座談会テーマ 『風力発電の電力系統への影響について』
講師:東京電力(株)技術部 系統技術グループ マネージャー
岡本 浩 様
講 演
要 約
国内の設備容量はここ数年急激に増大し、2003年度末には738基、68.4万kWに達している。わが国では日本海側、とくに北海道、東北、九州は風況がよく、風資源は偏在している。風力発電の比率が大きくなると、系統不安定の懸念が発生する。風力発電を導入するためには、風力発電施設から電力系統への接続費用、周波数・電圧などの変動影響緩和のための安定化対策費用、さらに風力発電を大規模に導入するためには電力系統の増強費用が必要である。2003年に施行された「新エネルギー利用特別措置法(通称、RPS法)」にもとづく利用目標告示に従って風力発電を10年間で300万kW導入する際に必要な費用は、2,230〜5,480億円、と見積もられている。
海外で導入量の最も多いドイツでは「再生可能エネルギー法(EEG法)」により電力系統所有者に風力発電の買取を義務付けているが、買取価格と市場価格との差額分は、託送費を通じて消費者に転嫁されている。
1.
風力発電システムの概要とわが国における風力発電の現状
最近の大容量ウインドファームでは単機容量が1,000〜2,000kWの機器の採用が多い。出力は風速3m/secくらいから風速の3乗で上昇し、約12m/secで一定となり、25m/secで停止するのが一般的である。翼は固定翼(ストール制御)と可動翼(ピッチ制御)、発電機は誘導発電機と同期発電機とがあり、それぞれの組み合わせで採用されている。電力系統へは系統連係保護装置を経由して接続されている。
平均風速があがると設備利用率は上がるが、風速6m/secで約20%である。風力発電の発電コストにはまだ不確かな部分が多いが、火力発電の1.5〜3.0倍くらいが見込まれ、ライフサイクルCO2排出量は原子力発電程度の30gCO2/kWhと予想されている。
国内における風力発電の設備容量はここ数年急激に増大し、2003年度末時点で、738基、68.4万kWに達し、青森県 16.2万kW、北海道 15.9万kWが多い。わが国では日本海側、とくに北海道、東北、九州は風況がよく、風資源は偏在しているため、電力会社の風力発電の導入量、導入予定量にも偏りが見られる。北海道電力が計画に従って導入すると、電力需要が少ない時間帯での風力発電の比率は10%を超える。需要が多い時間帯でも約5%となり、系統不安定の懸念が発生する可能性がある。
総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会における検討では、H12.7には、北海道を念頭において、 風力発電の周波数変動問題の技術的対応策について取りまとめた。H13.6には全国での導入量を300万kWとした場合、一定の仮定をおいて追加的費用を試算した。H13.12には、系統連係対策の内容および費用規模、負担のあり方を検討する必要性が確認された。その後、H15に施行された「新エネルギー利用特別措置法(通称、RPS法)に基く利用目標告示が出、3年間を目途に系統対策の検討が必要であることが確認された。
風力発電を導入するに際して新規に必要な系統対策費用は、風力発電施設から電力系統への接続のための費用、周波数・電圧などの変動影響緩和のための安定化対策費用、及び風力発電を大規模に導入するための電力系統の増強費用である。新エネルギー部会において、風力発電を10年間で300万kW導入する際の費用を試算した結果、2,230〜5,480億円、年平均223〜548億円となっている。
このように、風力発電を大規模に導入するためには、系統安定化や系統の増強等の対策が必要で、費用負担を公正にするためにはさらなる慎重な検討が必要である。これらに結論がでるまで(3年間を目途)は特段の系統対策を必要としない容量範囲にとどめて風力発電を組み入れてゆくのが現実的である。
2. 電力品質(周波数・電圧)の維持について
風力発電は発電に際して廃棄物を発生せずクリーンであるが、「電気としての品質」は劣悪である。出力が不安定で変動するため、系統に周波数変動や電圧変動をもたらし、さらに、インバーター機器を使用して連係する際には、系統に高調波が入ってくる問題がある。
電気は貯蔵できないため、生産量と消費量が常に同じであることが必要であるが、このバランスが崩れると周波数が変動する。変動が0.2Hzを超えると一部の産業に問題が出始めて電力会社への問い合わせがあり、数%変動した際は機器保護のため発電機を停止せざるを得なくなる。
