必要な機器であり、採用するかはメーカーの問題である。
Q :燃料被覆管等の材料の開発の可能性は?
A :放射線環境を除けば超臨界火力の経験から十分可能である。被覆管材料については研究開発を行う必要がある。
Q :貫流型という点から炉心で不純物が濃縮されるなど水質問題はないか?
A :貫流型なので、炉の冷却水に不純物の濃縮はなく、すべてタービン系へ排出される。水質問題についてはいろいろ検討した。炉水への蓄積という点では貫流型火力で十分経験ずみであり問題ないと考えている。放射線下という点では今後、実験的知見を得る必要がある。
Q :研究費はどの位使っておられるのか?
A :これまでの大学での設計研究は自主研究が主体である。この外、17年度には文科省公募事業に応募して研究費をいただいている。経済産業省の公募事業では民間企業が代表者で研究費を受けている。これらすべて含めて日本全体で研究開発費は18年度の場合年間3億円程度である。
Q :産業界の協力は?
A :以前、東京電力がメーカーと共同研究したことがある。現在の公募事業でも東芝・日立等との協力・情報交換を行っている。
Q :実現の可能性は
A :多数の国が興味を持って研究開発しているので、どこかで実現すると考えている。日本でもエネルギー総合工学研究所のエネルギー100年ビジョンの中では取り上げられている。
以上