関東・東北大地震についての概要報告
平成23年3月20日
益田恭尚
クラスメートの皆様
関東・東北大地震は地震もさることながら津波の被害は甚大で多くの犠牲者を出してしまったことに心からの哀悼の意を表すると共にお見舞い申し上げます。津波の威力は小学校で稲村の火で習った時想像したものとは次元の違うもので、80歳になって初めて、TV画像を見て水の力の偉大さを認識するという迂闊さを反省しております。
この災害により原子力発電所が事故を起こしてしまい、国民の皆様に御迷惑、御心配をお掛けしてしまったことを関係者の一人として申し訳なく思っております。
既にご存知とは思いますが発表された情報を元に事故の経過を振り返り、情報不足ではありますが、私なりの説明を加えさせて頂き、少しでもご理解の助けになればと思う次第です。
地震により原子炉発電所は設計通り無事停止しました。事故拡大の原因は大地震というよりあの津波の威力にありました。勿論津波については検討の対象になっており有史以後の最大津波を想定しておりましたが、今回の津波は想像を絶するものであったことはTV等でご覧の通りであります。地震の振動では各部はびくともしていないということは柏崎の経験からも確信しておりまが、今回も地震後無事発電所は停止し、順調に停止作業に向けて働いていました。あの大津波により非常用の電源が供給不能になってしまったのです。
原子燃料は核分裂反応が止まっても、崩壊熱を出し続けます。この崩壊熱は停止後時間と共に指数関数的に減少しますが、原子力発電所の出力が大きいだけに相当な量です。地震後もこれを冷やし続けなければなりません。当初はその熱で発生する蒸気の力で炉心冷却水を廻す系統の力と非常用炉心冷却系で燃料を冷却し、ある程度燃料温度を下げることができましたが、電源喪失と蒸気圧力の低下と制御系の不調で働かなくなってしまいました。
非常用の電源はポンプや電動弁等を動かし炉心を冷却するのに是非とも必要です。このため3系統の信頼性の高い外部電源(25万Vの送電線、東北電力の6万Vの非常用電源2系統)が用意され、このバックアップに耐震クラスAの独立2系統の非常用ディゼル発電機が用意されていました。しかし、これが地震と津波のため供給不能になりました。
2系統ある非常用ディゼル発電機は無事起動しました。しかし、約1時間後津波が来て、燃料タンク(屋外に耐震Aクラスの基礎上に設置)が津波で流されてしまいました。ディゼル発電機を冷却用海水ポンプも津波で海水が建屋内(水密な耐震Aクラス建屋内に設置)に入り、絶縁不良になってしまっていたようです。そのような訳で全電源喪失と云う重大な問題に直面してしまいました。
また、耐震設計された真水のタンクも十分用意してあったのですが、画像を見る限り、津波で皆(少しでも残っていることを祈ります)されてしまったようです。
尚、制御室は電池に蓄えた無停電電源で非常用系は無事働き運転員を助けていました。
この後の経過はTVでご覧の通りでありますが、想像を加えポイントを説明します。
動力がなくなり強制冷却できなくなった炉心に冷却水を注入するには高圧水が必要です。しかし電源がないので非常用冷却水ポンプは動かせません。今回用意した注水ポンプは圧力が低い?ので、原子炉の圧力を下げるのにリリーフバルブを開き(安全弁機能が働いたのかもしれません)格納容器の圧力抑制室に蒸気を放出しました。発表では、此の時、燃料の上の部分は炉水がなくなり、燃料被覆管温度が上がり、水とZrが反応しいわゆる水-Zr反応を起こし水素を発生したとしています。またこの結果として、燃料内部の核分裂生成物(XeKr沃素等のガスと少量のCe)が放出されると共に大量の水素が発生したとされています。炉心を冷やすため、真水が得られないので炉内に海水を注入し冷やしました。これにより炉心は高温高圧な状況ではありますが比較的安定していると発表されています。(その後注入を続けているのかについては明確ではありません)
この後、原子炉建屋で水素爆発が起こってしまいました。この水素は先の水-Zr反応でできた水素か、炉心冷却水に中性子が当たり生じた水素が配管等のどこかでリークして出てきたものが、原子炉建屋内に漏れ出し(水素は透過性がよく僅かな隙間から漏れ出す)、電源切れで非常用換気空調系が止まってしまっていたため、原子炉建屋の天井裏にたってしまい、空気と混ざり爆鳴気になっていた水素が地震の振動等の摩擦熱で爆発したものと考えられます。このため原子炉建屋内にあった放射性廃棄物が放出され放射線レベルが上がってしまいました。爆発により、関係機器がどの程度痛んだかは心配なところです。
もう一つの問題は原子炉圧力容器から放出された蒸気が冷却されないため格納容器の内圧が上がっていきました。ここでいざと言う時を考えて設けてあった非常用放出系の電磁弁を開けたかったのですが、電源がなく開きません。漸く内閣作戦本部の許可を得て手動で煙突に通じる手動弁を開き、フィルターを通さず放出しましたが、この弁を開くのに所員は相当の被曝を受けながら漸く開放に成功しました。この時も相当量の放射性ガスが放出されました。
ここでもうひとつの問題が発生しました。使用済み燃料プールにあった使用済み燃料の温度上昇です。これは炉内で核反応を起こした後、時間と共に発熱量が減少していきますが、4号機はつい先ごろまで運転していたものが、定期検査に入り、まだ結構発熱量のある使用済み燃料全量が使用済み燃料プールに保管されていました。これはまだ通常の200〜300分の1(未確認情報)の崩壊熱を出していますが、電源がないため、プール冷却系が働かずプール温度がだんだん上昇してしまいました。プール水温度は水素爆発がなければ1週間位は冷却しなくとも沸騰する(100℃)までは行かない筈ですが、地震のスロシング(今回の地震は周期が長かったので特に大きな水面陽動があったことが考えられます)等で水が少なくなったせいかプール水の温度が上がり、沸騰して蒸発してし、水面が低下し燃料の頭が出てしまったのではないかということが心配されています。これにより他の号機と同様原子炉建屋内で水素爆発を起こしてしまいました。自衛隊や消防が海水を注入していることはご承知の通りです。
1週間たった今日一番待望された、外部電源の供給に成功しましたというニュースがありました。水素爆発やモーター配電盤等の塩害により不具合が発生しているかも知れず、今後復旧にどの位かかるかは分かりませんが、電力が供給され、冷却系が生きると同時に、炉心とプールに水を供給することができれば収束に向かうことができます。しかし、多量の放射性物質が放出されておりますので、被爆下の作業がどの程度はかどるかが鍵だと考えております。
設計条件として津波の想定が甘い、全電源喪失の際の対策をなんとか考えろ、水素爆発を起こすとは何事か等々、厳しいご意見があろうことは十分想像されるところでありますが、我々OBとしては、現在の現象の安定化に向けた各界の現役各位のご健闘を祈るのみです。そして今回の現象がある程度落ち着いたところで、何が抜けていたかについての徹底した反省と、十分な対策の立案に向けた努力をしたいと考えておりますので、ご指導、ご支援をお願いする次第であります。
尚、関係者の努力で現在の放射線レベルを維持することができれば、政府発表のように放射線についての心配はないことを申し添えると共に、現在も関係者一同、結構高い放射線レベルの中で日夜作業を続けていることに思いをいたし、ご理解頂くようお願いする次第であります。
以上