電力系統の大きさ(系統容量)と周波数変動についてみると、日本は連係の容量が小さく周波数が変動しやすいため、変動の管理目標値は外国と比較して大きい。なお、テキサス州や米国西部地域は日本の規模に近いが、需要変動は約6.4%/hで、日本の約14.8%/hほど大きくないため、周波数変動を小さく抑えることが出来ている。
以上の結果、わが国の周波数偏差目標として、北海道は50±0.3Hz以内、東地域は50±0.2Hz以内、中西地域は60±0.1Hz以内の時間帯在率95%以上、沖縄は60±0.3Hz以内と設定している。最近の実績では東地域は目標値の時間滞在率99.999%、中西地区は98.8%で目標値をほぼ達成している。
なお、北米では、一分間平均値の年間標準偏差を0.018〜0.0228Hz以内、欧州では、50±0.04Hz以内90%、50±0.06Hz以内99%の時間滞在率を目標としている。
電気事業法では電圧の維持を電力会社に義務付けており、系統間の差はあるが、通常運用時の変動幅は2%程度である。風力系統連係に関する電圧面の対応としては、電圧変動を引き起こす風力発電の大きな無効電力変動を抑制するための無効電力補償装置(SVC)の設置や風力発電並列時等に系統へ流れる大きな電流による電圧変動を抑制するための限流リアクトルの設置などが必要である。
風力発電の適地は需要地から遠隔であることが多いため、立地点近傍に送電線がないかもしくはあっても送電容量に空きがないなど、送変電設備容量への影響も考慮しなければならない。
3. 風力連係と周波数調整
風力発電は出力変動が大きく、例えば全道で発電設備容量が約15万kWの北海道でのH14.1月の例を見ると、最高出力は12万kW,最低出力は0kWである。このような広い領域の系統全体でも出力ゼロの例はヨーロッパでも発生している。
このように、風力は発電している際は他電源の燃料費の節約になるが、電力会社としては風力が停止した際にも電力を供給するための設備が別途必要となる。つまり、通常の発電設備と異なりkWの価値はゼロに近く、電力としての価値は単にkWh価値のみである。従って風力発電による電力は、他の発電設備によるものと比べて価値の低い電力であり、論理的には電気の余っている深夜電力に相当するkWh価値に近い。
風力発電の出力変動率を北海道エリア全体の15万kwで評価したところ、5分以内の短時間の範囲であれば年間を通じて20〜30%程度で、系統全体としてはそれほど大きくないが、1時間となると、40〜50%、一日では70〜90%となり系統全体に与える影響は大きくなる。北海道全体でもカバーできない値となる。また、東北エリアは冬に出力が大きくなるが、夏には出力がゼロとなる回数が多く、時間も長い。さらに、出力の細かな変動も多いので、北海道と同じ課題がある。
連係箇所や連係量を増加させれば変動率は減少するが、減少は出力の1/2乗に比例する程度で、多くは期待できない。風力の出力変動は需要の変動と重なり合い、両者に同じ程度の変動があると合計変動量は約1.4倍となる。
一日の電気の需要に応じて揚水、石油、LNG,石炭、原子力、一般水力を各電力会社とも使い分けているが、夜間の需要の少ない時間帯に風力発電が大きく変動すると対応が非常に困難になる。
電力系統の周波数維持は発電機の発電力を需要変動の変化速度に対応して追随させることを基本としている。数分以内の短周期成分には発電機の調速機(ガバナ)フリー運転、数分から十数分の中周期成分には自動周波数制御(LFC),十数分以上の長周期成分には運転基準出力制御(EDC)方式で周波数を維持している。
各電力会社は、自社の系統内で発生する負荷変動はそれぞれの系統内で処理することを前提に、各社とも系統における固有の負荷変動の実態に応じて、必要な調整能力を調整容量と調整速度の両面から確保している。例えば東京電力ではLFC調整容量として、総需要の概ね±1〜2%程度を確保しているが、調整可能な電源が減少する軽負荷時ほど必要量の確保は困難となる。
周波数面から見た現状の電力品質を維持しつつ、風力の導入量を増加させるためには系統側の調整能力を拡大するか、風力の出力変動を抑制する必要がある。
北海道電力に於いては、現在の15万kWの風力発電を系統に連係した際の影響を評価した結果、さらに、10万kWを追加して25万kWまでは風力発電の受け入れが可能との結果を得ている。
4.
海外の状況
風力発電の海外の状況を見ると、2003年末には世界全体で39,294MWの設備があり、この内ドイツが14,609MW,アメリカ6,374MW、スペイン6,202MW,日本は第8位で684MWである。ドイツに於いては、この数年間で急速に導入量が増加しており、今後の計画でも2020年には設備容量として全電源の25%、27,000MWまで増加させる目標である。しかし問題点がないわけではなく、例えば需要の少ない夏の早朝に需要が35,000MWまで低下したときに風力が20,000MW発電すると原子力発電を一部停止して対応する必要が生じる。
ドイツに於いて大規模な風力発電が導入された理由は、再生可能エネルギー法(EEG)の制定にあり、この法では電力系統所有者に9セント/kWhで風力発電の買取を義務付けている。一方、ベースロードにおける電力の市場価格は2.25セント/kWhで、買い取り価格との差額分が風力発電に対する補填分になっている。この額は2002年度で、年間11億5千ユーロになり、託送費を通じて消費者に転嫁されている。転嫁額は2003年度には0.42セント/kWh程度となる見通しである。
ドイツの電力系統は、4大電力会社が所有・運営する基幹系統(38万V,22万V)を多点で連係したメッシュ状系統を構成しており、電源は需要地近傍に80〜100km間隔で立地し、基幹送電線ルートの最大潮流も約100万kW程度である。このため、電源と需要の偏在により発生する「特定方向への重潮流」は発生していない模様である。
一方日本の系統連係の特徴は、地理的な条件から電力会社が縦列する系統(くし形系統と呼ばれる)となっており、原則としてそれぞれの電力会社内で需要供給のバランスをとっている。このため、予測しない大きな発電電力の変動があると、電力会社間の連係線に大電力を流すこととなり、安定度問題などが生じる恐れもある。
ドイツ最大の電力会社E.ON Netzの領域での負荷と風力出力でみると、負荷が
5. まとめ
(1)風力発電の系統連係については、風力の出力変動に起因する課題、とくに周波数問題が存在しており、電力系統への影響を評価しながら導入をはかっていく必要がある。
(2)技術的には以下のような対策が考えられるが、コスト面などでの課題がある。
・
LFC調整容量の拡大や調整用電源の増設などで系統側の調整能力を拡大する。
・
蓄電池による出力平滑化など、風力の出力変動を抑制する。
・
系統側の調整能力が確保しにくい低需要期等の時期には、風力発電を抑制するなど風力と系統が協調する。
(3)北海道エリア以外の東北、九州エリアでも風力発電の連係量が急速に拡大しつつある。風力の出力変動実績データ等の取得・評価を進めながら上記(2)以外の方策の検討も含め、費用対効果を考慮しながら検討していく必要がある。
追加解説と討論
1. 設備関係
現在のところ国内の設備は、ヨーロッパメーカーのものが多いが、最近は三菱重工など重工大手の受注・建設が目立っている。ヨーロッパと日本とでは風の質が異なり、ヨーロッパ仕様のものはそのままでは使用に耐えていない。風向変化への対応や低風速でも発電できるように国内メーカーによる改良が進んでいる。翼形は3枚羽が多く、設置の間隔を考慮してあればほぼ理論限界に近い性能が出ている。
発電機は現在のところ誘導発電機が多いが、同期可変速を使用すると、コストは上昇するが、低風速域でも良い性能が出る。風力の出力変動は、インバーターと電池で抑えられるが、電池コストが問題である。
風力発電設備の保守は年1〜2回の定期検査で済ましている。ただし、現実には、台風で破損したり、火災も発生している。強度規格は国際電気規格(IEC)に準拠しているが、宮古島では台風時にかなり倒壊しており、電気設備以前に建築物としても問題がありそうだ。
2. 系統連係の課題
風力発電は発電に際して廃棄物を発生せずクリーンであるが、「電気としての品質」は劣悪である。出力が不安定で大きく変動するため、系統に周波数変動や電圧変動をもたらし、また、インバーター機器を使用して連係すると、系統に高調波が入ってくる問題がある。なお、周波数が変動すると、製紙業や印刷業に大きな影響が出る。
風力と系統とのつなぎは風力発電設備に最も近い鉄塔のところで行い、接続は風力側の責任でなされる。電力会社は分岐点を設ける。現在のところ6,000Vでの接続に容量的な問題はないが、出力がさらに大きくなると、より高圧の系統へ接続することになる。
国内において、電力会社が風力発電を受け入れる容量は、北海道電力が新規の募集を中止したように、各電力会社により、系統の規模、発電所と消費地との位置関係、電力の質などを考慮してそれぞれに限界がある。
風力発電側に電力の質の保証を求める考え方もあるが、現在のところ、電力の品質で選んではいない。しかし、誘導機の固定回転運転では電圧変動が大きくなるので、電圧変動を抑えるよう風力側に要件を出している。
風力発電を系統連係した際の問題点を電力会社はもっと外部に向かって発言できないか。また、風力発電の電力は連係に入れずに、直接水素の製造等に使うことを提案できないか、など今後の課題が残っている。
3. 安定電源にするための費用負担の課題
風力発電の300万kWは電力各社の規模に応じて受け入れることになるが、目標とする300万kWを達成するためには相当の投資が必要となるので、費用発生額が大きいと費用分担を含めて再検討となろう。
安定電源にするための費用を発電側、系統側のいずれが負担するのか、は大きな問題であるが、現在のところ、風力発電側が有利な条件で進行している。
経産省中心で決めている風力発電側に対する電力の質の規制は電圧のみであり、風力の発電量の変化に対応して需給バランスにあわせて出力を変動させるのは電力側の設備である。連係の要件は一般の自家発電側に対してのものであり、風力も同じと
ドイツは、今までは系統容量に余裕があり、あらたに調整電源を入れる必要はなかったが、今後はこれらの対応が必要となろう。
4. 設置場所
騒音は固定速、可変速で少し違うが、かなりうるさい。ただし、人里離れたところが多いので、反対は少ない。今後、風力発電を出力規模1,000〜2,000kWで導入計画を進めると国内中にタワーが建つことになるのではないかとの心配もあるが、米国やヨーロッパと比較して日本は自然条件(風況)が悪いので、条件の良いところに集中し、広く分散することはない。また、国立公園も規制緩和の方向にあり、公園内への設置も可能となる。
5. 発電事業者の動向
国内には多数の事業者が存在するが、三菱重工を中心とする業界団体がある。大きな会社は技術的にも信頼がおける。東京電力や関西電力が出資している発電事業者もある。
以上
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開催日時:2004年4月21日
場 所:NUPEC虎ノ門四丁目、MTビル6階会議室
出席者:(敬称略、順不同) 林、伊藤、小笠原、石井(正)、天野、益田、神山、池亀、松岡、石川、松永、松田、小川、石井(亨)、岩井、武藤(章)、山名、竹内、石井(陽)杉野、澤井、太組、斎藤、加藤、土井
座長:土井 彰 補佐:斎藤 修、加藤 洋明